芸術にふれる/アート/デザイン 2020.8.27

創造的・批判的な感覚と思考を育むアート鑑賞「アーツ×ダイアローグ®」なら自分の意見が言える!

長野真弓
創造的・批判的な感覚と思考を育むアート鑑賞「アーツ×ダイアローグ®」なら自分の意見が言える!

ヨーロッパの美術館を訪れると、よく出会う光景があります。子どもたちのグループがひとつの絵の前に座って、熱心にその絵を見つめているのです。それは、欧米の美術学習で大事にされているアート鑑賞の時間。

日本でもじわじわと、アートが子どもたちにもたらす効果が注目されてきています。今回は、アートを通して「心豊かな社会」を目指す、NPO法人ARDAが開始した、オンラインでの「アーツ×ダイアローグ®」プログラム(対話型鑑賞)についてご紹介します。

アートで「読解力」や「観察力」が培われる

グローバル化が進む現代社会では、より多様性が求められるようになっています。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行氏が「多種多様な人たちがひしめく社会で、ひとつの正解を求める発想は役に立たない」と断言しているように、これからは、物事にはいろいろな見方があることを学ぶべきなのです。

アートは、まさに「物事のいろいろな見方」を学べるツール。だからこそ、教育業界だけでなくビジネスの世界においても注目されているのでしょう。『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』の著者である、東京藝術大学美術館館長の秋元雄史氏は、アートを通して「読解力」や「観察力」が培われるとし、欧米の美術学習の様子を以下のように語っています。

生徒たちは、美術館に行って作品を見ます。そして、自分なりにその作品のテーマを読み解き、自分は何を感じたかを論じる。そのようにして、子どもの頃から日常的にアートに触れるなかで、先に挙げた読解力や観察力が培われているのではないでしょうか。

(引用元:STUDY HACKER|アートに全然興味ない人は “3つの力” が伸びない。

このように、作品を見て、考え、感じたことを表現し合うことは、観察力や読解力を鍛える、とてもいいトレーニングなのです。また、作者の思いに触れることで感性も磨かれます。これらの能力は将来、勉強やビジネスの世界での創造性にもつながり、子どもたちの未来を切り開く大きな力となるでしょう。

アーツダイアローグ1

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アーツ×ダイアローグ®は「対話型鑑賞」

とはいえ、日本の図工や美術の授業では、絵を描いたり工作をしたりという内容がまだまだ多いと思います。しかし、日本にいても「作品を見て、自分が何を感じたかを話す取り組み」に参加することができますよ。それが、アーツ×ダイアローグ®です。

アーツ×ダイアローグ®とは、「アート作品と向き合って、自分の目や心や頭で感じたり考えたりしたことを言葉にする対話型鑑賞」のこと。

「アーツ×ダイアローグ®︎」は 知識に頼らず、作品をよく見ることからはじめ、「これは何だろう?」と一人ひとりに考えることをうながし、様々な意見を引き出しながら、作品の見方を深めていきます。芸術(アーツ)をテーマに、対話(ダイアローグ)を紡ぐことによって、クリエイティブ(創造的)でクリティカル(批判的)な感覚と思考を育みます。

(引用元:NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)|対話で美術鑑賞「アーツ×ダイアローグ®︎」

アーツ×ダイアローグ®は、アメリカ・ニューヨーク発の対話型美術鑑賞教育法「VTS(Visual Thinking Strategies)」などの知見を参考に構成されています。VTSは、1980年代にニューヨーク近代美術館の教育部部長だったフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏が開発しました。アート鑑賞を通して、「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する、新しい教育カリキュラムです。

そして、この「アート」の枠を超えた画期的な教育法は、欧米、中東、南米など各国の教育現場に採用されていきました。特に発祥地アメリカでは、300ほどの学校と100近くの美術館で導入されており、ハーバード大学医学部との共同プロジェクトも展開されています。

アーツ×ダイアローグ®の特徴は、鑑賞するだけでなく、思ったことをシェア(共有)すること。そのやり方について、次に詳しくご紹介します。

アーツダイアローグ2
川崎市岡本太郎美術館で子どもたちと(神奈川県大和市「対話による美術鑑賞」事業)

アーツ×ダイアローグ®の濃厚な1時間!

NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)が開催している、アーツ×ダイアローグ®は、通常、美術館や学校などで行なわれています。しかし、2020年夏からはオンライン鑑賞会もスタート。参加者は少人数、鑑賞会の時間は約1時間です。

子どもと美術館に行きたいけど、まだちょっと出かけづらい……そんな方も多いはず。自宅にいながら、作品の世界をたっぷり味わえるオンライン鑑賞会でのアーツ×ダイアローグ®をご紹介しますね。

【1】みんなで自己紹介
進行役であるファシリテーターから自己紹介を。「どんな発言も間違いではないからね」と、子どもたちに、優しく朗らかに語りかけます。次は子どもたちの番。ジャンケンで順番を決めて簡単に自己紹介します。 “全員はじめまして” に少し緊張していたかな?

