教育を考える 2019.10.31

「認める」ことが、子どもの健全な自己肯定感を育む第一歩

「認める」ことが、子どもの健全な自己肯定感を育む第一歩

近年、教育界では「褒めて伸ばす」ことの重要性がしきりに叫ばれています。ですが、むやみに褒めることに潜む危険性を指摘し、「なによりも親が子どもを『認める』ことが大切」と説くのは、子どものコーチングに造詣が深いビジネスコーチの石川尚子さん。子どもを「認める」とは、具体的にどんな言動で行えばいいのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

人が見ているところだけで頑張る子ども――

自分の人生を自分の足でしっかり歩んでいける人間に子どもを育てるには、なによりも親が子どもを「認める」ことが大切です。親が子どもを認めることで、子どものなかには揺るぎない自己肯定感が育まれるからです。

とくに最近は、「褒めて伸ばす」ことの大切さがしきりに語られます。でも、この「褒める」という行為はなかなか難しい。なぜかというと、「褒める」には、「よくできたね」「上手にできたね」というふうに評価をする」「ジャッジするというニュアンスが含まれるからです。

もちろん、褒めることが総じて悪いことだといいたいのではありません。ただ、テストで100点を取れたとかかけっこでいちばんになったとか、「なにかができた」というときに褒めてばかりいると、子どもからすれば「なにかができないと評価をされない」「なにかができない自分には価値がない」という意識を持ちはじめてしまいます。

なにかができなければ親から愛してもらえないというのは、子どもにとって非常に危うい状態です。その危うさが、最終的には褒められなければなにもやらなくなったり、人が見ているところだけで頑張ったりするというようなゆがみを子どものなかに生むことにもつながります。

子どもを抱きしめ、名前を呼んであいさつをするだけでいい

一方、認めることには、なにかができたということなど必要ありません。子どもの存在そのものを肯定すればいいのです。「あなたが生まれてきてくれただけでわたしたちはうれしい」と伝える。それが、子どもを認めるということです。

この親に認められる体験が不足してしまうと、子どものなかには健全な自己肯定感が育まれません。仮に自己肯定感が育ったとしても、それはいびつな自己肯定感という場合もあります。さまざまな成功体験を通じて「自分はすごい」と自分に対する肯定感を持っていたとしても、「他の人は間違っている」と他人を認められず、ときには人の意見を聞かずに攻撃するということも考えられます。そういう人間が、社会のなかで他人としっかり人間関係を築いて生きていくことは難しいでしょう。子どもをそんな人間にしないためにも、子どもを認めることを意識してほしいと思います。

では、子どもを「認める」とは具体的にどんな言動で行えばいいのでしょうか。それは、とても簡単なこと。ただぎゅっと抱きしめるだけでもいいのです。これが「あなたのことをちゃんと見ているよ、気にかけているよ」という気持ちを伝えることになります。

もちろん、それは言葉にしてもいい。とはいっても、直接的な言葉である必要はありません。朝、子どもが目を覚ましたら、「○○ちゃん、おはよう」と名前を呼びかけてあいさつをするのです。その反対は無視することですよね。その場に子どもがいるのに声をかけないというのは、子どもが存在していないといっているのと同じです。逆にいえば、ただ名前を呼んであいさつをするだけでも、十分に子どもの存在を認めることになるのです。

親自身が前のめりにならず冷静になることが大切

重要なのは、親の子どもに対するかかわり方です。生きていれば、テストでいい点を取れなかったとかスポーツの試合で負けたとか、子どもなりに思い通りにならないことはいくらでもあります。それは子どもにとってはマイナスのことでしょう。でも、そこで親もマイナスのことだと決めつけてはいけません。まして、「どうしてテストでこんな点を取ってきたの!」なんていうことはご法度。

そうではなくて、「今回、どうだった?」「いま、どう思ってるの?」と、淡々と質問をしてみてください。仮に子どもが落ち込んでいたとしても同情する必要はありません。「そうなんだ」とただ受け止めてあげればいい。そして、「どうすればよかったと思う?」「次に生かせることってなにかな?」と建設的に対応するのです。

その体験は子ども自身にとって大きな価値を生みます。その一連の体験によって、自分自身で失敗を受け止め、乗り越え、次の機会に好結果を生むための方法を考えるというセルフコーチングが徐々にできるようになるからです。

そう考えると、親が冷静になることこそが大切なのかもしれませんね。どんな親も我が子のことは心配ですし、いい子に育ってほしいと願っています。だからこそ、子どものやることに対して前のめりになり、子どもがなにかに失敗してしまった場合には過剰に同情したり、逆に励ましのつもりで強い言葉で叱咤したりすることもあるのでしょう。そうではなく、親自身が冷静になり、「本当は自分で考えられるんだよね?」というスタンスで子どもに接してほしいと思います。

言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉
石川尚子 著/柘植書房新社(2019)

■ ビジネスコーチ・石川尚子さん インタビュー一覧
第1回:子どもの答えを引き出す「コーチング」――我が子を本当に信頼していますか?
第2回:「認める」ことが、子どもの健全な自己肯定感を育む第一歩
第3回:子どもに揺るぎないパワーを与える、親が子どもの話を「聴く」ということ
第4回:子どもの自己肯定感を高め、親子関係を良好にする魔法の言葉

【プロフィール】
石川尚子(いしかわ・なおこ)
1969年生まれ、島根県出身。ビジネスコーチ、株式会社ゆめかな代表取締役。1992年、大阪外国語大学外国語学部卒業後、株式会社PHP研究所入社。研修局において企業研修・講演会の企画・運営、研修コース・教材の開発・制作、研修講師を担当。2002年、同社を退社してビジネスコーチとして独立。2003年、高校生の就職支援活動に携わった経験から教育分野へコーチングを普及する活動をはじめる。2008年、株式会社ゆめかなを設立して代表取締役に就任。現在は、経営者、起業家、管理職、営業職へのパーソナル・コーチングを行う傍ら、コミュニケーションスキルの向上、夢をかなえるコミュニケーション、自発的な部下の育成、子どもの本音と行動を引き出すコミュニケーションなどをテーマにしたコーチング研修、コミュニケーション研修の講師として活動中。小中学生、高校生、大学生から企業の経営者まで幅広い対象に講演活動を行う。著書に『コーチングで学ぶ「言葉かけ」練習帳』(ほんの森出版)、『オランダ流コーチングがブレない「自分軸」を作る』(七つ森書館)、『子どもを伸ばす共育コーチング 子どもの本音と行動を引き出すコミュニケーション術』(柘植書房新社)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。