子供の絵には、無意識の心理状態が表れると考えられています。大人が論理的に色や形を決めるのとは違い、まだうまく言葉にできない自分の感情を色使いやモチーフで表現している……というわけです。
お子さんの気持ちを絵から読み取れたら、親としては嬉しいですよね。そこで今回は、アートセラピーや色彩心理学の知見をもとに、子供の絵と心理の関係をご説明します。
子供が描く「太陽」にはどんな意味があるのでしょう? 絵と愛情に関係があるというのは本当なのでしょうか? 子供の絵から心理を読み解くコツをご紹介します。
子供の絵と心理の関係
そもそも、なぜ絵から子供の心理を読み取れるのでしょう? アートセラピストのアネット・ショア氏によると、子供の絵(アート)には、思考や感情が表れているそう。ショア氏は、美術教育学者ヴィクター・ローウェンフェルド氏の「絵の発達過程」や、発達心理学者エリク・エリクソン氏の「心理社会的危機」などの理論をもとに、子供の絵と心理の関係を次のように説明しています。
アート作品は子どもの発達を語り、それぞれの子ども独自の見方を反映する。(中略)歩くこと・話すことを学ぶといった、すべての子どもが共通して通る発達段階がある。創造性とアート表現にも、予測できる発達段階がある。
(引用元:アネット・ショア 著, 高橋依子 監訳, 高橋真理子 訳(2018),『子どものアートセラピー実践ガイド 発達理論と事例を通して読み解く』, 金剛出版. 太字による強調は編集部が施した)
絵には子供の個性が反映されているのはもちろんですが、共通しているものもあります。心理学者で児童画研究家のローダ・ケロッグ氏は、各国から集めた100万枚以上の線画を分析し、世界の子供に共通すると思われる「児童画の発達過程」を提唱しました。
ローウェンフェルド氏、ショア氏、そして子供の美術教育を専門とし別府大学短期大学部の教授を務めた野村正則氏による区分を参考にし、エリクソン氏の発達段階説も交えつつ、0~9歳における絵の発達過程を解説します。
錯画期(0~2歳)
0~2歳は「錯画(さくが)期」で、殴り描きの段階。前半と後半で特徴が異なります。発達段階では「乳幼児期」に該当。望みを叶えてもらうことで親などとの一体感を経験し、他者への基本的な信頼感が育つ時期です。
0~1歳
道具を握りこぶしで持ち、絵の内容をまったく意識せず、手や腕を動かすこと自体を楽しむ。表現方法は、点の集まりやジグザグ線など。絵の上に描いたり、境界を無視したりすることも。
0~1歳は、手や口への刺激を求める時期です。口に入れても大丈夫な道具を与え、絵を描きながらの全身運動を存分に楽しませてあげましょう。
1~2歳
紙の上で遊びながら描き、クレヨンやマーカーの偶発的な軌跡を見て楽しむ。意図的に丸や渦巻きを描くようになり、同じところを何度も塗り潰して遊ぶことも。
『絵を聴く保育 自己肯定感を育む描画活動』(かもがわ出版、2016年)の著者で保育アドバイザーの土居桃子氏によれば、子供の描く「ぐるぐる丸」を通して豊かな会話が生まれるそうですよ。みなさんも、「ぐるぐる丸」を身近なものに見立てたり、「何を描いたのかな?」と想像してみたりして、子供と一緒に楽しんではいかがでしょう。
命名期(2~3歳)
2~3歳は「命名期」。自分の絵を説明するようになります。発達段階では「幼児前期」にあたり、「自分でやってみよう」という自律性が育つ時期です。
画材を指で持ち、集中して描ける時間が増える。イメージしてから描いたり、描いたものに名前をつけたりするように。しかし、見ているものを描く段階ではない。
土居氏の経験によると、子供は自分の絵を通して大人とコミュニケーションするのを楽しみにしているそう。子供がお絵描きしていたら、「これは何かな?」などと声をかけ、返ってきた言葉をメモに残してみてください。貴重な記録になりますよ。
カタログ期(3~5歳)
3~5歳は「カタログ期」。知っている形を描くようになります。発達段階の「遊戯期」にあたり、好奇心のままに挑戦を繰り返して自発性や積極性を育む時期です。しかし、やりたいことを十分にさせてもらえないと、「やりたいようにするのは悪いこと」と罪悪感を覚えて描く意欲がなえてしまうので、注意してください。