【2】1つめの絵画鑑賞
8枚の絵や写真を鑑賞(※アート鑑賞ツール「SCOPE」を使用)。約15分間、じっくり絵を観て、気になる絵、好きな絵を1つ選びます。そして、ファシリテーターが、ひとりずつ、「選んだ絵」と「その理由」を聞きながら、子どもの視点を掘り下げていきます。

参加者:「山がきれいだから」
ファシリテーター:「山のどの部分がきれいだと思ったの?」
参加者:「白い線と、下のほうの色がだんだん変わっていくところがきれいだと思った」
ファシリテーター:「ほかにもこの絵が気になった人はいるかな? 手を挙げて教えてね」
ファシリテーター:「〇〇さんも山の絵が気になったんだね。それはどうして?」

ほかの子の意見を聞くことで視点を増やしていますね。大人も気づかないような、細かい部分に注目していたり、遠近法を知っていたり、子どもの絵を見る潜在能力の高さは想像以上!

【3】2つめの絵画鑑賞
ウェブ上の作品を画面共有して、『交通渋滞』(ノーマン・ロックウェル/アメリカ・1949年)を鑑賞します。狭い通りでトラックが立ち往生、トラックの前には犬が座り込み、周りには多くの野次馬がいるという絵です。2つめの作品にはストーリー性を感じるものが選ばれているのかもしれません。

ファシリテーター:「じっくり見て、この絵のなかで何が起こっているのか考えてみてください」
参加者:「犬がどかないから、バスの運転手さんが怒ってる」「犬がけがしてると思う」「このバスは赤くて背が高いからロンドンのバスだと思う」「まわりの人はなんで笑っているのかな?」「運転手さんは、右の人じゃなくて左の人だと思う」

たくさんの要素が描き込まれている絵のなかだからか、子どもそれぞれに着目点が違います。同じ絵を鑑賞しているのに、こんなにもいろいろな意見があるのかと驚きました。

【4】3つめの絵画鑑賞
最後は『フォリー=ベルジェールのバー』(エドゥアール・マネ/フランス・1882年)。バーカウンターの中央に目のうつろな女性がたたずむ絵。背後の大きな鏡には大勢の人々が映り込んでいる作品です。

まず、イギリス・ロンドンにある「コートールド・ギャラリー(Courtauld Gallery)」オフィシャルホームページのヴィジュアルツアー動画を使って、実際の美術館の展示の様子を味わいながら目当ての作品に進みます。前の作品もそうですが、ネット上の鮮明な作品画像を利用できるのもオンラインのメリットのひとつです。

そして絵をじっくり見たあと、それぞれ思ったことを発表します。この作品の「バーという設定」「鏡に映り込む人々」という少し複雑な構成は、理解が難しいぶん、より観察力と想像力が鍛えられたようです。

「女の人が疲れてる」「たくさんの人がパーティーをしていて、うらやましいと思ってる」「ワインを飲みすぎて変なことになっている」など、メインの女性の表情に注目が集まっていました。

2つめと3つめのどちらの絵の鑑賞の際も、ファシリテーターは、子どもが着目したことの根拠をたずねる質問を重ねていき、子どもたちにより深く考える機会を与えていました。このプロセスが、観察力、思考力、表現力の育成に大きく役立っているのですね。

【5】鑑賞会の感想を発表
「今日観た絵のなかで一番印象に残った絵」と「今日の鑑賞会の感想」を、ひとりひとりに聞きます。

「富士山の絵が一番よかった」
「人の意見がおもしろかった!」
「ほかの人の見方に納得した」
「作品がいろいろ見られておもしろかった」
「またやりたい!」

ファシリテーターによると、「小学3、4年生は、子どもながらのピュアな感性を保ちつつも、語彙力などの表現力が発達し始める時期なので、アート鑑賞会には最適」なのだそう。たしかに、最初は緊張していた子どもたちの、最後の生き生きとした表情がそれを物語っていました。

鑑賞会後、ファシリテーターより作品情報などがメールで届きます。それぞれの興味を “その先へ” つなげることができるでしょう。

対話型鑑賞会を見学して感じたことは、子どもは自分の体験や知っていることが想像のベースになるので、同じ絵でも、感じ方が違うようでした。また、別の子の「自分とは違うストーリー」を聞くことで、それぞれに気づきや知識を身につけていましたね。未知のことを、友だちから教わる貴重な機会にもなっていたようです。

