教育を考える 2019.12.6

自己肯定感を育む、親子コミュニケーション。「聞いて!」「あとでね」の正解

宍戸 洲美
自己肯定感を育む、親子コミュニケーション。「聞いて!」「あとでね」の正解

最近は、コミュニケーションの大切さがどこででも強調されるようになりました。裏を返すと、コミュニケーションがうまく取れない人たちが多くなっているのかもしれませんね。

人間はホモ・サピエンス(社会的動物)と言われ、大昔から群れをつくり、群れの中でお互いが協力して子育てをし、食べ物を獲得して子孫を反映させてきました。群れの中では、コミュニケーションを通してお互いを理解し合い、協力し合って生活してきました。

コミュニケーション力は、自分の気持ちを伝えたり相手の思いを理解したりと、人間社会の中で生きていくためにはとても重要な能力です。まずは、親子のコミュニケーションがしっかり取れることが大切ですが、みなさんのご家庭ではいかがでしょうか。

コミュニケーションが苦手な最近の子どもたち

保健室にやってくる子どもたちの中には、コミュニケーションがうまく取れないために、教室にいるのが苦しくなって来室する例が少なくありません。教室をのぞいてみると、自分からは全く人に話しかけられない、友だちと自ら関わっていくことができない、逆に自分の思い通りにできないとキレてしまう……。こんな子どもたちがじわじわ増えてきているという実感があります。どうして、このような状況が出てきているのでしょうか。

赤ちゃんの授乳を例に挙げてみます。赤ちゃんはおっぱいを飲んでいるとき、母親の顔を見ながらさまざまなサインを送っています。そのサインを母親がしっかり受け止めながら授乳をするのが大切なのですが、おっぱいを含ませたら、お母さんはスマートフォンを出してそれを眺めている。赤ちゃんの反応には応えない。

これがまず、子どものコミュニケーション能力の発達に影響するのではないでしょうか。最近は電車の中でも、子どもがぐずり始めると抱っこして話しかけてあやすのではなく、スマホを出して動画を見せている親子もよく見かけるようになりました。

一方で、子どもが自ら意思表示しなくても、親御さんが子どもの要求を先取りして叶えてしまうことも。保健室に来る子どもたちの中には、「先生」と言って痛む手を出すだけの子や、「先生、水」というように、自分がしてほしいことをしっかり伝えられない子も増えてきました。

この場合、1対1であれば何とか意志の疎通ができても、集団の中では自分の要求や気持ちが相手に伝わらないでしょう。コミュニケ―ション能力は、生まれたときから家族の関わりの中で少しずつ育てていくことが大切です。

まなびの保健だより12月号01

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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時代とともに移りゆくコミュニケーションの手段

昔は大家族が当たり前で、親戚や兄弟がたくさんいて放っておいても子どものコミュニケ―ション能力は自然に育ちました。でも今は、意識しないと育ちにくくなっています。ただし、子どもとのコミュニケ―ションは時間の長さではなく、子どもに対して「心を向けているか」どうかが重要です。

親の心が自分に向いていないと感じると子どもは「聞いて、聞いて」と同じことをいつまでも話しかけてきます。子どもの気持ちをしっかり受け止めて、「聞く」ではなく「聴く」ことができれば、そこまで時間をかけなくても子どもは納得します。

また、今の時代で特徴的なのは、インターネットやスマートフォンがコミュニケーションに及ぼす影響です。私たちの生活とインターネットは、切っても切り離せない時代になりました。簡単に情報が手に入るなど非常に便利である一方で、インターネットの情報に頼りすぎたり、SNS利用が中心になったりすると、子どもとのコミュニケ―ションに問題が生じてくることも少なくありません。

中学校の養護教諭の先生にこんな話を聞きました。あるご家庭では、お母さんがLINEで2階にいる子どもに「夕ご飯できたよ!」と知らせる。子どもは「わかった!」とLINEで返信し、親も子どももスマートフォンを見ながら夕ご飯を食べるといいます。そして子どもは、養護教諭にはいろいろ訴えるのに、「親とはあんまり話さないよ」と言うのだそうです。

