教育を考える 2020.5.21

任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎

任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎

少子化が進んだいま、限られた数の子どもに愛情をたっぷり注ぐ親が増えていることで、新たな問題が生じています。それは、「子どもが失敗をしないようにする親」の増加です。失敗をしないことは悪いことではないようにも思えますが、いったいなにが問題なのでしょうか。教育ジャーナリストとして活躍する、中曽根陽子さんに教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカット)

子どもに失敗させまいとするのは、親が「安心したい」だけ

子どもが失敗することがわかっていて、みすみすその道を進ませるのは忍びない――。子どもに失敗させたくないというのは、我が子を思う親として当然の感情であり、親が持つ本能ともいえます。ただ、その感情の裏にあるのはなにかというと、多くは親自身が「安心したい」という気持ちのように思うのです。

いまは世の中の先行きが不透明な時代です。だからこそ、自分が受けてきた教育や体験をそのまま子どもに与えるだけでは通用しないということも親は薄々感じています。すると、「学歴をつけておけばいい」というふうに、「これをやらせておけばいい」といった策が見つからないということになる。その不安を解消して自分が安心したいがために、「せめて子どもがなるべく失敗しないですむようにしたい」という発想に至るのだと思います。「わたしの子どもは失敗しないから、子育てや家庭教育がうまくいっている」と感じたいわけです。

そう考えると、子どもに失敗させまいとして取っている言動も含め、自分の言動の裏にある親自身の気持ちをときどき振り返ることが大切になってきます。「いまの言葉かけや行動は、本当に子どものためのものなのか?」「そもそも自分が安心したいだけではないのか?」というふうに疑問視するのです。

子育てに追われる忙しい生活のなかでは、どうしても目先のことばかりに目が向きがちですが、自分自身を俯瞰することはとても大切です。

中曽根陽子さんインタビュー_子どもに失敗させることの重要性02

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困難に立ち向かう力は、失敗からしか学べない

でも、なぜ親が安心したいがために、子どもに失敗させまいとすることがよくないのでしょうか? 親が安心することがよくないわけではありません。子どもに失敗させまいとすることがよくないのです。なぜなら、失敗の経験から子どもは多くのことを学び、たくましさを身につけていくからです。

新型コロナウイルス感染の拡大という事態で、世の中は一気に変化を余儀なくされています。変化が加速していく時代のなかを子どもたちはサバイバルしていかなければなりません。思いもかけない事態に直面したときにはなおさら、自分で判断し行動する主体性が必要です。それなのに、まったく失敗を経験しないまま大人になってしまうと、ちょっとした困難にぶつかっただけでも挫折してしまうということになるでしょう。

困難にぶつかって一度はしょげてしまっても、そこから学び、再びその困難に立ち向かうようなたくましさは、失敗を乗り越える経験からしか学ぶことができません。そして、その学ぶ場は学校などではなく、多くは家庭生活のなかにあります。だからこそ、親の対応が大切になるのです。

考えてもみてください。親元にいるときの子どもの失敗なんて、大人から見れば大したものではないはずです。仮に失敗したとしても、人生が終わるといったことはありません。ですから、どんどん失敗をさせてあげましょう。そのなかで、子どもは失敗を乗り越える成功体験を積むことができる。その体験が、のちに生きる知恵として力を発揮するようになるのです。

中曽根陽子さんインタビュー_子どもに失敗させることの重要性03

子ども自身に任せ、子ども自身に解決させる

子どもに失敗をさせることが大事だというと、「子どもにどうやって失敗させたらいいでしょうか?」なんて疑問を持った人もいるかもしれません。でも、「失敗をさせる」のではなく、失敗をさせないようにしないことが大切です。言い換えると、いい意味で放っておくのです。

たとえば、「子どもが忘れ物をしないか心配だから」と考えて、子どもが小学校に持っていく持ち物をすべて用意しているような人はいませんか? もちろん、子どもが小さいときにはトレーニングとして一緒に持ち物の準備をすることも必要でしょう。でも、いつまでたっても親がすべて用意していると、仮に忘れ物があったときには、子どもは「お母さんがちゃんと用意してくれなかったからだ!」と親のせいにします。

そうではなくて、子どもに任せればいい。それで忘れ物をしたとしても、強く叱ってはいけません。なぜなら、叱るだけでは子どもの行動変容につながらないからです。親がやるべきことは、子どもに任せて、失敗したとなったら今後の行動変容を促すこと。「次からどうすればいいかな?」と聞いてみましょう。忘れ物をして恥ずかしい思いをした子どもなら、「忘れ物をしないためにはどうしたらいいか」と自分で必死に考えるはずです。

持ち物の用意に限らず、さまざまなことを子どもに任せること。そしてなにか問題が発生したとしても、親はサポートに徹して子ども自身に解決させることを強く意識してほしいと思います。

中曽根陽子さんインタビュー_子どもに失敗させることの重要性04

1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい
中曽根陽子 著/晶文社(2016)
中曽根陽子さんインタビュー_子どもの「自己探究の力」を伸ばすec

■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧
第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?
第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない
第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎
第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは

【プロフィール】
中曽根陽子(なかそね・ようこ)
1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。