教育を考える 2024.9.30

「なんでできないの!」から卒業しよう。子どもの挑戦する心を育てる、失敗への対応術

「なんでできないの!」から卒業しよう。子どもの挑戦する心を育てる、失敗への対応術

「子どもが失敗すると、つい厳しい言葉を言ってしまう」「子どもの失敗にイライラして怒ってしまう」――子どもがミスするのを目の当たりにすると感情的になり、後で「言いすぎてしまった……」と後悔することはありませんか?

親なら誰しも、子どもに自信を持って自立してほしい、幸せな人生を送ってほしいと願うもの。だからこそ、子どもの失敗を目にすると「このままで大丈夫だろうか」と不安になるのが親心というものでしょう。

しかし、失敗は成長の糧。そこで今回は、「子どもが失敗したとき、どんな声をかけたらいいんだろう?」と悩む親御さんに、子どもの可能性を引き出す対応方法をご紹介します。

失敗を恐れる子ども、その原因は親かも……

「なんでうちの子、こんなに引っ込み思案なのだろう?」
「もっといろいろなことに、積極的にチャレンジすればいいのに……」

子どもが何事にも消極的だと、気を揉みますよね。でもその原因は、子どもがミスするたびに親が冷たく対応してきたせいかもしれません。

『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』(青春出版社)の著者で大阪市立大空小学校の初代校長を務めた木村泰子氏は、子どもが失敗を恐れるようになる理由を次のように説明しています。

なぜ今の子どもたちや若者は失敗を恐れ、チャレンジしないかというと、失敗したら叱られる、失敗したら困るという経験値を持っているから。だから、失敗は子どもにとってピンチになってしまうのです。

つまり、子どもは失敗を叱られた経験から、失敗を恐れるようなり、結果的にチャレンジ行動ができなくなってしまうということ。*1

誰だって怒られるのはつらいものです。大人の世界でも、失敗すると必要以上に厳しく叱責する上司のもとでは部下が萎縮し、「失敗したら嫌だから、言われたことだけしよう」と指示待ち状態になりやすいのではないでしょうか。

子どもの無気力状態が心配なら、子どものやる気を奪うような間違った声掛けはただちに改めなければなりません。

両親から怒られて耳をふさいでいる女の子

「木のおもちゃ」が知育におすすめな理由。五感を刺激し、集中力を育んでくれる!
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「失敗やミス=悪いこと」だと思い込んでいませんか?

「子どもが失敗するのを見ると反射的に厳しく注意してしまう……なぜだろう?」そうお悩みなら、失敗やミスを悪いことだと思い込んでいないか、一度自分の心に向き合ってみてはいかがでしょう。

「失敗は成功の母」ということわざがあるように、子どもの成長過程失には敗する経験が必要です。まずは「チェレンジ精神を鍛えるため、どんどん失敗させていい!」と、親の思考を変えることが大事かもしれません。

教育ジャーナリストの中曽根陽子氏は、子どもに失敗経験が必要な理由を次のように挙げています。*2

  • 失敗経験をしないと、困難にぶつかって挫折しやすい大人になってしまうから
  • 「失敗を乗り越える成功体験」が後々、経験値として威力を発揮するから

たとえば、数学のテストでつまらない計算ミスを多発し成績を落としたことで、計算式を丁寧に書き検算をする大切さが心底身に染みたことなど。筆者自身も、振り返ってみれば失敗したからこそ得られた学びがいくつもありました。

あなたにも、子ども時代に失敗経験があったからこそパワーアップできた記憶はありませんか?

勉強がわからなくて頭を抱える少女

【状況別】子どもが失敗したときの「親の神対応」

前章で触れたように子どもが失敗することは悪いことではありません。それなのに、「なにやってるの!」「こんなこともできないの!」などと、子ども自身を責めるような叱り方をすると、子どもは「怒られた」と感じ、「言い訳」や「反発」で自分を守ろうとします。これでは、親が本当に伝えたいメッセージが伝わるはずがありません。

コミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクター、瀬川文子氏は、「子どもを叱るのは、たいてい子どもの行動に対して親が気に入らないとき」と述べています。自分が気に入らない行動を子どもがするから、「(あなたは)どうしてそんなことするの!」と「あなた」を主語にした叱り方になり、「相手を責めるニュアンス」が強く出てしまうのです。

