子どもが夢中になるお絵描き活動。自由に手指を動かし、思いのままに表現する姿は、見ていて心が温まりますね。じつはお絵描きには、子どもの脳を活性化させるだけでなく、ストレス解消や自己肯定感を高める重要な効果があります。
この記事では、子どものお絵描きが持つ発達効果と、親が準備すべき道具・グッズ、そして子どもの創造性を育む見守り方のポイントを詳しくご紹介します。
目次
お絵描きが子どもにもたらす発達効果
まずは、お絵かきが子どもに及ぼす効果を解説します。
脳を活性化させる効果
お絵かきは子どもの脳に大きな刺激を与えます。「第二の脳」とも呼ばれる手や指を使うことで脳の血流量が増加し、自然と脳が活性化するのです。クレヨンをしっかり握ったり、色鉛筆を指先でコントロールしたりする動作が、脳の発達を促進します。
脳科学者の茂木健一郎氏によれば、お絵かきは家庭で簡単にできる「ドーパミン体験」の一つです。ドーパミンとは「脳内報酬」とも呼ばれる神経伝達物質で、楽しい活動をしているときに分泌されます。茂木氏は、子どものお絵描きについて次のように述べています。
幼少期のお絵描きは、脳の空間認識能力や表現力、あるいは想像力を鍛える最高の遊びです
(引用元:茂木健一郎(2017),『5歳までにやっておきたい本当にかしこい脳の育て方』, 日本実業出版社.)
お絵かきをしているときの「ワクワク感」には、脳を活性化させて意欲を高める効果があるのです。
ストレスを解消する効果
お絵かきには、ストレスを解消する効果もあります。2016年、米アートセラピー協会の機関誌『アートセラピー』上で、45分間のアート制作でストレスが大幅に軽減したとする実験が報告されたのです。
芸術療法「クリエイティブ・アーツセラピー」が専門のギリジャ・カイマル准教授(米ドレクセル大学)らによる実験には、39人の被験者が参加。約半数の18人は、アート制作の経験がほとんどない人たちでした。45分間のアート制作の前後に被験者のコルチゾール値を測定したところ、アート経験の有無に関わらず約75%の被験者でストレスレベルの低下が見られたそうです。
子どもが機嫌が悪いときや緊張しているときにお絵描きを提案すると、自然とリラックスできるかもしれません。
自己肯定感を強める効果
子どものアート活動は自己肯定感を高める効果もあります。子ども向けアート教室「アトリエ・ピウ」を主宰する今泉真樹氏によると、「自己肯定感はアートによって高められる」のだとか。
アートを生み出すには、「自分なりの試行錯誤」という、子どもにとってハードなプロセスが必要ですよね。そのため、自分の力でなんとか作品を完成させたとき、子どもは大きな達成感を得られるのです。「自分でできた!」という成功体験を繰り返すことで自信がつき、自己肯定感はどんどん強まっていくのだそうです。
子どもが苦戦していても、すぐに手を出さず「きっとできるよ」と励ましながら見守る姿勢が大切です。
子どものお絵かきグッズ【紙】
ここからは、子どものお絵かきに必要な道具・あると便利なグッズをご紹介します。子どもに十分なお絵描き体験を提供するには、気軽に使える紙の準備が欠かせません。コスト面と使いやすさを考慮したおすすめの紙をご紹介します。
APPJホワイトコピー用紙
子どものお絵かきには、コピー用紙がおすすめ。A4用紙を箱買い(500枚×5冊)すれば、1枚1円以下になることもあり、とてもお得です。A4以外にも、いろいろなサイズが選べます。
ポイントは、子どもが自分で取り出しやすい場所に収納し、自由に使えるようにしておくこと。「紙、ちょうだい」と呼び出されることがなくなり、とっても楽になりますよ。
コピー用紙は、さまざまに活用できます。数枚を折りたたみ、筆記用具と合わせてジップロックに入れれば、お出かけ用お絵かきセットの出来上がり。クリップでまとめれば落書き帳のようにも使えます。コピー用紙に描いた作品は、バインダーやクリアファイルで保存しやすいのもメリットです。
MÅLA モーラ お絵かき用ロール紙
お絵かきを全身で楽しみたいお子さんには、大きな紙がおすすめ。IKEAの「MÅLA モーラ お絵かき用ロール紙」は、30mで490円(税込)と、コストパフォーマンスに優れています。
広々と描けて、切らずに巻いたまま保存できるのも大きな魅力。筆者の子は、白紙にダイナミックな絵を描くだけでなく、自分の絵に丸を描き足したり、絵をわざと塗り潰したりする遊びにも夢中になっていました。
子どものお絵かきグッズ【クレヨン・色鉛筆】
