2021.12.17

幼稚園から始まる「いじめ」。ピークは小2! その原因は「過度な欲求不満」でした

編集部
幼稚園から始まる「いじめ」。ピークは小2! その原因は「過度な欲求不満」でした

「〇〇ちゃんが仲間に入れてくれないの」「〇〇君が急に叩いてきた」などと、お子さまから言われたことはありませんか? それまで楽しそうに園や学校に通っていたのに、なぜ急に……と心配になってしまいますよね。

もしかしたら、子どもたちどうしは翌日には仲直りをしているかもしれません。しかし、「これって、いじめ?」と感じたことのある親御さんも少なくないのではないでしょうか。

今回のテーマは「いじめ問題」です。何歳からいじめが起こるのか、なぜ子どもは誰かをいじめてしまうのか、などを考えてみました。

増え続ける「いじめ」と「ネットいじめ」

文部科学省が毎年実施している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、いじめの認知件数は2014年度から増え続け、2019年度には612,496件と過去最多となりました。

しかし、このいじめ認知件数の増加について、単純にいじめが増えただけではないと見ている専門家もいるようです。『こども六法』著者でいじめ問題に詳しい、教育研究者の山崎聡一郎氏は、いじめ認知件数の増加を以下のように分析しています。

「かつては、いじめの定義が狭かったほか、明らかにいじめと見なされる行為があっても学校は報告しないということがたくさんありました。この反省から、今は被害を受けた子が嫌だと感じたらいじめと見なす、という広い定義になっています。そういう定義で文科省が調査し、報告しなさいと言うので学校側も軽微ないじめを積極的に報告するようになり(軽いいじめも見逃さないようにしているから)、認知件数が増えているのです」

(引用元:東洋経済オンライン|いじめに気づく大人、気づかない大人の決定的差)※太字は編集部で施した

とはいえ、いじめが増加していることは事実です。2020年度はコロナ禍の影響で子どもどうしの接触が減ったため、いじめ認知件数は減少していますが、「パソコンや携帯電話等で誹謗・中傷や嫌なことをされる」などのインターネットを介したトラブル件数はむしろ増えているのです。

「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を見てみると、「ネットいじめ」は18,870件と過去最多を更新しています。2020年11月には東京都町田市の小学6年生がネットいじめを苦に自殺――このニュースは各メディアで大きく取り上げられました。文部科学省の資料では、2019年度は6名だった小学生の自殺件数に対し、2020年度は14名。小学生の自殺が増えています。

いじめが低年齢化してきているのでしょうか?

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幼稚園・保育園からいじめは行なわれる!

「そんなに早い年齢から?」と思う方もいるかもしれませんが、なんと、いじめは、幼稚園・保育園に通う園児のあいだでも起こっています。

東京都教職員研修センターの調査(1997年)によると、1995年頃までは「幼児期は発達的に見て人間関係が未熟な段階なので、幼児間のトラブルも発達には必要な経験であり、小学生および中学生の時期に見られるようないじめはない」と考えられていました。

しかし、この調査の結果、約6割の幼児が「いじめられたことがある」と回答したことで、「幼児期にもいじめがある」と認識されたのです。

幼児期のいじめ
  • 暴力を振るう
  • 仲間外れにする
  • 悪口を言う
  • 物を隠す

 
幼児期は身体面・言語面での発達の個人差が大きいため、入園して半年が過ぎたあたりから、子どもたちのあいだには力関係が発生します。とはいえ、「幼児期の子どもは成長著しいので、優位な立場に立つ幼児が短期間で交代することも多く、『いじめっ子』と『いじめられっ子』が頻繁に入れ替わることもよくある」とのこと。

また児童精神科医の故・佐々木正美氏も「幼児期にもいじめはある」と述べています。そして、子どものまわりで「いじめ」が発覚したら、第一に「親子関係を見直すべき」だとしています。詳しくは後述しますが、子どものいじめは「親の関わり」が大きく関係しているのです。

いじめの低年齢化3

いじめのピークは小学2年生!

小学校に入学すると、いじめ問題はさらに深刻化してきます。文部科学省の調査によると、2020年度にいじめ認知件数が一番多かったのは小学2年生(84,298件)で、小学1年生(81,746件)、小学3年生(78,586件)と続きます。ちなみに2009年度までは、中学1年生のいじめ認知件数が最多でした。約10年で「いじめのピーク」が低年齢化しているのは、なぜなのでしょう?

