「子どもが泣いていると、なぜか自分が責められているような気持ちになる」「完璧な母親でいなければと思うのに、いつも自分にダメ出しばかりしてしまう」「愛情はあるのに、どう表現していいかわからない」
こんな思いを抱えながら、ひとりで悩んでいませんか? その苦しさの背景には、もしかするとアダルトチルドレン(AC)という概念が関係しているかもしれません。
今回は、あなたの子ども時代の経験が現在の子育てにどのような影響を与えているかを、アダルトチルドレンチェックリストを使って確認し、どうすればいいかの具体的な改善方法を一緒に考えていきましょう。
監修者プロフィール
臨床心理士・公認心理師
子どもの発達・アタッチメントの専門家。子どもの強みを見つけ、親子関係を豊かにするサポートしています。自身も3児の子育て中。専門家であっても、子育てでイライラやモヤモヤは避けられず……母親であることを楽しめるよう、心理学の知識を日常生活に活かすスキルを発見・実践しています。子育ての悩みを「悩める幸せ」として、共に成長しましょう!
目次
アダルトチルドレンとは——心の奥で泣いている「小さなあなた」がいませんか?
「お母さんを困らせてはいけない」「家族のことは外で話しちゃダメ」「私がしっかりしなくちゃ」——子どもの頃、こんなふうに感じて過ごした記憶はありませんか?
そしていま、親になったあなたは「完璧な母親でいなければ」「子どもに愛情をちゃんと伝えられているのだろうか」「ほかのお母さんのようにできない自分はダメな親なのでは」と、また自分を責めてしまっていませんか?
アダルトチルドレンとは
ダルトチルド(AC)とは、機能不全家族で育った人が大人になった時に抱える心理的特徴のこと。「大人になりきれない人」という意味ではありません。むしろ、「子ども時代に子どもらしくいることができず、早くから大人の役割を担わざるを得なかった人」なのです。
子どもは親の行動をモデルとして学びます。問題解決の方法や感情表現の仕方など、親の姿を見て無意識のうちにとりいれていくのです。心理学では「投影同一視」と呼ばれる現象もあり、親が自分の解決できなかった問題や感情を無意識のうちに子どもに投影することがあります。
この概念がアメリカで注目されるようになったのは、アルコール依存症の親をもつ成人した子どもたちの研究からでした。しかし現在では、様々な理由で安心できる環境で育つことができなかった人々の特徴を表す言葉として使われています。そして日本でも、多くの人がこの特徴に心当たりを感じているのです。
機能不全家族で育った人が大人になった時に抱える心理的特徴の。「大人になりきれない人」という意味では なく、むしろ、「子ども時代に子どもらしくいることができず、早くから大人の役割を担わざるを得なかった人」。
なぜ子どもを抱きしめるのが怖いの? アタッチメントから考える
アダルトチルドレンの特徴を理解する上で重要なのが、アタッチメント(愛着)理論です。アタッチメントとは、子どもが養育者との間に築く情緒的な絆のこと。この絆の質が、その後の人生における対人関係や感情調整能力に大きく影響します。
安定したアタッチメントを形成できた子どもは、「困ったときは助けてもらえる」「自分は愛される価値がある」という基本的な信頼感をもつことができます。しかし、機能不全家族で育った場合、この安定したアタッチメントの形成が難しくなります。
その結果、不安定なアタッチメントパターンを身につけてしまうのです。これらのパターンは、大人になってからの子育てにも影響を与えます。
機能不全家族——誰にも言えなかった家族の秘密
あなたは子どもの頃、どんな家庭で過ごしましたか? 必ずしも明らかな虐待や暴力があったわけではないかもしれません。
機能不全家族には様々な形があります。
- アルコールや薬物依存症の親がいる家庭
- 身体的・精神的虐待やネグレクトがある家庭
- 厳格すぎるルールで縛られた家庭
- 感情を表現することが許されない家庭
- 親が精神的に不安定で子どもが気をつかわなければならない家庭
- DVや親の離婚・死別による不安定な家庭
親がアルコールや薬物に依存していた家庭、厳格すぎるルールで縛られた家庭、感情を表現することが許されない家庭、親が精神的に不安定で子どもが気をつかわなければならない家庭。時には、一見すると「いい家庭」に見えることもあるのです。でも、何となく息苦しさを感じていた。いつも誰かの顔色をうかがっていた。そんな記憶があるのではないでしょうか。
