近年、注目度が高まり人気を集める公立中高一貫校。少子化社会のなかでも全国各地で設置数が増え続け、多くの親と子どもたちの関心を集めています。
しかし、公立中高一貫校と一言でいっても、「実際にはどのような教育が行われているの?」「どんな子どもに向いているの?」と疑問をもっている方も多いでしょう。
今回は、公立中高一貫校合格の指導歴18年の筆者が、これまでの経験から得た知見をもとに、公立中高一貫校の特徴や入学のための適性検査、そして合格しやすい子の特徴について詳しく解説していきます。
ライタープロフィール

国立大学経済学部卒。園児から高校生までの一貫指導を行う学習塾の現役講師。公立中高一貫校合格に向けた指導歴は18年。年中生~中3生に、算数・数学・国語・社会・英語、文章の書き方、高校生への大学推薦入試対策指導、障害者向けの就労支援施設でファイナンス・文章作成などを行う。ファイナンシャルプランニング技能士2級、強度行動障害支援者資格も所有。趣味は旅行で、海外渡航回数40回以上。
目次
公立中高一貫校とは
「公立中高一貫校」とは、都道府県や市などが設置する、中学校と高校の6年間が一貫となった学校のことです。文部科学省では公立中高一貫校を、「中等教育の多様化と質の向上を図ることを目的とし、生徒の可能性を最大限に伸ばす仕組み」として位置付けています。
高校受験を必要としない一貫した学習環境のなかで、思考力や創造性を育てる教育が行われていることが特徴です。通常の中学・高校と異なり、6年間の見通しを持った体系的なカリキュラムが組まれており、中学3年次に高校受験の負担がないぶん、より専門的で発展的な学習や探究活動に時間を充てることができます。また、多くの学校では大学の研究室と連携したプロジェクト学習や海外研修など、特色ある教育プログラムも実施されているところもあります。
私立中学に比べて学費も低いことも大きな魅力の一つです。これらの総合的な強みから、公立中高一貫校は高い人気を集めています。
公立中高一貫校の3つのタイプ
公立中高一貫校には、次の3つのタイプがあります。
🏫中等教育学校
一つの学校として6年間の中高一貫教育を行う学校。「前期課程」の3年間で中学校、「後期課程」の3年間で高等学校の基準が準用されます。中学進学の時点で入学すると、高校入試を必要とせず後期課程に進学できます。
校舎や校庭が共有されていることが多く、前期・後期の区別なく全校生徒が一緒に行事に参加するなど、6年間を通じた一体感のある教育が特徴です。全国的に見ても設置数が増えつつあり、人気の高いタイプと言えるでしょう。
🏫併設型の中学校・高等学校
「高校」と「附属中学校」という形の学校です。高校への進学時には、高校入試を通過した外部生が入学できる学校もあります。中学進学の時点で入学した内部生は、高校入試を必要とせず高校に進学できます。
基本的には中学校と高校が別の学校として運営されますが、カリキュラムは連携して組まれています。多くの場合、内部進学する生徒と高校から入学する生徒の比率が定められており、高校では新たな人間関係が広がる機会があります。
🏫連携型の中学校・高等学校
市町村立中学校と都道府県立高等学校など、設置者の異なる中学校と高校が中高一貫教育を実施する学校。全国的にみても数が少なく、設置していない府県もあります。連携の中学校に通っていても、学力による試験を通過しないと高校に進学できない場合があります。
ほかの2つのタイプと比べると連携の度合いは緩やかで、通常の中学校・高校に近い形態です。ただし、連携校間では教員の交流や合同行事などが行われ、中学生のうちから高校の施設を利用した授業を受けられるなどの特色があります。公立中高一貫校の入り口として、比較的ハードルが低いタイプと言えるでしょう。
・中等教育学校…一つの学校として6年間の中高一貫教育を行う学校。全国的に見ても設置数が多く、人気。
・併設型の中学校・高等学校…「高校」と「附属中学校」。高校では新たな環境で人間関係が広がる機会あり。
・連携型の中学校・高等学校…設置者の異なる中学校と高校が中高一貫教育を実施する学校。公立中高一貫校の入り口としては、比較的ハードルが低い。
公立中高一貫校に入学するための「適性検査」とは
