「うちの子は今までそんな言い方しなかったのに……」 保育園に通うようになってから、急に乱暴な言葉や態度が見られるようになった――そんな経験、ありませんか?
注意しても効かず、それどころか「だって〇〇ちゃんが言ってたもん」と名前を挙げることも。親としてはモヤモヤが残ります。
今回はこんなお悩みが届きました。
たまにおうちで教えたこともない汚い言葉を使います。ママ友の話を聞いてみると、どうも年長さんにちょっとませた子がいるようで、そのこの言葉を真似しているよう。先生にもなんとなく伝えましたが、次々と乱暴な言葉を覚えてきます。(3歳息子ママ)
いますぐ転園するわけにもいかないし、相手の親に言うのも難しいですよね。今回は、そうした “気になるお友だち” との関係に悩んだとき、親ができる関わり方のヒントをお届けします。
ライタープロフィール
保育士
児童学科で4年間学び、保育士資格や幼稚園教諭一種免許を取得。保育士として約10年勤務。現在、小学生2人を育てながら「働きながら子育てする大変さ」と対峙中。ワーキングマザーが安心して子どもを預けられるよう、さまざまな情報を発信します。
目次
子ども同士の関わりで「影響を受ける」のは自然なこと
幼児期は、言葉を爆発的に吸収する時期です。いいこともよくないことも、日中に長くいっしょにいるお友だちから学ぶのは自然なこと。とりあえず”まねして試して”学ぶプロセスがあるため、そこまで問題視する必要はありません。
「影響を受ける」のは、じつは大人でもよくあるシーンです。たとえば、周囲の人の鼻歌をいつの間にか口ずさんでいたり、テレビで流れるCMの曲が頭から離れなくなったりしたことはありませんか?
子どもたちも同じです。「お友だちの言動を真似する=お友だちのようになりたい」というわけではなく「ただ使ってみたい」だけのことも。つまり、影響を受けること自体は成長の一部といえます。
保育士から見る乱暴な言葉が流行するシーン
- 兄弟が言っていた乱暴な言葉が耳に残り意味もわからず連呼する
- テレビやYouTubeで聞いた言い回しをそのまま使う
- 周囲のお友だちが笑ってくれるのでうれしくなって繰り返す
保育士目線で注意してもらいたいこと
こちら側が「お友だちからうつった」と思っていても、実際は子ども自身がテレビやYouTubeを見て覚えた言葉を主体的に保育園で広めているというケースも少なからずあります。
こればかりは、誰が最初か明確ではないため「あの子のせいで」と決めつけることがないよう注意したいですね。

それでも心配になる……親が「できること」5つの視点
成長過程で仕方のないこととはいえ、大切に育ててきたわが子。知らないところでお友だちからイヤな言葉や態度で接されていると思うと、心配でたまらないですよね。ましてや、わが子自身が覚えて真似する姿なんて見たくないもの。
すぐに注意して辞めさせるという方法もありますが、そのほか親ができることを5つの視点からご紹介します。保育の場面でも意識する視点なので、できるものがあれば試してみてくださいね。
(1)子どもに直接注意する前に「残念な顔」でフィードバック
わが子が思いもよらない言葉を使うと、とっさに「そんな言葉使わないよ!」と怒って注意したくなりますよね。しかし、「怒る」より「がっかりした顔」をすることで伝わることもあります。
言葉で伝えるよりも、大好きなママやパパがこの言葉に嫌悪感を抱いていると思うと、子ども自身も考えることがあるはずです。感情的になったときこそ、残念・悲しいという気持ちをあえて表情で見せられるよう意識してみてもいいですね。
👩保育園での活用場面
みんなの作品を「ダサい!変なの!」と言うお友だちに対して。「先生は悲しい気持ちになるな」と、悲しむ表情を見せる。自分の言動が誰かに影響を与えることを表情で伝える。
(2)「あの子のママが聞いたらどう思うかな?」と視点をズラす
自分の乱暴な言葉によって相手が傷つく……それをしっかり理解できれば問題ありません。しかし、年齢によってはイヤな言葉を「自分が言われたらどう思う?」と問われても、ピンとこない可能性があります。そこで、第三者視点に置きかえてみるのもおすすめです。
たとえば「〇〇くん(わが子)がお友だちにそんなこと言われていたらママは悲しいよ」「同じように〇〇ちゃん(お友だち)のママも聞いたらすごく辛いと思うな」などと声をかけてみてはどうでしょうか? 本人同士以外にも悲しい思いをしていることがいると伝えることで、子どもがハッとするかもしれません。
👩保育園での活用場面
