健康を考える/教育を考える/子どもの性格・気質/心と身体/親の関わり 2025.7.10

うちの子、優等生。でもそのうち “ポキっと” 折れるかもしれません――「頑張りすぎる子」に親ができること

編集部
うちの子、優等生。でもそのうち “ポキっと” 折れるかもしれません――「頑張りすぎる子」に親ができること

優秀な子をもつ親御さんにとって、「優等生のわが子が誇らしい」と思う反面、「勉強もスポーツも頑張りすぎていて心配……」「この状態はずっと続くの?」「いつか反動がくるかもしれない」など、不安を感じることもあるのではないでしょうか。

たとえまわりがうらむような優等生でも、一生そのままでいられることは稀です。みなさんの人生を振り返っても、子どもの頃のイメージのまま成長している人は少ないはず。今回は、なかなか周囲に相談しづらい「優等生の子をもつ親」ならではの悩みについて考えていきます。

「いい子でいなきゃ」――優等生の仮面が外せなくなった子どもたち

うちの子もそうだったらいいのに……とうらましがられる対象である「優等生」。たしかに、勉強面でも学校生活においても問題のない優等生は、手がかからないので親の精神的負担が軽いように見えます。しかし、子どもの立場になると、そう単純ではないようです。

「親の期待に応えたいから頑張る」のは危険!

優等生といわれる子どものなかには、親や先生など周囲の期待に応えようとするあまり、「いい子でいなければ」「ちゃんとしていなければ」と頑張りすぎている子も。このように、必要以上にいい子であろうとする「いい子症候群」に警鐘を鳴らしているのは明治大学文学部教授の諸富祥彦氏です。

諸富氏によると、「いい子症候群の子は、周囲の人の期待に過剰に応えようとするあまり、空気を読んで自分というものがわからなくなる傾向がある」のだそう。親からすれば、手がかからず反発もしてこないので、理想の子どものように思えるでしょう。しかし、子ども自身は徐々にストレスやプレッシャーを感じ、追い詰められるケースも少なくないのです。

「頑張りすぎる」ことを無理する子ども

青山渋谷メディカルクリニック名誉院長の鍋田恭孝氏は「学校の先生から『お子さんは完璧です』と言われるような “いい子” こそ要注意」と指摘しています。特に注意が必要なのは、大人視点では優秀に見える「規則や役割にこだわる子」と「周囲の期待に応えすぎる子」です。

規則にこだわりがちな子は、自分でなにかを決められない、主体性が育ちにくいという問題を抱えているにもかかわらず、表面的にはいわゆる「いい子」に見えます。しかしその裏では、主体性のなさゆえに不安を感じやすく、心の問題に発展することもあるため、注意深く見てあげる必要があるのです。

周囲の期待に応えすぎる子は、思春期以降に重大な問題となって表面化するケースも。小さいうちは親の期待に応えようと必死に頑張ってきたのに、成長するにつれて周囲と自分を比較したり、理想の自分と現実の自分のはざまで自己愛が揺らぎ始めたりと、心が不安定になる傾向があるのだそう。

いずれにせよ、「優等生な子」「手がかからない子」は、私たち大人が考えるよりもずっと深刻な問題をはらんでいるのかもしれません。

頑張りすぎる子02

今すぐ「Famm無料撮影会イベント」に行くべき4つの理由。写真で「自立心」や「自己肯定感」がアップする!
PR

優等生ほど、劣等感と孤独を抱えやすいという現実。将来 “折れる” 危険、見えてますか?

頑張りすぎる優等生タイプの子ほど、じつは劣等感や孤独を抱えやすく、ある日突然、心がポキッと折れしまう――。周囲からは「あんなにいい子で優秀だったのに」と気づかれにくいため、本人のSOSは届きにくく、追い詰められた末に大きな問題に発展してしまうこともあるのです。

ではどうして、劣等感が強くなってしまうのでしょうか。公認心理師の大美賀直子氏は、その理由のひとつに「レベルを上げるごとに『上には上がいる』状況に直面してしまい、現実の厳しさを知って『自分はダメだ』と劣等感を募らせてしまう」ことを挙げています。

努力して自分のレベルを上げられる頑張り屋さんな子は、ハイレベルな人ばかりがいる環境に入る機会が多いでしょう。しかし、そこでは途端に自分が「普通の人」になってしまい、その瞬間に劣等感が生じてしまいます。「優等生ほど折れやすい」と言われる背景には、「できて当たり前」と言われて育つ優等生だからこそ芽生える劣等感が潜んでいるのです。

「劣等感を強く感じる機会が増えると、自己肯定感や自己効力感が低下し、『頑張っても仕方がない』というあきらめが生じてやる気が失われる」と大美賀氏が指摘するように、優等生を蝕む劣等感が及ぼす将来への影響は計り知れません。

