あたまを使う/英語 2018.8.31

「英単語力がない」のはなぜ? 英語教育の成功に欠かせない “単語力” の実態とは

田中茂範
「英単語力がない」のはなぜ? 英語教育の成功に欠かせない “単語力” の実態とは

あなたは英単語をいくつ知っていますか? この問いに対して、正確に答えられる人は少ないでしょう。「英単語を覚えるのは苦手で……。」「もうすっかり忘れてしまった……。」そんな声も聞こえてきそうです。

しかし実は、たとえ単語力がないと嘆いている日本人でも、少なくとも3000語は知っているはずです。テニスやゴルフ、サッカーなどのスポーツ用語は、日本語でも英単語をそのまま使う場合がほとんどです。

ブレイク(break)・ラケット(racket)・グリップ(grip)・スタンス(stance)・ショット(shot)・ポイント(point)・マッチゲーム(match game)・クレーコート(clay court)・アンパイア(umpire)・バックコート(backcourt)・ラブ(love)・エース(ace)

これらの単語は、すべてテニスで使う用語です。また、コンピュータ関連の用語も、英語をそのまま使うのが一般的です。

バグ(bug)・ソフトウェア(software)・ダウンロード(download)・リセット(reset)・ギガバイト(gigabyte)・オンライン(online)

このような例は、いくらでも挙げることができます。

それでも、英語の単語力がないと考えている人が圧倒的に多いのも事実です。単語力が単純に「単語数」の問題であれば、多くの日本人はかなりの単語力があるはずです。日常的に何気なく使っている英単語、学校で学んだ英単語など、見ればわかる単語の数は決して少なくないことでしょう。

「単語力がない」のはなぜ? 語彙力不足の様々な要因

では、「単語力がない」という実感は何に起因するのでしょうか。

1. 英単語を見ればわかるけれど、自分では使えない
第一に、いざ英語を使おうとすると、知っているはずの英語が出てこないために、「単語力がない」と感じているということが考えられます。見ればわかるけど、実際に使うことができないということです。

専門的には、個人の語彙を「受容語彙(receptive vocabulary)」と「産出語彙(productive vocabulary)」に分ける慣例があります。受容語彙とは「見たり、聞いたりする時に理解できる語彙」のこと。一方、産出語彙とは「話したり、書いたりする時に使うことができる語彙」を指します。

そして「受容語彙」が「産出語彙」に勝るのが通例です。つまり「英語で発信する際に自ら使える単語」のほうが「見聞きする際に意味がわかるだけの単語」よりも少ないということです。

しかし、日本人英語学習者の場合、産出語彙の数があまりにも限られているところに、語彙力のなさを感じる原因があるのだといえます。

さらにいえば、受容語彙についても記憶が曖昧なため、うろ覚えのままで記憶している人が多いように思われます。例えば、英語の認定試験で高得点を獲得した人でも、“geometry” と “geography” のような語の区別があいまいで、実際に使う際には混乱する人が多数見受けられます。

2. 日常生活で使っている表現を英語にできない
第二に、日常を営む上で、必要な単語がわからないということが、「単語力がない」と感じることの原因として考えられます。

「枝毛がたくさんある」と言いたくても「枝毛」の英語がわからないというのがその例です。「三週間前の日曜日に」「石鹸を泡立てる」「二重あごになってきた」「ヘラで卵を返す」など、日本語であればごく当たり前に使っている表現を英語にしようとしたら出てこないということです。

これは「日常の英語化の語彙の不足」と呼ぶことができるでしょう。

3. 各単語の多様な意味、使い方を知らない
第三に、単語の数というよりも、単語の使い切りができるかどうかも、単語力のあるなしに関係してきます。

例えば、“break” が「こわす」という意味だと単純に考えていると、“break” を使い切ることはできません。実は、100ドル札をくずしてほしいとき、“Can you break a hundred dollar bill?” といいます。また、馬を飼いならすという状況でも、“break a horse” という言い方をするのが一般的です。