お友だちの持ち物を投げる子どもに対して。「これを見たら〇〇ちゃんのお母さんはどう思うかなあ」と、家族の気持ちを想像させる機会を設ける。
(3)お友だちのいいところも見れるようフォローする
使い始めた言葉が「乱暴」というだけでは済まされず、二度と使ってはいけない言葉であることを真剣に伝えなければならないこともあります。そのようなとき、同時にその言葉を使っていたお友だちのことも叱っているような状況になってしまうのは仕方のないことです。
ただ「そんな言葉を使う〇〇くんは最低だ」と言ってしまうと、子どもにもよくありません。「ママはあの子のこういうところ、いいなと思っているよ」など、子どもが嫌いになってしまわないよう “印象の上書き” をすることが大切です。「イヤな言葉」と「その子自身」は別だと教えるアプローチを心がけましょう。
👩保育園での活用場面
癇癪をおこして周囲に暴言を吐いてしまう子どもを見ているお友だちに対して。「ちょっとイヤなことがあったんだね。」「〇〇ちゃんはいつも泣いているお友だちに声をかけて優しくしてくれるもんね」と、普段の様子を思い起こすことで「暴言を吐く=悪い子ではない」ということを伝える。
(4)わが子の気持ちに寄り添う
もしもそのような乱暴な言葉でわが子が傷ついたときは「イヤだったね」「びっくりしたよね」などと、感情をしっかり受け止めてあげることが大切です。言葉の受け取り方は人それぞれ違い、自分に向けられていなくても「その場にいることすらつらい」と思う人もいます。
わが子の感受性が強く、お友だちが放った言葉の意図以上に受け止めるようなことがあれば、保育園生活にも支障が現れます。「あなたは悪くない」「イヤな気持ちは十分分かっている」と伝え、丁寧に気持ちに寄り添ってあげたいですね。
👩保育園での活用場面
お友だち同士の激しいケンカに巻き込まれた子どもに対して。「びっくりしたよね」「乱暴な言葉は聞いているだけで悲しい気持ちになるよね」と気持ちに寄り添い、場所を変えて落ち着かせる。
(5)”その場だけ” で関係を区切る工夫
子ども同士がなんとも思っていなくても、親からすると「乱暴な言葉づかいのお友だちとは関わって欲しくない」というのが本音。子どものことに口出ししすぎるのは…と躊躇してしまう気持ちもわかりますが、区切りをつけることも大切です。
たとえば「公園で会ったときは遊んでOK」「お家には呼ばない」など。接触範囲を調整することで、こちら側のストレスを軽減できます。未就学児なら、まだ距離の取り方は親が決めても問題ありません。

「転園」は最後の手段で時間が育ててくれるのを待つ
あまりに影響を受けすぎていると「環境の悪さ」が気になり、転園を考えることもあるのではないでしょうか。しかし、子どもたちの間の一時的なブームである可能性も考えられますよね。また、年齢とともに「これはよくない」と気づく力が育っていきます。そのため、転園は最後の手段としてしばらく待ってみるのが得策といえます。
なお、保育園の先生と共有しておくのも1つの方法。クラス全体がイヤな雰囲気になるようなことがあれば、先生から全体に話をしてくれるかもしれません。
実際にあったお友だち関係が理由での転園
保育士として、お友だちからの悪影響を理由に転園を希望した家庭と面談したことがあります。気持ちも分かりますが、転園すると以下のようなことに悩む可能性があります。
- 新しい保育園に転園するために多くの手続きが必要
- 新しい環境にすぐに馴染めず子どもに負担がかかる
- 新しい保育園にも同じような子どもがいる可能性もある
- 住んでいる地域がいっしょなら小学校でまた再会する
いじめともなれば転園の選択も必要です。しかし「合わない」などという理由で転園していると終わりがありません。子どもにとって「多様な人と過ごす」経験も、長期的には財産になるとも考えられるため、転園は最後の手段と思っておきましょう。
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子どもが周囲から受ける影響には、いいものもあれば悪いものもあります。親としては、よいものだけに触れていてほしいと願うもの。しかし、そうはいきません。すべてを遮断するのではなく「咀嚼できる力」を育てることが大切です。
迷ったときは、まず我が子の気持ちに立ち返ること。そしてときに静観することも必要です。間違えたとき、傷ついたとき、ママやパパが寄り添ってくれることが子どもの安心感と判断力のベースになります。丁寧に対応してあげたいですね。













