教育を考える/インタビュー 2025.6.23

子育てのゴールは「自立」にあり。グローバル教育の第一人者が「根拠のない自信」を重視する理由

子育てのゴールは「自立」にあり。グローバル教育の第一人者が「根拠のない自信」を重視する理由

親として子どもの将来についてしっかり考えているつもりでも、日々の忙しさのなかでは、食事の準備や片づけ、子どもの送り迎えに健康管理、宿題のサポートなど、目の前のやるべきことに意識が向かいがちです。ただ、そんな子育てにもいずれ「ゴール」が訪れます。「ゴールをしっかり見据えておかないと、誤った子育てをしてしまいかねない」と指摘するのは、米ハワイ州でバイリンガルスクールを運営する教育家の船津徹さん。船津さんの考える「子育てのゴール」、そこに至るために必要なこととはどのようなことでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

目指すべきゴールは、子どもを「自立させる」こと

冒頭から大きな質問になりますが、みなさんは「子育てのゴール」をどう考えていますか? なかには、大学受験がゴールだと考えている人もいるでしょう。以前であれば、その考え方も正しいといえたかもしれません。

強い偏差値至上主義のなか、しっかり勉強をしていい大学に入れば、いい企業に就職できました。そのまま年功序列制と終身雇用制に守られ、頑張って定年まで勤めあげれば、まずまずの人生を歩めたのです。

ところが、時代は大きく変わりました。そのきっかけのひとつは、バブル崩壊です。教育に携わる以前に金融機関に勤めていた私も、身をもってバブル崩壊を体験したひとりです。しかも、ちょうどそのタイミングで私にも子どもができたため、否が応でも子育てについて考えることになりました。

子育てに関しては、子どもが生まれた瞬間の状況だけを考えればいいわけではありません。将来的に子どもが社会できちんと活躍できるよう、想像力を働かせて20年先のことを考えながら行なわなければならないのが、子育てというものです。

当時の私が行き着いた答えは、「とにかく勉強だけさせておけばいいという時代ではなくなる」というものでした。バブル崩壊により、「なにが起こるかわからない」という現実を突きつけられたからです。いい大学を出て就職した企業だって、いつ倒産してしまうかわからないのです。

そう考えると、子育てのゴールについてひとつの形が見えてきます。社会環境がどのように変化しようとも、自ら人生を切り開いていくことができる子どもに育てること。つまり、「自立させる」ことこそが、子育てのゴールだと思うのです。

背中合わせに立っている姉と弟

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子どもの自立に必要なのは、「知識」と「技能」

子どもが自立するには、なにが必要でしょうか? そのひとつは、生きるための「知識」です。先に、「勉強だけをさせておけばいいわけではない」とお伝えしましたが、「勉強だけ」では不十分ということであって、勉強が必要ないということではありません。

生きていくために必要な知識というものは、やはりきちんと身につけなければならないでしょう。あるいは、自分がやりたいことを追求したり新たなものをつくったりするにも、ゼロからの独学だけではなかなか難しいものです。先人たちが遺してくれた知識をしっかりと吸収したうえで、自分なりの思考力や創造力を発揮する必要があります。

そして、生きるための「技能」もまた、子どもが自立するにあたって必要なものです。ひとことで技能といってもさまざまですが、これからの時代にもっとも重要なものとなると「コミュニケーション能力」だと私は考えます。

生きるために必要不可欠の仕事が人とのかかわりのなかで成り立っている以上、コミュニケーション能力は間違いなく必須の技能です。他人と信頼関係を築くためのヒントをAIが与えてくれることはあるかもしれませんが、信頼関係そのものをAIが築いてくれるわけではありません。

そして、子どものコミュニケーション能力にもっとも大きな影響を与えるのが、親子関係です。考えてもみてください。親と仲がよくない子どもが、家庭の外でいい人間関係を築けるでしょうか? もしかしたら、嘘をついたり偽りの自分をつくったりして、表面的に人と仲良くすることはできるかもしれません。でも、そういう嘘はすぐにバレてしまうものであって、本当の意味でのいい人間関係は築けないでしょう。

ですから、まずは子どもと良好な関係を築くことを強く意識してください。子どもは、どのような場面でどのような言動をするのかなど、親の姿を見て学んでいます。そうして学んだことを、幼稚園や小学校という外のコミュニティーのなかで実践しながら、自分なりのコミュニケーションの術を身につけていくのです。そのため、ベースにある親子関係が良好な子どもは、家庭の外でも比較的いい人間関係を築ける傾向にあります

男の子を抱きしめるお父さん

「根拠のない自信」を得られれば、「自立」に近づける

また、そうしたいい親子関係を築くためにも、子どもに「自信」をもたせることを考えてほしいと思います。自信には、「根拠のない自信」「根拠のある自信」があります。前者は、乳幼児期に親からの愛によって得られるものです。

親が子どもに対して、「あなたが大切」「あなたには価値がある」「私はあなたの味方だ」といった愛を伝え続けることで、子どもは「なにがあっても、お父さんやお母さんは私を守ってくれる」と考えるようになります。

そのように、自分の存在そのものに対する自信を与えてくれる親に対して、信頼を寄せない子どもはいません。こうして、親子関係はいい方向に向かっていくのです。

そして、根拠のない自信を得た子どもは、学童期以降になると「根拠のある自信」も身につけていきます。根拠のない自信によって、「もしなにかに失敗しても、お父さんやお母さんは私を絶対に否定しない」「必ず守ってくれる」と考えるため、いろいろなことに積極的にチャレンジを続けることができるからです。

チャレンジを続けていれば、ときには失敗を経験しながらも、同時に成功体験も積み上げていくことができます。そこから、「私にはこれができた!」という根拠のある自信を得ることができます。これは、根拠のない自信をもっていないためにチャレンジできない子どもには絶対に得られないものです。

さらに、その自信は「やる気」も生み出します。「私にはきっとこれもできるだろう」「今度はこういうこともやってみよう」と、周囲からなにか言われるまでもなく自ら動ける人間になれるのです。つまり、子育てにおいて最終的に目指すべきゴールである、子どもの「自立」にぐっと近づけるということなのです。

船津徹先生

「強み」を生み出す育て方
船津徹 著/ダイヤモンド社(2023)
強みを生み出す育て方

■ 教育家・船津徹先生 インタビュー一覧
第1回:子育てのゴールは「自立」にあり。グローバル教育の第一人者が「根拠のない自信」を重視する理由
第2回:一生変わらないからこそポジティブに伸ばす。「気質」に着目することで、「我が子らしさ」は生まれる(※近日公開)
第3回:子どもの才能は「5つの領域」にあった。わが子の「強み」の見つけ方・伸ばし方【診断シートつき】(※近日公開)

【プロフィール】
船津徹(ふなつ・とおる)
1966年8月18日生まれ、福岡県出身。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育会社に勤務。その後独立し、米ハワイ州に移住。2001年、ホノルルにTLC for Kidsを設立。世界で活躍できるグローバル人材を育てるための英語教育プログラム「TLCフォニックス」を開発。同プログラムは全米25万人の教師が加盟する「OpenEd」で第2位にランクイン。25年間で延べ5000名以上のバイリンガルを育成。同校の卒業生の多くがハーバード大学、イェール大学、コロンビア大学、ペンシルバニア大学、東京大学など世界トップ大学へ進学しグローバルに活躍している。著書に『強みを生み出す育て方』(ダイヤモンド社)、『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の<英語力>の育て方』(大和書房)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。