子どもに一生懸命教えているのに、なかなか覚えられない。お片付けの説明をしても響かない。同じように接しているのに、きょうだいで反応が全然違う。そんな経験はありませんか?
じつはその原因、能力の差ではなく認知特性タイプのちがいかもしれません。「何度説明してもわからない……」は能力のせいではないのです。認知特性とは、目・耳・体で受け取った情報をどう整理し、理解し、記憶して表現するかという「情報処理の得意パターン」。同じ内容を教えても、どのルートで頭に入ると理解しやすいかは子どもによってちがうのです。
たとえば、同じ漢字を覚えるときでも、「何度も書いて覚える子」「読み方を歌にして覚える子」「成り立ちを文章で説明しながら覚える子」がいます。どの方法も正しく、その子にとって最も効率的な学習方法なのです。つまり、その子によって、得意なルートを見つけて伝え方を工夫してあげるだけで、驚くほどスムーズに理解できるようになるのです。
この記事では、お子さんの認知特性タイプ診断を通して、視覚優位・聴覚優位・言語優位の3つのタイプの特徴と活かし方をご紹介します。簡単な診断チェックで、わが子にぴったりの関わり方や学習スタイルを見つけていきましょう。
ライタープロフィール
特別支援通級指導教員
特別支援通級指導教員歴8年の現役教師。情緒障害教育を専門とし、ADHDやASD、自閉症児など多くの子どもたちを担当する。家庭では、特性をもつ2児の父親。遊びや経験を通して、子どもたちが「安心できる場所」「自分らしくいられる瞬間」を感じられるよう日々模索中。趣味は家族旅行。
目次
小学生になると「認知特性タイプ」がはっきりしてくる
認知特性タイプは生まれつきの傾向ですが、幼児期はまだはっきりしません。しかし、小学生になると経験が増えて特性が安定してきます。どんな環境や関わり方でその子らしさが輝くかが見え始めるのがこの時期。
じつは、幼児期からその片鱗は見えています。2~3歳の頃から、絵本を「見て」楽しむ子もいれば、読み聞かせの「声」に集中する子、「これはなに? なんで?」と質問ばかりする子もいます。4~5歳になると、お絵描きや積み木に夢中になる子、歌を覚えるのが得意でリズムに乗るのが好きな子、おしゃべりが上手で体験したことを詳しく話す子など、それぞれの特徴がより明確になってきます。
でも、この時期はまだ発達途中で、いろいろな方法を試している段階。本格的に「この子はこのタイプかな」とわかってくるのが小学生になってからです。同じ説明を聞いても、すぐわかる子とそうでない子が出てきます。これは理解力の問題ではなく、その子にとって「わかりやすい伝え方」かどうかの違いなのです。
この時期に認知特性を理解することで、子どもは「自分はこうやって勉強すると覚えやすい」という自己理解を深められます。これは生涯にわたって人間関係や問題解決を円滑にする大きな財産となるでしょう。
認知特性は大きく3タイプ
認知特性は主に以下の3つのタイプに分類されます:
- 視覚優位タイプ
- 聴覚優位タイプ
- 言語優位タイプ
ただし、多くの子どもは複数の特性を併せもっており、完全にひとつのタイプだけということは稀です。主な傾向を把握することで、より効果的な学習方法を見つけることができます。
【認知特性タイプ診断】わが子のタイプをチェックしてみよう!
以下の21項目で、「あ、これうちの子っぽい!」と思うものに丸をつけてください。一番多く当てはまった列がその子の優位タイプです。
A
- 初めて行く場所でも道をよく覚えている
- おもちゃや文房具を色や形で分類したがる
- テレビや動画を見ている時の集中力が高い
- 絵本は文字より絵に注目している
- 服を選ぶ時に色の組み合わせにこだわる
- 工作やブロック、パズルが得意で好き
- 迷子になりにくく、来た道をよく覚えている
B
- 音楽のメロディーや歌詞をすぐに覚える
- 人の声のトーンや話し方の特徴をよく覚える
- 騒がしい場所では集中できない
- 電話での会話が得意
- 楽器や歌に興味を示すことが多い
- 口頭で説明すると理解が早い
- 静かな環境を好む傾向がある
C
- 体験したことを詳しく話したがる
- 「どうしてそうなるの?」と理由を知りたがる
- 日記や手紙を書くのが好き
- 読書に集中して取り組める
- 友達や家族に説明するのが上手
- ルールや手順を言葉で確認したがる
- 本や絵本の文字部分に興味を示す
どの項目が一番多かったですか?
