「お腹が痛い」「頭が痛い」「学校に行きたくない」——こんな言葉を子どもから聞くと、親として心配になってしまいますよね。しかしこれは単なる「甘え」ではなく、子どもからの大切なSOSサインかもしれません。
この記事では、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長の飯島慶郎先生の監修のもと、登校しぶり・行きしぶりの根本的な原因と対応法を詳しく解説します。
監修者プロフィール

精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士
島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属。
目次
登校しぶり・行きしぶりとは?
登校しぶり・行きしぶりとは、子どもが学校に行きたくないという気持ちと、行かなければならないという気持ちのあいだで苦しんでいる状態です。本人も自分の気持ちをうまく整理できず、心のなかで葛藤しています。この状態を理解するためには、まず子どもが発するサインを見逃さず、その背景にある具体的な原因を特定することが何より重要です。
子どもが発する登校しぶり・行きしぶりのサインには以下のようなものがあります。
- 朝になると体調不良を訴える(夜は元気なのに)
- 朝の支度に極端に時間がかかる
- 食欲の低下や睡眠の乱れ
- 表情が暗く、元気がない
- 学校の話題を避ける
- 「学校がつまらない」「行きたくない」と直接訴える
これらのサインが複数見られる場合、子どもが何かで困っている可能性が高いと考えられます。大切なのは、これらのサインを「甘え」として片付けるのではなく、子どもの心の声として真剣に受け止めることです。
登校しぶり・行きしぶりの6つの主な原因
では、子どもの「行きたくない」の理由はなんでしょうか? じつは登校しぶり・行きしぶりには、主に6つの原因があることが分かっています。それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。
1. 学校での人間関係の問題
登校しぶり・行きしぶりの原因で一番多いのが、学校での人間関係のトラブルです。友達関係や先生との関係で嫌なことがあると、子どもは学校に行くのが怖くなります。
人間関係による理由:
- 友達とのケンカやいじめ、からかいの可能性
- クラスのなかで孤立している感覚
- グループ内での居場所がない不安
- 教師との関係がうまくいっていない
特に小学校の低学年の子どもは、気持ちをうまく言葉にできないので、「お腹が痛い」「頭が痛い」などの体の不調として現れることが多いです。
2. 学習面での不安とプレッシャー
勉強に対する不安や恐怖も、登校しぶり・行きしぶりの大きな原因の一つです。授業がわからない、テストの点が悪い、みんなについていけないという状況が続くと、子どもは学校に行きたくなくなります。
勉強の問題による理由:
- 授業の内容が理解できず自信を失っている
- テストや発表などへの過度な恐怖心
- 成績や順位を過度に気にしている
- 宿題や課題が終わらず焦っている
たとえば学習面では「わからない」という状態が続くと、子どもは学校自体に行きたくなくなることがあります。特に真面目な子ほど、このプレッシャーを強く感じる傾向があります。
3. 心身の疲れや生活リズムの乱れ
子どもの心と体の調子は深く関係していて、体の不調が登校しぶり・行きしぶりの原因になることもよくあります。今の子どもたちは、大人が思っているより疲れやストレスを抱えています。
体の問題による理由:
- 睡眠不足や生活リズムの乱れによる慢性的な疲労
- 起立性調節障害などの身体的要因(朝起きられない)
- 習い事や学校行事などの過密スケジュール
- 季節の変わり目による体調不良
長い休みの後に登校しぶり・行きしぶりが増えるのも、生活のリズムが乱れることが大きく影響しています。心のケアと同じくらい、体調面でのサポートも大切です。
4. 家庭環境の変化と不安
家庭環境の変化や不安定さも、登校しぶり・行きしぶりの大切な原因の一つです。子どもは家庭の状況にとても敏感で、大人が思っているより大きな影響を受けています。
家庭環境の変化と不安による理由:
- 引っ越しや転校などの環境変化
- 家族の病気や親の仕事の変化
- 兄弟の誕生や受験など家族関係の変化
- 親の不仲や家庭内のストレス
特に小学校低学年の子どもは、親から離れることへの不安(分離不安)から登校しぶりになることもあります。安心できる家庭を作ることが、登校しぶり・行きしぶりを改善する大切な要素になります。
5. 発達特性や感覚の敏感さ
子どもが生まれもった特性と学校環境の相性が悪い場合も、登校しぶり・行きしぶりの原因になることがあります。発達障害の診断がなくても、グレーゾーンの特性をもつ子どもは多く、その特性と学校環境のミスマッチが登校しぶりにつながることがあります。
発達特性や感覚の敏感さによる理由:
- 音や光、触感などに敏感で教室環境が苦手
- 言葉の理解やコミュニケーションが独特
- 予定の変更や新しい環境への適応が難しい
- 自分と周りの「違い」に気づき始めた不安や孤独感
子どもの特性に早く気づき理解し、適切なサポートをすることで、登校しぶり・行きしぶりを防いだり軽くしたりすることができます。
6. 子どもの精神疾患
登校しぶり・行きしぶりを考える上で、見逃してはならないのが子どもの精神的な疾患や心の健康状態です。他の原因と組み合わさることも多く、根本的な解決のためには重要な要因といえます。
心の不調による理由:
- 朝の恐怖感・不安感が強く、登校できない
- 気分の落ち込みや無気力状態が続いている
- 生活全体にわたる心の不調の兆候がある
- 言語化が難しい不安・恐怖を抱えている
これらの症状は、素人では理解が難しく、子ども自身も自分の状態をうまく説明できないことが多いです。「なんとなく怖い」「理由はわからないけど行けない」といった訴えの背景に、精神的な疾患が隠れている場合があります。
登校しぶり・行きしぶりに親が向き合うときは
登校しぶりが見られたとき、多くの親は「どうにかして学校に行かせなければ」と焦りがちです。しかし、無理に行かせようとすると、逆に状況が悪化する可能性があります。
登校しぶり・行きしぶりへの対応で最も重要なのは、子どもの気持ちに共感することです。「つらいんだね、よく言ってくれたね」「どんなことが心配なの? 話せる範囲でいいよ」と声をかけ、子どもが安心して話せる雰囲気をつくり、話を最後まで聞くことが大切です。「なぜ?」「どうして?」と詰問するのではなく、まずは子どもの気持ちに寄り添いましょう。
親がやりがちな逆効果な対応としては、「みんな学校に行ってるのに、なぜあなただけ?」と比較したり、「『甘えているだけでしょ』と子どもの気持ちを否定したりしてしまうこと。こうした言葉は、子どもの不安や葛藤をさらに深めてしまいます。
登校しぶり・行きしぶりは決して子どもの甘えでも、親の責任でもありません。子どもなりに一生懸命考え、悩んだ結果の「行きたくない」という気持ちを、まずは受け止めてあげてください。子どもの気持ちを尊重することが、登校しぶり対応の第一歩です。
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「学校に行きたくない」という子どもの言葉の裏には、さまざまな不安や悩み、SOSが隠れています。大人にとっては小さなことでも、子どもにとっては乗り越えるのが難しい大きな問題かもしれません。
登校しぶり・行きしぶりへの対応で最も大切なのは、まず子どもの気持ちに共感し、寄り添うこと。そして、原因を理解した上で、子どもの状態に合わせて適切なサポートを行なうことです。家庭での生活リズムの安定、学校との連携、専門機関の活用など、多方面からのアプローチを組み合わせていくことが効果的です。
「どんな時に休ませる?」「登校を促してもいいの?」といった具体的な対応については、また別の記事で解説したいと思います。