学校から配られた課題一覧に目をとおし、なんとかテーマは決めたものの、なかなかどうしてここからが進まない……。
「ほら、早く描いちゃいなさい」「えー、何描いていいのかわからないよ」なんて、夏休みのポスターが面倒くさい宿題のひとつになっているご家庭も少なくないのではないでしょうか。
そんな悩みを解決すべく、今回は「楽しく描ける! 夏休みポスター制作」をご紹介します。
アドバイスをくれたのは、筑波大学で日本画を学び、現在は、海外で子どもたちに「絵を描く楽しさ」を教えているYUKA先生。ご自身も、9歳と4歳の男の子のママです。
親の手が入った絵は子どもを “失敗した気持ち” にさせる
ついつい、手も口も出したくなってしまう、低学年の夏休みのポスター。でも、絵に正攻法はないのです。だから、基本的には子どもの感性にまかせて描かせてあげるのが◎。「まずはね……」なんて、一から手順を説明しながらの制作は、あまりおすすめできません。
なぜなら、そうやって親の手が入った絵は、どんなに上手に描けたとしても、「親の言う通りに描かされた」と感じたり、「僕(私)の絵はダメだったんだ」と、子どもを失敗した気持ちにさせてしまったりするから。
そもそも絵を描くということは、創作活動ですから、子どもの好きなように描かせてあげるのが正解です。子どもの感性は、私たち親が考えている以上に豊か! 好きにやらせてあげれば、その子の感性はもっともっと育っていくはずですよ。それに、楽しく描く時間があるからこそ、次の創作活動への意欲も続くし、自分に自信も持てるのです。
とはいえ、「ねえ、何から描いたらいいの?」なんて質問があるかもしれません。今回はそんなときのための、“ちょっとしたコツ” をご紹介します。
過去の入選作品を鑑賞する理由とは……!?
まず、実際に描き始める前のポイントを。
<1>応募するコンクールを親子で決める
一学期最終日、学校から持ち帰ってきたプリントには、ズラ―っと応募可能なコンクールの詳細が書いてあるはず。お子さまと相談をして、どのコンクールに応募するかを決めましょう。「こっちのほうが描きやすいんじゃない?」なんてことは言わず、お子さまが描きたいものを選びましょう。
<2>コンクールの詳細や過去の入選作品を確認
子どもの作品がいくらすばらしくても、テーマ、生き物の選び方、画用紙サイズ、画材などが規格から外れてしまったら×です。募集要項をよく読んでおきましょう。また、昨年度の入選作品がネットなどで確認できる場合は、ぜひチェックして、どんなところがすてきか、親子で感想を語り合ってみてください。制作のヒントがたくさん隠されていますし、作品を鑑賞することで美術への興味が膨らむ機会になりますよ!
今回は、生き物の絵画コンクールを例に挙げてみます。過去の入選作品を見てわかったことをまとめてみました。
- 入選作品はどれも画用紙中央に大きく生き物が描かれている。
- 多少バランスが悪くてもいい。
- 生き物の特徴をしっかり描けている。
- 人気の生き物ではない。
- 実際の生き物を手にとって観察したことがわかる。図鑑丸写しではない。
- 絵がうまい必要はない。(※ここ重要ポイントです!)
<3>対象物を決める
もちろん、本人が描きたいものがあるときはそちらを優先します。しかし、「描きたいものがない」「何を描いていいのかわからない」などの場合は、「描きたくなるものを見つけるぞ~」と探しに出かけてみましょう。
せっかくなので、みんなが見過ごしがちな生き物(コンクールによっては、植物など)を探してみてください。その他大勢が描く生き物と被らないことは、なかなか目を惹くと思いませんか?
また、探し出した生き物は(可能であれば)自宅に持ち帰り、じっくり観察を。そして特徴を簡単にメモしておきましょう。メモはイラスト(スケッチ)でなくても、言葉でもいいですよ。親がメモしてもOKです。「背中の模様が顔に見える!」「見た目より羽がゴワゴワしてる」など、親子の会話で出てきた「生き物の印象や感想」も制作中のヒントになるのでメモします。このメモ作戦は、美大受験でも色彩構成の際に使うこともあるテクニックです。
想像力が必要なとき、このメモを見るだけであら不思議! その言葉からイメージがどんどん膨らんできますよ。制作中、子どもが行き詰まったときにも、最初のインスピレーションを思い出させる言葉として有効です。
すぐに使える【構図】【下図】【ぬり方】テクニック!
