「ママ、リップ買ってもいい?」「○○ちゃんはチーク持ってるよ!」
小学生の女の子がメイクに興味をもつのは、いまや特別なことではありません。SNSやYouTubeの影響で、小学校低学年でも「メイクごっこ」から始まり、実際に色付きリップやチークを使いたがる子どもが増えています。
実際、日本インフォメーション株式会社が2025年2月に実施した最新調査では、小学校低学年で既に約8割がメイクや化粧品に「興味がある」と回答。さらに驚くべきことに、メイク品の使用率は小学校低学年で約2割、高学年で約3割、中学1〜2年生では約5割にも上るという結果が出ています。
またニフティキッズの調査(2025年7月発表)では、メイクをすることがある小中学生は64.2%で昨年より増加しており、小学生では67.8%、中学生では58.8%という高い数値を記録しています。現在メイクをしている小学校低学年の68.4%が「幼児後期(4歳~6歳)」でメイクを始めたという事実からも、この現象がいかに早期化しているかがわかります。
でも、そこで悩むのが親の対応です。「まだ早いのでは?」「肌に悪くないの?」「学校でトラブルにならない?」そんな不安を抱える保護者に向けて、美容皮膚科医の知見をもとに、肌を守りながら子どもの「おしゃれ心」と上手につきあうヒントをお届けします。
監修者プロフィール
美容皮膚科医
2017年東京医科歯科大学医学部医学科 卒業。日大板橋病院にて初期研修終了後、湘南美容クリニックに入職し、5年半勤務。
新宿本院皮膚科医局長として通常の勤務だけでなく、新人医師の指導、VIP対応、トラブル対応に従事。2024年11月新宿二丁目にPRIDE CLINICオープン。
目次
小学生の「メイクしたい」は自然な成長のサイン
子どもがお化粧に興味をもつ背景には、いくつかの発達的・社会的な要因があります。
◆ママのまねをしたい(同一化の欲求)
2〜3歳の頃から始まる「ママと同じことをしたい」という欲求は、小学生になってもしばらく続きます。洗面台でママがメイクをする姿を見て、「自分も大人みたいになりたい」と思うのは自然な心理です。発達心理学では、この同一化の過程が子どもの自己形成において重要な役割を果たすとされています。
◆友達との間で「かわいい」が価値をもち始める
小学校中学年頃から、子どもたちの間で外見への関心が高まります。「○○ちゃんのリップ、かわいいね」「今度一緒に買いに行こう」といった会話が日常的に交わされるようになり、メイクアイテムが友達同士のコミュニケーションツールとしての役割も果たしています。
◆YouTubeやSNSでメイク動画に触れる機会がある
現在の小学生は、デジタルネイティブ世代。調査によると、どの学齢でも「YouTube」から情報を入手している割合が最も多く、小学校高学年では「TikTok」、中学生では「Instagram」が主な情報源となっています。実際、メイクを始めたきっかけとして「YouTubeなどでメイク動画を見て」と回答した人が最も多く、全体の5割を占めるという最新データもあります。
興味深いのは、メイクを始めた時期によってきっかけが大きく異なることです。幼児期から始めた人は「家族がメイクをしていたから」が60.7%で最も多い一方、小学生以降から始めた人は「SNSでメイクの投稿を見て興味をもった」が最多となっています。これらは自己表現の一つであり、自分の外見を通じて「誰かに認められたい」「自分らしさを表現したい」という心の成長のあらわれです。決して”ませている”だけではありません。
親世代の意識も変化している
同時に、親世代の意識にも変化が見られます。同調査では、若い親ほど子どもが幼いうちからメイクをすることに対して抵抗が少ないことが明らかになりました。「メイクをするのはまだ早いと思う」という回答は保護者の年齢が上がるにつれて高くなり、逆に「本人の意思を尊重する」は年齢が下がるにつれて高くなる傾向があります。
今後、親になる世代が若い世代に移行するにつれて、メイクを始める年齢がさらに早まる可能性も指摘されています。これからの時代に大切なのは、「興味をもつのは自然なこと」と受け止めたうえで、年齢に応じた関わり方を考えることなのです。
【医師の視点】小学生の肌はとてもデリケート
小学生の肌は、大人と比べて圧倒的にバリア機能が未熟です。美容皮膚科医のあいだでも、次のような特徴が指摘されています。
◆皮脂が少なく乾燥しやすい
小学生の肌は、皮脂腺の発達が未熟で、大人の約3分の1程度しか皮脂を分泌しません。そのため、肌表面の保護膜が薄く、水分が蒸発しやすい状態にあります。一方で、もともと水分量が多く、バランスを崩しやすい肌でもあります。この時期に刺激の強い化粧品を使うと、さらに乾燥が進み、かゆみや赤みの原因となります。
◆角質層が薄く、刺激に弱い
子どもの角質層は大人の約半分の厚さしかありません。これは、外部からの刺激物質が肌の奥深くまで浸透しやすいということを意味します。特に、防腐剤や香料、着色料などの化学物質に対する反応が強く出やすく、接触性皮膚炎を起こすリスクが高まります。そのため、ピーリングはおすすめしません。
◆紫外線や化学物質の影響を受けやすい
メラニン生成能力も未発達なため、紫外線による影響を受けやすい状態です。また、化学物質に対する解毒能力も低く、長期間の使用により色素沈着や慢性的な肌トラブルを起こす可能性があります。
これらの特徴から注意すべきこと
大人用の化粧品をそのまま使うのは危険です。かぶれ・かゆみ・湿疹などの肌トラブルにつながるリスクがあるのです。「大人の肌」と「子供の肌」が異なることを理解し、低刺激のものを使いましょう。
特にティント系のリップや落ちにくいアイメイクは注意が必要です。ティントは角質層を染める目的で製造されていることが多く、角質層が薄く、深層まで刺激を受けやすい子どもの肌にはよくありません。これらは合成染料を多く含んでおり、色素沈着の可能性があるため、子どもには推奨できません。
また、大人向けのクリームや美容液など油分の多いものの使用はNG。一方、化粧水はバランスを変えにくいため、比較的安心して使用できます。
小学生はどんな時にメイクをする?
