教育を考える/教育メソッド 2025.8.19

子どものその “イヤイヤ”は「いつもと同じ」が効果大!——もっとも大事な「秩序の敏感期」とは

神原えみ
子どものその “イヤイヤ”は「いつもと同じ」が効果大!——もっとも大事な「秩序の敏感期」とは

「あれ!?どうして!?——さっきまでニコニコしていたのに、なんで、こんなに火がついたように泣くの?」数秒前まで笑っていた我が子が突然泣き出す場面に、戸惑ったことはありませんか? 理由がわからず、なんとか泣き止ませようと、お菓子を与えたり、スマホを見せたり……。その場をしのぐ対応を繰り返してしまっていませんか?

でもじつは、子どもが泣くのには、ちゃんと理由があります。特に、0~3歳の子どもたちは、秩序の敏感期」と呼ばれる時期にいます。この時期の子どもにとって、「いつもとちがう」ことは、世界がひっくり返るほどの大事件。だからこそ、大人には理解できないような些細な変化にも、心が大きく揺れ動いてしまうのです。その仕組みを知っておくだけで、子育てはもっと楽に、もっと楽しくなります。

こんにちは、神原えみです。私はAMI(国際モンテッソーリ協会)認定のモンテッソーリガイド(教師)であり、2児の母です。普段は、『ママもこどもと同じくらい自分を大切に』を軸に活動をしています。

本記事は、連載「モンテッソーリ教育ガイド」第4回目。今回のテーマは「『秩序の敏感期』とは!?」です。

ライタープロフィール

神原えみさま

神原えみ

AMIモンテッソーリ教師

小学生2児の母。AMIモンテッソーリ教師ディプロマ取得。「ママも子どもと同じくらい自分を大切に」をテーマに活動。代表著書『0~2歳 分かりやすい!モンテッソーリ教育』『幼児教育をはじめる前に読む本』、バイリンガル書籍『ORIGAMI はじめてのおりがみ』シリーズなどを出版。著者名「モンテッソーリガイドえみ」として海外にも発信中。Udemy・ストアカ講師として、子育て中のママが自分らしく過ごすための講座を展開しています。

「秩序の敏感期」を知ると「イヤイヤ期」がやわらぐ

「イヤイヤ期」ではない「敏感期」とは

前回お伝えしたように、じつは、モンテッソーリ教育には「イヤイヤ期」という考え方は存在しません。その代わりに、「敏感期」という発達段階があり、10ヵ月〜3歳半頃に訪れます。

(関連記事)「イヤイヤ期」は存在しない!?「敏感期」という考え方【Udemy講師・神原えみ モンテッソーリガイド第3回】

なぜ敏感期があるのでしょうか? それは、子どもが「人間らしさ」を獲得するためです。私たちは、生まれたときから「人間」としての姿や能力をすべて備えているわけではありません。

たとえば、言葉を話したり、歩いたり、他人と関係を築いたりといったことは、生まれてすぐにできるものではありませんよね。そうした人間としての基本的な能力や特徴を、自らの力で身につけていくのが0~6歳の時期です。つまり、子どもはこの時期に、自分という “存在” を一生懸命につくっているのです。

敏感期のチャート

一番重要な「秩序の敏感期」

モンテッソーリ教育では、敏感期のなかでも「秩序の敏感期」が一番重要だとされています。書籍のなかでもこう記されています。

「敏感期のうちでも、最も重要でまた神秘的なのは、子どもを秩序に対してきわめて敏感にさせる『秩序感』です」

(引用元:マリア・モンテッソーリ(2004),『幼児の秘密』, 出版社日本モンテッソーリ教育綜合研究所.)

この「秩序の敏感期」、じつは生後10ヵ月ごろから始まっています。10ヵ月といえば、まだ子どもは自分の意志や感情を上手に言葉で伝えることができない時期。それでも、周囲の環境や日常の流れに対して「いつもと同じであってほしい」という気持ちは、すでにしっかりと芽生え始めています

そして、この敏感期のピークが訪れるのは、ちょうど2歳ごろ。そう、まさに “イヤイヤ期” と重なる時期なのです。

つまり、イヤイヤしているのは「自分のなかの秩序が乱された」という強い不安や混乱のサインです。このことを理解しておくことで、子どもの行動をちがった視点で見ることができます。

私は、娘が4歳、息子が1歳のときに初めてモンテッソーリ教育に出会いました。それぞれ性格や個性はちがいますが、2人の子どもを育てるなか、「秩序の敏感期」の存在を知らなかった頃の育児と、知ったあとの育児を体験。天と地ほどの差がありました。

現に、秩序の敏感期を知っていた息子の育児は、いわゆる「イヤイヤ期」と言われるような激しい自己主張や癇癪が、ほとんど見られなかったのです。それは、その時期に応じた適切な関わり方を意識したからです。

「知っているか、知らないか」ただこの差だけで、子育てはグッと楽になります。せっかくの育児、イライラから解放されて楽しみませんか?

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子どもの世界を理解しよう——秩序が乱れるとはどんな感じ?

大人でたとえるなら……

子どもが「秩序の乱れ」に敏感だという話を聞いても、最初はピンと来ないかもしれません。でも、もしこれを大人の日常に置き換えてみたら、どう感じるでしょうか?

