親の目が届かない場所で、自分の子どもがどのように振る舞っているのか気にならない人はいないでしょう。家ではわがまま放題なのに、先生から「いつもいい子にしていますよ」などと言われてしまうと、わが子ながら「本当に!?」と疑ってしまいますよね。逆に、家ではいい子なのに、園ではトラブルばかりで頭を悩ませている親御さんもいるのではないでしょうか。
大人でも子どもでも、家のなかで家族に見せる顔と、学校や会社で他人に見せる顔は違うものです。今回は、「家ではわがまま・外ではいい子」パターンと、「家ではいい子・外ではわがまま」パターンについて、その特徴や原因を考えていきます。
「外ではよい子、家ではわがままな子」は心が満たされている
家にいるわが子は、ダラダラしていたり騒がしかったりと、わがままでだらしない姿が目につきます。「うちの子、外でもこんな調子だったらどうしよう……」「まわりの子に迷惑かけていないかな……」と不安が募りますが、先生やほかの保護者からは「〇〇くん、とっても優しくて人気者ですよ」「△△ちゃん、しっかり者でお友だちから頼りにされていますよ」と意外な評価が――。
親としては戸惑いますが、このような「外ではいい子」なのに「家ではだらしない・わがまま」なケースはまったく問題ありません。
玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友氏によると、「子どもにとって園は『社会』」であり、「家に帰ってくるころには、とても疲れている」「家がほっとできる場所だからこそ、甘えが出てくる」のだそう。(カギカッコ内引用元:すくコム NHKエデュケーショナル|幼稚園から帰るとわがままになる。どうしたらいい?)
また『1人でできる子が育つ 「テキトー母さん」のすすめ』(日本実業出版社)の著者・立石美津子氏も同様に、友だちにおもちゃを取られたり、給食で嫌いな食べ物が出てきたりと、集団生活はストレスがたまるとし、「そのストレスを発散してママにわがままを言って日中の緊張感を取り去る休息の時間が必要」だと述べています。ストレスを吐き出す場所があるからこそ、外では落ち着いていられるのでしょう。(カギカッコ内引用元:exiteニュース|家でイイ子なのに「外で態度が悪い子」、実は家での●●が原因だった!?)
そしてこのような子どもは、家で親にしっかり話を聞いてもらっていて心が満たされているので、「園では園の楽しいことをしたいと思っている」と述べるのは、『わが子が幸せになるために必要な3つの力』(幻冬舎)の著者で、幼稚園の理事長を務める山﨑拓史氏です。山﨑氏によると、家でたっぷりと気持ちを受け止めてもらっている子は、「一歩外に出たときに、生き生きと活動できる」ので、「園では余計なアピールをしません」とのこと。(カギカッコ内引用元:幻冬舎GOLD ONLINE|家ではおとなしいのに…「外で暴走してしまう子」の共通点)
わざと悪いことをして大人の気を引いてみたり、先生をひとりじめしようとしたり……そんな “余計なアピール” をする子どもを見かけたことはありませんか?
どうやら、家でどのように親と関わり合うかによって、心の余裕に大きな違いが生まれるようです。次項では、「外ではよい子、家ではわがままな子」の逆パターン、「家ではいい子」について考えてみます。
超危険! 「家だけいい子」の特徴とその原因
注意すべきは “家ではいい子なのに外では……” というケース。たとえば、次のような子です。
- 保育士や先生の関心をひとりじめしようとする
- わざと先生や友だちを困らせるようなことをする
- 大人が見ていないことを確認してから友だちに意地悪をする
- 思い通りにならないとすねて、絶対に自分の主張を曲げない
- 人気者や大人からほめられる子への嫉妬が強く、攻撃的
立石氏によると、保護者に上記のような状況を伝えると、ほとんどの親御さんが驚きの表情を浮かべるのだそう。それだけではなく、「家では一切そんなことはしないです。周りのお友達が○○ちゃん(=自分の子ども)に何か嫌なことしたからでは?しっかり見ていて頂けますか」と反論されてしまうことも多いのだとか。(カギカッコ内引用元:exiteニュース|家でイイ子なのに「外で態度が悪い子」、実は家での●●が原因だった!?)
なぜこのように、家と外で別人のようになってしまう子がいるのでしょう?
原因1:親のしつけが厳しすぎる
立石氏は、親がしつけに一生懸命になるほど、子どもは “唯一の甘え場所” を失って、家庭内で自由に感情を発散できなくなってしまい、そのストレスを外で発散してしまうと注意を促しています。しっかり育てなければ……というプレッシャーから、わが子を管理しすぎている親御さんは要注意です。
家庭教育アドバイザーの柳川由紀氏も、「嫌がることをする、繰り返し困らせるいたずらをする、という場合、その子どもは望んだことを満たされずに育ってきた可能性」があると指摘しています。親のしつけが厳しすぎて、子どもの欲求が日常的に押さえつけられている場合、幼ければ幼いほど、ほかの大人に甘えるようになるそうです。(カギカッコ内引用元:MAG2NEWS|家ではいい子、外では攻撃的。いたずらな子どもにある「不満」とは?)