丸のなかに目や口が現れ、「顔」になる。顔から直接手足が生えた「頭足人(とうそくじん)」も出現し、やがて胴から腕が出る人間を描くように。キャラクターをまねて描いたり、「友だちと遊んだ」「楽しかった」など経験・気持ちも表現。スーパーマーケットのチラシのように、時間や空間に関係なくさまざまな絵を並べて描くのも、重要な特徴。
カタログ期の子は、やりたいように好きなだけ絵を描ければ、「次はこんなふうにしてみよう!」と、どんどん積極的に描くようになりますよ。子供の表現が未熟に思えても、口を出さず応援しましょう。
図式期(4~9歳)
4~9歳は「図式期」。地面を表す線や太陽などを描き、位置関係を表現するようになります。発達段階では、ほぼ「学童期」と重なり、他人と自分を比べるようになる時期です。自分より優位な相手がいると、劣等感を覚えて活動をやめてしまうこともありますが、悔しさをバネに課題をやり抜けば自信が得られます。
丸・四角・三角・直線を組み合わせて人や家を表現する「絵記号」が発達。複数の絵記号で「図式画」を描くように。四季の行事や空想の世界を表現する。図式期の後半では、遠近法も理解するように。
このように、子供の絵には特定の発展段階があります。上記の基本を意識しつつ、絵に表れる子供の心理に目を向けてみましょう。
絵の色使いに表れる子供の心理
絵に使われた色は、子供の心理をある程度反映すると考えられています。しかし、教育者のローズ・アルシューラ氏らによると、絵の色使いからわかりやすい意味だけを抽出して子供の心理を安易に判断するべきではないそう。
子どもの色の選択が、個々の感情的な気質についてどれほど多くのものを明らかにしてくれるかということが分かった。しかしながら、(中略)包括的な分析と判断は(中略)絵画経験の色以外のあらゆる他の面との関係において行われなければならないことが明らかになった。
(引用元:ローズ・アルシューラ 著, ラ・ベルタ・ハトウィック 著, 島崎清海 訳(2002),『子どもの絵と性格』, 文化書房博文社. 太字による強調は編集部が施した)
「赤色で描いたから、この子は怒っているんだな」などと、簡単に決めつけてはいけないのです。
また、前出の野村氏は、発達段階によって絵の意味が変わってくると指摘しています。たとえば、「赤色での乱雑な塗り潰し」は攻撃的な感情の表れだと一般的に解釈されるものの、1~2歳児にとっては「健全な表出行為」なのだそう。その年齢だと、ストロークのような線を描くのは普通だからです。
絵の意味を誤解しないよう、年齢や性別によって色使いの傾向が変わることを把握しておきましょう。
発達段階ごとの色使い
子供の色使いは、発達段階ごとに異なるそうです。野村氏の研究を参考にご説明します。
【錯画期(0~2歳)】
コントラストの強い「赤」や「黒」に強く反応。1色のみで描く。
【命名期(2~3歳)】
彩度の高い「赤」や「黄」などの原色に反応。「水色」や「クリーム色」など、明度や彩度が中間的な色にはあまり反応しない。描く対象と色は関係なく、1~2色を使い線で塗る。
【カタログ期(3~5歳)】
色の違いがわかるようになり、すべての色を使ってみたくなる。しかし、依然として「赤」と「黒」を多く使用し、ほかの色を5~6色使う。描く対象と色の関係はほとんどなく、線で塗る。
【図式期(4~9歳)】
色を意図的に選ぶようになり、塗り潰す傾向が強くなる。空は「青」、葉は「緑」と、描く対象と色を結びつける傾向が強い。男女で色使いに違いが生じてくる。
性別ごとの色使い
上記のように、4歳頃から男女で色使いが違ってくるそうですが、どのように違うのでしょうか? 武蔵野大学名誉教授・皆本二三江氏の『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』(春秋社、2017年)を参考にご紹介します。
男の子
男の子は、違いがはっきりした色を組み合わせて、インパクトの強い絵を描きたがるそう。また、形を重視するため、色にあまり関心がなく、色数が少ないのが特徴。中間色は少なく、「赤と黒」だけの配色も多いそうです。
女の子
女の子は、「ピンク」「赤」「黄」「オレンジ」などの暖色系や、「水色」「黄緑」などのようなやわらかい中間色を好む傾向があるそう。また、自分の思いを色で表現するそうです。
色使いの意味
以上のような、年齢・性別による傾向を意識しつつ、色使いの一般的な意味を見てみましょう。色彩心理学者・末永蒼生氏の『絵が伝える子どもの心とSOS』(講談社、2010年)を参考にしています。