想像してみてください。いつもの朝。あなたは出勤のために自転車に乗り、毎朝通る道を走ります。角のコンビニを右に曲がり、赤い屋根の家が見えたら左に曲がる。そこにはいつも、見慣れた駅があります。でもその日、同じように走っていたのに……「あれ? 駅がない。」

そこにはただの更地が広がっていて、駅が跡形もなく消えているのです。一瞬で頭が真っ白になりますよね。「え? なに? どういうこと?」「ここ、さっきの角だったよね? 私、道まちがえた? 夢? なんか変……」胸がざわざわし、心拍数が上がり、不安や混乱が一気に押し寄せてきます。このときのあなたの感覚、それこそが、秩序の敏感期にいる子どもが感じている “混乱” そのものなのです。

(関連記事)日本のママは頑張りすぎ! ママの余裕が子どもの心を育てる——「よはく」をつくる子育て術【Udemy講師・神原えみ モンテッソーリガイド第2回】

泣く子ども

こんな子どもの行動、心当たりありませんか?

では、秩序の敏感期がどんなものか、身近な例で見てみましょう

具体例1:いつもとちがうコップ

2歳のAちゃん。ある朝、保育園に行く前にいつもとがコップで牛乳を出すと、その瞬間、「ちがーーーう!!!」と絶叫し、床に寝転がり泣き叫ぶ。「え、コップ変えただけだよ……?」とママは困惑。

具体例2:道順がちがう

3歳のBちゃん。いつもは習い事のプールが終わると家へ直行。でも、今日はニンジンを買うのを忘れちゃった! ちょっとスーパーに寄って帰ろうとママがいつもの道順を変えると、「ちがーーーう!!!」と絶叫し、自転車でエビの様にのけぞる。「ろくに買い物もできないわ」とママは疲れる。

具体例3:置き場所がちがう

もうすぐ1歳のCちゃん。初めて迎える夏。ママが日傘をそっとダイニングテーブルに置くのを見て号泣。ママは理由も分からず、ただただ、Cちゃんを抱っこ。それでも、Cちゃんは、なかなか泣き止まなず、ママはあたふた。

「イヤイヤ」は感情ではなく”秩序を守る防衛反応”

じつは、これらすべて典型的な「秩序の敏感期」の反応です。もうすでに共通したパターンにお気づきですよね。そうじつは、上記のどの例も、「いつも同じ」でないときに、子どもがイヤイヤ言ったり、泣いたりしています

大人から見れば「そんなことで?」と思ってしまうかもしれません。でも、子どもにとっては「世界が崩れた」と感じるくらい大きな出来事。それを「イヤだ!」と必死に訴えるのは、「安心したい」「理解したい」という純粋に自分の世界を安心できる場所にして、構築していきたいという欲求の表れです。

子どもにとっては、「いつも通り」であることが、安心と信頼の世界を保つ “命綱” なのです。では、「秩序の敏感期」にある子どもへの対応法はどんなものでしょうか?

コップで飲む子供

ママ・パパはどうすればいいの?——「秩序の敏感期」への対応法2つ

じつは、モンテッソーリ教育では、子どもがなぜイヤイヤするのかの理由や対処方法が全て明らかにされています。「あの時、敏感期を知っていてよかった」「秩序の敏感期を知らなった時の育児を考えるとこわい」そのようなお声をよくいただきます。今回、秩序の敏感期への対応法について2つ紹介します

◆メンタル面:ドーンと構えて対立を避ける

まずは気持ちの面から整えましょう。ドーンと構えてください。子どもの「イヤイヤ」は、成長に欠かせない大切なサインです。決して生意気になったわけでも、親を困らせたいわけでもありません

以前、「ここで子どものイヤイヤに応えてしまったら、将来この子がワガママになる気がして……」とご相談を受けたことがありました。そのママは本当にその子のためを思って必死でしたが、その思いが「対立」という方向に向かおうとしていたのです。しかし、子どものイヤイヤに正面から反対し続けると、親子のあいだで不要な戦いが始まってしまいます

秩序の敏感期にある子どもは、ほんの些細なちがいにも強く反応します。これは成長にとって自然で必要な反応だと理解し、親が「ドーンと構える」心の余裕をもつことが何より大切です。

◆行動面:「いつも同じ」を心がけて環境を整える

具体的な対応としては、生活のなかに「いつも同じ」を心がけることです。もちろん、すべてを完璧に「いつもと同じ」にすることは難しいですよね。でも、少し心がけるだけで親子の時間は驚くほど穏やかになります。

たとえば、先ほどの具体例3で考えてみましょう。まだ言葉でうまく気持ちを伝えられないわが子が泣きじゃくっているとき、長時間抱っこしてあやすよりも、「いつもとちがうのがイヤだったのね」と気づいて、日傘をテーブルからサッと取り除いてあげける。それだけで、子どもの心が落ち着くことがあります。

大人が “観察の目” をもって、子どもの小さな変化や反応に敏感になってあげること、それが子育てをラクにし、子どもも大人もより心地よい毎日へとつながっていくのです。次回は、もっと詳しく具体例や対策をお伝えするので楽しみにしていてくださいね。

***
秩序の敏感期は、子どもが「この世界はどうなっているのか?」を模索する大切な時期。その過程で起こる“イヤイヤ”は、心の秩序をつくろうとする努力の証です。だからこそ、私たちは “戦う” のではなく “寄り添う” ことが求められます。そして、この時期を超えた先に、子どもは”秩序ある世界”を理解し、自分の足で歩み始めます。

次回は、ママ・パパの生活態度や言葉がけのポイントを時間・空間・関係性に分けてみていきましょう。