実際に小学生がどのようなアイテムを使っているかというと、小学校低学年・高学年では「アイシャドウ」が最も使用率が高く、中学生になると「リップティント、リップグロス、口紅」がトップになります。
また、「ひとつしかメイクアイテムを使えないとしたら」という質問では、1位「日焼け止め」、2位「リップ」、3位「アイシャドウ」という結果が出ており、スキンケアの延長として取り入れやすいものが好まれていることがわかります。
使用シーンについても変化があり、小学校低学年では「外に出かけるとき」が最多ですが、中学生では「友達と遊ぶとき」が最も多くなり、メイクが友達同士のコミュニケーションツールとしての役割を果たしていることがわかります。注目すべきは、全体の93.1%が「休みの日にしている」と回答した一方で、「学校にしていく」と答えた中学生が36.7%に上ることです。
「メイクをしたい」子どもへ親ができる4つのサポート
1. 「ダメ!」より「どう使う?」を考える
家庭内でのルール作りだけでなく、学校や社会でのマナーも含めて話し合いましょう。「ルールの範囲内で自己表現する」ということを学ぶよい機会として捉え、時と場所に応じた応じた使いわけを教えることで、将来的な社会性も育めます。
たとえば「学校には絶対つけていかない」「家族でのお出かけなら薄めのリップまで」「特別なイベントの時はアイシャドウもOK」など。こうした時と場所にあわせた外見作りは学生のうちに学びたいことのひとつです。社会のルールを守りながら、自分らしさを発揮できるボーダーラインを一人ひとりが考えられるよう、親子で相談しながら一歩一歩成長していけると理想的です。禁止よりも、どう使えば安心かを一緒に考える姿勢が、信頼とルールづくりにつながります。
2. 子ども用・敏感肌用の製品を選ぶ
「低刺激」「石けんで落とせる」「無香料」「無着色」「パラベンフリー」などがキーワードです。最近では、子ども専用のコスメブランドも登場しており、これらの製品は小学生の肌に配慮した処方になっています。購入前には必ず成分表をチェックし、不安な場合は皮膚科医に相談することをおすすめします。
①製造国を確認:日本製は薬機法の厳しい基準をクリアしており、成分表示も詳細で信頼性が高い
②「医薬部外品」表示:より厳しい安全基準をクリアした証拠
③全成分表示:何が入っているか明確に分かるものを選ぶ
④パッチテスト済み:アレルギーテストを行った商品を選ぶ
⑤子ども向け専用ブランド:大人用の「薄めた版」ではなく、最初から子ども用として開発された商品
海外製品は見た目が魅力的でも、日本人の肌質に合わない場合や、成分表示が不十分な場合があります。特に小学生の初めてのメイクでは、安全性を最優先に日本製の商品から始めることをおすすめします。
3. 洗顔・スキンケア・日焼けどめの習慣をセットで
メイクオフの方法も重要です。オイルクレンジングは小学生の肌には刺激が強すぎるため、クリームやジェルタイプなど、油分を奪いすぎない優しいタイプを選びましょう。もちが少し悪くても、落としやすい製品を選ぶことで、肌への負担を最小限に抑えられます。正しい洗顔方法や保湿の大切さを教えることで、将来的な肌トラブルの予防にもつながります。また、メイクを落とす際は、ゴシゴシ擦らず、優しく丁寧に落とすことを教えましょう。
また、日焼け止めの習慣化も特に重要。小学生の頃から紫外線対策を徹底することで、将来の肌トラブルを大幅に予防できます。メイクをする前に日焼け止めを塗る習慣をつければ、自然とスキンケアの正しい順序も身につきます。
4. そのままでも「かわいい」と常日頃から伝える
外見での評価がすべてにならないよう、「そのままのあなたも素敵」「自然な笑顔が一番かわいい」というメッセージを伝え続けましょう。メイクは自己表現の一つの手段であり、それがすべてではないということを理解させることが重要です。
美容皮膚科医も推奨:「はじめてメイク」におすすめのコスメ
初めてのメイクには、肌にやさしく、落としやすく、遊び感覚で使えるものを選ぶことが大切です。以下は、安心して使いやすい製品の一例です。
