からだを動かす/外遊び・中遊び 2025.6.26

見えてるけど “隠れている” つもり「かわいいかくれんぼ」──その愛おしい心理のひみつ

見えてるけど “隠れている” つもり「かわいいかくれんぼ」──その愛おしい心理のひみつ

「ママ〜! もういいよ〜!」

そう聞こえてきて探しに行くと、カーテンの後ろから足が見えていたり、顔だけクッションに埋めておしりが丸見えだったり──。でも本人は一生懸命隠れてドキドキしている。大人から見たら「丸見えだよ……」と思うかもしれませんが、幼児期の発達段階にしか見られない、貴重な可愛い姿ですよね。でも、どうしてそんなわかりやすい隠れ方をするのでしょう? かくれんぼをしている子どもたちにいったいどんな心理が働いているのでしょう?

今回は、そんなかくれんぼに夢中な子どもたちの心理の裏側を、発達心理学や脳科学の視点からじっくりひも解いていきます。

隠れているつもりの子どもの画像

なぜ「隠れたつもり」になるの?── “自分=世界” の視点から見ている

2〜6歳くらいの子どもたちは、大人とはまったく違う見え方・考え方の世界に生きています

心理学者ジャン・ピアジェによると、この時期の子どもは前操作期と呼ばれる発達段階にあり、特徴的なのが自己中心性(egocentrism)という認知スタイル。これは「自分の見え方が、他人の見え方と同じだと思っている」状態のことです。

「ぼくがママを見てないから、ママからもぼくは見えてないはず!」
「目を手でおさえたから、私の姿は誰にも見えない!」

特に2歳ころの子どもの心のなかでは、こんなふうに思っているはずです。つまり、 “顔だけ隠しておしりが出てる” のは、子どもにとっては「完全に隠れている」状態。この自己中心性は、わがままとは違います。まだ脳の構造的に「他者の視点を想像する」ことが難しいため、本人のなかでは真剣に “隠れている” のです! これを知ると、この姿がさらに愛おしく感じられますね。

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顔を隠す子ども

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年齢が上がごとに「演技力」も加わってくる

年齢がもう少し上がると、「本当は見えてるけど、見えてない “ふり” をする」という “演技力” が加わってきます

これは、発達心理学者ジャン・ピアジェが提唱した「前操作期(2〜7歳ごろ)」に見られる象徴機能(symbolic function)の発達によるものです。子どもはこの時期、実際の物を別のものに見立てたり、「〜のふり」をして遊ぶ力が芽生えてきます

「ぼく、いまは忍者なんだよ。だからママからは見えないはず」
「ふふふ、ママがわざと気づいてないふりしてるのも、知ってるよ」

こんなやりとりは、想像力が育ってきた証拠であると同時に、相手の立場を理解したり、ストーリーを共有したりする社会的な力の芽生えでもあります

お互いが「隠れた」「見つけた」というルールを “わかったうえで楽しむ” という姿は、すでにごっこ遊びや協同的な遊びの入口。単純な遊びですが、子どもなりの物語世界、そして他者とのやりとりへと、どんどん広がっていくのです。

隠れたつもりの子ども

子どもが「かくれんぼ」に夢中になる理由

そもそも、子どもはなぜ “かくれんぼ” に夢中になるのでしょう? それは、発達段階の表れであると同時に、心のニーズを満たしているからです。

1. 「見つけてもらえる安心感」がうれしいから

かくれんぼは、“隠れる” だけでなく “見つけてもらう” ところまでがワンセット。隠れているあいだのドキドキと、見つかった瞬間の笑顔やスキンシップは、「ちゃんと気づいてくれた」「大事にされている」という気持ちにつながります。これは、心理学でいう愛着理論(アタッチメント)の観点から見ると、「親という安全基地に守られている」という感覚が育っている証拠

安心できる関係があるからこそ、「隠れる→また会える」という遊びが成り立つのです。

2. 「見つかるかも!」というドキドキが、ちょうどいい刺激に

かくれんぼには、「もうすぐ見つかるかも……?」という不安と期待が入り混じったスリルがあります。でも、それが「絶対に安全だとわかっている状況」で起こるからこそ、子どもにとってはちょうどいい冒険。脳科学的には、こうした適度な緊張と開放の繰り返しは、ドーパミンと呼ばれる快感物質を分泌させ、楽しかったという記憶を強化します。

だから、子どもは何度も「もう1回やろう!」と繰り返すのです。

3. 相手との “やりとり” が楽しくて、社会性の力が育まれるから

かくれんぼは、ひとりではできない遊び。誰かが隠れて、誰かが探す——そんなルールとやりとりのある遊びのなかで、子どもたちは自然と順番を待つ、相手を思いやる、駆け引きを楽しむなどの社会性の基礎を育てています。先述した、「隠れているフリ」や「わざと見つからないフリ」などの “演技” も、相手との関係を楽しむためのコミュニケーションの発達段階なんです

***
見えてるのに隠れてるつもり。本人はいたって真剣で、大人はちょっと笑っちゃう。でもそこには、発達の証である自己中心性や象徴機能、愛着のやりとり、想像力の芽生えなど、たくさんの「育ちの瞬間」がぎゅっと詰まっていますいまだけのそんな育ちのぜひ瞬間を大切にしてください。

今日もまた、カーテンの裏に小さな足が見えたら、そっと笑いながら「どこかな〜?」と声をかけてあげてくださいね。

(参考)
こころラボ|ピアジェの発達段階を知ると育児に余裕が!我が子の「今」を知る方法
こころの科学| ごっこ遊びは発達に重要だった
わたしの保育|子どもの社会性が育つ!ごっこ遊びの効果と保育への取り入れ方
Alizona Family Counseling|Hide-and-Seek Play and Development
LEGO Foundation|Neuroscience and learning through play: a review of the evidence