アーツダイアローグ3

「積極的に発言しているわが子に驚きました!」

絵を見て、感想を言い合う1時間――子どもによっては「退屈してしまうのでは?」と思っていましたが、まったく逆でした。どの子もいきいきと発言し、楽しそうに参加していたのがとても印象的でした。実際に参加した子からは次のような声が届いていますよ。

【小学1-2年生の保護者の感想】
◆初対面の方たちの前で話すのは苦手かと思っていましたが、自分から話すことができていたので安心しました。どんどん鑑賞にのめり込んでいっているのを感じました。
◆「絵を見て自由に楽しむこと」を自然に感じて成長すると思う。また、「身のまわりに起きること」へも感性が豊かになる気がする。
◆知らない人とでも意見を交換することを、楽しむ気持ちや自信が生まれると思う。
◆大人だけの鑑賞も楽しかった。子どもと見方がまた違う点を知れたのがおもしろかった。

 

【小学3-4年生の保護者の感想】
◆学校では消極的でなかなか発言ができない子なのですが、手を挙げて発言しているのを見て驚きました。
◆とても楽しそうにやっていて、正直意外でした。普段も言いたいことはあるけど、まわりの雰囲気で言えないのかもしれないと思いました。オンラインのほうが安心感があって発言しやすいのかもしれないです。
◆発表や意見を言うのは、苦手だと思っていたので、あんなに話すことができるのかと驚きました。ファシリテーターさんの会話の包容力のおかげだと感じました。「否定されない」とわかったからか、途中から積極的になったような気がします。

 

【小学5-6年生の保護者の感想】
◆親が美術館巡りが大好きなので、親子でアートに関して話す機会がもっと増えると思います。抽象的なものから「なぜそれが好きなのか」ということを考え、自分の感情や思考を明文化するという作業や、人によって感じ方が違うものを見ることにより、多角的なものの見方ができるようになるのではと思っております。
◆案内を見て「対話型鑑賞」というのに興味をもち、参加。続けて参加できれば、「対話型鑑賞」を通じて、美術鑑賞を楽しみながら、自分の意見を言う力、人の話を聞く力を養うことができるのではないかと思う。

 

積極的な発言が苦手な子も楽しく話すことができたのは、ファシリテーターのサポートのおかげなのは間違いありません。「正解はない=間違いはない」と “怖さ” がなくなったとき、子どもたちの感性と表現は自由に解き放たれることを証明していますね。これは、とても深く、大切な気づきです。アート鑑賞でこの体験を繰り返すことで、その感覚が身につき、「生きる力」につながっていくのではないでしょうか。

アーツダイアローグ4

年齢に合わせた3つのプログラム

ワークショップには、年齢に合わせた3つのプログラムがあります。年齢に応じてアートを楽しむ工夫が盛り込まれたプログラムは、とても魅力的。ファシリテーターは美術の専門家なので、鑑賞の誘導導入や進行も的確で安心です。

小学1-2年生
「かりもの競争(絵に描かれているものをお家のなかから探して持ってくる)」など、遊び感覚でアートに親しみます。

小学3-4年生
たくさんのアートに触れ、作品についての自分の感想をシェアすることで、お友だちとアート鑑賞する楽しさを知ることができます。

小学5-6年生
一歩踏み込んで、ひとつのテーマを掘り下げます。ひとりの作家や、ひとつの作品をじっくり味わう贅沢な1時間です。

【ファシリテーターからのメッセージ】
「早く行きたいならひとりで行きなさい。遠くに行きたいならみんなで行きなさい。」という外国のことわざを聞いたことがあります。作品を見て感じる素直な気持ちを大切にしながら、「この気持ちってどこから来るんだろう?」と友だちと一緒になって考え、想像し、みんなでおしゃべりすることは、作品の魅力の奥深くにまで連れて行ってくれます。そして何より楽しい!! 答えのない問いを考え続けるおもしろさを教えてくれる芸術をかたわらに置くことは、人生を豊かにすると思います。対面の親密さはもちろん魅力ですが、オンラインならではおもしろさや、参加者の安心感も感じています。子どもにアートに親しんでほしい! と思ったら、まずは気軽に参加してみてください!

今後も定期的にオンラインワークショップが予定されていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

〇NPO法人 芸術資源開発機構
「2020年開催日程!小学1〜6年生の子ども美術鑑賞オンライン」

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美術館に行かずして、プロの手ほどきでアートに触れられる貴重なチャンスとして、ぜひアート鑑賞会体験してみてください!

(参考)
NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)
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