グローバル化や情報化、AI(人工知能)などの技術革新が急速に進み、これからは予測困難な時代になるといわれています。こうした背景があるため、今まさに、未来を担う子どもたちの教育現場は改革の真っ最中。大きく変化していく様子に、不安を覚える親御さんは多いでしょう。
しかし、わたしたちが子どもの教育において心がけるべき行動は、意外なほどシンプルです。
今回は、これからの社会や教育がどう変わっていくのか、今後どのような能力が必要なのか、そうした能力を高めるためにはどうしたらいいのか、などを掘り下げていきます。
子どもの学びが進化する
2016年1月に閣議決定された内閣府の第5期科学技術基本計画(2016~2020年度)では、日本が目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0 時代」が提唱されました。
「Society 5.0 時代」とは、あらゆるモノがインターネットでつながり、 AIからは常に最適な答えを得ることができ、ロボットの労働力を得てより自由になった人間の、可能性が大きく広がっていく「新社会」のことです。
このような時代に生まれ育っていく子どもたちには、社会の変化を前向きに受け止め、人間ならではの感性を働かせて課題に向き合い解決していくことや、社会と人生をより豊かにしていくことが期待されています。
だからこそ、これからの子どもたちに必要なのは、自ら学んで考え、判断し、行動する力、いわゆる「生きる力」だと考えられているのだとか。そうした背景を踏まえて学習指導要領が改訂され、2020年度より小学校から順に実施されることになりました。
その具体的な内容は、グローバル化や情報化への対応力、社会のさまざまな課題を解決する力を育むために、小学校中学年から「外国語教育」を導入することや、小学校における「プログラミング教育」を必修化することなどです。後者には論理的な思考力(プログラミング的思考)の教育も含まれます。
これから必要となる能力とは?
そんななか、通信教育を手掛けるユーキャンが、10代~40代の男女356名を対象に、2020年のトレンド予測・資格取得・教育改革に関する意識調査を行ないました(2019年11月1日~8日)。
先述のとおり、今は教育改革が進められている真っ最中。同調査における「今後社会で活躍するために必要だと思う能力」の1位から3位までに登場した内容は、「やっぱり」といいたくなるようなものばかりです。
- 1位:多種多様な人とかかわるためのコミュニケーション能力(36.2%)
- 2位:ストレスに負けない精神力・思考(34.8%)
- 3位:グローバル化に対応した英語・語学力(30.6%)
4位以降は、「問題を発見するための判断力・読解力(26.4%)」、「主体的に問題を解決するための論理的思考力(22.8%)」と続きます。(参考:生涯学習のユーキャン|2020年のトレンド予測と資格取得に関する意識調査)
では、それぞれの項目について、親は子どもに何をしてあげればいいのでしょう。専門家の意見やアドバイス、アンケート調査などを参考に、詳しく考えていきましょう。
コミュニケーション能力アップは “家庭の会話” から
一般財団法人日本コミュニケーション能力認定協会によれば、「他者との信頼関係を築くコミュニケーション能力は、人生を豊かにする大切なちから」だとのこと。
また、学習科学・発達心理学の世界的権威といわれる、テンプル大学教授のキャシー・ハーシュ=パセック氏と、デラウェア大学教授のロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ氏が共著した『科学が教える、子育て成功への道』(扶桑社)には、変化の激しい時代に必要な力のひとつとして「コミュニケーション能力」が挙げられています。
そして、経団連が2017年7月28日~8月31日に行なったアンケートでは、新卒採用の選考時に重視する要素として、「コミュニケーション能力」がトップでした。じつは「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」を差し置き、2004年から15年連続で第1位です。時代の変化で、今後もよりいっそう多くの企業が「コミュニケーション能力」を重要視するのではないでしょうか。(参考:一般社団法人 日本経済団体連合会|2017 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果)