学校教育法施行規則により、公立の中等教育学校及び併設型中学校では、入学者の決定に当たって、学力検査を行わないこととされています。しかし、選抜がないということではありません。小学校からの調査書に加え、都道府県や各校の特色に照らしてつくられた「適性検査」や、「作文」「面接」などの総合的な結果によって合否が判定されます。
適性検査とは
「適性検査」とは、自分自身で問題を発見し、筋道を立てて考え、よりよく解決しようとする態度や能力などをみるために行う検査です。国語や算数などの知識や技能をそのまま測るのではなく、知識や技能を総合的に使いこなす力を測るテストと言えばわかりやすいかもしれません。
このように、公立中高一貫校の選抜は、「試験」ではなく「検査」として実施されるため、公立中高一貫校の選抜では「受験」ではなく「受検」という表現が使われます。
各地域における適性検査の実施形態
福島県や千葉県、京都府のように、府県で共通検査を行う場合と、北海道や東京都、大阪府などのように、学校ごとで独自の検査を行う場合があります。
共通検査を実施する地域では、同一日に同じ問題で検査が行われ、志望校の選択は検査後に行うことが多く見られます。一方、学校独自の検査を実施する地域では、学校によって検査日が異なる場合もあるため、複数校を受検することが可能です。
高校からは入学できない場合も
併設型の公立中高一貫校は、高校から入学することも可能です。しかし、高校からの募集を取りやめる学校も出てきています。東京都では、令和5年度の入学生から、すべての併設型公立中高一貫校での高校からの募集が終了しました。必ず公立中高一貫校に入学したい場合は、中学受検での合格を目指すことがおすすめです。
公立中高一貫校に「向いている子」とは?
思考力や創造性を伸ばす教育が行われる公立中高一貫校では、入学した後のカリキュラムに対応できる能力を適性検査で測られます。ですから、公立中高一貫校に合格できる子は、「公立中高一貫校に向いている子」であると言えるでしょう。
そして、公立中高一貫校に向いている子には、共通した特徴があります。これから紹介する5つの特徴は、適性検査の合格だけでなく、入学後の6年間を充実させ、将来の目標を達成するためにも重要な要素となります。お子さんがどの程度当てはまるか、また、どのように伸ばしていけるかを考える参考にしてください。
公立中高一貫校に向いている子① 好奇心旺盛な子
公立中高一貫校の適性検査では、「思考力」を問う問題が多く出題されます。「なぜだろう?」「もっと知りたい!」という好奇心が、適性検査で問われる思考力を育んでいきます。
私が指導した生徒で、地理が大好きな子がいました。その子は常に地図帳を持ち歩き、ご家族で訪れた場所や興味をもった国などのデータを徹底的に調べていました。日ごろから「なぜ?」「どうして?」と疑問を口にする習慣があり、その好奇心が思考力につながって、適性検査でも力を発揮し見事に合格しました。
子どもの好奇心を育てるためには、親が子どもの好奇心を尊重してあげることが大切です。大人から見たらつまらないような興味・関心でも、無条件で受け入れてあげましょう。そして、好奇心をもてたことをほめてあげましょう。
公立中高一貫校に向いている子② 芯の強い子
公立中高一貫校に合格するためには、多くの誘惑を振り切って受検勉強に取り組まなければなりません。さらに、入学した後にも難関大学合格を目指して努力し続ける必要があります。これらの状況に対応するには、周りに流されずに自分の意思を突き通す芯の強さが不可欠です。
6年生になってもなかなか成績が上がらない塾生がいましたが、ある休日に地域の図書館に行くと、その子がひとりで勉強をしていました。あとでおうちの方にお話を聞くと、自宅だと誘惑が多いため、休日はお弁当を持って一日中図書館で勉強していたとのことでした。その芯の強さはやがて学力を向上させ、公立中高一貫校に合格。その後は、第一志望の国立大学に進学していきました。
芯の強い子に育てるためには、自己肯定感を高めてあげましょう。子どもの自主性を尊重し、どんどんチャレンジさせることが必要です。小さな成功を重ねることで自分に自信をもつことができ、芯の強さが育まれます。
公立中高一貫校に向いている子③ 後回しにしない子