- Aが多い:視覚優位タイプ(書いて・見て覚えるのが得意)
- Bが多い:聴覚優位タイプ(聞いて覚えるのが得意)
- Cが多い:言語優位タイプ(話して・言葉で覚えるのが得意)
2つが同じくらいなら「ハイブリッド型」。それぞれ詳しく解説していきます。
タイプ別の勉強スタイルとコツ
◆「視覚優位」タイプ👀
目からの情報で理解しやすいタイプ。空間的な配置や視覚的なパターンを記憶するのが得意で、「見た目」で物事を捉える傾向があります。部屋の様子や人の顔、風景などを映像のように記憶できます。
日常生活での特徴:初めて行く場所でも、一度見た景色や目印をしっかり覚えています。おもちゃや文房具を色や形で分類して整理したがり、テレビや動画を見ている時は特に集中力が高くなります。服を選ぶ時も色の組み合わせにこだわりを見せ、迷子になりにくく来た道をよく覚えているのも特徴です。
学習面での特徴:ノートを色分けして書くのが好きで、図解・イラスト・マインドマップでまとめると理解が深まります。動画や写真でイメージしながら学ぶと効果的で、単語カードやフラッシュカードも得意分野です。教科書の図表やグラフを見ると、文字で説明されるよりもすぐに理解できる傾向があります。
親のサポートのコツ:お片付けや家事のお手伝いを教える時は、手順を図や写真で示したり、実際にやって見せたりしましょう。「ここを見て」「この部分が重要」など、視線を誘導する言葉かけも効果的です。部屋の整理整頓も、色や形、絵でわかりやすく分類してあげると自分で管理できるようになります。約束事や注意したいことは、絵や表で可視化すると伝わりやすくなります。
◆「聴覚優位」タイプ👂
耳からの情報でスッと理解するタイプ。音の高低や抑揚、リズムパターンを記憶に活用できます。会話や音楽に敏感で、「聞くこと」で世界を理解します。
日常生活での特徴:音楽のメロディーや歌詞をすぐに覚え、人の声のトーンや話し方の特徴をよく覚えています。騒がしい場所では集中できず、静かな環境を好みます。電話での会話が得意で、楽器や歌に興味を示すことが多く、「聞いて覚える」ことが自然にできるタイプです。
学習面での特徴:問題を声に出して読むとわかりやすく、語呂合わせ・歌・リズム暗記が得意です。説明を録音して繰り返し聞くと定着し、音読しながらノートに書くと効果的です。授業中は先生の話をしっかり聞くことで理解が深まり、静かな環境で最も集中力を発揮します。
親のサポートのコツ:「聞かせる」ことを意識しましょう。お手伝いや約束事を伝える時も「まず〇〇をして、次に△△をしてね」と順序立てて口頭で説明すると理解しやすくなります。読み聞かせや対話を重視し、子どもの話をよく聞いてあげることが大切です。叱る時も感情的に声を荒げるより、落ち着いた声で理由を説明する方が伝わりやすいタイプです。
◆「言語優位」タイプ💬
話す・書くことで理解が深まるタイプ。文章で説明するのが得意。論理的思考と言語化が常生活・学習の鍵となります。
日常生活での特徴:体験したことを詳しく話したがり、「どうしてそうなるの?」と理由を知りたがります。日記や手紙を書くのが好きで、読書に集中して取り組めます。友達や家族に説明するのが上手で、ルールや手順を言葉で確認したがるのも特徴です。
学習面での特徴:教科書を音読して要点をまとめるのが得意で、ノートに自分の言葉で書き直すと理解が深まります。人に説明して覚える(教える学習法)が効果的で、段階的に論理を組み立てて理解していきます。作文や感想文が得意で、文章を読むことで新しい知識を吸収します。
親のサポートのコツ:「どう思う?」「なぜそう考えるの?」と質問を投げかけ、子どもの考えを言語化させましょう。お約束や注意事項も理由と一緒に説明すると納得しやすくなります。間違いを恐れず考えを表現できる環境作りが重要で、子どもが説明してくれる時は最後まで聞いてあげることで、言語化する力がさらに伸びていきます。
子ども「認知特性」を活かすと起きるいいこと3つ