クレヨンは、子どもに初めて与えるお絵かき道具の定番。それだけに、たくさんの商品があり、悩みますよね。また、色鉛筆は、子どもの力でも色がしっかり紙につくものを選んであげたいですね。色鉛筆には油性・水性、一般用・プロ用があり、メーカーによっても特徴が異なります。子どもが塗りやすく、発色がきれいで色のバリエーションが豊富な商品をご紹介しましょう。
サクラクレパス 水でおとせるクレヨン
クレヨンについて気になるのが、手や服にベタベタついてしまうこと。汚れが気になるなら、サクラクレパスの「水でおとせるクレヨン」がおすすめです。
「水でおとせるクレヨン」には、以下のような特徴があります。
- 体についても水で簡単に落とせる
- 原材料にミツロウを使用
- 力いっぱい握っても折れにくい
- 色名つきで片づけやすい
筆者の家庭では、いろいろなメーカーのクレヨンを用意していたのですが、子どもは「水でおとせるクレヨン」を選んでお絵かきすることが多かったものです。太めで握りやすく、力を入れなくてもグイグイ描けるので、扱いやすかったのだと思います。
また、手や表面がつるつるしている机にクレヨンがついたときも、水で簡単に落とすことができて楽でした。ただ、畳や衣類だと落ちにくい場合も。汚れたら困る場所は新聞で保護したり、汚れてもよい服を着せるなどしておくと安心です。
くれぴつ クレヨン お絵描きセット
「くれぴつ」は、赤ちゃんや小さなお子さまが安心して使えるように設計された日本製のクレヨンです。舐めても安全な素材を使用しており、手が汚れにくく、折れにくいのが特徴です。また、2023年にはキッズデザイン賞を受賞しています。初めてのお絵かきや知育遊びにぴったりのアイテムです。
万が一舐めてしまっても安心な原料を使用しており、手が汚れにくく、折れにくい設計で、小さな手でも持ちやすい形状です。ご家庭での知育遊びやファーストアート体験に最適です。
三菱鉛筆 色鉛筆880
三菱鉛筆の「色鉛筆 880」シリーズは、なめらかに描け、鮮やかに塗れる油性色鉛筆。塗ったところはつるつるするため、重ね塗りには向かないかもしれません。濃く、はっきりと塗りたがるお子さんにおすすめです。
- 12色・24色・36色のセット
- バラ売りあり
- お出かけにピッタリの「ミニ12色セット」あり
- 土色・灰緑・青磁色・エメラルド色・玉子色などユニークな色あり
トンボ鉛筆 色鉛筆 NQ
トンボ鉛筆の「色鉛筆NQ」シリーズは、サラサラした描き心地で、重ね塗りしやすい油性色鉛筆。色塗りが好きで、色と色を重ねたらどうなるか実験を楽しみたいお子さんにおすすめです。
- 12色・24色・36色のセット
- バラ売りあり
- お出かけにピッタリの「12色ミニ色鉛筆」セットあり
- ときわいろ・まつばいろ・なんどいろなどユニークな色あり
ファーバーカステル 色鉛筆
ドイツの老舗ブランド・ファーバーカステルの水彩色鉛筆は、水に溶かして水彩画のように楽しめる画材。小学生くらいの子どもに最適だという「カラーグリップ水彩色鉛筆」には、人間工学に基づく握りやすい工夫が施されています。左利きのお子さんや、「手が疲れるから色塗りは苦手」というお子さんにもおすすめです。
- 12色・24色・36色のセット
- 小さな子が握りやすい太めの「ジャンボグリップ」シリーズあり
- 右利きでも左利きでも使いやすい
- おもちゃに関するEUの安全規格「EN 71」をクリア
「カラーグリップ」の使用風景を収めた動画が公開されているので、ご覧になってはいかがでしょう。
子どものお絵かきグッズ【サインペン】
発色の鮮やかさが魅力のサインペンは、多くの子どもが好んで使う画材です。安全性と使いやすさを重視したおすすめ商品をご紹介します。
洗たくでおとせるサインペン
サクラクレパスの「洗たくでおとせるサインペン」なら、服についても洗濯で落とせ、机についたものは水拭きで簡単にとれます。姉妹品の「洗たくでおとせるふとふとマーカー」は、幼児が握りやすいよう太く短い軸なので、最初のサインペンとして最適ですよ。
ただし、壁やソファーなどにつくと、素材によっては落ちにくい場合も。お絵かきの前に、新聞やレジャーシートで保護しておきましょう。
ぺんてるサインペン
コストパフォーマンスに優れ、入手しやすい点でもおすすめなのが、日本の老舗文具メーカー・ぺんてるのサインペン。筆者は子どもが2歳前後の頃からサインペンを与えていたのですが、一番のお気に入りは「ぺんてるサインペン」でした。握り心地や描きやすさ、鮮やかな色がよかったのかもしれません。
