最近では、さまざまな生活様式の変化が起こっています。しかし悪いことばかりではありません。世界の美術館が始めた「ヴァーチャルツアー」などのオンライン鑑賞コンテンツは、時代の変化の賜物のひとつ。いまだ旅行もままならないご時世ですが、美術館の努力のおかげで、私たちは家にいながらにして、名画をじっくりと鑑賞することが可能になったのです。
「子どもが小さいので美術館は行きにくい」「子どもにアートのすばらしさを知ってほしいけれど、美術館が遠い」といったご家族にぴったりのサービスではないでしょうか。今回は、世界中の美術館をめぐってきた筆者が、オンラインアート鑑賞のメリットと、オンラインで楽しめる世界の美術館をご紹介します。
オンラインアート鑑賞「3つの魅力」
“本物の作品” を鑑賞するために、国内外の美術館へ足を運ぶ人は少なくありません。作品が放つエネルギーを体感し、美術館の雰囲気を味わうことも、アート鑑賞の楽しみです。一方で、オンライン鑑賞にしかない魅力もあります。
魅力1:いつでもどこでも無料で鑑賞ができる
まず、自宅から美術館への移動がありません。大きな荷物をもって、子どもと手をつないで、子どものトイレのタイミングなどを気にしながら電車を乗り継ぐのは、かなりの重労働ですよね。オンラインなら、その面倒な移動なしでアート鑑賞ができます。そして、休館日や開館時間ではない時間帯に鑑賞しても、美術館から文句を言われることもありません。鑑賞しているときに、お子さまが騒ぎ出してもまったく問題なし! しかも、無料です。
魅力2:とにかくじっくり鑑賞ができる
美術館が混んでいると、作品の前にひとり陣取って、長い時間鑑賞するのが難しいときがあります。また、建物の装飾や規制線などの関係で、作品と自分とのあいだに距離がある場合、細かな部分がよく見えないことも。でもオンライン鑑賞なら、30分でも1時間でも気がすむまで眺めていられますし、よく見たい部分は拡大して細部まで見ることが可能です。とにかくじっくり鑑賞できるので、美術館では気づかなかった作品のよさを発見できるかもしれません。
魅力3:自由な鑑賞ができる
ほとんどの美術館では、順路に沿って作品を鑑賞するでしょう。この順路は、作品のテーマを理解しやすいように工夫されています。また、展示作品の横にある解説文「キャプション」を読むことで、その作品の背景も学べます。とても親切ですが、これは鑑賞者にとって、“受け身” の鑑賞法とも言えるでしょう。一方、オンライン鑑賞は能動的です。好きな作品を、好きな順番で、好きなだけ鑑賞することができますよ。
【世界のおすすめ美術館5選】
世界には優れた美術館がたくさんあります。いまは、多くの美術館がウェブサイトをもっているので、気になる美術館があれば、気軽にのぞいてみることをおすすめします。また最近では、オンライン鑑賞に特化した “オンライン美術館” も登場しています。今回は、親子での鑑賞体験にぴったりな美術館を5つ紹介しましょう。
■ルーブル美術館(Louvre Museum)
ルーブル美術館のウェブサイト(英語)では、48万点以上ものアート作品を超高精細画像で堪能することができます。美術館ではいつも人だかりができていて、ゆっくり見ることが難しい『モナ・リザ』もひとりじめ。モナ・リザの表情や背景に隠された “謎探し” を楽しんでみてはいかがでしょう。
絵画以外の彫刻作品も豊富です。スポーツメーカーNIKEのロゴモチーフとなった『サモトラケのニケ』や、美術の教科書でおなじみ『ミロのヴィーナス』などもラインナップ。サイトは英語ですが、作者名や作品名で検索をすれば目当ての作品がすぐに見つかります。
また、館内をめぐる「ヴァーチャルツアー」は、「芸術と政治権力」「ダンス」などあらかじめテーマが設定されているので、初めてのオンライン鑑賞にぴったり。子ども向けページ「LOUVRE Kids」では、作品にまつわるアニメーション動画もありますよ。
■ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art 通称:MoMA)
現代アート美術館として人気が高いニューヨーク近代美術館は、「対話型アート鑑賞法」(*)を開発するなど、アート教育に熱心に取り組んでいます。ニューヨーク近代美術館のウェブサイト(英語)では9万点以上の作品が鑑賞可能。ピカソやシャガール、ルノアールなど巨匠の作品から、力強くユニークな作品が人気のバスキア、ポップアートの創設者であるアンディ・ウォーホール、そのほか新進気鋭のアーティストまで、幅広いコレクションが魅力です。
そして「子どものためのオーディオガイド」(※日本語選択可)は、ぜひ聞いてほしいコンテンツ。たとえば、ゴッホの代表作『星月夜』の特徴的な夜空や木がうねる筆づかいを、オーディオガイドでは「空は元気いっぱい。渦や色の波と一緒に動いている。自分の目で、空の渦を追いかけてみてね」と表現しています。お子さまの想像力が育まれると思いませんか? ぜひ親子で一緒に聞いてみてくださいね。
*…1980年代にニューヨーク近代美術館で開発された、学校教育現場を意識したアート鑑賞教育法。「観察力」「クリティカルシンキング(批判的思考力)」「コミュニケーション力」など、複合的な力が身につくとされています。
■メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art 通称:The Met)
創立150年の歴史をもつメトロポリタン美術館は、アメリカで一番の大きさとコレクション数を誇り、世界三大美術館のひとつにも数えられています。200万点以上の多種多様な作品群を1日で鑑賞するのは難しいでしょう。しかし、オンラインであれば、数日でも数ヶ月でも時間をかけて作品を鑑賞することが可能です。
