教育を考える 2018.6.30

【心に残る母からの教え】タレント・コロッケさん~焦っていいことなんてひとつもない~

【心に残る母からの教え】タレント・コロッケさん~焦っていいことなんてひとつもない~

「芸能人として独り立ちできるまで、二度と熊本には帰ってこん!」と誓って上京したコロッケさんでしたが、芸能界で一人前になるのは簡単ではありませんでした。そんなときにいつも心の支えになったのが、母の教えである「あせるな、おこるな、いばるな、くさるな、まけるな」という5つの言葉だったと言います。コロッケさんの心に深く残った母の言葉の意味とはどんなものだったのでしょう。コロッケさんご自身の経験から、心の支えになる親の教え、そして教える側になる親御さんたちへのアドバイスを頂きました。

構成/岩川悟 取材・文/洗川俊一

あせるな、おこるな、いばるな、くさるな、まけるな

――コロッケさんの著書である『母さんの「あおいくま」』は本当に素晴らしい本ですが、お母さんに教えられた心の持ち方についての話が出てきますよね。

コロッケさん:
「あおいくま」とは、「あせるな」「おこるな」「いばるな」「くさるな」「まけるな」という母から教えてもらった5つの心持ちの頭文字なんです。子どものころからなにかあれば、すぐにこの言葉が頭に浮かんできましたが、東京に来てからはその頻度が圧倒的に多くなったような気がします。それだけ、僕はこの「あおいくま」に支えられてきたと言ってもいいでしょうね。

――コロッケさんのお母さんはどんな方なのでしょう。

コロッケさん:
ひとことで言うと、人間として正しくて大きな人かな。いつか超えたいと思っていましたが、一生無理だとあきらめました。僕の家は、母と姉と僕の3人家族。父親代わりでもあった母は、挨拶や御礼という、しつけにはとにかく厳しかった。といって厳格な人というわけではなく、ひとりでなにか言っては、ひとり笑っているような底抜けに明るい人。家は貧乏でしたけど、おかげで僕の家にはいつも笑いがありました。熊本の六畳の茶の間が、僕のモノマネの原点にあるんです。

――そんなお母さんの「あおいくま」の5つの言葉のなかで、コロッケさんにもっとも影響を与えたのは、どの言葉ですか?

コロッケさん:
それは、間違いなく「あせるな」ですね。他の言葉は、大人になってから本当の意味に気づきましたからね。たとえば「まけるな」は、子どものころは「相手に負けるな」の意味だと思っていましたが、本当は「自分に負けるな」という意味でした。その点、「あせるな」は子どものころからずっと解釈が変わらない。世の中、あせっていいことなどなにひとつありません。

――たしかに、あせると間違えたり失敗したりすることが多いものです。

コロッケさん:
あせって走れば転ぶこともあるし、障害物にぶつかることだってある。僕は、ふだん歩くときもあせりません。横断歩道の信号が黄色に点滅しはじめたら、青色に変わるまできちんと待ちます。走って横断歩道を渡って、もしクルマが突っ込んできたら……。突っ込んできたドライバーが悪いだけでなく、自分にだって責任はあるわけです。朝、学校へ行くのにバタバタする子どもたちがいますが、早く起きればいいだけじゃないですか(笑)。早起きすれば余裕を持って学校へ行けるし、通学途中に面白い発見があるかもしれない。あせっていたら、ただ前を向いて急いでいるだけで、得なことなんてなにも起こらないんです。

――あせらずにひと呼吸おけるようになると、性格も穏やかになりそうな気がします。

コロッケさん:
いつもあせらないことを心がけていると、確実に穏やかな性格になると思いますね。僕はいまもそうですが、子どものころからかんしゃくを起こしたことがありません。だから、僕の姉は、むかし地元で付き合いはじめた彼がちょっと怒鳴っただけで家に帰ってきましたよ(笑)。僕の家には、男といえば僕しかいませんでしたから、姉曰く、「男の人は怒鳴らない」と思っていたそうです。

コロッケさんの心に残った母親の教え2

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子どもより先に親があきらめない

――おふたりのお子さんを育てたコロッケさんから、このサイトの読者の親御さんにアドバイスはありますか?

