今まで単語力、文法力、そして慣用表現力についてお話ししてきました。
ただひたすらに英単語を覚えても、必要なところで単語が使えなければ、「単語力」があるとはいえません。これまでの英語教育では、単語学習に関心が向けられた一方で、単語力を育てるという側面が弱かったように思います。同じことが、文法や慣用表現についてもいえます。
単語力・文法力・慣用表現力は、英語学習の3本の柱です。これらは使うためのものであり、英語の「言語リソース」です。
単語力・文法力・慣用表現力を使って表現するための「音声化力」
しかし、この「言語リソース」を使うとなると、表現するための媒体(メディア)が必要となってきます。ふだん「声」か「文字」を通して表現が行われますね。ここで注目したいのは「声のメディア」です。
皆さんは、自分の英語の発音やスピーキング力に、自信がありますか? 今回は「音声化力」を鍛えるためにどうすればいいのか、お話ししましょう。
「ブロークン英語」でもいい?
英語は世界中で使われており、今ではたくさんのいわゆる「お国訛り」を聞くことができます。ロシア人の英語とアラブ人の英語では、聞こえ方がだいぶ異なります。イギリス英語とアメリカ英語でも、音調として聞き比べると、相当の違いがあります。
韓国人の英語、フィリピン人の英語といった具合に、英語の使用者が世界に広がれば、その分、音の特徴も多様化します。その中に、日本人の英語も含まれます。
このように世界中の人たちが、それぞれの個性ある英語を話しているという状況を鑑みて、「英語は国際語だからブロークンでいいよ」という論調を耳にすることがあります。
「ブロークン英語」の一体どこが壊れているのか
ここで「ブロークン」という表現に少しこだわってみたいと思います。この「ブロークン」は標準英語の基準からみて「こわれている」ということですが、どこがブロークンかを明らかにしようとすると、一筋縄ではいきません。
日本語訛りでしゃべる英語は、音韻的にブロークンとみなされます。文法的にでたらめな英語もブロークンです。微妙なところでいえば、表現の選択が基準から外れているため、ブロークンとみなされることもあるかもしれません。
日本人英語学習者もアメリカ人の幼児も、英語は「発達途上」
しかし、このブロークン(broken)という形容詞は、幼児の英語には決して使われません。なぜかというと、幼児の英語は、発達過程にあると考えられているからです。発達段階でみれば、幼児の英語は、それで十全なものなのです。
「発達過程」は「学習過程」と同義です。だとすると、たどたどしい英語を話す米国の幼児も、訛りのある英語を話す日本人学習者も、どちらも成長の途中にいることになります。
成人になると「適切な英語を話すものだ」という先入観が強くなり、つい “broken English” というラベルを貼ってしまいがちですが、僕はこの「ブロークン」というラベルは不適切だと考えています。国際的に通じるかどうかが問題なのです。
「これがネイティブの発音」というものは存在しない?
通じる英語にするためには、ネイティブの真似を徹底的にすればよいという考え方もあります。この考え方はたしかに一理あります(「真似っこ」の効用については次回ふれます)。
しかし、「ネイティブ」という概念には、おびただしい多様性が含まれています。「これがネイティブの発音」というものは、原理的にはありません。
地域、性差、年齢、職業などを変数に、多様性は生まれます。また、同じ一人の母語話者でも、誰とどういう状況で話しているかによって、英語のしゃべり方は異なってきます。
例えば、働くお母さんが、仕事の商談における話し方と、家で幼い子どもに語りかけるときの話し方は、大きく違うことでしょう。
実際に、われわれが直面する「ネイティブ」の英語は、その多様な発音の中の1つでしかないのです。
英語の音の「コモンコア」を身につけることの重要性
しかし、同時に、英語の母語話者であるということは、「英語を最も自然な形で話すことができる人である」という意味でもあります。
つまり、複数のネイティブスピーカーの話す声にふれることで、「自然な英語の音」の近似値をつかむことができるのです。
一人のアメリカ人の英語は多様な発音の中の1つにすぎませんが、10人、あるいは100人のアメリカ人の英語にふれると、多様性の中に共通性のようなものが見えてくるはずです。これが「自然な英語の音」の近似値です。
この近似値は、英語の一般的な、核となる音「コモンコア(common core)」となります。たとえ日本人的な訛りがあったとしても、このコモンコアをしっかり押さえていれば、国際的に通じる英語の音を身につけることができるでしょう。
これは、音声化力を鍛えるための大前提となります。
自信を持って大きな声で話すと、通じやすくなる?