そのような環境で育った子どもは、生き抜くために様々な役割を身につけます。家族の感情を敏感に察知し、問題が起きないよう先回りして行動する。自分の感情は後回しにして、周りの人を優先する。「いい子」でいることで、ようやく愛してもらえると学習してしまうのです。
アダルトチルドレンチェックリスト16項目
「私はアダルトチルドレンなのかな?」と思ったとき、以下の項目を振り返ってみてください。すべてに当てはまる必要はありませんし、当てはまったからといって「病気」というわけでもありません。ただ、自分を理解するためのヒントとして考えてみてくださいね。
日常の行動パターン
◻︎他人の期待に応えることを最優先にしてしまう
◻︎「ノー」と言うことに強い罪悪感を感じる
◻︎完璧でないと愛されないような気がする
◻︎失敗することが怖くて、新しいことに挑戦するのをためらう
感情や人間関係
◻︎自分が何を感じているのかわからないことがある
◻︎怒りや悲しみを表現するのが苦手
◻︎人と親密になることを望む一方で、それが怖い
◻︎いつも緊張していて、リラックスするのが難しい
子どもとの関わり方
◻︎ 子どもが泣くと、自分が責められているように感じる
◻︎ 子どもの感情表現に戸惑ってしまう
◻︎ 子どもに対して過保護になりすぎる、または距離を置きすぎる
◻︎ 子どものまえでも「いい親」を演じてしまう
◻︎ 子どもの失敗を自分の失敗のように感じる
◻︎ ほかの親と比べて劣等感を感じやすい
アタッチメント関連のチェック項目
◻︎ 子どもとのスキンシップに違和感を感じることがある
◻︎ 子どもの要求にどこまで応えればいいかわからない
◻︎ 子どもが自分から離れていくことに強い不安を感じる
◻︎ 子どもとの適切な距離感がつかめない
◻︎ 自分が親から受けた愛情表現の仕方しか知らない
これらの特徴は、子ども時代に家族の中で担っていた「役割」と関係しています。
アダルトチルドレンの4つの役割タイプ
- ヒーロー(英雄):いつも家族の問題を解決しようとしていた
- スケープゴート(身代わり):家族の問題を自分のせいだと思っていた
- ロストチャイルド(迷子):できるだけ目立たないように静かに過ごしていた
- クラウン(道化師):家族の注意を自分に向けて問題から目をそらそうとしていた
でも、これらの役割は、その時のあなたが家族のなかで生き抜くために身につけた大切な生存戦略だったのです。
知らないうちに繰り返してしまう、親から受け継いだパターン
アダルトチルドレンの特徴をもつ親が子育てをするとき、様々な場面で過去のパターンが顔を出すことがあります。それは決して「悪い親」だからではありません。
◆完璧主義の傾向
たとえば、完璧主義の傾向。子どもの頃、「完璧でなければ愛してもらえない」と学習した経験があると、今度は「完璧な親でなければならない」と自分にプレッシャーをかけてしまいます。ほかの家庭と比べて「あの家はピアノを習わせているのに」と自分を責めてしまうのです。
現代では、SNSを意識した子育ても新たな完璧主義の形として現れています。「素敵な親子の姿を見せなければ」というプレッシャーは、かつての成績や進路への執着の現代版ともいえるでしょう。頻繁に写真を撮られ「もっと笑って」と指示される子どもは、自然な感情よりも「見せるための表情」を優先するようになります。これは、アダルトチルドレンが経験した「期待される姿でいなければならない」状況と似ているのです。
◆感情の受け止め方がわからない
感情の受け止め方がわからないといった傾向もよく見られます。自分が子どもの頃、怒りや悲しみを表現することが許されなかった場合、今度は子どもの感情にどう対応していいかわからなくなります。子どもが泣いていると「泣き止ませなければ」と思ったり、子どもが怒っていると「そんなことで怒ってはダメ」と言ってしまったり。
また、「夫が子どもを叱っているのを聞いていられない」という経験はありませんか? 子ども時代に家族の緊張を敏感に察知してきた経験から、パートナーが子どもを注意する場面で過度に反応してしまうことがあります。その結果、子どもを庇って夫婦関係が悪化したり、逆に夫の機嫌をとるために子どもに厳しく当たってしまうことも。これは「家族の平和を保ちたい」という生存戦略が働いているからです。
◆境界線の難しさ
