子どもの創造力をもっと伸ばしてあげたい――そう感じたことはありませんか? たとえば、空き箱を重ねて「これ、宇宙船!」と得意げに話す姿。急に「ママ、ゾウって空飛べると思う?」なんて聞いてくるあの瞬間。親から見ると「?」と思ってしまうことでも、それは子どもが自分の頭で考え、何かを生み出そうとしている証です。
いま、教育現場や家庭で注目されているのが「子どもが自分で考え、新しいものをつくり出す力=創造力」。AIやテクノロジーが進化する時代だからこそ、正解を探すだけでなく、自分なりに発想し、形にする「子どもの創造力」がますます重要になっているのです。
子どもの創造力を伸ばすには、特別な勉強は必要ありません。むしろ、日常生活のなかでほんの少し意識するだけでも、創造力は育まれます。家庭での環境づくりや習慣づけ、声かけなどちょっとした親のサポートによって、子どもの創造力はぐんぐん伸びていくのです。
本記事では、脳科学者の西剛志氏や精神科医の樺沢紫苑氏など5名の専門家が語る「子どもの創造力の伸ばし方」をまとめました。ぜひ最後までご覧ください。
目次
「子どもの創造力」が未来を変える! いま注目される理由とは
コンピューターやAIの発達によって、今後ますます必要とされる「子どもの創造力」について、多くの専門家がその重要性を説いています。
脳科学者の西剛志氏は、「ルーチンワークのような処理的な仕事はどんどん人の手から離れていき、人間はAIにはできない仕事をしなければならない」時代のなかで、「人間にしかできない仕事とは、『新しいものを生み出す創造力を生かした仕事』である」と述べています。
子ども向けのアート教室を運営する今泉真樹氏も、「『0から1を生み出すこと』への価値は、これからどんどん高まる」と断言。ひとつの正解を導き出すよりも、探究することがより大切になっているため、ビジネス面においても、創造力が豊かな人材が求められる傾向が強くなるのです。
このように、これまでの常識や定説が通用しなくなり、求められる能力もがらりと変化している状況ですが、「うちの子は大丈夫かな……」と決してネガティブになる必要はありません。精神科医の樺沢紫苑氏は、「いい成績をとっていい会社に入れば安泰」という時代は終わったけれど、逆に、アイデアやパッションのある人ほどチャンスが巡ってくる時代だとポジティブに考えています。
つまり、AIやロボットなどのテクノロジーに備わっていない「人間ならではの能力」である創造力をいかに伸ばすかが重要であり、創造力こそが子どもたちの可能性を広げる武器になるということなのです。
次項からは、各専門家による「子どもの創造力の伸ばし方」について解説していきましょう。
子どもの創造力を伸ばす家→生活感がヒントに【西剛志氏】
一般的には、テストの点数が高く、知能が高い子ほど将来成功しやすいと思われているでしょう。ですから、「テストで高得点をとることは、ほかの能力を伸ばすことよりも優先すべきだ」と、多くの保護者は信じているかもしれません。
しかし、ある研究によると、「知能は高いが創造力は低い」子どものグループと「知能は低いが創造力は高い」子どものグループを比べたとき、将来的に後者のほうがそれぞれの得意分野でしっかり活躍しているケースが多かったのだそうです。これは、ただ知能が高いだけでは、必ずしも成功するわけではないことを表しています。
だからこそ、「これからは子どもの創造力を伸ばすことが大事」であると脳科学者の西剛志氏は力説しています。そのためにも、家のなかの環境をちょっとだけ工夫してみましょう。
その工夫とは、家のなかを過度にきれいにしないことです。子どもの創造力を奪う可能性があるため、家のなかが整いすぎている状態はあまりよくありません。ある程度の生活感を残しておいたほうが子どもの創造力が育まれるのです。
ただし、「おもちゃを与えすぎない」ことにも注意が必要です。たくさんのおもちゃに囲まれていると、子どもはおもちゃで遊ぶことに忙しくなり、自由で暇な時間がなくなってしまいます。「遊ぶ物がないならないで、子どもは工夫して自分で遊び道具をつくる」と西氏が話すように、物が少なく自由な時間があるからこそ、自分で工夫するという発想が湧き、子どもの創造力は育まれるのです。
【創造力の伸ばし方】
- 家のなかに適度な生活感を残す
- おもちゃを与えすぎない
- 不便な状況で工夫させる環境をつくる
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家のなかに生活感を! 子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること
子どもの創造力を高める親の声かけ・関わり方【今泉真樹氏】
運営するアトリエで「子どもたちが常に自分で考え、自分の力でかたちにする」という指導をしている今泉真樹氏。そこでは、子どもの創造力を伸ばすにあたって、子ども自身の自由な発想を大事にしており、大人の基準で「うまい」「下手」と評価を下すことはしません。
大人からの評価を気にしながら制作すると、無意識に子ども自身の表現の自由が奪われてしまいます。その結果、「自分でできた!」という達成感や自信を得られず、自己肯定感が低下することにもなりかねません。だからこそ、子どもの自由な発想で、のびのびと創造できる環境を提供する必要があるのです。
また、声かけの仕方にも注意が必要。たとえば、「できない!」とすぐに諦める子に対しては、「どうしたらできるかな?」と自分で考えてもらうように促しましょう。また、すぐに諦めがちな子には、「きっとできるよ!」と励まして、手を出すのは最小限に。大人自身の忍耐力も試されますが、自分の力で課題を乗り越える経験を積ませることが重要です。