赤
「赤」で表現されているのは、好奇心や意欲、エネルギーの強さなど。怒りや不満といった強い感情を発散する効果があります。
黄・オレンジ
「黄」は、「甘えたい」「構ってほしい」など、温かさを求める心理と関係します。「オレンジ」は、とても活動的で、表現欲求が強いときに使われる色です。
青・緑
「明るい空色」は爽やかな気分、「鮮やかな青」は思考の働き、「深い青」は静かに自分の世界に浸りたい心理を表します。「緑」は、ゆったりしたいときや疲れているときに好まれる色です。
白・黒
「白」や「黒」のモノトーンは、感情が秘められた状態を表すそう。緊張やストレスを抑えていることもありますが、「黒」ばかりを使うからといって「性格が暗い」などということはないそうです。
学習面で観察などに集中し、知的な活動を優先している時期などは、黒一色で描くことがよくあるそう。緻密な作業に熱中する場合、色彩は邪魔になるため、モノトーンの絵が多くなります。
紫
やる気はあるが自信がない、不満や怒りを感じつつ我慢しているなど、矛盾した心理を反映するのが「紫」だそう。心身のバランスを取り戻そうとしているときに好まれる色です。
色彩の一般的な意味は、以上のとおりです。しかし、「色彩の意味は絶対的なものではない」と末永氏が述べるように、あくまで一般論。絵から子供の心理を想像する「材料のひとつ」に留めてください。
絵のモチーフに表れる子供の心理
絵の色使いだけでなく、描かれたモチーフにも子供の心理が表れています。代表的なモチーフである「顔」「目」「太陽」についてご説明しましょう。
顔
子供は線描による殴り描きを経て、正面向きの顔を繰り返し描くようになるそうです。子供の造形教育を専門とする宮﨑百合氏によると、子供は生後すぐから認識していた「自分を正面から見た顔」を絵で再現することで、自分と他人の区別を確認しているのだとか。横向きの顔を描くようになるのは、「目はふたつあるが、横を向くと片方の目が見えなくなる」という、3次元的空間認知が発達する6~7歳頃です。
子供の絵だと、太陽や花などに顔が描かれることも多いですね。人間以外のものが人間のように考えたり感じたりすると思い込むことを、「アニミズム」といいます。スイスの心理学者ピアジェ氏の発達段階論において、2~7歳にあたる「前操作期」の特徴です。顔が描かれた太陽や花は、人と同じように笑ったり悲しんだりする存在として、子供の感情を反映しているそうですよ。
目
前出の宮﨑氏によると、子供は顔を描くとき、目を最も重視します。目には、「警戒対象」「感情伝達手段」「魔よけ(呪術)」という重要な意味合いがあるからだそうです。
子供は、正面から自分に目を向けた顔を描くことで絵と視線を交わし、自他の区別を確認しているのです。大人気のキャラクター「ミッフィー」も、正面を向いてまっすぐ目を合わせてくれるところが、子供の心を引きつけているのかもしれませんね。
太陽
太陽は暖かい光の源であり、子供が育つエネルギーを与えてくれるもの。子供の絵に描かれた太陽には、さまざまな解釈があります。
日本児童画研究会の『原色 子どもの絵診断事典』(黎明書房、1998年)だと、太陽は父親のシンボルであり、太陽の位置は父親の存在感や愛情の程度を表すとされています。たとえば、太陽が画面の下のほうに描かれていたら、子供にとって父親の存在感や愛情が希薄である、ということのようです。
一方で末永氏は、太陽は父親だけでなく、母親や祖父母などを暗示する場合もあると語っています。自分に栄養を与えてくれる存在を、子供は太陽に見立てているそうです。
また、前出の皆本氏が、5~6歳の子供に太陽を描く理由を尋ねたところ、「わからない」「ないとダメなもの」と返ってきたのだとか。太陽がないと生きていけないことを子供は本能で知っているため、絵のなかにも太陽の存在を求めているのでは、と皆本氏は分析しています。
子供の絵に表れる色やモチーフの意味をご紹介してきました。そのまま自分の子供にあてはめたくなるかもしれませんが、子供自身の言葉や絵を描く様子、発達段階や性差も考慮する必要があります。子供の絵から心理を読み解く際は、総合的な判断が大切なのです。
子供の絵と心理の関係がわかる本
本記事でも参考にした、子供の絵と心理の関係がわかる本をご紹介します。
『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』