1. 子ども自身の自己理解が深まる
子ども自身が「自分はこういうやり方が得意なんだ」自分はこういうやり方が得意なんだ」と理解することで、人生全体にわたって自分に合った方法を選択できるようになります。友達との関わり方、新しいことへの挑戦の仕方、困った時の解決方法まで、自分の特性を活かして取り組めるようになります。「みんなと違うやり方でもいいんだ」という安心感をもち、自分らしさを大切にできる土台が育ちます。
2. 親子の関わり方がスムーズになる
「なぜこの方法でできないの?」ではなく、「この子にはこの方法が合うんだ」という視点に変わります。お片付けの説明、お手伝いの教え方、約束事の伝え方など、日常生活のあらゆる場面で子どもに合ったコミュニケーションができるようになります。これまで「言うことを聞かない」と感じていた場面が、じつは伝え方の違いだったとわかることも多く、親子のイライラが大幅に減ります。
3. 得意を活かして自信を育てられる
苦手な部分を責めるのではなく、得意な方法を使って成功体験を積み重ねられます。子どもの個性を理解し、長所を伸ばすアプローチができるようになります。これまで「集中力がない」と思われていた子が、じつは静かな環境さえあれば集中できる聴覚優位タイプだったり、「理解が遅い」と感じていた子が、図で説明すればすぐわかる視覚優位タイプだったりすることがわかります。「できた!」「わかった!」という経験が増えることで、新しいことに挑戦する意欲も育ちます。自分なりのやり方で結果を出せることがわかると、困難な場面でも「きっと自分に合う方法があるはず」と前向きに取り組める力が身につきます。
さらに詳しく知りたいなら「WISC検査」
認知特性を理解する際に気をつけたいことがあります。まず、認知特性はあくまで「傾向」であり、絶対的なものではありません。状況や教科によって効果的な方法が変わることもあります。また、ひとつのタイプに固定せず、様々な方法を試してみることも大切です。
さらに、苦手なタイプの学習方法も完全に避けるのではなく、必要に応じて練習することで、バランスの取れた学習能力を育てることができます。
さらに、小学校低学年頃になると、WISC(ウィスク)検査と呼ばれるでより詳しく特性を調べることもできます。
WISC5では以下の5つの領域を測定します:
- 言語理解:言葉の意味を理解し、説明したり考えを言葉でまとめる力。
- 視覚空間:形や配置を見て把握し、組み立てたりパズルのように処理する力。
- 流動推理:見た情報をもとに法則や関係性を見つけ、考える力。
- ワーキングメモリ:聞いたこと・見たことを一時的に覚えて、頭の中で操作する力。
- 処理速度:単純な作業を正確に、すばやく行う力。
これらの力を数値で見える化し、より具体的な勉強方法のアドバイスにつなげることができます。学習に困難を感じる場合や、より詳細な特性を知りたい場合は、スクールカウンセラーや専門機関に相談してみてくださいね。
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認知特性を理解することは、子どもの可能性を最大限に引き出すための第一歩。同じ内容でも、視覚で理解しやすい子、聴覚で覚えやすい子、言葉で整理すると頭に入る子がいます。これは能力の差ではなく、生もった脳の個性。その子に合った方法を見つけてあげることで、コミュニケーション力や学習効率もあがり、何より子ども自身が「自分にはこんな得意な方法があるんだ」という自信をもてるようになります。
大切なのは、子どもの特性を理解し、それに合わせた環境や関わり方を提供すること。そして、子ども自身が自分らしい方法を知り、自信をもって様々なことに取り組めるようサポートすることです。認知特性に正解・不正解はありません。お子さんの得意なルートを一緒に見つけて、「できた!」「わかった!」の経験をたくさん積み重ねてあげてください。