「自分でやり方を考える」という過程がなければ、子ども自身の力はつきません。そう今泉氏が指摘するように、子どもが自分なりに考えて模索して、達成感を得られたという経験を積み重ねることが、自己肯定感の向上にもつながります。このように、大人を頼らずに自分で考えられるようになれば、子どもの創造力が育まれ、「0から1」を生み出せる力も自然と身に付いていくでしょう。
【創造力の伸ばし方】
- 子どもに「できない!」と言われても、すぐにやり方を教えない。「どうしたらできるかな?」と自分で考えさせる
- すぐに諦めがちな子には、「きっとできるよ!」と励ます
- 子どもの力を信じて、親自身も忍耐強く子どもに向き合う
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自己肯定感はアートで高める! 「自ら考え、かたちにする」を繰り返し、自信を持てるようになる
自然と創造力はセット! 子どもの想像を広げる遊び【大豆生田啓友氏】
子どもの創造力を育むには「自然物に触れさせるとよい」と話すのは、玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友氏です。落ち葉や桜の花びら、石や虫など、散歩の途中で目にする自然物は、子どもの想像力や創造力を膨らませてくれる力をもっています。大豆生田氏は、子どもの創造力を育むためにも、週末や長期休暇には自然のなかに遊びに出掛けることを提唱しています。
もちろん普段の生活のなかでも、子どもの創造力を育むことは可能です。たとえば、大人にとってはゴミのように見える空き箱や廃材でも、子どもにとっては魅力的なおもちゃとして映ります。子どもの想像力と創造力をフル回転させれば、空き箱や廃材はたちまち世界でたったひとつのおもちゃに変身するでしょう。
大豆生田氏は、「遊び方が決まっている既製品のおもちゃだけで遊ぶのか、空き箱や廃材などで自由に遊ぶのか、その違いは子どもの経験にも大きな違いを生み出す」としたうえで、家のなかの子どもが目につく場所にそれらを置いておくことを推奨しています。
また、親からすれば迷惑に感じたりいたずらにしか思えなかったりする遊びからも、子どもはさまざまなことを学びます。たとえば、ティッシュを箱から全部出して再び詰めるような行動。専門用語では「探索活動」といいますが、探索活動中の子どもは、「こうしたらどうなるだろう」「ああしたらどうなるだろう」と試行錯誤しているのだそう。こういった探索活動を、周囲に迷惑をかけない程度に自由にやらせてあげることで、子どもの創造力はぐんぐん育まれていきます。
【創造力の伸ばし方】
- 自然物に触れる機会をつくる
- 空き箱や廃材を家に置いておいて、子どもが自由な発想で遊べる工夫を
- 子どもの「探索活動」を見守り、サポートする
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かわいい子には“いたずら”をさせよ!? 「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ
子どもの創造力を育てるのは「アウトプット習慣」【樺沢紫苑氏・沼田晶弘氏】
AIの台頭により、今後ますますその重要性が問われる「創造力」について、精神科医の樺沢紫苑氏は「創造性を磨くには、アウトプット型の勉強や仕事をする必要がある」と指摘します。
「読む」「聞く」「見る」など先生の話を聞くだけの授業や、指示されたことをやるだけの仕事は「インプット型」であり、従来の基本的な学びのスタイルです。対して「アウトプット型」は、「話す」「書く」「行動する」といったもの。ディベートやプレゼンを取り入れた授業や、自ら企画したり、指示されたことに対してプラスアルファで提案したりする仕事などを指します。
AIにはまだできない「0から1を考える」創造力は、こういったアウトプットのトレーニングをすることで育まれます。子どものうちはまず、「思っていることを話す、書く」など簡単なことから始めていきましょう。
樺沢氏が特におすすめしているのは「アート(鑑賞)」です。感情を動かすような非言語的なものを言葉で説明するのは、大人でも難しいもの。それを言語化するトレーニングを積むことで、自己洞察や自己分析につながり、頭に漠然としたアイデアが浮かんだときも人に説明できるようになるのだと言います。美術館に行った後に、親子で感想を述べ合うだけでも立派なアウトプットですよ。
一方で、子どもがアウトプットするチャンスを先回りして阻んでしまう親も多いと指摘するのは、「ぬまっち先生」こと、小学校教諭の沼田晶弘氏。わが子への愛情ゆえに、「お世話」という名目で先回りして世話を焼いてしまうと、せっかくのアウトプットのチャンスを逃してしまうので気をつけましょう。自分で考えて行動するという経験を積極的に積ませることで、子どもの創造力はぐんと育まれていきますよ。
【創造力の伸ばし方】
- 生活のなかでアウトプットのトレーングを
- 創造力を養うにはアート(鑑賞)がおすすめ
- 先回りして子どものアウトプットするチャンスを奪わない
もっと詳しく!
“AI時代に大活躍”でできる子どもの育て方。「アイデア」と「失敗」が必要な理由
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「子どもの創造力」はもって生まれた才能ではなく、日常のちょっとした工夫で大きく伸ばすことができます。本記事で紹介した専門家のアドバイスを参考に、親子で楽しみながらお子さまの創造力を育んでいってくださいね。
文/野口燈
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|家のなかに生活感を! 子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|自己肯定感はアートで高める! 「自ら考え、かたちにする」を繰り返し、自信を持てるようになる
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