『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』は、武蔵野大学名誉教授で、美術教育を専門とする皆本二三江氏の著書です。国内外から集めた子供の絵をカラーで紹介しつつ、絵の発達過程、絵による気持ちの表しかた、表現の性差などをわかりやすく解説してくれます。「なぜ子供の絵の発達過程は世界で共通しているのか」という、興味深い壮大なテーマにも触れており、読み物としても楽しめるおすすめの一冊です。
『絵が伝える子どもの心とSOS』
絵から子供の心理を読み解く「子どものアトリエ・アートランド」の主宰者、末永蒼生氏の著書です。40年以上にわたる「アート・カウンセリング」の経験をもとに、実際の絵や事例を挙げつつ、親が抱きがちな疑問を解消してくれます。悩める子育て世代に向け、絵から子供の心理を読み解く方法がわかりやすく解説された、実践的な本です。
子供の絵と心理の関係がわかる講座
最後に、子供の絵と心理の関係を学べる講座をご紹介します。
チャイルドアートセラピー
子供の絵には、子供の気分や興味、発達状態のヒントがたっぷり詰まっています。言葉がおぼつかない幼い子の心理がお絵描きでわかったら嬉しいですよね。
「チャイルドアートセラピー講座」では、絵で子供の心理や発達の状態を読み解く方法が学べます。「ぐるぐる丸」を描く姿から気分を判断したり、絵を何かに見立てて一緒に遊んだりするスキルがあれば、子供とのコミュニケーションがもっと楽しくなりそうですね。詳細はぜひ、デジタルパンフレットでご確認ください。
色彩心理
本記事で解説した子供の絵の色彩と心理の関係について、より深く知りたい方には、ヒューマンアカデミーの「色彩心理講座」がおすすめ。色彩心理の基礎から応用まで学べます。詳しい内容をお知りになりたい方は、資料請求してみてくださいね。
ご紹介した講座で、絵から子供の心理を読み解くコツを学んでみてはいかがでしょうか。
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子供の絵の発達過程から、色やモチーフの意味、関連する書籍・講座まで、絵から子供の心理を知るのに役立つ情報をご紹介しました。ぜひ、みなさんの子育てにも取り入れてみてくださいね。
文/上川万葉
(参考)
ローダ・ケロッグ 著, 深田尚彦 訳(1971),『児童画の発達過程 なぐり描きからピクチュアへ』, 黎明書房.
皆本二三江(2017),『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』, 春秋社.
アネット・ショア 著, 高橋依子 監訳, 高橋真理子 訳(2018),『子どものアートセラピー実践ガイド 発達理論と事例を通して読み解く』, 金剛出版.
ローズ・アルシューラ 著, ラ・ベルタ・ハトウィック 著, 島崎清海 訳(2002),『子どもの絵と性格』, 文化書房博文社.
末永蒼生(2010),『絵が伝える子どもの心とSOS』, 講談社.
中山ももこ(2016),『絵を聴く保育 自己肯定感を育む描画活動』, かもがわ出版.
浅利篤 監修, 日本児童画研究会 編著(1998),『原色 子どもの絵診断事典』, 黎明書房.
久保貞次郎 編(1995),『色彩の心理 子どもの絵の心理的記録』, 文化書房博文社.
野村正則(1982),「幼児画における色彩的発達段階」, 別府大学短期大学部紀要, 1号, pp.81-89.
大場有希子(2019),「臨床心理学における子どもの描画に関して –相互交流としてのスクィグルを中心に–」, 京都大学大学院教育学研究科紀要, 65号, pp.123-135.
辻泰秀・山田唯仁(2017),「ヴィクター・ローウェンフェルドの美術教育研究:アメリカの美術教育理論と日本での受容」, 岐阜大学教育学部研究報告. 人文科学, 66号, 1巻, pp.81-92.
伊東留美(2014),「アートセラピーと美術教育についての一考察」, 人間関係研究, 13号, pp.139-152.
日本財団図書館|札幌市平成12年度子どもの感性を育てる表現研修会開催要項・テキスト
宮崎百合(2009),「子どもはなぜ顔を描くのか:~顔の描画における目の意味について~」, 鳥取短期大学研究紀要, 60号, pp.21-28.