前回は、日本人が英語を話すときに「声が小さい」ことを指摘しました。そして、大きな声で英語を話すための訓練として、チャンキング音読法をご紹介しました。「声の壁」を乗り越えるのに、音読はとても有効な手段です。
ほかにも、英語を話すときの壁が存在します。今回は「通じる音の壁」と「感情の壁」の2つを取り上げます。
通じる音の壁(1)発音:「苦手な音」は限られている
通じる英語の音を出せているか否かは、とても重要です。発音の仕方が間違っていたら、相手にうまく通じませんね。「通じる音の壁」は、戦略的に乗り越える必要があります。
実は、英語のすべての母音や子音が、相手への正しい伝達を妨げる原因ではありません。英語学習で音声面を扱っている本であれば、たいてい「日本人が苦手とする音」がリスト化されています。問題はそれをどう克服するかです。
「オノマトペ」 で英語の音を“戦略的に”攻略!
「音象徴」(“sound symbolism”)という言葉を聞いたことがありますか? わかりやすくいえば、擬音語・擬声語などのオノマトペのことです。ドアが「バタン」としまるとき、英語で “bang” といいますね。この “bang” が「音象徴語」です。
音と意味との間になんらかの関係があるというのが「音象徴」の定義です。まさに、音の聞こえ方に注目する語ですね。
「光がチカチカ」している状況は “flicker”(フリッカー)ですが、「光がギラギラ」している状況は “glare”(グレアー)です。声に出してみてください。音の響きとその意味の間に、なんらかの関係を読み取ることができるはずです。
木の葉がそよ風にサラサラ鳴るという状況は “rustle”(ラッスル)といいます。他にもいくつか挙げておきましょう。
- glossy(つやつや)
- fluffy(ふわふわ)
- clatter(がたがた)
- slippery(つるつる)
- sticky(べとべと)
- gulp(「ごくごく」飲む音)
まずは、自分が苦手とする音を含む、こうした音象徴語をいくつか集めてみましょう。その中から、苦手な「音潰し」をすれば、発音の壁は克服することができます。
「シングル・ダブル・トリプル」の発声法
例えば /fl/ と子音が連続し、しかも /l/ 音がある音は苦手という日本人が多くいます。もちろん、/r/ も難しいとされる音です。そこで例えば、それぞれの音の壁を克服するために、これらの音象徴語を選んだとします。
/r/ :rustle rough roar
発音の訓練のために、シングル・ダブル・トリプルという発声法を使います。
例えば「光がチカチカ」している状況を表す “flicker” なら、こう発声します。
ダブル:「フリッカー フリッカー」と2回続けて読む
トリプル:「フリッカー フリッカー アン フリッカー」と3回続けて読み、2回目と3回目の間に弱く “and” を加える
トリプルになるとリズムが生まれます。“flicker” のポイントは、/f/ と /l/ の間に /u/ を入れずに、/fl/ を一気に発音することです。
木の葉がそよ風にサラサラ鳴る状況を示す “rustle”の /r/ については、慣れないうちは、最初に軽く「ウ」と言いながら「ゥラッスル」と発音するといいでしょう。葉っぱがカサカサ鳴っている様子を思い浮かべながら、練習してみましょう。
ドアが「バタン」としまるときの “bang” には、/ae/ という音が含まれています。この音は、口を横に引っ張るようにして、トリプルでくり返し声出しすることで、身につけることができますよ。
通じる音の壁(2)強勢のストレス:「英語らしさ」の鍵
もう一つ注目したいのは「強勢のストレス」の位置です。「ジャパン」と日本語読みすれば平坦な音の流れですが、英語的には「ジャパン」と「パ」にアクセントが置かれた響きになりますね。
英語では、強勢のストレスは音のリズムにも大きく貢献しており、とても重要です。僕は、個々の音の発音以上に、強勢の付け方に英語らしさの鍵があると思っています。
まず、語句を読む時に「ストレス(強勢)の置かれる位置に常に注意を払う」というルールを自分の中で作りましょう。そして、日本語読みで平坦に話すのではなく、強勢のあるところを少し大げさに、強く言ってみましょう。
例えば、このような地名や名前の場合は、太字部分を強く発音してみてください。
- ロスアンゼルス → Los Angeles
- フィラデルフィア → Philadelphia
- 岡山 → Okayama
単語だけではなく、文を話すときにも、強弱が必要です。アクセントに気をつけて、この3文を声に出してみましょう。
Good to see you.