公立中高一貫校では難易度の高い勉強を速いスピードで進めていくので、予習・復習が不可欠です。さらに、課外活動や研究発表などが盛んなので、課題や提出物が多いことも特徴です。その場で完結させる習慣がないと、やるべきことがどんどん溜まってしまいます。
塾生の多くは、塾の休み時間に学校の宿題をしています。そして、帰宅後の時間を塾の宿題に充てています。自然と時間の使い方も上手くなっていくのです。すると、中高一貫校に入学後の忙しい日々のなかでも英検や数検などの資格を取得でき、難関私立大学への推薦に活用できています。
後回しにしない子に育てるためには、親がお手本になってあげましょう。面倒なことでも楽しそうに率先して行う姿を見せてあげると、子どもも真似をします。そして、習慣になっていくのです。
公立中高一貫校に向いている子④ 自分のできないところを認められる子
公立中高一貫校の適性検査は、小学校で学習した内容で対応できるように作られています。ですから、小学校で学習する内容の理解や定着が不十分だと、適性検査の合格基準に達することができません。自分ができていないところを認めて、できるようにしていけば、合格は近づいてくるのです。大学入試にも同じことが言えます。
自分のできないところを認められず、こっそり答えを見ることで、できたふりをする生徒がいました。やんわりと注意しましたがなかなかやめられず、公立中高一貫校に合格することができませんでした。しかし、不合格になったことで、できないことを認められるように成長。目指していた公立中高一貫校に、高校入試で合格することができました。
自分のできないところを認められる子にするためには、できないことを責めないようにしましょう。できた部分はほめ、できなかったところについては原因や対策を一緒に考えてあげましょう。「できないことは恥ずかしいことではない」「がんばればできるようになる」と思わせてあげることが大切です。
公立中高一貫校に向いている子⑤ 体力のある子
公立中高一貫校で活躍するには、十分な体力が大きな強みとなります。受検期間中は学校の勉強に加えて受検対策の学習が必要になり、入学後も課外活動や部活動が盛んなため、充実した学校生活を送るためには体力が不可欠です。
私の経験では、体力があって塾をほとんど休まない生徒ほど、学校の成績も良く、難関大学に合格する傾向が見られます。また、体力のある生徒は、6年間の中高一貫校教育を無遅刻無欠席で卒業できることも珍しくありません。
早寝早起きを心掛け、栄養バランスのよい食事を摂ることで、お子さんの体力は向上します。こうした基本的な生活習慣を整えることから始めてみましょう。
✔️ 好奇心旺盛な子
✔️ 芯の強い子
✔️ 後回しにしない子
✔️ 自分のできないところを認められる子
✔️ 体力のある子
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公立中高一貫校には、確かに向いている資質をもつ子どもがいます。「向いている子」は適性検査に合格しやすく、入学後も能力を伸ばして希望する大学への進学を果たしやすいでしょう。しかし、現時点で子どもがこれらの特徴をすべて備えていなくても心配する必要はありません。
「中学受験は親子の受験」という言葉があるように、この過程は子どもひとりの挑戦ではなく、親子でともに成長する機会でもあるのです。親の適切な関わりやサポートによって、子どもは大きく成長し、必要な資質を身につけていくことができます。
Z会:全国の公立中高一貫校一覧
(参考)
文部科学省|高等学校教育の現状について
文部科学省|中高一貫教育の概要と設置状況
文部科学省|中高一貫教育Q&A:種類・制度・入学に関すること
渋谷区ポータル|中高連携教育校
東京都教育委員会|都立中高一貫教育校(中等教育学校及び併設型中高一貫教育校)とは
東京都教育委員会|東京都立白鴎高等学校・附属中学校の高校段階での生徒募集停止と中学校段階での生徒募集規模拡大の予定年度について
東京都教育委員会|令和7年度東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定に関する実施要綱・同細目について
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