国立青少年教育振興機構が実施した『インターネット社会の親子関係に関する意識調査』の報告書の中に、気になるデータがありました。

  • 家族が一緒にいてもそれぞれが自分の携帯電話やスマートフォンを操作していることがよくある」と答えた子どもが2割を超えている。「たまにある」と答えた子どもを合わせると半数以上にのぼった。
  • 親と話そうとするとき、親は『時間がない』『今忙しい』などと言う」ことが「よくある」「たまにある」と答えた子どもを合わせると約4割いる。
  • 親は携帯電話やスマートフォンを使用しながら私と話す」という質問には、「よくある」「たまにある」を合わせると半数近くにのぼった。
  • 上記の「親はスマートフォンを使用しながら私と話す」と答えた子どもの7割近くは、「親は真剣に私の話を聞いてくれることがほとんどない」と答えている。

 
こうした結果を見ると、いつの時代でも、しっかりと子どもに向き合うことの重要性を感じずにはいられません。また、五感を使ってコミュ二ケーションを取ることは、子どもが将来社会で生きていく力をつけるためにも欠かせないのではないかと思います。

まなびの保健だより12月号02

深刻な社会問題に発展することも……

また、コミュニケ―ション不足と同様に、“過保護・過干渉”も子どもの社会性を育てるうえで大きな弊害になります。

子どもが集団の中でストレスを強く感じずに生活していくためには、自分の思いを適切に相手に伝える力」「相手の思いや要求を受け止めて自分がどのようにしたいか判断する力」「思い通りにいかない場合でも我慢する力などの力がついていなければなりません。

そのためには、まずは家族の中でこのような力を育むことが大切です。親御さん自身も、自分の思いや考えをしっかり伝えたり、子ども自身に自分の考えを言わせたりする機会をできるだけたくさん作ってあげましょう。

今「不登校」と言われている子どもたちが小学生・中学生合わせて16万人以上、「ひきこもり」と言われている人たちが内閣府の調査で115万人と言われています。一概には言えませんが、不登校や引きこもりなど集団の中へ入っていくことができない人たちの中には、人間関係がうまくつくれないなど、社会の中で何らかの「生きづらさ」を感じています。

この問題は、少子化や核家族化、ネット社会と言われるような社会的要因が強く影響しています。しかしながら、ひきこもりと言われる人たちが社会の中で自立して生きていく力を取り戻していくためには、身近な人たちの関わりが重要です。このことを考えると、子どものときから、家族間での豊かなコミュニケーションや「社会性」を育てていくことはとても大切だと思います。

まなびの保健だより12月号03

親子のコミュニケーションで大事なこと

先にも述べましたが、子どもとのコミュニケーションをとるうえで大切なことは、まずは子どもの話に「しっかり心を向ける」ことです。子どもが話をしているときに、ほかのことを考えながら話を聞いていると、子ども自身は「聴いてもらえていない」と感じます。また、子どもの話を最後まで聞かないで、親の意見や考えを押しつけることで、「話しても仕方がない」「話すとかえって嫌な思いをする」と受け止め、次第に親と話をしなくなります。

まずは、子どもの想いに「共感」したうえで親の意見や考えを伝えるといいでしょう。もちろん、いけないことは「いけない」とはっきり伝えることも必要です。その場合でも、なぜダメなのかしっかり説明するなど、一貫性を忘れずに。同じ要求に対して、「あるときは “いい”・あるときは “ダメ”」と親の都合で変えてしまうと、子どもは何が正しいのかわからなくなります。

また、こんな親御さんがいらっしゃいました。「兄は素直で手がかからないのに、この子はどうしてダメなんでしょうね」と、当人の前で言うのです。兄弟と比べていい・悪いではなく、どのお子さんのいいところもしっかり見つけていくのが大切です。よくお子さんのいいところを3つ挙げてくださいと親御さんにお話しすると、先生、悪いところならすぐ挙げられるんですけど、いいところは見つけにくいですと言う方がいらっしゃいます。

普段から、悪いところではなくいいところをみつけて、それをしっかりお子さんに伝えてあげましょう。そうすることで、子どもたちは自分の良さを実感し、自己肯定感を高めていきますお子さんの自己肯定感をはぐくむようなコミュニケーションが取れるといいですね。

まなびの保健だより12月号04

“今しかない” 子ども時代。だからこそ真剣に向き合って

ここからは、親子のコミュニケーションについて寄せられたお悩みについて、お答えしていきたいと思います。

【親御さんからの質問 1】

忙しいときを見計らったように「聞いて聞いて」とくるので、「あとでね」と言うと「どうせ聞いてくれないくせに」と憎たらしいことを言うように……。ちゃんと聞いているつもりでしたが、子どもは聞いてもらっていないと感じていたのでしょうか? また、寝る直前のタイミングでもいろいろ話したがります。親としては、寝る時間が気になるため途中で切り上げることもありますが、夜に子どもが饒舌になるのは、何か理由があるのでしょうか?