そこで瀬川氏は、「まずは親の心配や不安といった第一次感情を『私メッセージ』で伝える」よう提案しています。第一次感情とは「怒りより先に湧いてくる感情」のこと。

「私メッセージ」の伝え方のコツは、下記のとおりです。*3

  1. (子どもの行動)非難がましくなく、目に見える、耳に聞こえる事実を伝える
  2. (行動から受ける自分への影響)できるだけ具体的に伝える
  3. (私の感情)正直に素直に伝える

親の素直な気持ちを聞き、「自分を攻撃してくるのではなく、心配してくれているんだ」と伝われば、子どもの心のバリアが解除され安心してアドバイスに耳を傾けてくれるのではないでしょうか。

上記をふまえて、子どもが失敗したときに言ってしまいがちなネガティブな言葉を、子どもがポジティブになれる言葉に言い換える具体例をシーン別にご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

【学業面での失敗】テストの点数が悪かった

<具体例1>中学受験を目指しているケース

NG例:「こんな点数じゃ、いい中学に入れないよ! 間違えた問題の確認は終わったの? いつも復習しないから、この点数になったんじゃないの!?」

OK例:「今回のテスト、難しかったよね。でもミスを放っておくのは不安だから、まずは一緒にできなかった問題に印をつけて原因を分析してみようか」

<具体例2>ゲームばかりしていて勉強しないケース

NG例:「毎日ゲームばかりしてるから、こんなひどい点をとるのよ。ゲームの時間を減らしてもっと勉強しなさい!」

OK例:「ゲーム、楽しいよね。でも、勉強しないとこの先あなたが苦労しそうで、お母さんは心配なんだ。間違い直しからやってみない?」

≪解説≫
NG例は、テストの点数が悪かったとき、親が子どもに言ってしまいがちな言葉ではないでしょうか。「受験に失敗したらどうしよう」「将来勉強に対するコンプレックスで子どもを苦しませたくない」という焦りや心配が噴き出してつい言ってしまうのですよね。

しかし子どもにとっては、ただでさえ落ち込んでいるのに「いい中学に入れない」は脅しの言葉でしかなく、「親がそう言うなら、勉強してもムダ」とやる気を失ってしまうかもしれません。また、自分が好きなゲームを否定された挙句「勉強しなさい」と頭から命じられたら、反発してますます勉強から遠ざかってしまうことに……。

テストで大切なのは、さらに成績を伸ばすため重点的に勉強すべき部分のあぶり出しのはずです。子どもの気持ちに寄り添い安心感を与えたうえで、失点した原因を分析しどう対策すべきか子ども自身で考えられるようサポートに専念するのが親の仕事ではないでしょうか。*4

そこで、OK例のようにテストの失敗を「大切な伸びしろ」として扱うよう促してあげれば、お子さんが自分の失敗に向き合い、今後に活かす勇気を与えてあげられるはずです。

【スポーツや習い事での失敗】大切な試合や発表会でミスをした

NG例:「あんなに練習したのに、なんでできないの!? だからもっと真剣に練習しなさいって、ママは言ってたのに」

OK例:「緊張したよね。でも、ここまで一生懸命努力してきたことが大事。この経験は次につながるよ。大丈夫、また頑張ろう」

NG例:「いつも間違えてるところ、また間違えたよね。『絶対間違えない』って言ってたのに……はぁ、みんなの前で恥ずかしいわ!」

OK例:「最後まで諦めずよく頑張ったね。今回の経験から学べることがきっとあるはず。次はもっとよくなると思うよ。どんなことに気をつけたい?」

≪解説≫
子どもがスポーツの試合や習い事の発表会で失敗し反省しているときに、NG例のようなネガティブな言葉で責められると、子どもは発奮するどころか立ち上がれなくなってしまうことも。

メンタルトレーニングの第一人者の高妻容一氏は、子どもが親から「どうして、なぜ」とネガティブに追求されると、「心の居場所」がなくなってしまうと話します。また、親が結果にこだわりすぎると、子どもはプレッシャーを感じて「失敗から学ぶ」経験をさまたげるようになってしまうことも……。

子どもの成長を願うなら、結果ではなく試合や発表会に向けて一生懸命頑張った子どもの努力を認める声かけがとても大事なのです。

高妻氏は、「ポジティブな努力を評価すると、『ほめられた→うれしい→もっと努力しよう』といった、本人の成長を促すサイクルにもつながっていく」と断言しています。現に、努力をほめる家庭で育った子どもは、大きく成長しているそうです。*5

