「ママ、〇〇ちゃんが仲間に入れてくれないの」「〇〇君が急に叩いてきたんだよ」。子どもからそんな話を聞くと、親としては心配になりますよね。子どもの世界にも、人間関係の悩みはつきものです。
文科省によると、最新の年間いじめ認知件数は732,568件と過去最高を記録。「仲間はずれ、無視、陰口」を「された経験」また「した経験」のある子どもはどちらも9割にも上るということです。いじめは特別なことではなく、どの学校でも、どの子どもにも起こりうるものなのです。
では、子どもが悲しい思いをしないように、また他の子を傷つけないように、親としてできることは何でしょうか? 今回はいじめが起きるまえに子どもに伝えておきたい大切なことを紹介します。
いじめを未然に防ぐための「カギ」
いじめはなぜ起こるのでしょうか? 法務省によれば、「いじめ」の背景には、「いじめる子どもが自分の存在をアピールしたり、自信のなさを埋めようとしたりする気持ち」があるとされています。また、「いじめる側」も「いじめられる側」も、それぞれに悩みがあり、単純に「悪い子」「弱い子」とは言えません。
法務省はすべての子どもたちに必要なこととして、「他の人を思いやる気持ちや、弱い立場の人をいたわる心」や「自分自身を大切にする心」をあげています。この2つはどの子どもにとっても心の健康の土台となるのです。
親がこの考え方をもち、子どもの人権感覚と自己肯定感を日頃から育てていくことで、いじめを防ぐことができます。これらの考え方は、「子どもの権利条約」にも「子どもたちが幸せに育つための大切なこと」として書かれています。
この条約を参考に、親子で日頃から話し合いたいことを5つにまとめました。
親子でできる5つのいじめ予防策
1. 「みんなと違ってもOK」という価値観を育てる
いじめの多くは「あの子は変わってる」「みんなと違う」という理由から始まります。「お互いの違いを個性として大切にする気持ち」を育てることが大切です。家庭で「違い」をよいものと考えることで、差別する気持ちを防げます。
単に成績やスポーツの結果など「できる・できない」だけでなく、性格や趣味、見た目、出身地域など、さまざまな違いを認め合える心を育てましょう。
- 「〇〇さんって面白いよね!」→「何が面白いの?」と深掘り
- 見た目や性格の違いを「いいね」と言える習慣をつくる
- 家族それぞれの「得意なこと」「苦手なこと」をオープンに話す
- 子どもを他の子と比較せず、その子自身の成長を認める言葉かけをする
2. 困ったら大人に相談できる関係を作る
いじめられた子どもは、「心配をかけたくない」「仕返しが怖い」という気持ちから、いじめの事実を否定することがあります。また、いじめは「大人の目につきにくい場所や形」で行われることが多いのも事実です。だからこそ、日頃から何でも気軽に話せる親子関係を築いておくことが大切です。
子どもが安心して過ごせる環境づくりのために、日常の会話を大切にし、デジタル機器の使用も含めた適切な見守りを心がけましょう。
- 目を見て子どもの話を聞く時間を大切にする
- 「最近どう?」とこまめに聞き、小さな悩みも大切にする
- 日頃からその日にあったことを共有する習慣をつくる
- 子どもが過ごす場所や友人関係を自然に会話で把握する
- デジタル機器の使用についてルールを決める
3. 「いやなことは我慢しなくていい」と伝える
「我慢しなさい」という考えは、子どもに自分の気持ちを抑え込ませ、いじめが悪化する原因になります。自分の「いや」という気持ちを大切にすることが、いじめを防ぐ力になります。自分が大切だと思えることが、不当な扱いを受けたときに立ち向かう力になるのです。
子どもが自分の気持ちを表現できるよう、また困ったときに適切に助けを求められるように、家庭で対処法を一緒に考えることが大切です。
- 「いやなことがあったら教えてね」と繰り返し伝える
- 「いやなことはいやと言っていい」と強調する
- 子どもの「いや」という気持ちを大切にし、一緒に考える
- 嫌なことをされたときの対処法を一緒に考える
- 「いやです」「やめてください」と言う練習をしてみる
4. ストレスと上手に付き合う方法を教える
友人関係や学業の競争、日常の小さな不満など、子どもの世界にもストレスはつきものです。ストレスが溜まると、他の子をいじめることでそれを発散しようとする場合があります。
健康的な生活習慣を心がけ、上手にストレスを発散する方法を子どもに教えることで、感情をコントロールする力が育ちます。これは自分がイライラしたときに他者を傷つけない自制心につながり、いじめの予防にも役立ちます。
- 体を動かしてストレス発散できる習慣をつくる
- イライラした時の気持ちの落ち着け方を一緒に考える
- 自分に合ったリラックス法を見つける
- 睡眠・食事・運動など基本的な生活習慣を整える
- 家族で楽しい時間を過ごし、リフレッシュする
5. 自己肯定感を高め、存在を認められる場を作る
いじめの根本には自己肯定感の低さがあることが多いと言われています。いじめる側の子どもも、じつは自分に自信がなく、存在感を求めている場合が多いのです。
自分を大切に思える子どもは、他者も大切にできるようになります。この自己肯定感が高まると、いじめる側にもいじめられる側にもなりにくくなるのです。また、自分の居場所があると感じられる子どもは、他者を排除して自分の居場所を確保しようとする必要がなくなります。
- 子どもの「できた!」を具体的に認める
- 「あなたがいてくれて嬉しい」というメッセージを伝える
- 子どもの意見や選択を尊重する
- 失敗しても「次はどうする?」と前向きな声かけをする
- 子どもの個性や長所に目を向け、言葉にして伝える
- 無条件の愛情を示す
***
いじめの問題は決して単純ではありませんが、予防と解決には親子でできることがたくさんあります。
大切なのは、子どもが「自分は大切にされている」と実感できる家庭環境を作ること。自己肯定感が高く、他者を思いやる心を持った子どもは、いじめる側にもいじめられる側にもなりにくくなります。そして万が一、いじめの問題が起きた場合でも、「親が最後まで味方でいる」という安心感があれば、子どもは大きな傷を負わずに乗り越えることができるでしょう。
(参考)
文部科学省 「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要」
法務省|よくわかる!子どもの権利条約
法務省|「いじめ」をなくすために
文部科学省|いじめ防止対策推進法等に基づくいじめに関する対応について