教育を考える 2022.11.22

「怒りっぽい子」と「感情に左右されない子」の環境はこんなに違う。攻撃的な態度の原因は親?

長野真弓
「怒りっぽい子」と「感情に左右されない子」の環境はこんなに違う。攻撃的な態度の原因は親?

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「瞬間湯沸かし器みたいに、急に怒り出す」「すぐに手が出る」「自分の思い通りにならないと泣いて怒る」など、怒りっぽい子どもに困っている親御さんは少なくないかもしれません。しかし一方で、「怒り」をコントロールできる子どももいます。

今回は、「怒りっぽい子」と「怒りをコントロールできる子」の違いを考えてみました。わが子を「怒りっぽい子」にしないためにできることも、詳しく説明しています。

「怒り」とはどんな感情?

子どもが怒りっぽくなる原因は、もともとの性格のせい? それとも、ただのわがまま? まずは、「怒り」の感情について分析してみましょう。

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏は、「怒りは、身を守るために備わっている感情」「誰にでもある自然な感情」だと述べています。

自分の生命や家族が危険にさらされたり、大切にしている価値観や立場が傷つけられたり、自分の思い通りにならなかったりしたときに、怒りという感情を使って、危険から大切なものを守ろうとするのです。誰にでもある自然な感情ですから、怒ること自体は悪いことではありません。

(引用元:サワイ健康促進課|アナタの怒りの傾向と対策は?

「怒り」の感情をもつことは悪くないのです。では、その「怒り」の感情はなぜ湧き上がってくるのでしょう。御池メンタルサポートセンターの臨床心理士・内田千智氏によると、「怒り」は二番めに出てくる感情(第二感情)で、実際には、怒る直前に生じている感情(第一感情)があるのだそう。

たとえば、子どもの帰宅が遅かったので、「何時だと思ってるの! どこに行ってたの!」と怒鳴ってしまった……ということはありませんか? 内田氏は、このときの「なにかあったのではないかと心配だった」という「悲しい」「困った」「心配した」などが第一感情だと言います。この第一感情を感じたことで、第二感情である「怒り」が発生するのだそう。

内田氏によると、「怒り」の第一感情は、寂しさ、悲しさ、恥ずかしさなどのネガティブな感情であることが多く、しかも「ほとんどの場合、それは怒りの裏に隠れて自覚されない」とのこと。そこで、第一感情を見つけることが「怒り」を解消するヒントとなるようです。

また、ポジティブ育児研究所代表で公認心理師の佐藤めぐみ氏は、生まれてからの環境がきっかけで怒りやすくなる子もいると述べています。次項では、子どもの「怒り」の原因について考えてみましょう。

怒りっぽい子ども1

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子どもが怒りっぽくなる3つの原因

むやみに怒っているように見える子どもたち。しかし、子どもが怒りっぽくなってしまうのには、どうやら原因があるようです。当てはまるものがあるか、考えてみてくださいね。

怒りっぽくなる原因1:感情や意志を抑圧・否定された経験がある

家庭教育研究家の田宮由美氏は、「感情や意志を抑圧されてきた子どもはキレやすい」と話します。甘やかされた子どものほうが、わがままで我慢ができないイメージですよね。しかし実際は、我慢を強いられてきた子どものほうが、怒りっぽい傾向にあるのだそう。

また田宮氏は、乳幼児期に感情を否定された経験も「怒り」のもとになりうると言います。たとえば、乳幼児期に子どもが泣いているのに、親が「うるさい!」などと拒否した場合、その子どもは「泣くと親に受け入れらない」「寂しくても笑顔でいなければ生きていけない」と真の感情を抑えるようになっていくのだそう。そして気に入らないことがあると激しく怒ったり、些細なことでも攻撃的な態度をとったりするように……。抑え込まれていた感情が、「怒り」というかたちで発散されてしまうのです。

怒りっぽくなる原因2:親が怒りっぽいから、子どもも怒りっぽくなる

アンガーマネジメントの専門家でもある本田恵子氏(早稲田大学教授)は、親が怒りっぽいと、子どもも怒りっぽくなってしまうと言います。たとえば、「親から怒鳴られている子どもは、人と接するときや人になにかをしてもらいたいときには怒鳴るようになる」といった具合に、子どもは無意識に親の行動をまねるのだそう。

本田氏によると、これには鏡の神経細胞と言われる「ミラーニューロン」が関係しているとのこと。ミラーニューロンは行動だけでなく感情も模倣するため、親が怒鳴っているのを見た子どもの脳は、子ども自身が怒鳴っているときと同じ活動をするのです。ですから、「子どもをキレやすい人間にしないためには、親は自分の行動を振り返って見直すしかない」と本田氏が言うように、親自身が言動に気をつけて生活することが大切なのです。

怒りっぽくなる原因3:環境の変化でストレスがたまっている

入園や入学、進級などの時期も、子どもが怒りっぽくなりやすいそうです。教育心理学者の遠藤利彦氏(東京大学大学院教授)は、環境の変化が子どもたちにストレスをもたらすと述べています。大人であっても、新しい環境に慣れるまでには時間がかかるものではないでしょうか。遠藤氏によると、この時期の子どもたちは、幼稚園や学校などの “社会” に適応しようと頑張っているのだそう。

緊張状態のまま一日を過ごしていた子どもは、家に帰ってお母さん(お父さん)の顔を見ると、ホッとするのでしょう。「安心して、自分のフラストレーションのようなものを発散して、心のバランスをとっている」と遠藤氏は分析しています。この場合の「怒り」は社会性を身につけるための必要なステップなのだそう。親は大らかに受け止めてあげたいですね。