「お金をくずす」とか「馬を飼いならす」というのは、日本語では日常的に使う表現です。これを英語で表現できないということは、日常を英語で表現できないということになります。

4. 知らない英単語にたくさん出会う
そして、第四に、雑誌や新聞を読もうとしても、知らない単語が続出するという経験があれば、これも「単語力がない」と思えてくるはずです。例えば、以下の英文を読んでみてください。

【April 10, 2018 The New York Times】

WASHINGTON – The F.B.I. agents who raided the office of President Trump‘s personal lawyer on Monday were looking for records about payments to two women who claim they had affairs with Mr. Trump as well as information related to the role of the publisher of the National Enquirer in silencing one of the women, according to several people briefed on the investigation.

読者の方々は、ほとんど何の苦もなく英文を解釈することができるかもしれません。しかし、高校1年生だとどうでしょうか。

raided – lawyer – payments – claim – affairs – role –  Enquirer – silencing – briefed – investigation

これらの語が未知語だとすれば、大意をとることも容易ではありません。英文を見て、見慣れない単語の数が2割から3割を超えると、読解はむずかしくなります。

このように「単語力」と一言でいっても、様々な要素があります。そのため、対策を考える上で、単語力のどこが足りないかを示す必要が出てきます。

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英単語力とは何か? 意外と共有されていない「単語力」の定義

単語の指導は、英語教育において不可欠です。このことに異論をはさむ人は皆無だと思います。では、単語を実際に学ぶ時、具体的に何をすればよいのでしょうか。ただ単語の綴りと意味を暗記するだけでは、肝心の単語力につながりません。

問題はここでいう「単語力」とは何かです。この基本的な問いに対する、理論的に裏打ちされた定義というものは、学校現場でも、テスト開発の分野でも、意外に共有されていないというのが現状です。

例えば、英検の単語に関するテストを例にとってみましょう。問題作りとして、英単語力の定義があって、それを測定するためのテスト項目の開発というふうにはなっていません。これは英検だけの話ではなく、GTEC、TOEIC、TOEFLなどもまったく同様です。

もっとも、こういう標準テストは単語力をテストするというよりも、英語力全体を測定することに基準を置いています。だからこそ、入試改革の一環として、外部試験を取り入れるという政策決定がなされたのだと思います。

しかし、英語力全体を測定する際に、「英語力をどう定義するか」はとても重要になります。そして「英語力」には「単語力」が必ず含まれます。そのため、単語力についても、英語力を測定するテストの開発者側が、妥当な定義を行う必要が出てきます。

学校英語教育の分野では、単語力の定義がないまま、単語を指導するというのは、方向のない、場当たり的な指導であるとの誹りを免れません。

教科書に出てきた単語を指導する際に、既習単語に未習単語を加えていくというやり方か、ある単語帳を生徒に購入させ、単語帳の単語を覚えることを単語指導とするというやり方が、総じていえば、伝統的な単語指導だったと思います。

もちろん、全国の学校では、単語指導に工夫を凝らしている先生方も少なくありません。しかし、単語力というものをスッキリした形で定義したうえで、すなわち、目指すべき目標を可視化した上で、指導に工夫をしているという先生方は多くないというのが、筆者の印象です。

一言で、そして思い切っていえば、「単語指導法」というものは、未だ確立していないということです。「指導上、困っているのは何ですか」という問いに対して、多くの先生方が「単語指導」を挙げるという事実は、それを物語っています。

語源に注目する指導、接頭語や接尾語に注目する指導、分野別の語彙に注目する指導など、個々の指導法で有効なものは実践されています。問題なのは、そうした指導法を統合するような原理がないまま、「このやり方は有効だった」と述べたてても、それはアドホックな手法になってしまうということです。

では、単語力とは何でしょうか。その問いに対する答えとして、まずは「基本語を使い分け、使い切る力としての基本語力」と「いろいろな話題について語るのに十分な単語力としての拡張語力」の2つから構成されると言っておきましょう。次回以降、基本語力と拡張語力についてそれぞれ取り上げます。