そんなやり場のないつらい気持ちを、親の目の届かない園や学校で発散し、衝動的に暴れてしまうことも。明治大学教授で臨床心理士の諸富祥彦氏は、著書『「プチ虐待」の心理』(青春出版社)のなかで「厳しすぎる親に育てられた子どもは、親のことを心底恐れ、家では常に緊張を強いられるため、『家ではいい子』として生活している」と述べています。そして彼らは、「いい子じゃない姿」を保護者に知られることをとても恐れているのです。
原因2:親に十分手をかけてもらっていない
児童精神科医の故・佐々木正美氏は、「親に十分に愛され、たくさんの手をかけてもらっている子どもは自信があるため、外でしっかりと振る舞える」のに対し、「家で十分手をかけてもらっていない子どもは、外ではいい子になれず、他人に手をかけさせることになってしまう」と、著書『子どもが喜ぶことだけすればいい』(ポプラ社)で述べています。
みなさんのまわりにも、やけに大人にばかりかまってほしがる子はいませんか? 前出の山﨑氏が数名の職員に「家だけいい子」についての話を聞いたところ、「(家で)YouTubeをたくさん観ているようだ」という共通点がありました。なかには、食事中おろか入浴中にまで動画を観せているという家庭も……。その子たちは、「聞いて聞いて!」と保育士をひとりじめしては、YouTubeの話ばかりするとのこと。
そして親たちは「家ではおとなしい子なのに……」と一様に驚くのだそう。山﨑氏はその原因を「親との会話が少ないから」と分析しています。
親の前で聞き分けが良いのではなく、親との会話が圧倒的に少ないために、自宅でのトラブルが少ないというのが本当のところでしょう。(中略)友達とケンカして嫌だった気持ち、先生に褒められて嬉しかった気持ち、それらを誰にも受け止めてもらえていないから、園で気持ちを爆発させてしまうのです。
(引用元:幻冬舎GOLD ONLINE|家ではおとなしいのに…「外で暴走してしまう子」の共通点)
YouTubeに限らず、スマートフォンを渡して子どもをおとなしくさせる「スマホ・ネグレクト」が、「家ではいい子・外ではわがまま」の原因になっていると、諸富氏も指摘しています。親に長く無視され続けると、本来育むべき子どもの「心」の健全な発達に必要な基盤が形成されません。その結果、人への不信感から長期的な信頼関係が築けず、人間関係がうまくいかないまま成長していくことになってしまうのです。
わが子を「家だけいい子」にしない子育て方法
わが子を「家だけいい子」にしないためには、どのようなことを意識するとよいのでしょうか。
1. 子どもをたっぷり甘えさせる!
お茶の水女子大学人間発達教育化学研究所教授の宮里暁美氏は、「子どものわがままは、親に甘えたい気持ちの表れ」とし、何回もだっこをおねだりしてくるなど、そのやりとりのなかで子どもは交渉力を身につけていくのだそう。忙しいときに相手をするのは大変ですが、「もう一回だけおまけだよ」など、子どもとの会話を楽しんでみましょう。「甘えを受け止めてもらえることが、外での頑張る力になる」と大豆生田氏も話していますよ。(カギカッコ内引用元:すくコム NHKエデュケーショナル|幼稚園から帰るとわがままになる。どうしたらいい?)
2. 子どもの気持ちを尊重する
「親が子どもの気持ちと向き合い、正直な気持ちを受け止めてあげることが大事」と諸富氏が『「プチ虐待」の心理』のなかで述べているように、子どもの感情を押さえつけたり、親が望む方向へと誘導したりすることは、家の外で感情を爆発させることにつながります。「嫌なら嫌って言っていいよ」「つらいときは泣いてもいいんだよ」と、子どもの正直な気持ちを尊重してあげましょう。そして親自身もまた、家庭のなかで喜怒哀楽をさらけ出すと、子どもも安心して感情を出せるようになるそうです。
3. 「モヤモヤしたエネルギー」を発散させる
子どもが外で迷惑をかけていたら、つい厳しく叱ったり、罰を与えたりしがちですが、その場では反省してもまた同じことの繰り返し……というケースも多いようです。臨床心理士の福谷徹氏によると、叱ってエネルギーを封じ込めるのではなく、「スポーツ等でルールやチームワークを学ばせ」たり、「良い意味で発散できるような場を用意して、アクセルを踏ませ」たりするとよいそうです。モヤモヤしたエネルギーを成長への力に変えることができたら、きっとよい結果につながるでしょう。(カギカッコ内引用元:ベネッセ教育情報|家の外で悪い子みたいなんです[うちの子、どう接したらいいの?])
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「心が健康な子どもほど、親の前では悪い子で、他人の前でいい子になれる」とは佐々木氏の言葉です。お子さんが家でわがままを言ってきたときは、「そうかそうか、いまは甘えたいのね」とおおらかな心で受け止めてあげたいものですね。
(参考)
すくコム NHKエデュケーショナル|幼稚園から帰るとわがままになる。どうしたらいい?
exiteニュース|家でイイ子なのに「外で態度が悪い子」、実は家での●●が原因だった!?
幻冬舎GOLD ONLINE|家ではおとなしいのに…「外で暴走してしまう子」の共通点
佐々木正美(2021),『子どもが喜ぶことだけすればいい』, ポプラ社.
MAG2NEWS|家ではいい子、外では攻撃的。いたずらな子どもにある「不満」とは?
諸富祥彦(2016),『「プチ虐待」の心理』, 青春出版社.
ベネッセ教育情報|いい子症候群~期待に応えすぎる子どもたち【後編】
ベネッセ教育情報|家の外で悪い子みたいなんです[うちの子、どう接したらいいの?]