あたまを使う/教育を考える/暮らしを楽しむ/ダウンロード素材/親の関わり 2025.7.22

「静かにしなさい!」ってまだ言ってる? “声のものさし” で育てる子どもの 自己調整力・感情調整力・コミュニケーション能力【無料ダウンロード】

大澤賢
「静かにしなさい!」ってまだ言ってる?  “声のものさし” で育てる子どもの 自己調整力・感情調整力・コミュニケーション能力【無料ダウンロード】

「公共の場で急に大きな声を出してしまう」「注意すると声を荒げる」「緊張をすると声が小さくなってしまう」こんな場面に心当たりはありませんか?

多くの親が経験するこの悩み。「静かにしなさい!」「そんな大きな声出さないの!」や「聞こえない!」とつい言ってしまうことがありますよね。しかし、こうした声を荒げた注意だけでは、逆効果。子どもは “どうすればいいか” を学ぶことができません。

声の大きさをコントロールするのが苦手な子どもは意外と多いものです。でもじつは、とても簡単なある方法で、自発的に声の大小を意識するようになります。それが教育現場でも活用されている声のものさし」という支援ツールです。

そこで今回は、声のものさし」の具体的な活用法や声のコントロールで感情を整える方法について解説します。

監修者プロフィール

アバター画像

大澤賢

特別支援通級指導教員

特別支援通級指導教員歴8年の現役教師。情緒障害教育を専門とし、ADHDやASD、自閉症児など多くの子どもたちを担当する。家庭では、特性をもつ2児の父親。遊びや経験を通して、子どもたちが「安心できる場所」「自分らしくいられる瞬間」を感じられるよう日々模索中。趣味は家族旅行。

否定するのはNG——注意の仕方を変えてみよう

多くの親が「声が大きすぎる!」「そんな話し方やめなさい!」といった注意をしてしまいがちです。

  • 声を止めようとする❌: 「静かにしなさい!」「そんな大きな声出さないの!」
  • 声自体を否定する❌: 「また大声出してる」「そんな話し方やめなさい」
  • すぐに注意しようとする❌: 場面を考えずに即座に「声が大きい」と指摘する

これらの言葉は親の愛情から出るものですが、子どもにとっては「自分の気持ちは間違っている」「感情を表現してはいけない」というメッセージとして受け取られてしまいます。

大切なのは「声が大きいこと=ダメ」ではなく、「気づいて、調整できること」がよいという視点です。大人でも、困ったときにまず誰かに話を聞いてもらいたいと思うように、子どもも同じように「わかってもらいたい」という欲求をもっています。

声のトーンを受け止めるということは、子どもの気持ちに共感し、その感情が自然で当然のものであることを伝えることです。この “気づき” をサポートするのが、「声のものさし」です。

声を荒げる子どもたちの画像

今すぐ「Famm無料撮影会イベント」に行くべき4つの理由。写真で「自立心」や「自己肯定感」がアップする!
PR

「声のものさし」とは?

そこで役立つのが「声のものさし」という支援ツールです。

たとえば、声のボリュームを1〜5段階で表現すると、1が「ささやき声」、3が「普通の声」、5が「大きな声」といったように設定します。子どもにとって「小さい声で話して」という指示は曖昧ですが、「3番の声で話してね」と言われれば、はるかに理解しやすくなります。

このものさしの素晴らしいところは、抽象的だった「声の大きさ」を具体的な数字や絵で表現し、子どもが自分の感情状態を客観視できるようになることです。さらに重要なのは、子ども自身が気づく力を育てられることです。「今、何番の声だったかな?」と問いかけることで、子どもが自分の声に意識を向けるようになります。

声のものさし画像

よりよいコミュニケーションのための実践3ステップ

それでは、具体的には声のものさしをどう使えばいいのでしょうか? 年齢によって声のものさしの関わり方は少しずつ変わります。未就学児では親の代弁によって「声の大きさに気づいてもらう」経験が重要で、小学校低学年になると自分で「今は何番かな?」と考えられるようになります。段階的に進めていきましょう。

◆声を代弁する(未就学児〜)

子どもが声の大きさを調整できない時に、親が状況と適切な声を代わりに示してあげましょう。年齢や興味に合わせて、数字(「1番の声」「3番の声」)、動物(「アリの声」「ネコの声」「ゾウの声」)、場面(「図書館の声」「お家の声」「運動場の声」)などの表現を使い分けます。

  • 図書館で大きな声になってしまったとき
    「図書館では1番の声だよ。一緒に小さな声で話してみよう」
  • お友達が近くにいる時に大きな声になったとき
    「今4番の声だったね。3番の声にしてみよう。お友達もびっくりしちゃうからね」
  • 発表会の練習で声が小さいとき
    「今1番の声だったね。発表では4番の声で、みんなに聞こえるように話そう」

この代弁により、子どもは「場面によって声を変える必要がある」ことを少しずつ理解していきます。大切なのは、声の大きさそのものを叱るのではなく、「この場面では」という条件を一緒に示してあげることです。

◆子どもとの声について一緒に考える(小学校低学年〜)

次の段階では、子ども自身に気づいてもらう問いかけをして、一緒に考えてみましょう。

  • お友達とケンカして声が大きくなった時
    親:「今、何番の声だったかな?」
    子:「5番…」
    親:「どんな気持ちだった?」
    子:「むかついた!」
    親:「悔しかったんだね。でも5番の声だと、お友達もびっくりしちゃうかも。3番の声で『それはイヤだった』って言えるかな?」