子どもがサインペンに飽きてしまっても、親が普段使いできるのもメリット。ただし、手や衣類につくと簡単に落とせないので、要注意です。幼い子に使わせる際は、作業スペースを新聞などで覆い、汚れてもよい服を着せ、お絵かきのあいだは目を離さないのがよいと思います。
子どものお絵かきグッズ【収納ケース】
子どもにお絵かきさせるうえで悩ましいのが、画材や作品の収納場所ですよね。便利な収納ケースを用途別にご紹介します。
【紙】引き出し収納ボックス
A4サイズまでの紙置き場には「pos’deco(ポスデコ)」がおすすめです。引き出しが複数あるので、紙の種類ごとに収納可能。子ども自身で取り出せるので、親が用意してあげる手間を省けます。
【絵の具】収納ボックス
無印良品の「ポリプロピレン小物収納ボックス6段」には、色鉛筆・クレヨン・サインペンなど、絵具を分類して収納できます。半透明で中身が見えるのもおすすめポイント。お絵かきするときは、引き出しごと取り出し、そのまま絵具入れとして使えます。「クレヨン」など中身を書いたラベルを貼っておけば、お片づけの習慣も身につくでしょう。
同じく無印良品の「ポリプロピレン収納キャリーボックス・ワイド」もおすすめ。仕切りを取り外せるので、紙と文房具を一緒に入れることもできます。取っ手つきなので、子どもが好きに持ち運んでお絵かきできる、イチ押しのグッズです。
【作品】押入れケース
完成した作品を一時的に保管するなら、ニトリの「セレスFD 押入れケース ワイド浅型(S/高さ18cm)」が便利です。画用紙に描いた絵から立体物まで、大抵の作品は入るでしょう。半透明なので中身がわかり、出し入れが簡単なので、とりあえず作品を入れておく場所として最適です。いっぱいになってきた頃に、写真に撮ったうえで捨てるか、それとも残しておくか、お子さんと一緒に整理するとよいのではないでしょうか。
作品を長期的に保存するなら、ハット株式会社の「メモリアルボックス」がおすすめ。A2サイズの大きな紙に描いた絵や製作帳も入るので、とても便利ですよ。
以上、子どものお絵かきに必要な道具や、便利な収納グッズをご紹介しました。
子どものお絵描きを見守る親の接し方
子どものお絵描きを支援する際、親の接し方によって子どもの創造性や意欲は大きく変わってきます。以下に重要なポイントをご紹介します。
1. 色数の多い画材を選ぶ
子どものお絵描き用には、できるだけ色数の多い画材を選びましょう。幼い子どもの色彩表現には限りがあるため、多様な色から選べる環境が表現の幅を広げます。前出の今泉氏によれば、24〜36色くらいのセットが理想的とのことです。
多くの色に触れることには発達的意義もあります。武蔵野大学名誉教授の皆本二三江氏によると、音楽の「絶対音感」に相当する「絶対色感」という色彩感覚があり、これを獲得できる時期は幼児期に限られているそうです。
絶対音感も音名を知っていることが前提条件ですが、色と色名の関係もそれと同じです。そしてその色を覚える時期は、幼児期でなくてはだめなのです。
(引用元:皆本二三江(2017),『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』, 春秋社. 太字による強調は編集部が施した)
幼稚園児を対象にした実験では、ほぼ全員が1ヶ月程度で48色の色名を正確に覚えられたとのこと。幼児期の鋭い色彩感覚を活かすためにも、豊富な色数の画材を用意することが大切です。
2. 「上手」ではなく感想を伝える
子どもの絵に対して「上手だね」と繰り返し言うと、「上手く描かないとほめてもらえない」という思い込みが生まれる可能性があります。代わりに「私はこの色が好きだな」など具体的な感想を伝えるほうが効果的です。
子ども向けワークショップを手がける「かまゆみアート研究所」代表の鎌谷由美氏によると、子どもの絵を見るポイントは以下のとおり。
こ 「個性的な絵」
こ 「こどもらしい絵」
が 「画面いっぱいに描かれている絵」
よ 「喜びにあふれている」
し 「焦点がはっきりしている」
(引用元:All About|子供の絵画発達を見守る視点「こ・こ・が・よ・し」)
これらのポイントを意識して「この部分が細かくておもしろいね!」など具体的な感想を伝えることで、お子さんの「もっとお絵描きしたい!」という意欲を引き出せます。
3. 上手さより楽しさを重視する