● ● ● ● ● ● ● ● ●
I hate to tell you. I missed the train.
●を一番強く、次に●を強く、最後に●を弱く発音します。強弱が英語のリズムを作り出すのです。
感情の壁:気持ちを込めて「自分らしい」発話を
英語を話しているとき自分らしくない、と言う人が少なくありません。しゃべる声に気持ちが乗らないことが、その原因の一つだと思います。
会話では、感情がリズムを作ります。「驚かせたい」「同情してほしい」「腹を立てている」など、様々な感情がありますね。そのような気持ちは、声の調子で表現されます。気持ちがこもっていない棒読みでは、相手は白けてしまうでしょう。
そこで感情を込めた声出しの訓練が必要になります。感情というのは誰かに作られるといったものではありません。自然に沸いて出てくるものです。
そこで注目したいのが、以前もご紹介した「慣用表現」のうちの「まるごと表現」。例えば、このような表現があります。
- やったー!(I did it!)
- それうけるね(That’s so funny.)
- 絶対だめ(No way.)
- かわいい(How cute!)
- いい加減にしてよ(Give me a break.)
- がんばれ!(Hang in there.)
これらは決まり文句ですが、ただ文字を声に出して読むだけでは、感情が自然に沸いて出てくることはありません。そこでひと工夫が必要になります。
「やったー!(I did it! )」を例にしてみましょう。
まず、このように強弱をつけます。[アイディデイッ] のような音になれば、完璧です。
その上で、自分に起こった具体的な状況を頭に浮かべながら、発話してみましょう。例えばこのような、自分にとっての「やった!」という状況を思い浮かべて、“I did it!” と言えば、自然と感情を込めやすくなりますね。
- 英語の期末試験で100点を取った
- 野球チームの練習試合で接戦の末に勝った
- ショッピングセンターの抽選で1等賞に当たった
状況が英語表現を生み出すようにするのです。単なる英語から日本語への置き換えではなく、実際の状況を頭に浮かべながら発話練習することで、感情を込めた声出しができるようになるでしょう。
「真似っこ」で英語で話すのも聞くのも楽になる!
こどもは真似っこの「天才」です。僕はある幼稚園のアドバイザーをしています。その幼稚園では、バイリンガル教育が特徴の一つになっています。
子どもたちは、学ぶというよりもまるで身体を動かすかのように、英語をどんどん身につけていきます。よく観察していると、英語の音に対する感受性が抜群に高く、ネイティブの先生たちと自然にやりとりをしている中で、どんどん英語を吸収していきます。
耳慣れが口慣れに先行するようですが、状況の中で先生の英語を理解し、先生の話し方をちゃんと押さえて、英語らしい発音で表現ができるようになります。明らかに、先生の言葉を自分で真似っこしているのです。
英語の音を聞いていると、“milk”(ミルク)の /l/ が「ウ」に聞こえるとか、“Japan”(ジャパン)の「ジャ」よりも「パ」のほうが力強く響く、などといった印象を持つことがあるでしょう。
“red” のような簡単な単語でも、「レッド」よりは「ゥレッド」のように聞こえます。同様に、“What are you looking for?” は、「ワットアーユールッキングフォー」よりも「ワダユ ルキンファ」のように聞こえますね。
こうした英語を真似ながら、近い音を出せるようになると、英語の聞き取りも楽になるはずです。文字を読むのではなく、音を聞き、聞こえたように発音するのです。
映画でも歌でも絵本でも、聞こえた音をなぞるようにしてみてください。これは、幼児だけでなく、大人にとっても効果的な手法です。