親御さんは、夜の時間もやらなくてはならないことがたくさんあって忙しいですよね。そのため、子どもから話しかけられても「あとでね」と言ってしまったり、「早く寝てくれたら」という気持ちになってしまったりするのはとてもよくわかります。しかし、その気持ちが子どもに伝わってしまうと、子どもは「聞いて、聞いて」となかなか満足しません。夜に饒舌になるのは、その時間だと親御さんにしっかり向き合ってもらえると実感しているのかもしれませんね。

子ども時代は短いものです。この時期はほかのことが少々できなくてもOK。子育て第一!と開き直るぐらいで子どもに向き合うと、子どもは短時間でも満足することがあります。「時間をかける」ではなく「心をかける」でやってみましょう。

まなびの保健だより12月05

上の子と下の子、それぞれの子どもと向き合う時間を大切に

【親御さんからの質問 2】

上の子の習い事や受験にかかりきりになってしまい、下の子とのコミュニケーションがあまり取れていない気がします。気にかけてはいるつもりですが、本人は不満を感じているのでしょうか? どうしても時間をかけてあげられない場合、短い時間でも下の子が満足できる関わり方があれば知りたいです。

物理的な差は仕方がないかもしれませんが、ここだけは下のお子さん(上のお子さん)としっかり向き合う時間ということを意識して関わることが大切です。塾や習い事などのほかにも、兄弟の誰かが病気であるなどの場合も、その子どもに親の愛情がすべて持っていかれてしまい、淋しさを感じている子どもたちがいます。

このような状況においても、たとえ短時間でもさびしい想いをしているお子さんとしっかり向き合う時間をつくってあげてください。それだけでは満足できないかもしれませんが、常にあなたのことも気にかけているという心からの気持ちを伝えられるといいですね。

まなびの保健だより12月号06

ほかの親子と比較することは意味がない

【親御さんからの質問 3】

ほかの親子を見ていると、子どもにたくさん愛情(と時間)を注いでいるように感じます。私も子どももお互いにあまりベタベタしないので、愛情が足りているのか不安になることも。自立のためにと本人のことは本人に任せているのですが、もしかしたら「お母さん、私のことが大切じゃないのかな……」という不安を抱えているのでしょうか?

今の時代は、SNSなどでいくらでも子育てに関する情報が入ってきます。また、周りのお友だちを見ていると、自分の子育てが間違っているのではないかと不安に感じることもあるでしょう。

しかし、AさんとAさんのお子さん、BさんとBさんのお子さん、それぞれ性格も暮らしている環境も違います他者の子育てから学ぶことはたくさんありますが、比較するのはあまり意味がありません。お子さんが「Aちゃんのようにしてほしい」という要求があれば、それは聞いてあげてもいいのですが、「わが子はわが子」と自分の子育てに自信を持つことが大切です。

まなびの保健だより12月号07

知識より “知恵” をつけるために親としてできること

子どものコミュニケーション力の基礎は乳幼児期に培われますが、そのときにできていなくても、気づいたときに「大切なことは何か」を考えてやり直すことはできます。特に、まだ低学年のお子さんであれば、決して遅くて取り返しがつかないということはありません。

私は常々、子育ては「知識より、知恵が大切」と思っています。親御さん自身が多くの人たちと豊かなコミュニケーションを取り、その中で子育ての知恵をたくさんいただいてください。子育てには仲間づくりが大切です。

(参考)
独立行政法人 国立青少年教育振興機構|インターネット社会の親子関係に関する意識調査報告者〔概要〕 ―日本・米国・中国・韓国との比較―
文部科学省|平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒市道上の諸課題に関する調査結果について
内閣府|若者の生活に関する調査報告書(PDF版)
YAHOO!ニュース|内閣府調査の中高年ひきこもり「推計61万人」報告で見えた、人は何歳からでもひきこもる現実