「過剰適応」が引き起こす心身の不調

「優秀な人ほど精神的なダメージを蓄積しやすく、肉体的にもどんどん疲弊していく」と話すのは、診療内科医の鈴木裕介氏です。頑張りすぎるタイプは、まじめで几帳面、完璧主義、責任感が強く自分に厳しい、といった特徴が見られます。鈴木氏は、「その性格ゆえに、自らのルールに厳しすぎて柔軟性に欠ける。タスクをひとりで抱え込み、周囲に助けを求めることも、適度にサボることもできない」と述べ、限界まで我慢する危険性を指摘しています。

このように、自らの体力や気力を考えずに、常に周囲の期待に応え続けることを「過剰適応」と呼ぶのだそう。過剰適応の状態にある人は、頭痛や胃痛、首や肩などの凝り、下痢や便秘、睡眠障害、不安感、イライラや怒り、集中力の低下など、人によりさまざまなストレス反応が起こるといいます。

その結果、勉強や仕事の効率が下がったりミスが増えたりと、本来のパフォーマンスが発揮できなくなることも。せっかく頑張ったのに、結果に結びつかないどころか大きなダメージを負ってしまうなんて、やりきれませんよね。

窓ガラスに頭をつけて悩む青年

優等生じゃなくても、あなたが大好き! 親ができるたったひとつのこと

ここまで「頑張りすぎることによる弊害」をお伝えしてきましたが、頑張ることは決して悪いことではありません。あくまでも、無理をしてまで頑張る必要はないのです。特に子どものうちは、大人にほめられたいという一心で、限界ギリギリまで頑張ってしまう傾向があります。追い詰められてポキッと心が折れてしまうのを防ぐために、家庭ではどのような関わり方をしたらよいのでしょうか。

もっとも大事なのは、「優等生のあなたでなくても、そのままのあなたに価値があるんだよ」ということを伝えること。前出の鍋田氏は、「テストでよくない点を取ってきても、過剰にがっかりした姿を見せないように」としたうえで、「『こういうこともあるよね』『次はどうしたらいいと思う?』としっかりと受け止めてあげて」とアドバイスしています。親自身が子どもに対して過度な期待をするのではなく、「期待に応えられなくても当然」と割り切る意識をもちましょう。

大美賀氏も同様に、「残念な結果にいちばん落胆しているのは本人。だからこそ結果ではなく、頑張っている『姿勢』や『内容』に注目して声かけを」と述べています。「毎日頑張ってきたのを知ってるよ」「この作文の出だし、とってもいいね! おもしろい視点だね」など、親ならではの着眼点で肯定的な指摘をしてあげると、お子さんの自己肯定感や自己効力感がぐんぐん育ちますよ。

頑張りすぎる子03

それでも「頑張りすぎてしまう子」へ

最後に、「頑張りすぎるわが子が心配なのに、休むように説得しても聞いてくれない」というお悩みに対して、教育専門家の石田勝紀氏によるユニークなアドバイスをご紹介します。

子どもは体力があるので、体が元気なら無理をしてでも自分を追い込んでしまうタイプの子もいます。この場合、頑張りすぎていることを直接指摘するのは逆効果。石田氏は、「現状がいかにオーバースペックで働いてしまっているかを実感できる『間接的な話』が効果的」と話します。

子どもにも理解しやすいたとえ話として、「スマホのバッテリー」をイメージして話を組み立ててみましょう。

日中たくさんのアプリを長時間稼働させていると(=勉強や部活などで忙しい状態)、その分電池の消耗も激しく、こまめな充電が必要になります。ですがスマホのバッテリーには、ゼロになってから充電するとフル充電できないという特徴があるのです。そのような状態が続くと、バッテリーの回復レベルは急激に低下します。

その理屈をふまえて、「スマホでアプリをたくさん動かすとバッテリーの消耗が激しくなるんだ。その状態を繰り返すと、充電しても100%まで回復しないこともあるんだよ。でもアプリの使用を減らしたり、長時間使ったりしなければ、充電したらすぐにバッテリーは回復する。人間も同じように、適度な休息や頑張りすぎないことが大事だよ」というように、子どもが納得してくれそうな説明をしてあげましょう。

***
「頑張ることはいいこと」なのは当然ですが、何事もやりすぎは禁物です。一見、いい子で手がかからないように見えても、親にほめられるために無理をしている可能性も。頑張っている姿は認めつつ、結果がどうであれ「そのままのあなたでいいんだよ」というメッセージを送り続けることが大切です。

文/野口燈

(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|“手がかからない子”ほど要注意! 「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも
All About 健康・医療|優等生タイプほど劣等感が強いのはなぜ?
STUDY HACKER|エリートほど要注意。まじめで周囲に配慮できる人が陥りがちな「過剰適応」
東洋経済オンライン|頑張りすぎて「潰れそうな子」にかけたい響く一言 「ゆっくりしたら」では子どもには届かない