大切なわが子が傷つけられたら、なんとしてでも守ってあげたい。そう思っているママやパパの気持ち、とてもよくわかります。保育士として子どもたちと接する中で、親御さんが子どものことで心を痛める場面に出会うことは少なくありません。
意地悪しているのが仲のよいママ友の子どもだったり、意地悪が見えないところで行なわれていたり……。子どもを守るというのは簡単なことではありません。
でも、どうか安心してください。保育の現場では、先生たちは日々子どもたちの様子を丁寧に観察し、意地悪な言動も見逃さないよう努めています。大切なのは、その後どのように対応していくかです。今回は、保育士としての視点を踏まえながら、「子どもが意地悪する理由」や「その対処法」について一緒に考えていきたいと思います。
あるある! 子どもの意地悪14パターン
子どもの意地悪といえば、どんな言動を思い浮かべますか? まずは、男の子によく見られる意地悪、女の子によく見られる意地悪をチェックしてみましょう。
- 理由もないのに、叩いたり蹴ったりする
- 相手がイヤだと言っているのに、笑ってやめようとしない
- 持っているおもちゃを力ずくで奪う
- ぶつかったり順番を抜かしたりするのに謝らない
- 遊びの最中にわざと隠れるなど、ふざけて仲間はずれを始める
- 「かっこわるい」「ださい」など、できないことを悪口で指摘する
- うまくいかないことがあれば「おまえのせいで」とキツく責める
- 気に入らないことがあると、髪を引っ張ったり体を押したりする
- 順番やルールを守らず、「だって先生が言ってたもん」などと嘘をつく
- 自分の気分次第で「知らない!」と、相手の話を聞こうとしない
- 自分の思い通りに遊ぶために周囲にキツい言葉で指示を出す
- 「変だよね!?」と、周囲を巻き込むようにしながら相手を批判する
- 「あっちいこう!」と、気の合う相手だけ誘い仲間はずれをする
- 自慢話が多く、相手のことを下げるような発言ばかりする
さまざまな意地悪の例がありますが、なかには子どものうちは仕方がないものもあります。うまく気持ちを言葉で伝えられなかったり、自分が不利になるのがイヤだったり……。
また、子どもは「自分がされたらどうか」など、立場による気持ちの違いにはまだまだ疎いもの。自分のことだけを考えた言動が、いわゆる意地悪につながってしまいます。では、いつからどのような理由で意地悪が本格化してしまうのでしょうか?
2~3歳の子どもが意地悪する理由
2~3歳の子どもは、つたない言葉で少しずつ会話ができるようになる年齢です。しかし、語彙力が少ないため、気に入らないことがあれば「イヤ!」「きらい!」などと、強い言葉で相手を否定します。しかし、意地悪だと思っている言動も、じつは成長過程で仕方がないケースがほとんどなのです。
たとえば、砂場で遊ぶ子どもに対して「お友だちにもスコップを貸してあげて?」と声をかけるとします。そこでイヤだと断る子どもに対して「意地悪しないで貸してあげて! なかよくして!」と叱るのは正解でしょうか?
子どもは、自分の大切なスコップを使っている最中なのでもちろん断ります。相手の気持ちまで想像することはできません。このように、2~3歳児が故意に「意地悪してやろう」と企むことはほとんどないのです。
なかには、言葉より体が先に動いてしまい相手に危害を加えたり、兄弟にされたことを同じようにしてしまったりすることもあるかと思います。「いまのは〇〇ちゃんイヤだったみたいだよ」と、繰り返し伝え、その言動が習慣化しないように声をかけていくことで、次第にお友だちとの関わりを学んでいくのです。
4~6歳の子どもが意地悪する理由
4~6歳の子どもは、意地悪に子どもなりの理由がつくようになります。「自分と同じように相手にも気持ちがある」ということに気づき始める年齢ではありますが、それでもあえて意地悪することで「優位に立ちたい」と考えてしまう子どもが出てくるのです。意地悪の理由には、以下のようなものがあります。
子どものこんな「意地悪」はどんな気持ち?
