あたまを使う/英語 2018.5.24

【田浦教授インタビュー 第1回】「臨界期」は存在しない? 発音・聞き取り・文法・語彙における臨界点

編集部
【田浦教授インタビュー 第1回】「臨界期」は存在しない? 発音・聞き取り・文法・語彙における臨界点

小学校の英語必修化と早期化、大学入試の英語4技能化、親子留学にキッズ対象のオンライン英会話。2020年の教育改革を目前に控え、幼少期から高校卒業に至るまで、子どもの英語教育を取り巻く環境は大きく変わってきています。

この変化に伴い、「英語は早く始めないと手遅れ?」という根拠もない焦燥感や、「うちの子の英語教育、どうすればいいの?」という漠然とした不安を抱える親御さんも多いのではないでしょうか?

実際、臨界期仮説に「英語で子育て」論、子ども向けの英語DVDや英語絵本の読み聞かせなど、世の中では様々な議論がなされ、多岐にわたる方法論が叫ばれています。

情報があふれている時代だからこそ、迷ってしまうのも無理はありません。でも、大切なお子さんの教育なのですから、学問的知見に基づき、科学的に正しい知識を身につけて、納得した上で決めたいもの。

そこで今回は、立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習について、お話をうかがいました。

最新の研究結果や海外の教育現場の視察、そしてご自身の子育てのご経験も踏まえたアドバイスは、お子さんの英語教育を真剣に考える親御さんにとって、最高の道しるべになることでしょう。

文法、発音、語彙における「臨界期」

——御著書『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』で、「発音は5歳くらいまで」とうかがいました。では、文法・語彙・リスニングなどのその他の言語能力における臨界点はあるのでしょうか? あるとしたらそれぞれ何歳頃ですか?——

田浦先生:
60歳近くの私でも勉強したら新しい単語を覚えられますので、語彙については、臨界点はないと思います。

文法は研究者によって様々な意見がありますが、思春期に入る前のだいたい12歳くらいまで、と言われています。小学生までであれば、自然環境で親が英語を使い、子どももふだん英語を使っている場合、ネイティブのように英語を自然に習得できます。

言語を使う(use)ことと言語にふれること(exposure)の両方がしっかりあれば、文法の自動化ができるのです。これは、我々日本人が日本語を使うのと同じように、英語を使えるようになるということです。

日常的に英語が話されているところをESL(English as a Second Language)環境といいますが、12歳までにアメリカのようなESL環境に行き、そこで育った子どもは、文法に関してはネイティブのように自然習得が可能です。

同様に、アメリカに5歳以前に行った子どもは、ネイティブのような発音を手に入れることができるでしょう。

一方、学校で週1回勉強するだけだと、ネイティブスピーカーのようにはなれません。たとえ小学校での英語教育がさらに早期化し、小学1年生から英語を始めたとしても、週1回の英語の授業だけでは、ネイティブのような言語能力を身につけることはできないのです。

日本において日本語で育ち、外国語として英語を学ぶ環境をEFL(English as a Foreign Language)環境といいますが、EFL環境においては、臨界期は関係ありません。

日本のような外国語環境では、何歳からやっても、ネイティブ並みの英語力を身につけるのは難しいものなのです(インターナショナルスクールや英語イマージョン教育実施校のような、学校言語が英語である場合は話は全く別ですが、逆に母語である日本語の発達面が心配になります)。

バイリンガリズムと英語学習第1回2

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国際結婚の家庭の日英バイリンガルの子どもの発音は「ハイブリッド」

ただ唯一の例外は、国際結婚の家庭の子どもです。例えば日本人のお母さんとイギリス人のお父さんを持つ子どもの場合、特に音声については日英バイリンガルになります。パッと聞く限り、日本語も英語もネイティブのように話しているように聞こえますよね。

しかし、厳密に音声分析をすると、イギリス人の発音でもないし、日本人の発音でもありません。実は、日本語と英語の両方において、それぞれネイティブとは微妙に異なる発音をしています。

2つをもつのはすごく不経済なので、「日本語ネイティブとして通る端っこのところ」、そして「英語ネイティブとして通る端っこのところ」のハイブリッドの発音をうまく使っているんです。

国際結婚の家庭で育った場合でもこうなので、普通の日本人の家庭で生まれて日本で勉強している限り、幼稚園の時から英会話スクールに通ったところで、ネイティブのように話せるようになるわけがないのです。

聞き取りにおける「臨界期」

子どもは真似がうまいですよね。ダンスもスポーツも歌も。僕たちも、子どもの頃に意味もわからず歌を覚えていて、今になって歌詞を間違えて覚えていたなと気づくことってありますよね。真似が得意な子どもだからこそ、興味があってみんなと一緒に楽しくやっていると、自然に習得できるものです。

これは英語も同じ。良い先生に出会い、教室の雰囲気が合っていて、興味を持って楽しく取り組むことができれば、効果を得られることでしょう。

最近、幼稚園でネイティブの先生による英語の授業が行われることも増えてきましたね。例えば月曜日から金曜日まで、毎日1時間だけでも、継続的に英語の授業を受けるとしましょう。

そこですごく良い先生が担当なさって、子どもと先生の相性もよく、クラスとしても前向きに取り組むような環境にあれば、日本にいても聞き取れるようになると思いますよ。楽しくて、子ども自身が「聞き取りたい」と思うから。

さらに、子どもの英語レベルに合うような話を先生がしてくださるだろうから、ますます聞き取りへの意欲が向上するでしょう。これはどこの国でも同じこと。アメリカ人の5歳の子どもに、大学教授が研究の話などしませんからね。良い先生なら、聞き手のレベルに合わせて話をしてくれるはずですよね。

子どもの聞き取り能力の臨界点について、断言するのは難しいのです。このように、色々な条件が整えば可能で、その場合は例えば5歳や10歳に限らないと思います。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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臨界期に関して焦る必要がないとのこと、安心した親御さんも多いのではないでしょうか。次回は年齢と言語習得の関係について、より詳しくお話をうかがいます。