教育を考える 2019.10.1

教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である

教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である

「教育虐待」をしている親の多くはその事実に無自覚なものです。すると、「自分も教育虐待をしているのではないか」と心配になるかもしれません。教育虐待をしているかどうかを判別するチェックリストのようなものはないのでしょうか。お話を聞いたのは、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓したばかりの教育ジャーナリスト・おおたとしまささん。まずは、教育虐待を受けた子どもたちがどうなるのかという話からはじめてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

教育虐待を受けた子どもが大人になると……

「教育虐待」とは、教育という大義名分のもとに行う人権侵害に他なりません。ですから、教育虐待を受けた子どもというのは、人権侵害を受けた子どもということになります。そういう子どもがどうなるかというと、じつは男女ではっきりしたちがいがあります。

男の子には万引などの軽犯罪を犯すようないわゆる非行に走るケースが多い。それは、無意識のうちに警察など第三者の大人とかかわり、その第三者を介して、自分の人権を認めてくれない親とコミュニケーションを取ろうとすることの表れです。

一方、女の子の場合は非行に走ることはあまりありません。男の子のように非行に走って家出をするようなことがあれば、すぐに悪い大人から声をかけられるということになりかねませんから、男の子とは別のかたちでSOSを発します。それはなにかというと、摂食障害です。過食や拒食、過食と嘔吐を繰り返すといった摂食障害によって病院に行くというケースが圧倒的に多いのです。それもまた、第三者の大人とのかかわりを求めているわけです。

では、教育虐待を受けた子どもはどんな大人になるのでしょうか。そういう子どもはひとりの人間として認められないまま育ちますから、精神的な自立ができないまま大人になってしまいます。つまり、自分がなにをしたいのか、自分にとってなにが大事なのか、自分とは何者なのかといった軸が定まらないまま年を積み重ねていくのです。すると、ちょっとしたストレスでも精神状態を大きく乱し、うつ病などの精神疾患を発症する可能性も高いと考えられます。

また、そういう精神的な弱さが自分の内ではなく外に向かえば攻撃性に転化する場合もあります。周囲に暴力を振るうということの他、直接的な暴力ではなくても他人に対してマウンティングを取りたがるといったかたちで表れる。当然、周囲といい人間関係を築くことなどできませんから、まともな社会生活を営むことも難しくなるはずです。また、親になった場合には自分の子どもに対して教育虐待を行うという虐待の連鎖を引き起こす可能性も高いといえるでしょう。

教育虐待をしているかどうかを測るチェックリストは?

教育虐待のほとんどは、親が「子どものために」と思っているなかで起きるものです。ですから、教育虐待をしている親も多くは無自覚だという問題があります。そうすると、「もしかしたら自分も知らないうちに教育虐待をしているのでは……?」と心配になる人もいるかもしれません。

では、教育虐待をしているかどうかを測るチェックリストのようなものはあるのでしょうか。その答えは、イエスでありノーでもあります。教育虐待とは「子どもの受容限度を超えて勉強をさせること」です。当然ですが、その受容限度は子どもによってまちまちですから一律の基準を設けることなどできません。

たとえば、「1日に5時間以上の勉強を子どもに強いれば教育虐待だ」というふうなチェック項目を設けることができるでしょうか? なかには5時間の勉強をしてもへっちゃらだという子どももいるでしょう。でも、一方では1時間も勉強をすれば疲れ切ってしまうという子どももいます。教育虐待になっているかどうかというのは、子どもがどう感じているかという点にかかっていますから、数字で表せるようなわかりやすい判別基準を設けることができないのです。そういう意味では先の疑問の答えはノーといえます。

教育虐待をしているかどうかのチェック項目

では、イエスの答えもあるとはどういうことなのか。教育虐待になっているかどうかは、子どもがどう感じているかにかかっている、つまり子どものメンタリティーで判別するものです。一方で、そもそも教育虐待は子どもに対して親が過度の勉強を強いるという親側からの働きかけがなければ起きるものではありません。すなわち、子どもに対する親のメンタリティーも重要な意味を持ちます。

そういう意味では、親が自分自身のメンタリティーに目を向けることで教育虐待をしているかどうかを判別することができるといえるでしょう。その判別ができれば、先の疑問の答えはイエスになるわけです。以下は、ある子どもシェルターで教えてもらったチェック項目です。自分の胸に手をあてて、それぞれの内容を自分自身に問いかけてみてください。

■子どもは自分とは別の人間だと思えていますか?
■子どもの人生は子どもが選択するものだと認められていますか?
■子どもの人生を自分の人生と重ね合わせていないですか?
■子どものこと以外の自分の人生を持っていますか?

教育虐待を含めた親による子どもの人権侵害は、親が子どもの人生に依存することからはじまります。迷いながらも、「自分は大丈夫だ」と思えた人は問題ありません。「『いいえ』にあてはまることがあるかも……」と感じた人も、そう自覚が持てたのですから、これから改善していけばいいでしょう。

問題なのは、一切の迷いなく「はい!」と答えた人です。先に「自分の胸に手をあてて」とお願いしたのは、あなたと子どものことを真剣にじっくりと考えてほしいからです。それなのに即答できてしまうのは、それだけ「自分の教育は絶対に正しいんだ!」という自信を持っているということ。子どもの気持ちに目を向けることなく、自分が正しいと思い込んでいる教育を強いていないか、あらためて考えてみてください。

ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち
おおたとしまさ 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2019)

■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧
第1回:教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?
第2回:教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である
第3回:失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?
第4回:心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人

【プロフィール】
おおたとしまさ
1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。著書は『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)など50冊を超える。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。