このように、子どもたちを待ち構える新しい時代において、彼らが豊かな人生を築いていくためには「コミュニケーション能力」が欠かせません。
しかし、核家族化や、近所づきあいのコミュニティ縮小化、インターネットがもたらしたバーチャル世界の広がりにより、今の子どもたちは異世代間や考え方の異なる人との交流はもちろんのこと、対面でのコミュニケーションがとても少なくなっています。
だからこそ、まずは家庭内でたくさんの会話を交わし、意見を楽しくいい合う機会をもうけることをおすすめします。帝京短期大学教授(生活科学科学科長)の宍戸洲美先生いわく、「コミュニケ―ション能力は、家族の関わりの中で少しずつ育てていくことが大切」とのこと。
たとえば、食事タイムを利用して、料理の感想をいい合ったり、盛り付けのアイデアを出し合ったりしてみてはいかがでしょう。皆で一緒に映画を鑑賞し、感想をいい合い、登場人物が身近な誰に似ているかいい合うのもいいかもしれません。人と人に感覚の差があることを実感できるはず。
また、幼いころから、あらゆる年代・性別・国籍の人々と接することができるよう、地域活動や親子向けのワークショップに参加してみるのもおすすめです。いろんな人がいて、いろんな意見があると身にしみついていくうち、「コミュニケーション能力」の向上とともに視野も大きく広がるはずです。
“ストレスへの対処法” はこう教える
「ストレスに負けない精神力・思考」と聞くと、今注目されている「レジリエンス(回復力・復元力)」を思い浮かべる人は多いかもしれません。
しかし、日本ストレスマネジメント学会事務局長でもある、桜美林大学の小関俊祐先生いわく、レジリエンスはストレスに対抗する手段のひとつに過ぎないとのこと。レジリエンスばかりに注目したり、「絶対に負けないぞ!」と頑張りすぎたりする必要はないのだそう。
子どもが何かに失敗してストレスを受けたとしても、ストレスを発散する手段さえ身につけていれば何も問題はないのだ、と小関先生はいいます。ストレスと無縁の人生を送ることは不可能なので、子どもには、小さいうちからストレスとどう向き合い、どう対処していけばいいのか教えることが必要とのこと。
ちなみに、ストレスの対処法には「ストレスコーピング」というものがあるそうです。
ストレスコーピングの種類は2つあり、ひとつは「情動焦点型」と呼ばれています。“体験済み” のストレスにフィットする対処方法なので、たとえばテストの点数が悪かったときなどに、マンガを読んだりテレビを観たり運動したりと、気分を変える行動でストレスを軽減します。
もうひとつは「問題解決型」という、“これから起こる” ストレスにフィットする対処方法。たとえば明日のテストが心配でストレスを感じるなら、勉強する、早く寝てコンディションを整える、親や友だちとテストについて会話してみるなどして、その不安を解消することが問題解決になり、ストレスの軽減につながります。
いずれの場合も、日常的にできる(ストレス対処法としての)行動の選択肢が多いほど、ストレスとうまくつきあえるようになるのだそう。しかし、子どもたちはまだ経験が浅く選択肢が少ないので、親が「マンガでも読む?」「散歩してみる?」「もう一回ノートを見なおしてみる?」などと選択肢を提示してあげる必要があるといいます。
ただし、その際に、親が行動を決めつけてしまうのはNG。子どものストレス対処能力が育ちにくくなってしまうだけではなく、親が示したもの以外を子どもが選んだとき、今度は親がストレスを感じてしまうからです。親がストレスを感じたら、結局その感情が子どもに伝わってしまうでしょう。
親子ともども、うまくストレスをかわしたり対処したりできるようにすることが大切なのですね。
“表現する” ことを楽しめる子どもに
国際化が進む新時代への対応を目的として、2020年から英語教育が大きく変わるといいます。この状況を日本教育新聞(NIKKYO WEB)は2019年6月26日 に公開した記事で、
ガラパゴス化しているといわれてきた日本の英語教育に本格的なメスが入ります。
(引用元:日本教育新聞電子版 NIKKYOWEB|英語教育改革が2020年度からスタート、小中高校で英語の授業はどう変わる?)