『不登校新聞』編集長の石井志昂氏は、その理由をふたつ挙げています。ひとつは、「学校側が軽微ないじめも報告するようになったから」。前述したように、2016年度から文部科学省の「いじめ調査の定義」が変わったため、それまでは「悪ふざけ・冷やかし」ととらえられていた事例なども報告の対象となったのです。

そしてもうひとつの理由は「子どもたちのストレスが増加したから」。不登校の子どもたちを長年見てきた「フリースペースたまりば」代表の西野博之氏は、子どもたちのストレスの原因を「子どもを追い詰めるほどの早期教育」だと分析しています。

親が子育ての完璧さを求め、その成果を子ども自身に対して要求する。大人が不安だから、子どもは大人に弱音を吐き出せず、つらい感情も抱えこんでてしまう。そしてストレスのはけ口は自分より弱い子どもにぶつける。

(引用元:AERA dot.|主犯格がストーカーのように監視 親の“教育虐待”が原因? いじめ低年齢化の実態

西野氏によると、これが「いじめが再生産される構図」とのこと。いまの早期教育はかつてないほどに低年齢化しているため、現代の子どもたちは親世代が子どもだったときと比べて、かなりのストレスをため込んでいるのです。

いじめの低年齢化4

いじめ問題の根本にあるのは「子どもの欲求不満」

次に、いじめっ子のストレスの原因を考えてみましょう。前出の佐々木氏は、いじめ問題の根本にあるのは「子どもの欲求不満」だと断言しています。

欲求不満の度が大きくなったとき、幼い子どもは他の子どもに乱暴をしたり、いじめたりします。そして、そういう子どもは、攻撃的になると同時に赤ちゃん返りをします。
自分がちょっとなにかされると「痛い、痛い」と言って大騒ぎをするくせに、他の子どもには激しく攻撃をするのです。

(引用元:HugKum|幼児から起こる「いじめ」問題。原因の多くは、子どもの過度な欲求不満です。【子育ての道を照らす佐々木正美さんの教え】

佐々木氏は著書『「ほめ方」「叱り方」「しつけ方」に悩んだら読む本』のなかでも、子どもの欲求不満について指摘しています。子どもが他者に攻撃的な態度をとったならば、その子の「欲求不満のタネ」はいったいどこにあるのかを考えるとよいのだそう。

佐々木氏、家庭教育アドバイザーの柳川由紀氏、心理カウンセラーの大崎清美氏のアドバイスを参考にしてみましょう。

【欲求不満のタネ1】親に話を聞いてもらえない

「ママ、見て!」という呼びかけに対し、「忙しいんだから、あっちへ行って」「はいはい、あとでね」などの返事をしていると、子どもは「自分の話を聞いてもらえない」と感じます。

また、子どもが「ママ、見て」と言っているのにもかかわらず、「走らないで!」「ちゃんと前を見て歩いて!」など、子どもの言葉を無視し、子どもの行動を否定するのもよくありません。話を聞いてもらえず、親から否定的な言葉を言われた子どもは、「自分の存在そのものを認めてもらえていない」と感じるようになってしまいます。そして、存在を認めてもらえないというイライラが他者に向かってしまうのです。

【欲求不満のタネ2】親からの期待が重すぎる

親からの期待が大きすぎるような場合も、子どもは欲求不満になります。「100点とれるように頑張って!」「〇〇君がかけっこで1番になったら、ママ嬉しいな」など、子どもにプレッシャーをかけるような言動は危険です。

親の期待通りの結果が出ているうちはいいですが、成績が悪かったり、習い事などで思ったような結果が出なかったりしたときは、「ダメな子だと思われてしまう」「自分は愛されていない」という気持ちになってしまいます。そして、その満たされない気持ちが怒りに代わり、自分より弱い相手に向かうのです。

子どもに対して過剰な期待をしていないか、一度よく考えてみましょう。「こんなこともできないの?」「あなたってダメな子ね」といった、人格を否定するような言葉もNGです。