コロッケさん:
どんなことでも、子どもより先に親があきらめないことではないでしょうか。なぜか、面倒くさがる親が増えているような気がするんです。もっと子どもにかまってもいいと思いますよ。面倒くさくなるから、スマートフォンやタブレットを渡してほったらかしにしてしまう。それで、子どもがそれでずっと遊んでいると「いつまで見てるの!」と叱る。「渡したのはあなたでしょ!」と突っ込みたくなるシーンです(笑)。

――親はもっと子どもをかまうべき。

コロッケさん:
親は、もっともっと子どもの話を聞いてあげるべきだと思います。子どもはうるさがるかもしれませんが、一方で、「いつも聞いてくれているんだ」という安心感が生まれます。僕は仕事柄、1年間の3分の2は家にいないですから、いるときは必要以上に会話を続けるようにしているんです。30分でも、1時間でも、2時間でも……。子どもが「もうそろそろいいんじゃない」となるくらいまで話します。僕の場合、くだらない内容の会話も多いですけどね……(笑)。それからもうひとつ大事なのは、いざとなったら「守る」という覚悟を伝えておけばいいかな。

――子を「守る」覚悟。

コロッケさん:
これは、母が僕にしてくれたことをそのまま覚悟として持っているだけです。僕が小学生のころにガキ大将にいじめられたときも、学校の先生に理不尽な扱いをされたときも、小さな体を張って僕を守ってくれました。親になったら、「今度は僕が子を守る番だ!」と思って子育てしていました。その覚悟を伝えておくだけで、子どもは安心して伸び伸び生活できるでしょうからね。

***
コロッケさんの心の支えになってきたのは、お母さんの教え「あせるな、おこるな、いばるな、くさるな、まけるな」という言葉。子どものころに脳裏に焼き付いた親の教えは、いつまでも子どもを精神的に守ってくれることになります。家庭でのコミュニケーションが希薄になった時代だからこそ、親は子どもとできるだけたくさんの会話をすることが大切なのかもしれません。そして、子の心に残る言葉をかけてあげましょう。

■ タレント・コロッケさん インタビュー一覧
第1回:【伸びていく子ども】~嫌われない、あきらめない、ミーハーになる~
第2回:【心に残る母からの教え】~焦っていいことなんてひとつもない~
第3回:「気づくか気づかないか」「やるかやらないか」「できるかできないか」の三原則
第4回:継続は進化に繋がっていく

【プロフィール】
コロッケ(ころっけ)
1960年3月13日生まれ、熊本県出身。1980年、NTV『お笑いスター誕生』でデビュー。浅草芸能大賞新人賞、ゆうもあ大賞大賞、ゴールデンアロー賞大賞および芸能賞受賞など受賞歴多数。全国でモノマネコンサートを行うかたわら、テレビ・ラジオ、舞台等でも活躍する日本を代表するエンターテイナー。現在のモノマネのレパートリーは、300種類を超える。また、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、北京をはじめ、アメリカ・ラスベガスでの公演も大成功を収めた。東京『明治座』、名古屋『中日劇場』、大阪『新歌舞伎座』、福岡『博多座』などの大劇場での座長公演を定期的に努め、2013年3月には、松尾芸能賞演劇優秀賞を受賞した。2016年には、自身がプロデュースしたモノマネレストラン『CROKET MIMIC TOKYO』(東京麻布十番)がオープンし、連日多くの来場客が訪れている。著書に『母さんの『あおいくま』(新潮文庫)、『マネる技術』(講談社α新書)がある。2018年6月16日からは、本名の滝川広志で誂んだ初主演映画『ゆずりは』が公開になった。

●コロッケさん(滝川広志)初主演映画『ゆずりは』公式サイト
☆コロッケさんからのコメント☆
「死と向き合う葬儀の現場を舞台に、どう生きてきたのか、どう生きていくのかを考えさせられる、ヒューマンドラマです。初主演となる今作品は、完全にモノマネを封印し、コロッケではなく本名の滝川広志として取り組んでいます。ぜひ、劇場に足を運んでください!」

【ライタープロフィール】
洗川俊一(あらいかわ・しゅんいち)
1963年生まれ。長崎県五島市出身。株式会社リクルート~株式会社パトス~株式会社ヴィスリー~有限会社ハグラー。2012年からフリーに。現在の仕事は、主に書籍の編集・ライティング。