😠 命令する
→ 思い通りに物事を進めたい
😠 ズルをする
→ 自分が不利になるのがイヤ
😠 嘘をつく
→ みんなに注目されたい
😠 仲間はずれをする
→ 独占したい
😠 強い言葉で批判する
→ 相手を支配したい
😠 力ずくで従わせる
→ 負けたくない
上記のような意地悪は、成長が早いほど多くなる傾向があります。年齢が上がるにつれて巧妙になり、見えないところで意地悪する姿も。そのため、親としては「先生が気づいていないうちに意地悪されている」「裏の顔に気づいていない」と感じてしまうでしょう。
しかし、相手はまだまだ子どもです。子どもどうしの関係性やおかしな言動は、先生がしっかり確認しています! 意地悪を隠す姿があれば「内緒にするのは悪いことって思っているからだよね?」とたずねるなど、子どもの心のなかにある「本当はだめなこと」という考えを自分で引き出せるように関わります。
意地悪な子の「親の特徴」4つ
意地悪してしまう子どものなかには、親からの影響を強く受けてしまっているケースも少なくありません。ここからは、意地悪な行動につながってしまう、親の特徴を4つご紹介します。
特徴1:親の叱り方が不十分
- 叱られる経験が少なく「やってはいけないこと」を学べていない
- 相手の気持ちを考えられず、なにをやっても許されると勘違いしてしまう
特徴2:親の対応がいつも厳しすぎる
- 普段の子育てから、人に厳しく接することが当たり前と感じてしまう
- 厳しく責めるような言葉遣いが習慣化し、お友だちにも言ってしまう
特徴3:親が愛情に条件をつける
- 「~しないなら~しないよ」という言葉を真似して、お友だちを支配しようとする
- 親と同じように「どうやったら従ってくれるか」試すような行動を取ってしまう
特徴4:家族の関係がアンバランス
- 夫婦どちらかが相手に対して意地悪で、その姿をまねしてしまう
- 兄弟ばかり注目され、自分もほめてほしいと嘘が多くなってしまう
もちろん、子どもの生まれもった気質もあるかとは思いますが、上記のように家庭環境の影響で意地悪していることも少なくないのです。
意地悪な子への対策
子どもの意地悪は大した意味がなかったり、自分をよく見せようと試行錯誤した結果だったりします。しかし、そのような意地悪でも、相手が傷ついているのであれば許されることではありません。大切なわが子がイヤな思いをしているのであれば、意地悪の理由がどうであれ関係ないですよね。そこでここからは、意地悪な子どもとのトラブルをどう解決していくか、その対策を見ていきましょう。
対策1:わが子への対応は「共感とアドバイス」
「意地悪された」という報告があったときは、事実関係や状況把握よりも先に、子どものイヤだった気持ちを信じて共感してあげることが大切です。いつでも味方でいる姿勢を見せることは、子どもにとって大きな力になります。
また、同じように意地悪しないわが子のことを存分にほめることも大切です。どうしてそんなことをするのか、相手の気持ちを想像するのもよい学びになるのではないでしょうか。
これから先も、成長とともに意地悪な子と接する場面が増えていきます。その度に「〇〇ちゃんとは遊ばないように」と言って、子どもにとってイヤな人を排除していくわけにはいきません。「やめて」と言う力を身につけること、そして困ったときは臆せず大人に相談してもいいということを伝え続けたいですね。
対策2:保育園の先生とは「事実のみを共有する」
子どもからの話は、語彙力が足りなかったり、場面を切り取って話したりしているため、支離滅裂です。そのため、報告があった出来事のすべては鵜呑みにせず事実のみを共有しましょう。「イヤな気持ちになって登園を怖がっている」「持ち物や本人の体にあきらかな被害がある」など、事実をベースに相談します。
保育園では、イヤな思いをした子どもの心のケアはもちろん、意地悪してしまった子どもにも丁寧に寄り添います。「意地悪すると自分の要望がとおる」という経験を積み重ねないようにすると同時に、意地悪した瞬間しか注目されないという状況をつくらないよう配慮しながら対応を進めます。
あまりに一方的で危険な行為が見られる場合は、具体的な対策を念押ししましょう。子どもの傷が深くなったり、意地悪が常習化したりしないよう相談はお早めに!
対策3:意地悪な子どもと親との関わりは無理せずに
意地悪な子どもやその親のことをよく知っているという場合は、言いづらさがあり悩みが深くなります。直接伝えてもうまくいかないことが多く、しっかり子どもを注意してこちらの気持ちも汲んでくれるような人でなければ円満解決は難しいといえます。
意地悪な子どもの親とは距離を置き、対応は保育士に任せるのが得策です。しかし、目に余るような意地悪を目撃したら「本当にだめなことだよ」と、しっかり伝えても問題ありません。どこまで介入していいか迷うとは思いますが、1番の味方である両親がなにもしてくれなかったら、子どもは悲しくなってしまいます。
自分で問題を解決する力をつけていくことも大切ですが、親がその問題と向き合う姿を見せて子どもに手段を伝えるのもひとつの方法。意地悪を目撃したら「とっても嫌がっているからやめてくれるかな?」助け船を出してあげてもよいでしょう。
***
大切なわが子が意地悪されていると知れば、心がギュッと潰されるような感覚になりますよね。意図的に意地悪する子どもが「わざとじゃないならしょうがない」「悪気がなかった」で許されてしまうと、あとから言い訳のように「たまたまぶつかっちゃっただけ」などと言うようになってしまいます。わざとじゃなくてもそれはよくなかった、相手が悲しい気持ちになったことに変わりはないということを伝えられるよう、毅然とした態度で子どもを守っていきたいですね。
【ライタープロフィール】
山本あやか(やまもと・あやか)
児童学科で4年間学び、保育士資格や幼稚園教諭一種免許を取得。保育士として約10年勤務。現在、小学生2人を育てながら「働きながら子育てする大変さ」と対峙中。ワーキングマザーが安心して子どもを預けられるよう、さまざまな情報を発信します。