と表現しました。
こうした変化にともない、「うちの子の英語教育は、どうすればいいの?」「もう手遅れなの?」などと、根拠なく焦ったり不安を感じたりする親御さんもいるでしょう。
しかし、立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸先生によると、日本で生まれ育ち、日本語を母語とし、外国語として英語を学ぶEFL環境(English as a Foreign Language)において、臨界期は関係ないそうです。子どもの聞き取り能力の臨界点についても、クラスの環境や先生との相性、生徒自身のモチベーションなどの条件によっても大きく異なるので、何歳までとは断言できないとのこと。
それに、慶應義塾大学名誉教授・ココネ言語教育研究所所長の田中茂範先生が語学諮問委員として研修を担当していたJICA(国際協力機構)の、シニアボランティアと呼ばれる50代後半~60代の方々の多くは、その年齢から赴任した国の言語をしっかりと習得しているそうです。
田中先生によれば、英語学習を成功させるには、次の「3つの条件」があるのだとか。
- Language Exposure(英語にふれること)の質量
- Language Use(英語を使うこと)の質量
- Urgent Need(英語を使わなければならない必要性)の存在
(引用元:StudyHackerこどもまなび☆ラボ|英語はだれでも身につけることができるのか? 成功する英語学習の3つの条件)
前出のシニアボランティアの方々同様、海外に引っ越したなどの場合は、容易に「3つの条件」が揃います。日本にいる場合でも、たとえば近所に引っ越してきた外国の子どもと話をしたいから、英語を学び、学んだ言葉でどんどん話しかけてみる、といったこともあるでしょう。しかし、誰もが海外に住めるわけではないし、必ずしも外国人と交流できる環境に、子どもたちが置かれるわけではありません。
田中先生いわく、英語を学ぶ多くの人は、「英語を勉強し、ある段階まで話せるようになったら、そこでやっと活用する」という発想をしているそう。その発想の背景にあるのは、「いつか、英語ができるようになったらいいな」という姿勢。3条件の最後の「Urgent Need(英語を使わなければならない必要性)の存在」はありません。それでは英語学習は成功しないのです。
大切なのは「いつか、どこかで、だれかと英語で話すため」と考えながら学ぶ “学習者” になるのではなく、「今、ここで」とすぐに英語を使う “表現者” になることなのだとか。田中先生によれば、2020年の新学習指導要領では、英語でコミュニケーション活動を行なうことに力点が置かれ、英語は「学ぶ」から「使う」へシフトするのだそう。学校教育の場でも、“表現者” になることが求められるようになるのです。
「まだ不完全だから英語は話せない」といった “学習者” 的な発想にならないよう、たとえ覚えたばかりの限られた英語でも、表現することを子どもに楽しんでもらいましょう。そうすれば、「英語で表現したい」気持ちそのものが、「Urgent Need(英語を使わなければならない必要性)」になります。
「これは英語で何ていうのかママにも教えて」「へぇー、そんな言葉なんだ。すごいね!」などと、気持ちよく導いてあげるといいかもしれませんね。
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これからの社会や2020年の教育がどう変わっていくか、今後どんな能力が必要なのか、そうした能力を高めるためには、どうしたらいいのかなどを掘り下げました。
教育改革が実施されるからと力を入れすぎず、子どもと一緒にいろんな人とコミュニケーションを取り、子どもがうまくストレスに対処できるよう、行動の選択肢をたくさん与えてあげてください。そして、英語や他国語の “表現者” となることを、子どもと一緒にぜひ楽しんでみてくださいね。
(参考)
政府広報オンライン|2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!
内閣府|Society 5.0 – 科学技術政策
内閣府|科学技術基本計画 – 科学技術政策
生涯学習のユーキャン|2020年のトレンド予測と資格取得に関する意識調査
キャシー・ハーシュ=パセック著, ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ著,今井むつみ訳, 市川力訳(2017),『科学が教える、子育て成功への道』,扶桑社.
一般社団法人 日本経済団体連合会|2017 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果
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