子どものお絵描きでは、上手に描くことよりも楽しむことが重要です。なぜなら、絵には世界共通の「発達過程」があるからです。
たとえば、2歳頃の子どもは、紙の上で遊びながら描き、クレヨンやマーカーで偶然できた線や形を楽しむ傾向があります。大人には無意味な「ぐるぐる丸」や「塗り潰し」に見えるかもしれませんが、子どもはお絵かきを楽しみながら創造性を育んでいるのです。
鎌谷氏の言葉を参考に、子どものお絵かきを見守るうえで気をつけるポイントは以下の通りです。
- 技術的より描く楽しみを重視する
- 子どもの気分が乗らないのに無理強いしない
- 作品を絶対にけなさない
- 「上手」ではなく「きれいな空の色だね」など具体的にほめる
4. 「これ、何?」と聞きすぎない
お絵描きしている子どもに「これ、何?」と頻繁に質問するのは控えましょう。子どもは必ずしも具体的なものを想像して描いているわけではなく、手を動かす行為自体を楽しんでいることも多いのです。
子どもにとっては描くプロセス自体が重要で、完成した絵の意味には興味がないこともあります。よくわからない絵について質問攻めにされると、せっかくの楽しい気分が台無しになり、お絵描きへの意欲が低下してしまう恐れがあります。子どもの絵を理解できなくても心配せず、「子どもなりの方法で楽しんでいるのだから大丈夫!」と考え、楽しみを邪魔しないよう、好きなだけお絵かきに没頭させてあげましょう。
5. 必要に応じて描く手がかりを与える
自分から絵を描くのが苦手な子どもは、白い紙に不安を感じていることがあります。「手がかり」として植物や山の輪郭などを描いてあげると、安心してお絵描きを始められるかもしれません。
芸術教育学などを専門とする髙橋敏之教授(岡山大学)らは、2014年の『美術教育』誌上で、手がかりが幼児の絵画表現に及ぼす影響についての実験を発表しました。幼稚園の年長クラス80名を対象とし、白紙に描いた場合と、動物などの輪郭線がある紙に描いた場合を比較。白紙では絵を描けなかった子も、輪郭線つきの紙だと積極的に取り組めたそうです。
特に絵を描くことに消極的な子どもにとって、輪郭画用紙は活動の手がかりとなり、初回に行った自由画に表れたものよりもより豊かに自分を表現する傾向にあることから、輪郭線を糸口として表現の幅が広がることが明らかになった。
(引用元:小田久美子・高橋敏之(2014),「3つの輪郭線が及ぼす絵画表現への影響と比較」, 美術教育, 298号, pp.8-14. 太字による強調は編集部が施した)
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子どものお絵描きは、単なる遊びではなく、脳の発達やストレス解消、自己肯定感の向上など、多くの発達効果をもたらす重要な活動です。適切な画材と環境を整え、子どもの表現を尊重しながら見守ることで、お絵描きはさらに豊かな体験になります。
文/上川万葉
(参考)
茂木健一郎(2017),『5歳までにやっておきたい本当にかしこい脳の育て方』, 日本実業出版社.
皆本二三江(2017),『「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界』, 春秋社.
Fernandes, Myra A., Jeffrey D. Wammes, and Melissa E. Meade (2018), “The Surprisingly Powerful Influence of Drawing on Memory,” Current Directions in Psychological Science, Vol. 27, Issue 5, pp.302-308.
小田久美子・高橋敏之(2014),「3つの輪郭線が及ぼす絵画表現への影響と比較」, 美術教育, 298号, pp.8-14.
ハフポスト|絵を描くとストレスが減る。下手でもOKみたい(研究結果)
Kaimal, Girija, Kendra Ray, and Juan Muniz (2016), “Reduction of Cortisol Levels and Participants’ Responses Following Art Making,” Art Therapy, Vol. 33, No. 2, pp.74-80.
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※本記事は2021年1月21に公開しました。肩書などは当時のものです。