ちょっと叱られたことで心が折れて、なかなか気持ちを切り替えてくれない。友だちのひと言を気にしすぎて、落ち込みが何日も続く。「うちの子、メンタル弱いのかな…」と感じる場面、ありませんか。
じつは近年の教育・脳科学では、子どものストレス耐性(メンタルの強さ)は “非認知能力”という広い力の土台によって大きく変わるとわかっています。*1*5
非認知能力とは、やり抜く力・感情のコントロール・柔軟性・協調性・自分への信頼・共感力・忍耐力・好奇心など、テストの点では測れない“総合的な人間力”のこと。
この幅広い力のなかでも、特に幼少期のうちに育つ3つの力が、ストレスに強い子と弱い子を分ける分岐点になります。今回はこの3つの力について深掘りしてきます。
目次
「メンタルが弱い子」ではなく、“まだ土台が育っている途中”
厚生労働省の調査では、仕事で強いストレスを感じている大人は約6割にのぼります。ストレスは、これからの社会を生きるうえで誰も避けて通れません。*6*
ストレスを抱え込んでいる状態とは、不安や怒りなどの「感情」を、理性で無理に押さえつけている状態だと、脳科学の分野では説明されています。こうした状態が長く続くと、ストレスホルモン(コルチゾール)が出続け、記憶や学習をつかさどる「海馬」の働きが落ちてしまうとも報告されています。*3
同じ出来事でも、こんな「捉え方の違い」があります。
- 「怒られた…自分なんてダメだ」→ 自分を責め続ける
- 「嫌だったけど、次に生かそう」→ 経験として整理できる
この“意味づけ”の差を支えているのが、幼少期から育つ非認知能力です。*4 *5 つまり「メンタルが弱い子」なのではなく、ストレスに向き合うための土台となる力が、まだ育っている途中と考えてみるのが出発点になります。そのなかでも ストレス耐性と特に関係が深い3つの力に絞って、家庭でできる育て方を紹介していきます。

メンタルが強い子① 「感情を言葉にして整理する力」をもっている
ストレスに強い人は「自分はいま何を感じているのか」を比較的はっきり言葉にできます。「悲しいのか、悔しいのか、怖いのか」がわかると、
- 何にストレスを感じているのか
- 自分で対処できること/できないこと
を整理しやすくなり、感情に呑み込まれにくくなります。
心理学では、こうした力を「感情のラベリング」「メタ認知」と呼びます。感情に名前をつけて眺められるほど、ストレスを抱え込みにくいことがさまざまな研究で示されています。*2 *3
🏠 家でできる関わり方のヒント
- 「今日はどんな気持ちで帰ってきた?」と、感情から聞く会話を増やす
- 「どのあたりをがんばった?」と プロセスに目を向ける声かけ を習慣にする
- 泣いているときは「泣かないで」ではなく「それは悲しかったね」と、気持ちに名前をつけてあげる
この声かけが、感情のラベリングの実践になります。

メンタルが強い子②「物事の捉え方を柔軟に変えられる力」をもっている
同じ出来事でも「自分はダメだ」と受けとめるか、「次にがんばろう」と考え直せるかで、心への負担は大きく変わります。
精神科産業医の調査でも、ストレスに強い人ほど、出来事を「一度受け止めてから、少し意味を変えて捉え直す」習慣があると指摘されています。*4 *5 特に、親の一言が「意味づけ」のモデルになります。
- ×「なんでこんなミスするの」
→「ミス=ダメな自分」という意味づけに - 〇「ここで気づけてよかったね」
→「ミス=次に生かせる経験」という意味づけに
この「意味づけを柔軟に変える力」は、非認知能力のなかでも柔軟性・楽観性・失敗から学ぶ姿勢と深くつながっています。
🏠 家でできる関わり方のヒント
- 失敗したときは「どこまでできたかな?」と、できた部分から一緒に探す
- 「次に同じことがあったらどうする?」と、一歩先の行動を考える質問を投げる
- 親自身も「うまくいかなかったけど、こう学べたよ」と、日常の“失敗ストーリー”を共有する
このやりとりが、子どもの “意味づけを柔軟にする経験” になります。

メンタルが強い子③「困ったときに人に助けを求められる力」をもっている
最近のレジリエンス研究(逆境から立ち直る力)では、「一人でがんばる」より「必要なときに助けを求められる」人のほうが、長期的にはストレスに強いことがわかってきています。*4 *5
しかし子どもは、「迷惑かも」「怒られるかも」と感じると、助けを求めること自体を諦めてしまいがちです。
幼少期から「困ったら誰かに頼っていい」「助けを求めることは弱さではない」という体験を重ねておくと、将来ストレスを抱え込まずに済む大事な土台になります。
🏠 家でできる関わり方のヒント
- 落ち込んでいるときは、「つらかったね」「話してくれてありがとう」とまず気持ちを受け止める
- 「困ったら、いつでもママ(パパ)に言ってね」と言葉で伝えておく
- 「自分でやる? いっしょにやる?」と、助けを求める選択肢をこちらから出す
- 助けを求めてくれたときは「頼ってくれてうれしい」と、ポジティブに受け止める
こうした積み重ねが、「助けを求めてもいい」という自己肯定感につながります。
***
ストレスに強いかどうかは、生まれつきの「性格」だけで決まるものではありません。幼少期から少しずつ、感情と言葉を結びつける経験、失敗を意味づけし直す経験、人に頼ってもいいと感じられる経験を重ねていけば、子どものメンタルは確実に育っていきます。15
「うちの子、メンタルが弱いのかな…」と不安になったときは、ぜひ今日紹介した3つの視点を思い出してみてください。完璧な対応を目指す必要はありません。
少しずつ「感じて・話して・頼れる」経験を積み重ねていくこと自体が、いちばんのメンタルトレーニングになります。
(参考)
*1 APA(American Psychological Association)|Resilience
*2 Yale Center for Emotional Intelligence|Permission to Feel
*3 Gross, J.|Emotion Regulation: Research & Resources
*4 Cambridge University Press|Resilience: The Science of Mastering Life’s Greatest Challenges
*5 Guilford Press|Ordinary Magic: Resilience in Development
*6 厚生労働省|平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) ::contentReference[oaicite:0]{index=0}













