2018.7.14

“心の教育” 忘れてない? 確かな学力・健やかな体の基盤になる『道徳力』を育てるヒント

編集部
“心の教育” 忘れてない? 確かな学力・健やかな体の基盤になる『道徳力』を育てるヒント

「子どもの教育」と聞くと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。

漢字の読み書きを教えてあげること? 英語を話せるようにしてあげること? 知識や技能を身につけさせてあげること? 健やかな身体を育ててあげること? もちろん、これらも非常に大事ですよね。でも、決して忘れてはならないものがあります。そう、「心の教育」です。

皆さんがまだ小さかったころ、小学校の道徳の時間といえば、教科外の特別授業という位置づけだったはず。それが、学習指導要領の改訂により、平成30年度からは「特別の教科 道徳」に格上げされたことをご存じでしたか。週1時間という授業時間は変わらないものの、それまでは無かった「検定教科書」が作られるなど、“教科としての” 道徳の質の向上も進められています。

なぜ、いま「心の教育」が重要視されているのでしょうか。その背景を探ります。

学校の道徳教育で学ぶこと

親としては、国語、算数、理科、社会など、いわゆる「メイン教科」の学習をつい優先したくなりますよね。近い将来に我が子が通るであろう受験(中学受験、高校受験、大学受験)のことを考えると、「学校のテストで誰よりも高い点数がとれる」ことは、ひとつの安心材料になるはずです。

あるいは、体育や音楽や図画工作など、具体的なスキルの習得に結びつく教科の学習も、重要性はご理解していることと思います。足が速い、運動ができる、楽器を弾ける、絵が上手だ。なにかしらの得意分野を持たせてあげることは、子どもの自信にもつながっていきます。

一方で、「道徳教育」では何を学んでいくのでしょうか。今回の学習指導要領の改訂に伴い、小学校で学ぶ内容の項目が以下のように整理されました。

A. 主として自分自身に関すること

(「善悪の判断」「正直、誠実」「希望と勇気、努力と強い意志」「真理の探究」など)

B. 主として人との関わりに関すること

(「親切、思いやり」「感謝」「礼儀」「相互理解、寛容」など)

C. 主として集団や社会との関わりに関すること

(「規則の尊重」「公正、公平、社会正義」「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」「国際理解、国際親善」など)

D. 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること

(「生命の尊さ」「自然愛護」「感動、畏敬の念」「よりよく生きる喜び」)

多くの親御さまがイメージされているものと、そう大差はないはずです。どれも目には見えづらく、客観的にも評価(点数化)しづらそうな内容ですね。「普通に生活していれば、身についていくものなんじゃないの?」と感じる方も、当然いらっしゃるでしょう。

それでも、道徳教育の重要性が以前にも増して言われるようになったのは、なぜなのでしょうか?

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道徳教育が重要視されるようになった理由

理由の1つめとして挙げられているのは、社会のグローバル化です。

今後はグローバル化がますます進展していくことが予想されています。生まれ育った環境が違う、言葉が違う、考え方が違う。多種多様な文化や価値観を持った人と接する機会も、きっと増えていくことでしょう(あるいは、グローバル化という壮大な話をせずとも、身近なところにだって、“自分とは違う” 人がたくさんいることは自明ですよね)。

時に対立することはあっても、そういった違いを認めながら他者と協働できる人になることは、今後の社会をつくっていくうえでも必要不可欠。その資質の育成のために、道徳教育の充実が求められているのです。

2つめは、情報通信技術の発展に伴う、コミュニケーション方法や倫理観の変化です。

平成29年の内閣府の調査によれば、10歳未満の子どものじつに4割近くが、インターネットを利用しているのだそう。特に、最近ではスマートフォンの低年齢化が指摘されるなど、小学生が自分のスマートフォンを持つことも珍しくはなくなってきている時代です。また、総務省情報通信政策研究所の別の調査では、10代のSNS利用率が、平成24年からたった数年で倍以上に急増していることも明らかに。

