教育を考える 2019.3.6

「いじめ問題」に直面したときのために――家庭での道徳教育は“ピグマリオン効果”を利用しよう

編集部
「いじめ問題」に直面したときのために――家庭での道徳教育は“ピグマリオン効果”を利用しよう

2018年4月から、小学校では道徳が「特別な教科」になりました。子どもたちの“心の教育”“倫理観”は、これからますます重視され、学校だけではなく家庭や社会全体でも考えなければならない重要な問題になっていくでしょう。

今回は、なぜ道徳を学ばなければいけないのか、そして家庭でも取り入れたい道徳教育についてお話します。

なぜ今『道徳』に注目が集まるのか?

まず、道徳が教科化された背景や目的について振り返ります。

従来、小中学校では「道徳の時間」が週1回、教科外活動として設けられていました。親御さんの多くも記憶に残っているのではないでしょうか。その後、2015年には学習指導要領が一部改訂され、道徳は「特別の教科」(道徳科)になります。そして小学校は2018年から、中学校では2019年から全面実施されることが決定されたのです。

■道徳教育が重要視されるようになった理由

社会のグローバル化によって、今後ますます多種多様な文化や価値観を持った人と接する機会が増えます。お互いの違いを認めて受け入れることが求められる時代に、道徳教育は避けては通れない課題となりました。

また、急速に発展したインターネット社会において、コミュニケーションの方法や倫理観にも大きな変化や新しい価値観が発生しました。そのため、対人関係の構築の仕方も家庭内の「しつけ」だけにとどまらず、社会全体で考えなければいけない教育の問題へと変化したのです。

また、教科としての道徳教育を早急に推進していくにあたり、大きな影響を与えているのは「いじめ問題」です。従来の道徳教育では、「いじめは許されない」と発表させたり書かせたりするだけで、やや表面的な教育に終始していました。

しかしこれからは、客観的な意見を出し合うよりも、「自分だったらどうするか」と真正面から問題に向き合うことが重要であり、現実のいじめ問題に対応できる資質や能力の育成が求められるようになったのです。

■授業内容と評価基準

教科外活動から「特別の教科」になった道徳。その授業内容はどのように変化していったのでしょうか。

学習指導要領には、「自分の考えを基に話し合ったり書いたりするなどの言語活動を充実すること」と記載されています。つまり、従来の読んだり聞いたりするインプット重視の教育から、自分の考えをアウトプットすることを重視する方向へとシフトしているのです。道徳の授業を通して、「考える力」「議論する力」が求められるようになっていることも特徴だといえるでしょう。

また道徳は「特別な教科」ということで、数値での評価はありません。道徳科における評価は他教科とは異なります。「他人の考えをしっかり受け止めている」など子どもが成長した様子を担任が見定め、「励まし、伸ばす」文章を書いてもらうことが評価となるのです。その際、ほかの子どもと比較することはせず、「規則の尊重」や「家族愛」など、内容項目ひとつひとつを評価しない、という決まりになっています。

家庭での道徳教育は“ピグマリオン効果”を利用しよう2

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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心の教育を軽視するとどうなる?

道徳教育を考えるとき、東京都独自のある取り組みが参考になります。それは平成12年に策定された『こころの東京革命』です。

■『こころの東京革命』とは?

親と大人が責任を持ち、次代を担う子供の正義感や倫理観、思いやりの心を育み、自らが手本となりながら、人が生きて行く上で当然の心得を伝えていこうという取り組み。

その中で、大人が子どもに伝えるべき大切なことをまとめているので、要約してご紹介します。また、その大切なことが身についていないとどうなってしまうのか、あわせてお伝えします。

○社会の「きまり」や人との約束を守る

みんなで決めた「きまり」や約束を守ることは、人との信頼関係を築き、維持するための基本であり、社会のなかで自分らしく生きていく上で欠くことができません。

  • きまりを守れないと秩序を乱して周囲から孤立してしまいます。その結果、自分には価値がないと思い込み、自己肯定感の低下につながります。

○思いやりをもつ

多様な人々と共に生きるためには、自分だけでなく他人にも心を配らなくてはいけません。思いやりとは、自分の欲しないことを他人にもしないという基本的姿勢から生まれてくるものであり、他人を愛する心をもつことが大切です。

  • 他者への思いやりがないと自分を大切にすることもできません。すると、何事にも無気力で投げやりになってしまいまいます。

○自らを律する

時と場合に応じて我慢をし、かつ目標を見失わずに粘り強く物事をやり遂げることで、自らを律することの大切さと達成の喜びを感じられます。

  • 我慢ができないと自分の要求を力ずくで通そうとします。すぐに結果を求めるようになり、諦めが早くなります。

○責任感、正義感をもつ

自分に与えられた役割を果たし、自分の行為に責任をとるとき、人は大切な存在として尊ばれます。公平公正に対応しようとする態度、善悪の判断がしっかりでき、人として許されないことにはノーと言える強い意志をもつことが大切です。

