教育を考える/学校・園生活 2025.5.26

世界の “いじめっ子” への対応はどう違う? 各国の教育から見えてくる、日本の課題

木野未来
世界の “いじめっ子” への対応はどう違う? 各国の教育から見えてくる、日本の課題

「いじめは絶対に許されない」——それは世界共通の価値観です。けれど、その “いじめっ子” に対する対応には、国ごとに大きな違いがあります

今回は、アメリカ・フィンランド・オーストラリア・フランス・韓国など、いじめ対策に取り組む各国の対応を比較しながら、「いじめっ子にどう向き合うか」という視点から、日本の課題を探っていきます

なぜ「いじめっ子への対応」に注目するのか?

いじめの問題がニュースになるたびに、注目されるのは「なぜ学校は気づけなかったのか」「どうして止められなかったのか」といった被害者側の視点です。被害者保護が最優先であることは言うまでもありませんし、それは非常に大切な問いです。しかし一方で、どうしていじめを起こしたのか、その後、本人がどのように変化したのか、再びいじめを起こさないためにどんなサポートがされたのかは、表に出にくいまま終わってしまっているのが現状です。

文部科学省「いじめの問題に対する施策」の調査では、加害者側の子どもには感情のコントロールが未熟だったり、家庭や学校でのストレスを抱えていたりと、背景には多くの要因があることがわかっています子ども同士の関係性のなかで「加害者になってしまった」場合もあり、一方的にラベルを貼るだけでは問題の本質に届かないこともあります

では、他国ではどのようなアプローチがとられているのでしょう? それぞれ各国のいじめっ子への対応をまとめました。

いじめる子の画像

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アメリカ|罰から教育的アプローチへ

アメリカでは言葉による攻撃や暴力を伴ういじめが多く、サイバーいじめも増加傾向にあります。おとなしい性格の子どもがターゲットになりやすい特徴があるようです。この問題に対し、現在は多くの州で「いじめ反対法」が制定され、法的枠組みが整備されています。厳格な地域では加害児童が犯罪者として扱われるケースもあります。

また、かつての「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策では即座に停学などの処分を下していましたが、現在は教育的アプローチが主流になっています。「ポジティブ行動支援」では禁止よりも望ましい行動を積極的に奨励し、校内に前向きなメッセージを掲示。加害児童には感情コントロールや他者理解のプログラムを提供し、「叱る」より「責任をとる」体験を重視する方向に変化しています

アメリカの学校画像

フィンランド|学校全体で防ぐ「キヴァ・プログラム」

フィンランドは、いじめ対策の先進国として知られています。小学校1年生から導入されているKiVa(キヴァ)プログラムでは、いじめが起きたときだけでなく、 “起きない環境づくり” に重点を置いています。

授業とオンラインゲームを通じて、全員参加型の学びを展開し、特に「傍観者」の役割に注目します。加害児童には「どうしてその行動に至ったか」を一緒に考える時間を設け、単に責めるのではなく行動の背景を理解させます。学校には「KiVaチーム」を常設し、約9割の学校が導入する同プログラムは、いじめ被害の減少という効果が科学的に証明されています

フィンランドの学校画像

オーストラリア|問題行動への取り組み「SWPBS」

オーストラリアでは、問題行動を単なる罰の対象ではなく、支援が必要なサインと捉える取り組み「SWPBS(School-Wide Positive Behaviour Support)」が広まっています。この制度は、生徒の行動を3段階(Tier1-3)に分類し、それぞれのニーズに応じて支援を提供します。

特にビクトリア州では積極的に導入されており、専門のコーチによる指導やオンラインリソースの活用など、充実した支援体制が整えられています。州によって導入状況や具体的な支援内容に差がありますが、このSWPBSの導入により、生徒の学校への帰属意識の向上やいじめの減少など、ポジティブな効果が報告されています。

オーストラリアの子どもの画像

フランス|「いじめ行為は犯罪」と厳格に対応

フランスでは、いじめを厳しく罰する法的枠組みが確立されています。2022年の法改正では、いじめ被害者が自殺した場合、最高で懲役10年・罰金15万ユーロという重い罰則が設けられました。

またいじめ防止措置は3段階に分類され、第1レベルは話し合いによる和解、第2レベルは専門家の介入、第3レベルは被害者の安全に重大な脅威がある場合、校長と自治体首長の判断で強制転校などの措置をとることも可能になりました(2023年〜)

同時に「道徳と市民性」の授業では「なぜいじめがいけないのか」を子どもたち自身が考える機会を設け、すべての教職員にいじめ対策の研修が義務づけられているようです。

フランスの学校画像

韓国|罰則と専門分担を徹底した「法と制度による対応」

韓国では、2004年に「学校暴力予防法」が制定され、いじめへの対応が法制度として厳格に運用されています。加害者への処分は、保護観察や転校、特別教育などがあり、2026年からは加害記録が大学入試に反映される制度も導入予定です。