当然、コミュニケーションの方法や対人関係の構築の仕方も、昔とは異なってきます。もはや、個々の家庭における “しつけ” だけの問題ではなく、これらは、社会全体で考えなければいけない教育の問題となったのです。

3つめは、家庭の教育力の低下です。

東京都生活文化局が発表したアンケートにより、多くの親が、家庭での道徳教育について「親自身に正しいルールやマナーが身についていない(61.5%)」「親自身の責任感や心構えができていない(47.5%)」仕事など自らの生活を重視するあまり、家庭教育やしつけがおろそかになっている(32.4%)」といった悩みを抱えていることが判明しました。道徳を教えられる大人がいなければ、子どもにも当然、道徳の教えは身についていくはずもありません

その他、「いじめ問題の増加」なども背景にあるようです。

道徳力を育てるヒント2

「考え、議論する道徳」

文部科学省発表の資料には、道徳教育の重要性について以下のような記述があります。

(前略)道徳教育を通じて育成される道徳性、とりわけ、内省しつつ物事の本質を考える力や、何事にも主体性をもって誠実に向き合う意志や態度、豊かな情操などは、「豊かな心」だけでなく、「確かな学力」や「健やかな体」の基盤ともなり、「生きる力」を育むために極めて重要なものである。

(引用元:文部科学省|小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳編(PDF)

心の教育は、「学力」「身体能力」、そして「生きる力」など、あらゆる力の基盤となると記されています。ぜひ今後の学校教育に期待したいところですが、同時に、家庭でできることは何かあるのでしょうか。ここでヒントとなるのが、「考え、議論する道徳」というフレーズです。

これまでの学校教育での道徳の授業は、「読み物道徳」と揶揄されてきました。読み物資料の登場人物の心情理解だけをさせたり、当たり前のことをただ言わせたり、先生の価値観を述べたりなど、形式的な指導しかできていなかったのが課題でした。

そこで新たに打ち出されたのが上記のフレーズ。子どもひとりひとりが自ら考え、ほかの子どもたちと議論を交わしながら学び合うことをより重視することで、道徳性のさらなる深まりを目指しています。

街を歩いているとき(例:交通ルール、道端に落ちているゴミ)、乗り物に乗っているとき(例:席のゆずり合い、社内マナー)、公園で遊んでいるとき(例:遊具の順番待ち、ほかの子どもとの交流)など、普段の暮らしのなかにも、道徳教育の素材となりそうなものはたくさんあふれています。

そのときに、ただ形式的にルールを教えたりアドバイスをしたりするのではなく、「〇〇のときはどうしたらいいかな?」「なぜ△△しなければいけないのかな?」など、子どもに “考える種” を与えてみるのはいかがでしょう。そして親御さま自身が、議論の相手となってあげるのです。

きっと、子どもは子どもなりに、頭を使って考えるはずです。仮に、親御さまご自身が考える「正解」とは異なっていたとしても、決して頭ごなしに否定はしないこと。まずは、きちんと考えられたことを褒めてあげましょう。なぜならば、そうやって誠実に考えようとする姿勢や態度こそが、「豊かな心」を育んでいくのですから。

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九州大学名誉教授で医師の井口潔さんは、「感性を司る『古い脳』が機能する10歳までに、我慢や善悪の区別を学ぶ道徳教育を終え、知性を司る『新しい脳』が発達する10~20歳は知性教育に特化すべきだ」と述べています。

ご家庭と学校でうまく連携しながら、お子さまの心を育てていけるといいですね。

(参考)
文部科学省|資料4 道徳教育について(PDF)
文部科学省|小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳編(PDF)
NHK|解説委員室|「教科『道徳』初めての教科書検定」(時論公論)
内閣府|低年齢層の子供のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)(PDF)
光村図書|特別の教科 道徳|質問6「考え,議論する道徳」って,なに?
東洋経済オンライン|外国人が感じた日本の「道徳教育」のすごみ 知らず知らずのうちに道徳心を学んでいる
産経ニュース|「道徳教育は10歳までに」 福岡・いのちを守る会で講演