境界線の問題も複雑です。過保護になりすぎて子どものすべてをコントロールしようとしたり、逆に距離を取りすぎて冷たい親になってしまったり。どちらも、愛情がないからではなく、適切な関わり方がわからないからなのです。
しかし、アタッチメントは修復可能です。あなたが意識的に安定した関わりを続けることで、子どもとの間に安心できる絆を築くことができます。そして興味深いことに、子どもとの健全なアタッチメントを築く過程で、あなた自身の傷も癒されていくのです。
アダルトチルドレンの連鎖を断ち切るための6つのステップ
アダルトチルドレンの連鎖は断ち切れます。意識的に取り組むことで、確実に変化は起こります。「どうすればいいの?」と悩むあなたへ、日常生活のなかで実践できる具体的な6つステップをご紹介します。
◆自分の感情に気づく
一日の終わりに、「今日はどんな気持ちだったかな?」と振り返る時間をつくってみてください。子育てなかで「あ、今イライラしているな」と気づけるようになると、その感情に振り回されにくくなります。
◆子どもの感情を受け止める
子どもが泣いたり怒ったりしたとき、まず深呼吸。そして「そうか、今悲しいんだね」「怒っているんだね」と気持ちを受け止めてあげてください。それだけでもアタッチメントは育まれます。
◆完璧でない自分を許す
「完璧な親でなければならない」という思い込みを手放しましょう。子どもにとって必要なのは十分にいい親なのです。毎日手作りのお弁当を作れなくても、あなたがあなたらしく子どもと向き合っていれば、それで十分です。
◆境界線を意識する
子どもの問題を代わりに解決しようとするのではなく、子どもが自分で考える機会をつくってあげましょう。「あなたはあなた、私は私」という健全な距離感を保つことで、子どもの自立を促すことができます。
◆自分をケアする
週に30分でも自分自身をケアする時間を意識的につくりましょう。瞑想、ヨガ、深呼吸、好きな音楽を聴く——親が心身ともに健康でいることは、子どもにとっても大切なことです。
◆ハートハグ・言葉で安定した愛着を築く
ハグをしたり「大好きだよ」と言葉で伝えたりし、愛情を伝えましょう。話を聞くときは、スマホは置いて、アイコンタクトを大切にしながら子どもの話に耳を傾けます。こうした小さな積み重ねが、一生の絆をつくります。
現代の子育てに潜む新たなリスク——臨床心理士からの警鐘
これまでアダルトチルドレンについて、主に機能不全家族での経験を中心にお話ししてきました。しかし現代では、一見「普通の家庭」でも子どもの人権に関わる問題が起きています。
先述したSNSでのカメラを向ける行為だけでなく、子どもの髪を染める、刈り込みを入れる、脱毛をさせるといったことも、じつは同じ現象です。これらはすべて、子どもが「そのままの自分」を受け入れてもらえていない感覚を刺激し、「自分を作る」ことを覚えさせてしまいます。
髪型を変えると「かわいい」と言われ、カメラに向かって可愛いポーズをとると喜ばれる。愛情のつもりでも、結果的に子どもに「演じること」を求めてしまっているのです。
「普通のご家庭」でも知らず知らずのうちに子どもにとって不適切な環境になってしまうことがあります。「子どもがありのままでいられているかな?」と時々振り返る程度の気づきから始めてみてください。
もし専門的なサポートが必要と感じたら
ひとりで抱え込まずに、適切なサポートを求めることも大切です。専門家のサポートは、自分の傾向をより深く理解し、新しい対処法を学ぶ機会を提供してくれます。助けを求めることは弱さではありません。むしろ、子どもにとってよりいい親になりたいという強い意志の表れなのです。
心理カウンセリング、地域の子育て支援センター、各自治体の相談窓口など、様々なサポートが利用できます。ひとりで抱え込まず、必要に応じて専門家の助けを借りることも、立派な子育ての一部です。
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あなたが自分のパターンに気づき、意識的に変化しようと努力していること。それ自体が、すでに子どもへの大きな贈り物です。世代間で受け継がれてきた重荷を、あなたの代で軽くしてあげることができるのです。
過去は変えられませんが、いまとこれからは変えることができます。子ども時代に経験できなかった「安心できる家庭」を、今度はあなたが子どもに提供してあげることができるのです。あなたと子どもが紡いでいく新しい家族の物語は、きっと温かくて、お互いを大切にし合える、そんな物語になることでしょう。