注目すべきは「The Met 360° Project」。こちらはなんと、360度カメラを使って撮影されたYouTube動画。動画再生中でも画面を動かせば、床から天井までぐるりと見渡せるので、メトロポリタン美術館のアートと建築をじっくり堪能できますよ。たとえば、エジプト・ナイル川のほとりに建っていた遺跡『デンドゥール神殿』。メトロポリタン美術館内に移築した神殿のまわりに水を張り、象形文字に朝日が当たるよう大窓を配置するなど、オリジナルの環境を再現しています。一度は行ってみたいこのエリアも、「The Met 360° Project: The Temple of Dendur」でいつでも鑑賞することができます。
またメトロポリタン美術館は、アーティストや教育者、学生など、誰もが活用できるようにと、40万点以上のアート作品イメージを「Open Access at The Met」というサービスで無料ダウンロードできるようにしています。気に入った作品があればダウンロード後に印刷し、部屋に飾ってみてはいかがでしょう。
そして、子どものための「#metkids」もぜひ親子で楽しんでほしいコンテンツです。美術館全体のポップな地図「Explore the Map」上にある、赤や黄色の丸印をクリックして、気になる作品を鑑賞してみてくださいね。
■Google Arts & Culture
Google Arts & Cultureは、アートにまつわるあらゆるアクティビティを楽しめるオンライン美術館です。世界中の美術館とコラボレーションしており、10万点を超える作品を検索、鑑賞できます。
コンテンツの切り口もかなりクリエイティブです。たとえば、「ヴェルサイユ宮殿をあなたのものに」というヴァーチャルツアーでは、フランス王家のかつての館をめぐります。そのなかには「あなたは王家の誰に似ているでしょう?」という、質問に答えながら鑑賞を進めていく斬新なコンテンツも。
また、作家・時代・カテゴリーなど、あらゆる面からのアート検索が可能で、特にユニークなのが「色」による検索です。選んだ色の作品がまとめて目の前に広がり、その美しい画面を眺めているだけでも幸せな気分になります。お子さんと遊び感覚でいろいろと試してみてください。アートが身近に感じられますよ。
■オンライン美術館 HASARD
オンライン美術館 HASARDは、「アートをもっと身近にするために、『誰でも・いつでも・無料で』気軽に立ち寄れる場を提供したい」という思いからつくられました。展示されているアート作品すべてが “超” 高解像度の画像なので、パソコンやタブレットなど大きな画面での鑑賞がおすすめです。細かい筆の動きや色のグラデーションまで、しっかりと鑑賞することができますよ。
また展示は、企画展としてテーマに沿って公開されているので、まるで美術館で鑑賞しているような気分になるかもしれません。そして「Moving Painting」(動く絵画)シリーズは、有名絵画の背景が動くという、オンライン美術館 HASARDが提案する新しいアートの楽しみ方。「アートの楽しみ方は変わるもの。しかし、アートの魅力は変わらないもの」として、アートの楽しみ方に新しい可能性を見いだしています。
オンラインアート鑑賞には「おしゃべり」がおすすめ!
オンラインアート鑑賞にルールはありません。オンラインのメリットを活かして、とにかく自由にアートを体験することにつきます。ですが、オンライン鑑賞についてもし筆者からひとつだけ提案するとしたら、家族やお友だちと一緒に鑑賞して、お互いに思ったことや気づいたことを、“おしゃべり” してみてください。
対話型アート鑑賞法を参考にしてみてもよいでしょう。こどもまなび☆ラボでも、対話型アート鑑賞法について紹介している記事がありますよ。ぜひ読んでみてくださいね。
■『親子でアートを感じよう! 多様性の時代に必要な “生きる力” を育む「対話型鑑賞法」』
■『親子で絵を語ろう! おうちで楽しめる「対話型鑑賞」のやり方とアート素材の入手方法5選』
『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』の著者である、東京藝術大学美術館館長の秋元雄史氏は、「『人間力』も『読解力』も『観察力』もアートで培われる」と強調しています。有名な作品だけを鑑賞するのではなく、「食い散らかす感覚」で幅広いアートに触れるとよいそうですよ。
いつでもどこでも楽しめるオンライン鑑賞は、アート体験の新しいかたちとして、これからますます充実していくでしょう。「いつか実際の美術館に足を運んで、目の前で作品を鑑賞してみたい」という楽しみができることも、オンライン鑑賞のもうひとつの魅力です。ぜひ興味のある美術館をのぞいてみてください。
***
ピカソは言っています。
All children are artists. The problem is how to remain an artist once he grows up.
(すべての子どもはアーティストである。問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるかだ。)
(引用元:Pable Picasso|Famous Pablo Picasso Quotes)
アート鑑賞で、お子さまの秘めた力を伸ばしてあげられるといいですね!
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|親子で絵を語ろう! おうちで楽しめる「対話型鑑賞」のやり方とアート素材の入手方法5選
FIGARO|自宅にいながらアート鑑賞。世界の名美術館を尋ねよう!
Bunkamura|「ピカソとエコール・ド・パリ メトロポリタン美術館展」
STUDY HACKER|アートに全然興味ない人は “3つの力” が伸びない。
STUDY HACKER|ビジネスに必要な「直感」と「感性 」。アートを通して磨いていく方法があった!
Louvre
MoMA
The Met
Google Arts & Culture
オンライン美術館 HASARD
Pable Picasso
Pable Picasso|Famous Pablo Picasso Quotes