あたまを使う/教育を考える/英語 2024.9.2

国際バカロレア初等教育プログラム導入幼稚園。3つの特徴と3つの教育効果。

編集部
国際バカロレア初等教育プログラム導入幼稚園。3つの特徴と3つの教育効果。

国際バカロレア初等教育プログラムをご存じですか? この教育プログラムを導入した幼稚園では、世界地図や多言語の挨拶、さまざまな国の民族衣装など、世界の多様性を体感できる環境が整っています。初等教育プログラムなら、子どもたちは、探究心とグローバルな視野を自然に育むことができるのです。

今回は、国際バカロレアの初等教育プログラムを導入した「幼稚園の特徴」「教育の成果」について詳しく見ていきます。幼い頃からの国際的な学びが、子どもたちの未来をどのように形作るのか、新しい幼児教育の可能性を一緒に探っていきましょう。

未来のグローバルリーダーを育てる「初等教育プログラム」

国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)は、1968年にスイスで設立された国際的な教育プログラムです。そのなかで、3歳から12歳を対象とする初等教育プログラム(Primary Years Programme、以下PYP)は、幼児教育から小学校教育までをカバーする包括的なカリキュラムフレームワークとなっています。

近年、グローバル化が進む社会において、幼児期からの国際的な視野の育成が重要視されるようになりました。そのため、IB PYPを導入する幼稚園が増加しています。IB PYPを導入することで、子どもたちの好奇心を刺激し、批判的思考力を育み、多様性を尊重する態度を養い、未来のグローバルリーダーの基礎を築くのです。

IB PYPの主な目標は、子どもたちを以下の10の学習者像に沿って育成することにあります。

IBのポリシー
(画像引用元:International Baccalaureate|国際バカロレア(IB)の教育とは?

「探究する力」や「考える力」、「挑戦する力」などは、昨今、注目されているスキルですが、「心を開く」「思いやり」「バランスがとれる」といったスキルも、未来のグローバルリーダーには必要となってくるのですね。

これらの特性は、生涯にわたって学び続ける姿勢の基礎をつくり、グローバル社会で活躍するのに必要な能力を育てることを目指しています。大学卒業後も自己成長を続け、多様な環境で効果的に活動できる人材の育成が、このプログラムの核心的な目標と言えるでしょう。

また、IB PYPは、「6つの教科横断的なテーマ」を中心に構成されています。

IBのポリシー2
(上記参考・引用元:文部科学省 IB教育促進コンソーシアム|PYP(Primary Years Programme)

これらのテーマを理解するなかで、子どもたちは言語、社会、算数、芸術、理科、体育(身体・人格・社会性の発達)の6教科を学習するのだそう。「私たちはどのように自分を表現するのか」――難しいテーマですね。先生の言うことに常に従い、まわりと違った行動をとると注意されがちな、日本の一般的な幼稚園や小学校の教育方針とは、かなり違っている印象を受けませんか?

次項では、この教育の柱とも言える、 IB PYPの具体的な教育内容について触れていきます。

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IB PYP導入幼稚園の特徴3つ

特徴1:探究ベースの学習アプローチ

IB PYP導入幼稚園では、子どもたちの好奇心を活かした探究ベースの学習が重視されます。教師は、子どもたちの興味関心に基づいてテーマを設定し、そのテーマについて深く探究する機会を提供するのです。

たとえば、幼小中高一貫の国際バカロレア認定校・つくばインターナショナルスクール(茨城県)では、水をテーマにした探究学習が行なわれました。国立研究開発法人 国立環境研究所の出前授業で「水の分析」をしたとのこと。ちなみに小学生クラスではありません、「5歳児クラス」の授業です。

「水とスポーツドリンクを臭いで判別し、水と砂糖水は味覚で判別し、水と薄い砂糖水は水質分析の色で判別し、ゴーグルを着用して触覚も刺激」する「水の当てっこゲーム」で五感をフル活用。子どもたちは驚いたり感動したりと大忙しだったそうです。
(カギカッコ内引用元:国立研究開発法人 国立環境研究所|出前授業 in つくばインターナショナルスクール

特徴2:遊びを通じた「学び」の重視

PYPは、遊びが幼児の学びと発達に不可欠であるという考えに基づいています。構造化された学習活動だけでなく、自由遊びの時間も重要視され、そのなかで子どもたちは社会性、問題解決能力、創造性を自然に身につけていくのです。

国際バカロレアPYP認定校・町田こばと幼稚園(東京都)も「遊びを通じた学び」に重点を置いている園のひとつ。

自由な遊びの中で、時には転んだり、危ないことに出会うかもしれませんし、お友達とけんかになるかもしれません。しかし、そういった経験の中には、様々な気付きがあります。それらの経験を通して初めて、子どもたちは、何が危険かを知り危険を避けるすべを知り、さらに、相手の痛みがわかるようになるのです。

(引用元:国際バカロレアPYP認定校 町田こばと幼稚園|教育内容

最近は、先回りして子どもから経験を奪ってしまう親御さんが増えているようですが、PYPでは、あくまでも「遊びのなかに学びがある」としています。子どもの本当の成長のためには、やはり主体的な遊びが重要なのですね。

特徴3:多言語・多文化環境の創出

IB PYP導入幼稚園では、多言語・多文化環境の創出に力を入れています。英語やほかの言語を日常的に使用する機会を設け、さまざまな文化的背景をもつ教師や友だちとの交流を通じ、子どもたちは自然に国際的な視野を広げていくのです。

