教育を考える 2019.11.1

子どもに揺るぎないパワーを与える、親が子どもの話を「聴く」ということ

子どもに揺るぎないパワーを与える、親が子どもの話を「聴く」ということ

「聴き上手」であることは、ビジネスにおいて重要なスキルのひとつだといわれます。ただ、「親子関係であればなおさら」と、子どものコーチングにも造詣が深いビジネスコーチの石川尚子さんは語ります。親子関係における、話を「聴く」ことの重要性とはどんなもので、またどうすればきちんと子どもの話を聴けるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの話を「聴く」ことは存在承認の最たるもの

相手の話をなんとなく「聞く」のではなく、しっかり耳を傾けて「聴く」ことは、コーチングのもっとも基本的な手法のひとつです。親子関係でいえば、子どもの話を聴くことの重要性は、子どもに対して「あなたが存在しているだけでうれしい」というメッセージを子どもに伝え、その存在を認めるという存在承認の最たるものだというところにあります。

ところで、みなさんはきちんと子どもの話を「聴く」ことができていますか? 親子という関係上、「親は子どもに教える立場にある」なんて思い込みがあると、この話を聴くということはなかなか難しいものです。

途中で口を挟まずに最後まで話を聴くことには、想像以上のエネルギーを使います。しかも、共働き世帯が増えているいまなら、お父さんもお母さんも多くの人が忙しい。そういう生活のなかで子どもの話をきちんと聴くことは、意外なほど難しいのです。

でも、それがきちんとできたとしたら、子どもはどうなるのか。まずは先にお伝えしたように、子どもは自分の存在を認められたと感じます。そして、自分の言葉を親が重要だと思ってくれているとも感じるのです。それらについては、子ども自身は「自分は認められた」というふうにきちんと言語化されて受け取っているわけではないでしょう。それでも、親のメッセージはしっかりと子どもの心に届き、子どもの健全な自己肯定感を育むことにつながるのです。

「聴く」という行為は受け身で迫力がないコミュニケーションスキルのように思えます。でも、聴き上手な人というのは周囲からの信頼を得るように、じつは聴くという行為は話し手をすごく力づけることができるコミュニケーションスキルなのです。

「答えは相手のなかにある」ことを意識すれば話を聴ける

ですから、親であるみなさんには子どもの話を聴くというスキルをしっかりと身につけてほしい。そのためにも、親がついやりがちなNG行為を紹介しましょう。それは話の途中で口を挟む」「持論を押しつけるというもの。

子どもに「将来、どうしたいの?」と聞いたら、「できれば楽な仕事をしたいんだよね」という返事が返ってきた。みなさんならどう答えますか? 「そんな仕事、あるわけないじゃない」「どんな仕事もしんどいものだ」なんて持論を押しつけたくなった人はいないでしょうか。それでは子どもの心のシャッターは閉じてしまいます

そもそも、なぜ親は子どもの話の途中で口を挟んだり持論を押しつけたくなったりするのかというと、「こうあるべきだ」「こうしてほしい」という答えが親のなかにあるからです。その答えと子どもの話が合わないと、口を挟んだり持論を押しつけたくなったりするわけです。

でも、コーチングは基本的に「答えは相手のなかにある」という考え方がベースにあります。そう考えることができれば、子どもの話をさえぎったり、自分の勝手な答えを押しつけたりするということもなくなるはずです。

そのためにも、「逆説の接続詞」を使わないように意識してみましょう。「いや、だけど」「でもね」といった逆説の接続詞は、日常的につい口をついてしまう言葉です。ですが、つねに「いや、だけどさ」というふうに逆説の接続詞で会話をはじめる人間には、誰もがいい印象を持てませんよね。

「子どもにこうあってほしい」という願望とのつき合い方

そうはいっても、「子どもにこうあってほしい」という願望は、親であれば誰しもにあるものです。でも、その願望を伝えたくなるのをぐっとこらえて、まずは最後まで子どもの話を聴いてあげてください。そして、相手がいいたいことを全部聴いたうえで、「感想」を述べるのです。

わたしの経験談で恐縮ですが、ひとつ具体例を紹介しましょう。それは、わたしが中学生の頃に将来についての考えを父と話したときのことです。当時のわたしは大学に進学することを考えていなくて、専門学校に行って手に職をつけたいと考えていました。でも、父は大学に進学してほしいと考えていたようです。

それでも、最後までわたしの話を聴いてくれた。そして、「そうなんだ、なるほどね」「まあ、大学に行ったら行ったで、大学でしか得られない体験や人脈といったものもあるとお父さんは思うけどね」といって、それで終わり(笑)。

「そんなの駄目だ」「こうしろ」というわけでもなく、ただ感想をいわれると、いわれた側はちょっと考えるのです。わたしも「そういうものかな」なんて考えて、結局、高校生になると大学進学を志望するようになりました。父はコーチングを学んでいたわけでもなんでもありませんが、偶然にもその態度はコーチングの手法そのものでした。わたしはまんまと乗せられたわけです。

でも、そのあとが駄目だった……。わたしがいったん大学進学を決めると、父は「女性が働くなら教師がいい」なんて決めつけて、地元の大学の偏差値などを勝手に調べはじめたのです。当時のわたしは教員の仕事を否定するのではなく、ただ父のいいなりにはなりたくなくて徹底的に反発しました。最終的に父は私の選択を尊重してくれましたけどね(笑)。

子どもに対する自分の願望はいったん抑えて子どもの話を聴き、「感想」として述べる――。父とわたしの事例を踏まえてもらえれば、子どもの主張とも自分の願望ともうまくつき合えるのではないでしょうか。

言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉
石川尚子 著/柘植書房新社(2019)

■ ビジネスコーチ・石川尚子さん インタビュー一覧
第1回:子どもの答えを引き出す「コーチング」――我が子を本当に信頼していますか?
第2回:「認める」ことが、子どもの健全な自己肯定感を育む第一歩
第3回:子どもに揺るぎないパワーを与える、親が子どもの話を「聴く」ということ
第4回:子どもの自己肯定感を高め、親子関係を良好にする魔法の言葉

【プロフィール】
石川尚子(いしかわ・なおこ)
1969年生まれ、島根県出身。ビジネスコーチ、株式会社ゆめかな代表取締役。1992年、大阪外国語大学外国語学部卒業後、株式会社PHP研究所入社。研修局において企業研修・講演会の企画・運営、研修コース・教材の開発・制作、研修講師を担当。2002年、同社を退社してビジネスコーチとして独立。2003年、高校生の就職支援活動に携わった経験から教育分野へコーチングを普及する活動をはじめる。2008年、株式会社ゆめかなを設立して代表取締役に就任。現在は、経営者、起業家、管理職、営業職へのパーソナル・コーチングを行う傍ら、コミュニケーションスキルの向上、夢をかなえるコミュニケーション、自発的な部下の育成、子どもの本音と行動を引き出すコミュニケーションなどをテーマにしたコーチング研修、コミュニケーション研修の講師として活動中。小中学生、高校生、大学生から企業の経営者まで幅広い対象に講演活動を行う。著書に『コーチングで学ぶ「言葉かけ」練習帳』(ほんの森出版)、『オランダ流コーチングがブレない「自分軸」を作る』(七つ森書館)、『子どもを伸ばす共育コーチング 子どもの本音と行動を引き出すコミュニケーション術』(柘植書房新社)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。