コモンコアのひとつは、「大きな声で話す」というものです。英語のネイティブスピーカー同士の会話を聞いていると、たとえ電車の中でも、声が響くように聞こえてきます。
日本人が英語を話すと、声が前に出ず、モゴモゴと口の中で音を作っているような印象があります。まず、英語をしゃべる声に力がなければ、自信を持って話しているようには見えません。これは「声の大きさの壁」です。
おそらく、声の大きさと自信の度合いには、高い相関関係があるのだろうと思います。英語が上手下手ということではなく、大きな声で話している人は、自信を持ってしゃべっているように見えるのです。
南米の人たちと英語で話すとき思うのですが、彼らの声は大きく、英語を話すことに戸惑いがありません。その実、英語の表現や文法など、かなり適当なところがあります。それでも、自信を持って言いたいことを大きな声で話していると、不思議と通じやすくもなるものです。
「声の大きさの壁」を乗り越えるために効果的な「音読」
声の大きさの壁を乗り越えるには、どうすればいいでしょうか。いきなり「大きな声で話せ」といわれても、なかなか簡単にはいきません。
そこで、有効なのが音読です。題材は、自分の気に入った絵本、小説や時事ニュースなど、何でもかまいません。しっかり声に出して読むことが大切です。
最初は紙を両手に持って、立った姿勢で朗読します。立っていないと、声はしっかり出ません。
何回か読むうちに慣れてくれば、片手で紙を持ち、もう一方の手でジェスチャーをしながら音読しましょう。この時点で、単なる音読からパフォーマンス(表現活動)になっているのです。
このとき、大袈裟なぐらい大きな声を出すことが肝心です。誇張した声出し訓練をしていると、普通に会話をする際には、ちょうどいいぐらいの大きさの声で話せるようになるはずです。
「チャンキング音読法」で間の取り方、リズムの取り方を学ぶ
しかし、ただ大きな声で読めばいいわけではありません。間の取り方、リズムの取り方も大切です。そのための音読法が「チャンキング」です。
意味のかたまりを「チャンク」といいます。そして、チャンキングとは、意味のかたまりごとに区切り、息継ぎをしながら読む方法です。
例えば、以下はイソップ物語の「アリとキリギリス」の冒頭部分です。
これをチャンクに分けると、以下のようになります。
ある夏の日、野原で
a Grasshopper was hopping about, /
キリギリスが飛び跳ねていました
chirping and singing to its heart’s content.//
心ゆくまで鳴いたり歌ったりしながら
An Ant passed by, /
アリが通りかかりました
bearing along with great toil/
苦労しながら運んでいたのです
an ear of corn he was taking to the nest.//
巣まで持って帰るトウモロコシの実を
“Why not come and chat with me,” /
「こっちに来ておしゃべりでもしないかい」
said the Grasshopper, /
キリギリスは言いました
“instead of toiling and moiling in that way?”//
「そんなにあくせく働かないで」
意味のかたまりごとに、息継ぎの箇所で切っています。このような形でチャンクに分けた文章を、徹底的に音読するのです。
チャンクがあることで、慌てることなく、しっかりと読むことができるようになります。
また、息継ぎの箇所で英語を区切って読む練習になるので、自然な間の取り方が身に付きます。チャンクを一つの単位として正確に音読できるようになると、相手にも聞き取りやすく、わかりやすい音読になるはずです。
さらに、チャンキング音読法に慣れてくれば、英語の聞き取りも楽になります。相手の息継ぎがわかるようになると、リスニング力もぐっとアップしますよ。
さまざまな効果が得られる「チャンキング音読法」、ぜひお子さんと実践してみてくださいね。