特徴的なのは、担任の教師が原則として調査や判断に関与せず、「学校暴力責任教師」が中立的な立場で対応する点です。重大事案では、地域の審議委員会(弁護士・医師・保護者など)によって裁定され、学校の裁量に任せない仕組みが整っています

ただ、制度化が進む一方で、「教師と生徒の関係が希薄になる」「本当の意味での関係修復が難しい」といった教育的な課題も指摘されています。法的対応と教育的関わりのバランスが、今後の焦点となりそうです。

韓国の学校画像

日本|「叱る」「謝らせる」中心の対応と課題

日本の小学校では、いじめが発覚すると担任を中心に「保護者を呼んで謝罪させる」「反省文を書かせる」「学級で話し合う」といった対応が一般的に見られます。この方法は加害者に責任を自覚させる点で重要ですが、一方で他の国と比べると、いじめの背景(家庭の問題、自信のなさ、ストレスなど)を探る取り組みは少なめです

また「叱って終わり」「謝って終わり」では、根本的な解決にならないことも多いのではないでしょうか。さらにスクールカウンセラーは週に数日しか来ない場合が多く、加害児童の行動変容につながる継続的な支援も不足しています。こうした点から、日本のいじめっ子への教育的アプローチはまだ発展途上の段階と言えそうです。

制服を着た日本の子供達の画像

対応の違いは “文化” と “教育観” の違いから見る日本の課題

いじめっ子への対応が国によって異なるのは、単なる制度や法律の違いだけではありません。そこには、その国の教育観や子ども観、そして社会的な価値観の違いが深く関係しています。

1. 「子どもをどう育てたいか」の違い

たとえば、フィンランドやオーストラリアでは、「子どもは自分で考えて行動できる存在」として尊重されています。たとえ間違った行動をしても、そこから学ぶチャンスがあると考え、「排除より再教育」が基本です。

一方で日本では、集団の和やルールの順守が重視されやすく、「問題行動を起こした子ども」に対しては、早く反省させ、集団の秩序を保つことが優先されがちです。そのため、加害児童に対しても “反省させること” が主眼となり、「その子がなぜそうしたか」にまで踏み込めない場面が多くあります。

2. 教師の役割とサポート体制の違い

韓国や諸外国の多くでは、教師とスクールカウンセラーが明確に役割分担されており、いじめに関わった子どもたちへの心理的支援がしっかりと用意されています

一方、日本の小学校では、担任がすべてを背負う形になりやすく、「加害児童への継続的なフォロー」まで手が回らないのが実情です。子どもの行動の背景にあるストレスや家庭環境まで、十分に見つめ直す時間がとれないこともあります。

 3. 規律重視 vs. 自己理解・感情教育重視

フランスなどでは、子どもに対して「どうして傷つくのか?」「なぜ自分はそう思ったのか?」といった問いかけを日常的に行ないます。

日本でも道徳の授業などで「思いやり」や「相手の気持ちを考える」ことは教えられていますが、欧州の一部では「自分の感情と言葉で深く掘り下げる」体験がより重視され、子ども自身が “考えを深める” プロセスに重点が置かれています

***
今回はいじめの加害者へのアプローチの視点から、諸外国と日本を比較しまとめました。各国の事例から見えるのは、海外では “いじめっ子” に対し、何かしらの具体的なアプローチが取られていることです。一方、日本は従来型の方法にとどまり、専門的支援体制や継続的フォローが不足しています

制度改革には時間がかかります。被害者へのケアも加害者への対応も、ともに課題を抱えている現状です。しかし、現場レベルでも被害者だけでなく、加害者にも目を向ける関わり方を始めることはできるのではないでしょうか。

(参考)
kivaprogram|Let’s stop bullying together!
Oakland Unified School Distric|Restorative Justice
NSW Government EducationPositive|Behaviour for Learning (PBL)
vic.gov.au|School-wide positive behaviour support
J-stage|学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)とは何か?
文部科学省|いじめの問題に対する施策
文部科学省|児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要』
読売新聞オンライン|フィンランドの教育改革・中 いじめを「傍観」させない
NHK みんなでプラス|海外のいじめ対策を取材 アメリカとノルウェーの取り組み
NHK みんなでプラス|“あえて”担任が関わらない 韓国のいじめ対策
東洋経済オンライン|フランス、いじめ厳罰化「加害者を転校させる」背景
J-stage|オーストラリアにおけるいじめの実態とその対策について