  • 怒られたあと、声が小さくなってしまった時
    親:「今の声、何番だった?」
    子:「1番…」
    親:「どんな気持ち?」
    子:「怒られて悲しい…」
    親:「悲しい気持ちになったのね。でも君の気持ちを聞かせてほしいから、3番の声で教えてくれる?」

子どもの気持ちをまず受け止めてから、その感情を適切な声の大きさで表現する方法を一緒に考えます。「声が大きい・小さい」ではなく「その気持ちはよくわかる。でもこんな風に伝えてみようか」という提案で、感情表現のスキルを育てていきます。

こうしたステップで、相手の感情、場の雰囲気、家族への配慮など、様々な要素を総合的に判断して声を選ぶ力を育てます。正解を教えるのではなく、子どもの判断力と思いやりの気持ちを認めることで、社会性豊かなコミュニケーション力を伸ばしていけます。

なぜ「声のものさし」が効果的なのか?

ここまで具体的な方法をお伝えしてきましたが、なぜこの方法が効果的なのか、その理由を見てみましょう。

心を整えるカギは “声” にある

大声でわめくとき、子どもはもしかしたら「怖い」「悔しい」といった強い感情に飲み込まれているのかもしれません。逆に、声が小さいときは、「不安」「自信のなさ」「恥ずかしさ」を抱えているサインかもしれません。

子どもがまだ自分の感情を上手に言葉にできない時期、感情はまず “声” にあらわれます。つまり、「声の大きさ」や「話し方」は、感情の状態を可視化する一つの感情表現でもあるのです。

心理学者のグロスらによる感情調整理論では、表情や声の調整といった「表出のコントロール」も感情の自己調整の一環とされています。また、音声心理学の研究では、声の高さや速さ、音量が、話し手自身の感情にも影響を与えることがわかっています。

つまり、声のトーンを意識することで、感情をコントロールできるようになるのです。怒りを込めて大声を出すと、余計に興奮しやすくなりますが、意識的に落ち着いた声で話すと、自然と呼吸が整い、感情も穏やかになっていきます。逆に緊張で声が小さくなってしまう時も、少し大きめの声を意識することで、気持ちがしっかりしてくることがあります。

声のトーンを意識することは、感情の「出口」だけでなく、「入口」でもあるのです。

大きな声を出す子どもの画像

声のものさしが育てる3つの力

継続的に声のものさしを使うことで、子どもには以下の3つの重要な力が育ちます。

1. 自己認識力

自分の声の大きさを正確に把握できるようになります。多くの子どもは最初、「なんだか大きい声」「小さい声」といった漠然とした認識しかできません。しかし、声のものさしを続けることで、「今は4番の声だった」「3番に戻そう」など、より具体的に理解できるようになります。

この「自己認識力」は、子どもが自分自身の感情と向き合う基礎となります。自分の声の状態を正確に把握できる子どもは、なぜその声になったのか、どうすれば気持ちが楽になるのかを考える力も身につけていきます。

2. 自己調整力

声の大きさに名前がつくことで、その感情の波にのまれにくくなります。「今、5番の声になっているんだな」「3番の声に戻そう」と客観視できると、冷静さを取り戻しやすくなります。

これはメタ認知と呼ばれる能力の発達でもあります。自分の声や感情を一歩引いて観察する力が育つことで、感情的な反応を抑え、適切な行動を選択できるようになるのです。

3. コミュニケーション力

声の大きさを調整できるようになると、相手に自分の気持ちを適切に伝えられるようになります。「図書館では1番の声で話そう」「発表では4番の声でしっかり伝えよう」など、場面に応じた使い分けができるようになります。

また、相手を考えた声の調整は「思いやり」の能力も育てます。「お友達が近くにいるから3番の声にしよう」といった配慮ができるようになることで、良好な人間関係を築くことができます。

おうちでできる「声のものさしカード」

これまでご紹介してきた「声のものさし」を、ご家庭ですぐに使えるようにオリジナルカードを作成しました。このカードを子どもがいつも見える場所に用意しておき、「今の声、どれ?」と聞くだけのシンプルな方法で活用できます。

「4番だったね」「今度は3番でお話ししてみよう」と、視覚的に声の大きさを共有できます。言葉でうまく調整できない子どもでも、イラストを見ることで自分の声の状態を理解できます。リビングや子ども部屋に貼っておけば日常的に活用でき、ラミネートして外出先に持参することで、どこでも一貫したアプローチができますよ。

PDFダウンロード

※この教材は教育機関や家庭での使用を目的としています。商用利用や再配布はご遠慮ください。

***
声のものさしは、子どもの心の成長を支える支援ツールです。親が子どもの声を受け止め、適切な段階を示すことで、子どもは自分の内面と向き合う力を育てていきます。

大切なのは、叱るのではなく、子ども自身が気づいて調整できるようになること。 毎日の小さな積み重ねが、子どもの感情知性を大きく育てることにつながります。

(参考)
Research Gate|Emotion Regulation: Conceptual Foundations
ScienseDirect.com|Vocal communication of emotion: A review of research paradigms.
厚生労働省|ペアレント・トレーニング実践ガイドブック
厚生労働省|ペアレント・トレーニング支援者用マニュアル