OK例のように、結果ではなく子どもの努力を認め、次の意欲を引き出し、失敗を恐れずチャレンジする姿勢を育む声かけを実践してみてください。

【日常生活での失敗】大切なものを壊してしまった

NG例:「なんで落としたの!? 落とさないように気をつけてゆっくり歩いてねって言ったのに! 気をつけて持たないから壊しちゃうんだよ、まったく!」

OK例:「ケガしてない? これは、パパの大切なものだったから悲しい。壊れてしまったら戻せないものもあるんだって、学んでくれたら嬉しいな」

NG例:「お皿が割れちゃったじゃない! こんなことするなら、〇〇ちゃんにはもうお手伝いさせられないよ。もういい、ママが片づけるから!」

OK例:「ショックだよね。まずは落ち着こう。失敗から学べることがきっとあるはず。次に大切なモノを扱うときはどうすればいいか、一緒に考えよう!」

≪解説≫
大事な記念の品や、お皿などをうっかり子どもが壊してしまったとき、ショックのあまり子どもをキツく責め立ててしまうこと、ありますよね。しかし感情的に声を荒げても、子ども自身は、「ママがなんか怒ってる」「パパが恐い」と萎縮するだけで、なぜ叱られたのかわからないままということも……。

でも、本当に子どもに伝えたいのは、モノを大切にする心、モノの丁寧な扱い方ですよね。大切なモノを失った悲しみを正直に伝え、大事なモノの扱いかたについて子どもと一緒に考えることで、成長を促すことができるのではないでしょうか。

たとえばガラス製品のように、壊れたら元に戻せないモノを割ってしまったときは、OK例のように、まず子どものケガを心配し、モノより子どものほうが大事なのだという気持ちをしっかり示してみてはいかがでしょう。

親が自分を大切に扱う姿勢から、子どもはモノやさらには人を大切にする姿勢を学んでくれるかもしれません。*2

【対人関係での失敗】友だちとけんかをした

NG例:「どうせあなたが悪いんでしょ。ちゃんと謝ったの? 謝ってないなら、早く謝ってきなさい」

OK例:「つらかったね。なにか原因があると思うから、よかったらママに話してくれる?」

NG例:「友だちとケンカしたくらいで、すぐに泣かないでよ。〇〇君は弱虫だな。そんなに泣いていたら、△△君だって仲直りしたくないって思うよ」

OK例:「それはしんどいよね。まずは、友だちの気持ちを一緒に考えてみよう。どうすれば仲直りできると思う? これを乗り越えれば、もっと強い絆になるよ」

≪解説≫
子どもが友だちとケンカして帰ってきたとき、NG例のように頭ごなしに子どもを悪者扱いしたり、泣いている子どもをこき下ろしたりしても、子どもが親に不信感を募らせるだけ。「どうせ親は話をきいてくれない」と口を閉ざし、誰にも相談できないまま人間関係をこじらせてしまうかもしれません。

いじめ問題のような最悪の事態に子どもが陥らないよう、親にできることは、OK例のようにまず子どもの感情をしっかり受け止めること。そのうえで、子ども自身が友だちとのトラブルを解決するためになにができるか一緒に考えてあげてください。

仲良しの友だちとの関係が悪化してしまうと、とても心細く不安なものです。そんなとき、自分を否定せずやさしく寄り添ってくれる親の存在は心強いもの。親との対話をとおして子ども自身が友人との人間関係を修復する術を見い出し克服できれば、その経験が社会に出たとききっと活かされるはずです。*2

***
子どもが失敗したときには、次のポイントを意識しながらお子さんに声かけしてみてください。

  • 子どもの言葉がどんなふうに聞こえたか
  • 子どもの行動がどんなふうに見えたか
  • ママ・パパがどんな影響を受けたか
  • ママ・パパがどんな気持ちになったか

 
子どもの気持ちに寄り添う言葉で親子の信頼関係を築いて、お子さんの成長を力強くサポートしていきましょう。

文/上川万葉

(参考)
(*1)参考・引用元:東洋経済オンライン|「挫折に弱い子ども」と「強い子ども」の決定的差
(*2)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎
(*3)参考・引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して
(*4)参考:ベネッセ教育情報|テストの結果が悪かったら…。こんな言葉で励ましてあげよう
(*5)参考・カギカッコ内引用元:サイカク|試合に負けた日。子どもを”どうほめるか?”が、成長の分かれ道。