画用紙を目の前にして、サラサラと描ける子はとても少ないでしょう。子どもが迷ってしまったときは、そっと背中を押してあげるようなアドバイスをしてあげてください。
ここで気をつけていただきたいのは、あくまでも “アドバイス” だということ。絶対にこう描くべき、というのではありません。基本は、「子どもの好きなように」「子どもの感じたままに」描かせてあげてくださいね。
一番のポイントは、描きたいものを、できるだけ大きく、真ん中に持ってくること。このとき、絵を見た人に「何を伝えたいのか」を考えましょう。たとえば、「トンボが空にたくさん飛んでいるところ」であれば、とにかくトンボを数多く描いたほうが伝わります。
逆に、「トンボの目がどうなっているのか」を見せたいのであれば、画用紙いっぱいにトンボの目を描いてもおもしろいと思いますよ。ほかに、孔雀の羽の美しさを伝えたいのなら、羽に注力して1枚1枚描いてみてもいいですね。
それからもうひとつ、じゃんじゃん誇張して描いてヨシ! 生き物の特長や、描きたいものを目立たせたいと思ったときは「やりすぎかな?」と思うくらいドーンと描いてみるのがオススメです。
下書きは、最初から細かく描き始めないのがコツです。鉛筆を軽く持って、あたり(線で大まかな位置決めをする作業)をつけてから描きましょう。消しゴムで何度も消すと画用紙が削れてしまうので、できたら一発描きにチャレンジしてみよう、と提案してみてください。集中力をキープできます。うまく描けなかった場合は、練り消しを使うと◎ですよ。
そして、ときどき休憩を入れて「絵を離して見る」時間を作りましょう。夢中になって描いているときは、細かい部分しか見えていないことが多いので、客観的に作品を眺める機会を作るのです。画用紙の真ん中に描いてはいるけれど「なんだかたいぶ小さく描いてるな」といったときに、少し離れたところから絵を見てもらうと、全体を俯瞰で見られるので、描き足すべきところがイメージできます。
観察・感想メモを見返してもいいでしょう。このとき、親が無理やり中断させてしまうと、子どものやる気を削いでしまうので注意です。悩んで手が止まったときを見計らって、声をかけてあげてください。
また、「下書きは絶対!」としてしまうと、色を塗るときに「はみ出してはいけない……」と考えてしまったり、絵に勢いがなくなったりしてしまいます。制作途中でどんどん変えていくつもりで描き進めましょう。未就学児や小学校低学年であれば、クレヨンでの下書きもオススメ。クレヨンの油分は水彩絵の具をはじいてくれるので、にじむことなく簡単に塗り分けができますよ。
色の選び方やぬり方の正解はひとつではありません。たとえば、「メモにあった “ワクワク” って、どんな色が似合うかな?」と提案してみてください。色選びに悩む子どもの選択肢が広がると思いませんか? もちろん、何色を選んでも大正解! 自分で色を選ぶことで、「描かされている」という気持ちになりません。それに、我が子の “ワクワク” が何色なのか、親としても知りたいですよね。
あるコンクールの受賞作品は、なんと赤色で暑い夏を表現し、真っ青な水と対比させる大胆な配色でした。こういった色使いは、たくさんの作品を一度に見ている審査員が近寄って眺めたくなるもの。上手な絵を描く必要はないのです。空だって土だって海だって、いろいろな表情がありますし、見る人によっては感じ方も違います。子どもが選んだ色が「大正解」なのです。
子どもが一生懸命取り組んだ作品にはパワーがある
未就学児や小学校低学年の子どもにとって、作品を制作することは、とてつもない集中力とエネルギーを要します。ですから、途中で疲れてしまったり、飽きてしまったりするのは当然です。
そんなときは、描いている途中であっても、お子さまの作品のすばらしいところ、おもしろいところを “具体的に褒めて” あげてください。「上手だね」ではなく、「〇〇が本当に光っているみたいでいいね!」といった具合です。そして、「△△の特徴をもっと描き込んでみようか。お母さん見てみたいな」など、励ましながら制作を進めていきましょう。
ぬり間違え、はみ出し、思ったとおりの形が描けない――それらは決して失敗ではありません。親子一緒に試行錯誤してみてくださいね。できあがりの作品だけでなく、悩んで楽しむ時間もその子の成長にとって大事な時間ですから。
制作には根気がいります。だからこそ、うまい下手を超えて、一生懸命取り組んだ作品にはパワーがある。制作テーマについて、子どもとじっくり話し合ったり、実物を触って匂いをかいだり、テーマにまつわる歌を一緒に歌ったり、食材なら味見をしてもいいでしょう。
私たち親ができることは、子どもからテーマについての興味を引き出し、制作意欲を高めてあげること。刺激から得た情報を、絵に表現するならどうしたらいいのかを、隣で一緒に考えてあげること。そんなスタンスで子どもに寄り添ってあげると、その子の作品は自主性のある、気持ちのこもったすばらしいものになるはずです。
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夏休みのポスターに限らず、つい「上手に描けているかどうか」「正確に描けているかどうか」を気にしてしまう親御さまも少なくないでしょう。でも、子どもの感性で描いた作品が一番なのですね! 好きなテーマを楽しみながら表現できた子は、きっと「絵を描くこと」が大好きになるに違いありません。
今年のポスター制作が、お子さまにとっても親御さまにとっても、楽しい夏休みの思い出のひとつとなりますように。