国際バカロレア認定校・ぐんま国際アカデミー(群馬県)は、初等部、中等部、高等部の授業の約70%を「英語で考え、英語を聞き、英語を話す」という「英語イマージョン教育」で行なっています。学校生活の大半を英語で過ごすため、英語レベルは一般的な子どもと比べると桁違いです。なんと2023年には、小学6年生の児童が大学上級程度とされる英検1級に合格しています。

しかし、英語習得だけが多言語教育の目的ではありません。あくまでも国際的な視野を広げ、「グローバルな世界の中で自分の人生を自分で切り拓ける子どもたちを育てる」ことが、IB PYPの教育目標なのです。
(カギカッコ内引用元:ぐんま国際アカデミー|先生からのメッセージ

自分の描いた絵を説明している子ども

IB PYP導入の教育効果3つ

IB PYPの教育方針や特徴は理解できたけれども、実際の教育効果はいかほどなのか? と考える親御さんも少なくないでしょう。そこで、IB PYPを導入した幼稚園に通わせることによって伸びる力をまとめました。

教育効果1:批判的思考力と問題解決能力の向上

IB PYPを導入した幼稚園では、子どもたちの批判的思考力と問題解決能力の向上が報告されています。探究ベースの学習を通じて、子どもたちは質問を投げかけ、仮説を立て、検証するプロセスを繰り返し経験します。これにより、論理的思考力創造的問題解決能力が自然に育成されます。

教育効果2:言語習得能力の向上

IB PYPでは、母語の発達を大切にしながら、同時に第二言語(多くの場合英語)の習得も促進します。上述した「英検1級合格の6年生」の例があるように、日常的に複数の言語に触れる環境により、子どもたちの言語習得能力は著しく向上するのです。特に、聞く力や話す力が自然に伸びていく傾向があります。

教育効果3:社会性とコミュニケーション能力の発達

グループ活動や協働プロジェクトを通じて、子どもたちの社会性とコミュニケーション能力が大きく発達します。他者と協力して課題に取り組むプロセスで、自己主張と他者理解のバランス、効果的なコミュニケーション方法、リーダーシップとフォロワーシップなどを学びます。

遠足の途中の幼稚園児たち

IB PYPを導入している全国の幼稚園

ここ数年で、日本国内でもIB PYPを導入する幼稚園が増加しています。最後に、日本国内でIBのPYPを導入している幼稚園を10校ご紹介しましょう。

■ぐんま国際アカデミー(群馬県)
https://www.gka.ed.jp/
【幼・小・中・高】

■つくばインターナショナルスクール(茨城県)
https://tis.ac.jp/jp/
【幼・小・中・高】

■カルガモ イングリッシュスクール(埼玉県)
https://www.karugamokids.com/index.html
【幼稚園のみ】

■キッズ大陸フロンタウン生田園(神奈川県)
https://www.kidstairiku.jp/ikuta/
【幼稚園のみ】

■横浜インターナショナルスクール(神奈川県)
https://www.yis.ac.jp/learning/early-learning-center
【幼・小・中・高】

■Tokyo West International School(東京都)
https://www.tokyowest.jp/
【幼・小・中・高】

■国際バカロレアPYP認定校 町田こばと幼稚園(東京都)
https://www.m-kobato.ed.jp/
【幼稚園のみ】

■静岡サレジオ幼稚園(静岡県)
https://ssalesio.ac.jp/kindergarten/
【幼稚園のみ】

■若草幼稚園(長野県)
https://www.wakakusa-kg.net/
【幼稚園のみ】

■関西国際学園(兵庫県)
https://www.kansai-intlschool.jp/
【幼・小・中・高】

■つきのひかり国際保育園(広島県)
https://tsukinohikari.international/
【幼稚園のみ】

■福岡インターナショナルスクール(福岡県)
https://www.fis.ed.jp/
【幼・小・中・高】

こちらの10校は、2024年8月28日現在、国際バカロレアのPYPを導入しグローバルな視点をもつ教育を実践しています。ただし、IBプログラムの導入状況は変更される可能性があるため、詳細や最新情報については各園・学校に直接お問い合わせいただくことをおすすめします。

また、この一覧には含まれていませんが、ほかにもIB PYPの候補校や、IB PYP導入を検討している学校が多数存在しています。日本におけるIB教育の普及は進んでおり、今後さらに多くの学校がPYPを含むIBプログラムを採用するはずです。

***
それぞれのHPを見てみると、IB PYPを導入した幼稚園は、探究心旺盛で、批判的思考力をもち、国際的な視野をもつ子どもたちの育成に成功していることが伝わってきます。

みなさんもぜひ、各幼稚園のHPをのぞいてみてください。外国人教師となにやら真剣な表情で作品をつくっている様子、大勢の前でのプレゼンテーション、体全体を使ったダイナミックな外遊びなど、「ここは日本?」と感じる写真がたくさんありますよ。

グローバル化が進む現代社会において、IB PYPの理念と実践は、未来を担う子どもたちに必要不可欠なスキルと態度を育成する有効な教育アプローチとして、今後さらに注目されていくでしょう。

(参考)
International Baccalaureate|国際バカロレア(IB)の教育とは?
International Baccalaureate|PYPのつくり方
International Baccalaureate|初等教育プログラム(PYP)に関する主な研究結果
文部科学省 IB教育促進コンソーシアム|PYP(Primary Years Programme)
国立研究開発法人 国立環境研究所|出前授業 in つくばインターナショナルスクール
国際バカロレアPYP認定校 町田こばと幼稚園|教育内容
ぐんま国際アカデミー|先生からのメッセージ