【欲求不満のタネ3】親が過干渉

親が過干渉の場合、子どもは自由に行動できないためストレスを感じます。「自分は完璧ではない、不完全な存在だ」「完璧でないから親から認めてもらえない」と、自分のことを嫌悪するようになるのです。そして、その不安や寂しさを紛らわすために、誰かをいじめるようになります。いじめは悪いことだとわかっていても、いじめをやめられなくなる子もいるのだとか……。

また過干渉な親の子どもは、問題解決力が育ちません。なんでも親が先回りしてサポートしてしまうので、考える力が育たないのです。すると、物事がうまくいかないときや、失敗をしてしまったときに、誰かに責任転嫁をするようになります。

【欲求不満のタネ4】両親の仲が悪い

母親と父親がけんかばかりしている家庭で育った子どもは、大きなストレスを抱えるようになります。本来であれば、家は家族がリラックスできる場所のはず。しかし、夫婦仲が悪い家庭は家族のコミュニケーションが希薄なため、子どもにとって居心地が悪い空間となってしまいます。

自分の家なのにリラックスできないのですから、子どもは気持ちが安定しません。すると、両親のけんかを見て、「ママとパパの仲が悪いのは自分のせいだ」と自分を責めたり、「次に怒られるのは自分かもしれない」と不安になったりするのです。そして家のなかでため込んだイライラを発散するために、誰かをいじめるようになります。

いじめの低年齢化5

いじめっ子・いじめられっ子、どちらも「欲求不満が強い子」

「欲求不満のタネ」を4つ挙げましたが、どうやら「欲求不満のタネ」をもつ子どもが「いじめっ子」になるとは限らないようです。

欲求不満の子どもついて佐々木氏は、「自分を守るために攻撃的になって『いじめる人間』になるか、もしくは自信をなくして萎縮してしまい『いじめられやすい人間』になってしまう。こういった両者が、いじめ、いじめられるの関係になる」と分析。

また大崎氏も、アトランティック大学・コンコーディア大学・ウプサラ大学が行なった共同研究の結果を挙げ、精神的に不安定な状態の子どもは、「いじめっ子になるだけでなく、いじめられっ子になる、つまりいじめの加害者、被害者のどちらにもなる恐れがある」と指摘しています。

では、子どもを欲求不満にしないために、親はどんなことに気をつけたらいいのでしょう?

それは「子どもの話をよく聞くこと」「子どもとふれあう時間をつくること」です。佐々木氏は、子どもをひざに乗せてたっぷり話を聞くだけで、子どもの気持ちは安定すると話しています。ゆっくりお風呂につかりながら、いろいろな話をするのもよいそうです。

子どもの話の聞き方については、以下のインタビュー記事にも詳しい説明があります。『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』著者で、ビジネスコーチの石川尚子氏「子どもの自己肯定感を育む聞き方テクニック」を教えてくれました。ぜひ読んでみてください。

いじめ問題石川
『子どもに揺るぎないパワーを与える、親が子どもの話を「聴く」ということ』

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親御さんのなかに、「いじめっ子」「いじめられっ子」だった方はいるでしょうか。筆者は後者でしたが、大人になったいまでも嫌な記憶として残っています。当時中学2年生だったことは覚えているものの、いじめのきっかけは思い出せません。ですが、「欲求不満のタネ」についてはいくつか心当たりがあります。「子どもの話を聞くこと」は簡単なようでなかなか難しい――。でも、時間を見つけてしっかり子どもに向き合っていきたいものですね。

(参考)
佐々木正美 著, 若松亜紀 著(2013),『「ほめ方」「叱り方」「しつけ方」に悩んだら読む本』, PHP研究所.
文部科学省|いじめ防止対策推進法
文部科学省|令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
文部科学省|令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
東洋経済オンライン|いじめに気づく大人、気づかない大人の決定的差
産経ニュース|ネットいじめ抑止で意見書 小6自殺めぐり町田市議会
文部科学省|令和2年 児童生徒の自殺者数に関する基礎資料集
東京都教職員研修センター|都立教育研究所時代の研究報告書
東京都教職員研修センター|第 1 章 いじめの心理と構造
東洋経済オンライン|いじめのピークは「小2」低年齢化の衝撃の実態
AERA dot.|主犯格がストーカーのように監視 親の“教育虐待”が原因? いじめ低年齢化の実態
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