教育を考える 2020.6.8

「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して

「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して

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「何度言っても子どもが言うことを聞かない」「いつも同じことで叱っている気がする」――。これはもう、親にとっての「あるある」でしょう。そういうことが起こる原因はどこにあるのでしょうか。アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんに、対処法と併せて教えてもらいました。

協力/親業訓練協会
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカット)

「あなた」を主語にした叱り方が子どもの反発を招く

NGな叱り方をひとことで言うと、『あなた』を主語にした叱り方です。子どもを叱るのは、たいてい子どもの行動に対して親が気に入らないとき。すると、「どうしてそんなことするの!」というふうな表現になります。主語を省略することが多いのが日本語の特徴であるためにわかりづらいかもしれませんが、これは、「(あなたは)どうしてそんなことするの!」と、「あなた」を主語にした叱り方です。

「(あなたは)なにやってるの!」「(あなたは)またそんなことして……」も同様。そして、これら「あなた」を主語にした叱り方には、相手を責めるニュアンスが強く含まれます。そのため、責められたほうは言い訳をしたり反発したりしたくなるのです。

親からしたら気に入らない行動も、子どもからすれば「親に迷惑をかけてやろう」なんて思ってやっているわけではありません。汚れた靴下を脱ぎっぱなしにしたのもただ忘れてしまっただけとか、おもちゃを片づけないのも夢中になって遊んでいるうちに結果的に散らかってしまっただけということがほとんどでしょう。そこで、「まったくこの子は!」というふうに子どもを責めるのはお門違いです。

瀬川文子さんインタビュー_「私メッセージ」での叱り方02

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叱るときは、怒りではなく「第一次感情」に注目

そうではなくて、親は「(私が)困っているんだ」ということを丁寧に子どもに伝えていかなければなりません。「私」を主語にした「私メッセージ」で子どもに感情を伝えることが大切なのです。そうすれば、子どもは親の感情をきちんと受け取って、行動を変える可能性が高くなります。

でも、親も自分の感情にはなかなか気づけないものです。私たちが行なっている親業訓練講座(インタビュー第1回参照)の受講者のみなさんに、「私メッセージ」をつくる練習のために、親子にありがちなシチュエーションのなかでの自分の感情を挙げてもらうと、「嫌だ」「困る」「イライラする」くらいなもの。普段からそこに注目していないために、自分の感情が見えなくなっているわけです。でも、感情がそんなに単純なものだけであるはずはないですよね?

そこで、自分の感情に注目するトレーニングをしましょう。注目してほしいのは、いわゆる第一次感情です。子どもを叱るとき、多くの親は先に挙げた3つの感情などを含む「怒り」を感じています。でも、怒りというものは、たいてい別の感情の次に湧いてくるもの。その怒りより先に湧いてくる感情こそが第一次感情です。

子どもが遊園地で迷子になったとします。親が最初に感じる感情はなにかといったら、当然「心配」や「不安」でしょう。「どこに行っちゃったんだろう……」と親なら誰もが我が子を心配して不安になる。でも、子どもが無事に見つかったら、最初にどんな言葉をかけるかというと……「(あなたは)なにやってんの!」です。

これでは、心配されていたことがわからないまま、怒られたという事実だけが子どもの印象に残ってしまう。つまり、親子間のコミュニケーションにとって好ましくない誤解を生むことになるのです(インタビュー第1回参照)。

瀬川文子さんインタビュー_「私メッセージ」での叱り方03

親の「私メッセージ」が、子どもの「思いやり」も育む

もちろん、場合によっては叱らなければならないこともあるでしょう。でも、その前にまずは親の心配や不安といった第一次感情を「私メッセージ」で伝えるほうが効果的です。そうすれば、叱られた子どもに親の気持ちがしっかり伝わり、子どもの反省の度合もまったく違ってきます。

それこそ迷子になった子どもが見つかったときであれば、親に「よかった、すごく心配して不安だったのよ」と言われたなら、子どもも「こんなに心配させてしまうんだったら、今度から気をつけよう」と思うでしょう。そのあとのお説教も素直に聞いてくれるはずです。

最後に、子どもの行動や言葉が嫌だなと思ったときの、「私メッセージ」の伝え方のコツを紹介しておきます。以下の「3部構成」にすることが効果的です。

「私メッセージ」のコツ

  1. 子どもの行動:非難がましくなく、目に見える、耳に聞こえる事実を伝える
  2. 行動から受ける自分への影響:できるだけ具体的に伝える
  3. 私の感情:正直に素直に伝える

この「3部構成」で「私メッセージ」を伝えることにより、子どもは自分の行動が親を困らせたり悲しませたりすることを理解できるようになる。ひいては、他人に対する「思いやり」を育むことにもつながります。そのためにも、「こうしてちょうだいね」という言葉をつけ加えて「4部構成」にしないことです。それでは結局、指示命令になってしまい、子どもの思いやりが自発的に生まれることを阻害することになりますから注意してください。

瀬川文子さんインタビュー_「私メッセージ」での叱り方04

あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション
瀬川文子 著/合同出版(2013)
あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション

■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは
第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる
第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して
第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響

【プロフィール】
瀬川文子(せがわ・ふみこ)
1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。