💄リップクリーム(ほんのり色づき)
安全性を重視するなら、まず日本製の商品から選ぶことをおすすめします。DHC「濃密うるみカラーリップクリーム」は色付きリップで、保湿効果が高く自然な発色が特徴です。ちふれ「リップ&チークバーム」は、唇とほおの両方に使える便利なアイテム。どちらもプチプラながら品質がよく、小学生の初めてのメイクに適しています。
🎨 チーク(石けんで落ちるタイプ)
CANMAKE「クリームチーク」は敏感肌でも比較的安心で、指でぽんぽんと塗るだけで自然な血色感を演出できます。日本ブランドで、成分表示が明確なのも安心できるポイントです。
💅ネイル(週末限定の遊びにも)
ピールオフネイルなどの、水性で無臭、除光液不要でペリペリと剥がせるタイプのマニュキアがおすすめ。レイス(RACE)のキッズ向けネイルは水で落とすことができ、成長中の子どもの爪に負担がかかりにくい設計になっています。どちらも日本の安全基準をクリアしており、平日は学校があるため週末限定の楽しみとして使う家庭が多いようです。
また、爪を噛んでしまう子でも楽しめ、予防もできるネイルはこちらで紹介しています。
✨メイクセット(本格的に楽しみたい場合)
レイス「スモールレディバニティメイクボックス」は、日本の薬機法に基づいて処方されており、3段のボックスにアイシャドウ、リップグロス、ヘアアクセサリーが全て揃っています。水や石鹸で簡単にメイクオフでき、使用後は小物入れとしても活用できます。またプリキュアやすみっコぐらしなどの人気キャラクターがデザインされたキッズコスメも多く用意されており、キッザニアや西松屋などでも手軽に購入できます。
使用時の注意事項
使用中に肌に異常を感じた場合は、すぐに中止して医師に相談を。また、アレルギーテストとして、使用前に腕の内側に少量つけて24時間様子を見ることをおすすめします。
おしゃれは「親子で楽しむ時間」にもなる
誕生日やハロウィン、クリスマスなど、特別なお出かけのときに “スペシャルメイクデー” を設けてみるのもおすすめです。親子で一緒にリップを塗ったり、鏡の前でポーズを取ったり、お互いにメイクをしあったりと、普段とは違った特別な時間を過ごすことができます。親子のなかでのコミュニケーションが深まり、家族として、親子として関係がより強固なものになるでしょう。
また、「メイクを通して “かわいい” を楽しむ」ことは、子どもの自己肯定感を育むチャンスでもあります。自分なりの美しさを発見し、それを表現する喜びを知ることは、将来的な自信につながります。
ただし、「メイクをしなきゃ可愛くない」と思わせないよう、普段からの声かけや愛情表現も忘れずに。メイクはあくまでも自己表現の一つの手段であり、それがすべてではないということを、日頃から伝えていくことが大切です。
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小学生のメイクに不安を感じるのは当然ですが、大切なのは「メイク=悪・ダメ」ではなく、「どう使えば安心か」を親子で正しく楽しめるよう考えることです。
時代とともに子どもたちの関心も変わりつつあります。私たち親世代が小学生だった頃とは、メディア環境も社会情勢も大きく異なります。さらにAIが発達した世の中では、自己表現がより必要になってくるでしょう。新しい価値観に戸惑うかもしれませんが、正しい情報と信頼関係のなかで、子どもの「おしゃれ心」と肌の健康を両立させていくことが求められています。
重要なのは、子どもの気持ちを理解し、安全性を確保しながら、適切な範囲で楽しませてあげること。メイクを通じて、子どもたちが自分らしさを表現し、自信をもって成長していけるよう、私たち大人がサポートしていきましょう。
(参考)
日本インフォメーション株式会社|#72~次なるマーケティングのターゲット~α世代の美容・メイクに関する調査
FNNプライムオンライン|【調査結果】メイクをすることがある小中学生は64%で昨年より増加。人気のコスメは「rom&nd」と「CANMAKE」