このように、「怒り」と言っても背景はさまざま。次は、「怒りっぽい子」にさせないための方法をご紹介します。

怒りっぽい子ども2

怒りっぽい子にしないために親ができる4つのこと

「怒ることは悪いことではない」と安藤氏は言っていますし、大人だって怒ることはありますよね。とはいえ、「ほかの子に比べて怒る回数が多い」「手がつけられないほど怒り狂う」といった、怒りっぽい子になってしまうのは避けたいところです。そこで、わが子を怒りっぽい子にしないために親ができることを考えてみました。

親ができること1:子どもの気持ちを言葉にして、さまざまな感情を教える

発達心理学が専門の渡辺弥生氏(法政大学教授)は、親が子どもの気持ちを言葉にして「感情」を教えてあげると、子どもの感情リテラシーがつくと言います。渡辺氏によると、感情リテラシーとは以下の意味なのだそう。

自分自身のなかに沸き起こっている感情に気づき、それを言葉で表現する力

(引用元:リセマム|「今、子どもの“こころ”があぶない」発達心理学 渡辺弥生教授

たとえば、欲しかったおもちゃを買ってもらって、飛び上がって喜んでいるときに「すごく嬉しいんだね!」と言葉を添える。友だちとけんかして泣いているときは、「悲しいね」と声をかける。

このように、親が子どもが体感している喜怒哀楽の感情を言葉にしてあげることで、「これが悲しい(嬉しい)って気持ちなのか」と、子どもは自分自身の感情を学んでいくのです。渡辺氏は、感情リテラシーがついてくると、感情コントロールができるようになると話しています。たくさんの感情をお子さんに教えてあげましょう!

親ができること2:子どもに多彩な経験をさせて「感情に左右されない脳」を育む

「豊かな自然環境で育ったり、スポーツに打ち込んだり、多くの芸術作品に触れる機会に恵まれたりして育つと、怒りをはじめとするさまざまな感情をコントロールしやすくなる」と言うのは、脳科学者の茂木健一郎氏。どうやら、「怒り」の制御には、脳の前頭前野の働きが大きく関わっているようです。前頭前野は、記憶や感情の制御など「高度な精神活動」をつかさどっているため、前頭前野を鍛えることで「怒り」などの感情コントロールをすることができるのだそう。

茂木氏は、さまざまな経験を積むことで、豊富なパターン学習が脳に蓄積されると話します。たとえば、「〇〇な態度をとると、人は××という反応をして、自分の感情は△△になる」といった具合に、経験を前頭前野に学習させるわけです。茂木氏によると、実際の経験だけでなく、本や映画からの情報も効果ありだとしています。たくさんの経験を通して、「感情に左右されない脳」をつくっていきたいものですね。

親ができること3:アンガーマネジメントで「怒り」と上手に付き合えるように

自分自身の「怒り」をコントロールすることを目的とした「アンガーマネジメントトレーニング」で、子どもたちは「怒り」と上手に付き合えるようになると話すのは、前出の安藤氏です。トレーニングといっても、小学校低学年頃までの子どもは言語能力が未発達なので、絵を描くなどの遊びを通じてアンガーマネージメントを行なうのがよいのだそう。たとえば、子どもに「怒っているときの顔」「自分が怒ったときの体」を描いてもらいます。目がつり上がる、頭を赤く塗る、手を青く塗るなど、子どもによってさまざまな表現になるでしょう。すると、子どもは「怒っているときに自分はこうなるのだな」と「怒り」を理解できるのだそう。

また安藤氏は、「自分の感情を知ることで、ほかの人の感情が読めるようになるのもアンガーマネジメントの効能」だと言います。「顔が真っ赤だから、〇〇君は怒っている」「△△をすると、〇〇君は怒る」など、相手の怒りが理解できるようになるため、人間関係も円滑になるとのことです。

親ができること4:子どもにとって十分な睡眠時間を確保する

小児科医の成田奈緒子氏(文教大学教授)は、「最近、小学4、5年生になって、たいした理由もないのに急にキレたり、イライラする子どもが増えている」と指摘します。その原因は、ずばり睡眠不足。不規則な生活で自律神経が乱れ、イライラを引き起こすのだそう。成田氏は、規則正しい生活を送ることで自律神経が整うと話しています。

5歳頃の子どもなら11時間、小学生であれば10時間の睡眠を確保してあげましょう。成田氏によると、睡眠不足が解消されると、先生や親に歯向かったり、友だちに暴力をふるったりなどの問題行動が収まることが多いのだとか。とはいえ、いま8時間睡眠の子どもが急に10時間睡眠をとることは、難しいでしょう。そこで成田氏は、まずは1時間、睡眠時間を長くすることをすすめています。わが子を怒りっぽい子にしないために、十分な睡眠時間を確保してあげたいですね。

***
脳科学者の中野信子氏は、「イヤな気持ちも、人間にとって大切な感情」「怒りは放っておけば自然と消えるもの」と知っておくことも大切だと著書『中野信子のこども脳科学』のなかで述べています。お子さんが、「怒り」という感情とうまく付き合っていけますように――。

(参考)
中野信子(2021),『中野信子のこども脳科学』, フレーベル館.
加藤紀子(2020), 『子育てベスト100』, ダイヤモンド社.
プレジデントオンライン|「豊かな経験をして育った子どもほどキレにくい」怒りっぽい人が感情をコントロールできない脳科学的理由
御池メンタルサポートセンター|怒りの陰に隠れた本当の気持ちは?
NHK|どうする?子どものグズるキレる
AllAbout|キレる子供、思い通りにならないとすぐ怒る子の心理と対応法
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STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」
日経woman|子どもの怒り「上手に表現する方法」を親が教えて
日経woman|親のイライラ 大切なのはコントロールすること
PHPオンライン衆知|子どもの「感情」を育てよう
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