  • 責任感と正義感の欠如は、すぐに投げ出したり逃げたりすることにつながります。自分の判断基準が曖昧だと人に流され、決断力も身につきません。

○人々や社会のために役立つことに喜びを見いだす

人々や社会のために役立つことを自ら積極的に行い、また、さまざまな人々との関わりを通して何かをやり遂げることは、社会を豊かにするとともに、自分自身の充実感を高めることにもつながっていくものです。

  • 人のために行動ができないと、自己中心的で他者の気持ちが理解できない人間になります。

 
家庭での道徳教育は“ピグマリオン効果”を利用しよう3

家庭でできる道徳教育

道徳教育は、学校で学ぶだけで身につくものではありません。子どもたちが育つ環境、つまり家庭における役割がとても重要であることは言うまでもなく、親としてどのようにして子どもに道徳心を教えるのかは重要な課題です。

そこで、家庭でも取り入れやすい道徳教育をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

■ピグマリオン効果を利用して絵本から道徳心を学ぶ

時代を超えて語り継がれてきた物語には、「悪いことをすれば自分にかかえってくる」「正直な人にはよいことがある」といった道徳的な概念を学ぶのに適した内容が多いのが特徴的です。

絵本スタイリスト®︎景山聖子さんも、「Study Hacker こどもまなび☆ラボ」の人気連載「絵本読み聞かせコーチング」で、子どもの道徳心を育む方法を紹介しています。

たとえば「お友だちと仲良くしてほしい」「困っている人に手を差し伸べるような子になってほしい」と望むのなら、そんな“理想の行動”をしている人物が出てくるお話を読み聞かせるのです

(中略)そして絵本を読み聞かせてから、お母さんは子どもにこうなってほしいという思いを込めて「○○ちゃんみたいだね」と言い、後は子どもを信じ続けてください。このプロセスを何度も繰り返すだけで、期待が現実化し、子どもの行動が変わっていきます。

(引用元:Study Hacker こどもまなび☆ラボ|100回叱るより1冊の絵本。「ピグマリオン効果」を引き出す読み聞かせで、幸せを現実のものに

これはピグマリオン効果を利用した方法です。ピグマリオン効果とは、相手に期待することで、相手もこちらからの期待に応えようとするため、最終的に「期待通りの結果」を得られる現象のこと。絵本に限らず、普段から「○○くんはお友だちの気持ちがわかる優しい子だね」と語りかけてあげるだけで、その効果は実感できるはずです。

■役割を与えて責任感や自信を植えつける

子育てや教育、社会問題などの記事を多数執筆するシアトル在住のアイネズ・モーベーン・ジョーンズ氏は、日本ならではの優れた教育に着目しています。それは、掃除や給食、動物の世話係に至るまで、さまざまな「役割」を子どもたちに課していること。そして、それらの活動を通して子どもたちの道徳心や倫理観は育まれる、と述べています。

仲間と協力し合うこと、責任感を持つこと、あとの人のことを考えて行動すること、ズルをしたら必ず誰かに迷惑がかかること。日々の学校生活の中で、子どもたちは自然とそれらを学び、無意識のうちに身につけているのです。

もちろん家庭でも取り入れることができます。「これは○○ちゃんに任せようかな」「これからは玄関のお掃除係になってね」と、子どもでもできる簡単なことから任せてみましょう。すると、自分に与えられた役割をきちんとこなそうと努力し、褒められた喜びが自信につながり、さらに家族を喜ばせようとポジティブな行動力が芽生えます。

■親子で一緒に「答えのない問題」について考える

家庭での道徳教育にぜひ活用してほしいのが、こちらの本です。
答えのない道徳の問題 どう解く?
『答えのない道徳の問題 どう解く?』(ポプラ社)

この本は、これからの時代を生き抜く力を育むために、対話から子どもの本音を引き出すことを目的としています。

  • ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘ってどう違うの?
  • どうして正義のヒーローは、悪者を殴ってもいいんだろう?
  • ネット上の友だちと学校の友だち、どっちが本当の友だち?

 
これらの疑問に対して、教育評論家の尾木直樹さんや詩人の谷川俊太郎さん、卓球の水谷準選手などの著名人が真剣に向き合い、独自の回答を提示してくれます。正解のない問いを親子で一緒に考える良いきっかけにもなりますね。

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答えがない道徳教育だからこそ、ぜひ親子で一緒に考えてみませんか? 深く話し合ってみると、大人が思っている以上に子どももいろいろなことを考えているとわかり、お子さんの意外な一面を発見できますよ。

(参考)
Study Hacker こどもまなび☆ラボ|道徳教育の必要性とは? 「特別の教科」になった本当の理由
Study Hacker こどもまなび☆ラボ|“心の教育”忘れてない? 確かな学力・健やかな体の基盤になる『道徳力』を育てるヒント
国立国会図書館サーチ|「こころの東京革命」行動プラン ~大人が変われば、子供も変わる~
Study Hacker こどもまなび☆ラボ|100回叱るより1冊の絵本。「ピグマリオン効果」を引き出す読み聞かせで、幸せを現実のものに
東洋経済ONLINE|外国人が感じた日本の「道徳教育」のすごみ
文 やまざきひろし/絵 きむらよう・にさわだいらはるひと(2018年),『答えのない道徳の問題 どう解く?』,ポプラ社.