たとえきょうだいであっても、子どもそれぞれの個性は異なります。個性と似た意味をもつ言葉は多く、「気質」や「性格」もそれにあたるでしょう。しかし、米ハワイ州でバイリンガルオンラインスクールを運営する教育家の船津徹さんは、「両者を混同してはならない」と注意を促します。その言葉に込められた意図を聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
目次
「気質」と「性格」は似て非なるもの
子育てにおいて重要な要素はいくつも存在しますが、子どもの「気質」に着目するというのもそのひとつです。
気質を端的にいうと、「個人がもつ、土台となる性質」です。ただし、基本的に「一生変わらない」という特徴をもっています。気質が活発で社交的な子どもは大人になっても活発で社交的ですし、慎重でおとなしい子どもは大人になっても慎重でおとなしいのです。
気質に似た言葉に、「性格」があります。こちらは気質とは異なり、環境や経験、あるいは努力などによって変わるものと考えてください。
たとえば、私がハワイで運営するバイリンガルスクールに通っている子どもたちには、日本語でしゃべるときと英語でしゃべるときでまったく別の性格になるという興味深い傾向が見られます。よくあるのは、日本語のときは控えめなのに、英語になると急にアグレッシブになるというケースです。
これは、環境による影響だと考えます。もしかしたら、本来はいかにも日本人らしい控えめな子どもなのかもしれません。でも、そのままだと、強い自己主張が求められるアメリカの社会ではなんらかの損を被ることになりかねません。アメリカの社会で自分を守って生きていくため、本人も無意識のうちに、あるいは意図的に努力をして性格を変えているわけです。
「気質」と「性格」を混同すると、子どもを不幸にする
ここで注意が必要なのは、子どもの気質と性格を混同してはならないということです。本来の気質は慎重でおとなしい子どもが、なんらかの要因によって活発で社交的な性格を発揮することがあったとします。それを見て「この子は活発だ」と思い込んでしまうと、その子にとって望ましくない環境を与えかねません。
幼稚園や保育園のなかには、特徴的な方針を掲げているところも少なくないですよね。なかには、園舎内の仕切りがとても少なく、園庭だけでなく、屋上でも遊べるような施設にすることで、子どもたちが自由に走りまわれるようにしている園もあります。
活発な子どもであれば、水を得た魚のように生き生きと過ごすことができるでしょう。でも、親が気質と性格を混同してしまったがために、本来の気質が慎重でおとなしい子どもがその園に入れられたらどうでしょうか? まわりの子どもたちがワーワーと大騒ぎしているなか、ポツンとひとりで本を読むなど孤立してしまいかねません。
あるいは、親が意図的に子どもの気質の反対の環境を与えることもあります。「うちの子は落ち着きがないからなんとか矯正したい」と、いわゆるスパルタ式の園や学校に入れるようなケースです。
落ち着きがない子は、よく言えば好奇心旺盛で活発です。そんなじっとしていられない子がルールで縛りつけられれば、いつも叱られてばかりということになるでしょう。そうして、「自分は駄目な人間だ」「できない人間だ」と、その子の自信はどんどん削がれてしまうのです。
わが子の幼い頃を思い出し、「気質」を見極める
ここまでのことを前提に考えた場合、親は子どもの気質をしっかりと見極める必要があります。ただ、それは決して難しいことではありません。子どもの気質を診断するチェックリストのようなものもありますが、そのようなものに頼るまでもなく、わが子が2歳くらいまでの小さかった頃を思い出すだけで十分です。
冒頭でもお伝えしたように、気質は一生変わらないものであり、つまり生まれもっているものです。そのため、生まれたばかりの赤ちゃんの頃から、いろいろな場面で気質は発揮されます。
「わが子ながら、まだ幼いのに人の話をしっかりと聴く子だな」と思ったとか、おじいちゃんやおばあちゃんから「とにかく元気な子ね」といつも言われていたとか、マイペースだけれど興味をもったことにずっとのめり込んでいたとか、思い出せる子どもの特性があるはずです。
そのうえで、先の「落ち着きがない」と「好奇心旺盛で活発」もそうですが、気質のポジティブな面に目を向けましょう。子どもが何時間もずっとゲームで遊び続けているとします。親としては「またゲームばかりして!」と叱りたくなるものですよね。
でも、何時間もゲームをし続けるというのは、そう簡単なことではありません。見方を変えると、「人並みはずれた集中力をもっている」とも言えるのです。「遊んでばかり」ということではなく、その高い集中力にフォーカスをあて「それだけ集中できるのはすごいことだ」と言われて育ったなら、将来的にはゲーム以外のこと、たとえば勉強や仕事にもその集中力を発揮する可能性が高いと私は考えているのです。
じっとしていられない子どもについても、「いつも走りまわって落ち着きがない」と叱られて育つのか、それとも「元気でなにをやっても疲れないね!」「エネルギーにあふれていてすごいね!」と言われて育つのかによって、その子の将来は大きく変わるはずです。気質自体は一生変わらないのですから、それをポジティブな方向で伸ばすことを考えてほしいのです。
『「強み」を生み出す育て方』
船津徹 著/ダイヤモンド社(2023)
■ 教育家・船津徹先生 インタビュー一覧
第1回:子育てのゴールは「自立」にあり。グローバル教育の第一人者が「根拠のない自信」を重視する理由
第2回:「気質」に着目すると「わが子らしさ」が生まれる。一生変わらないからこそポジティブに伸ばそう
第3回:子どもの才能は「5つの領域」にあった。わが子の「強み」の見つけ方・伸ばし方【診断シートつき】(※近日公開)
【プロフィール】
船津徹(ふなつ・とおる)
1966年8月18日生まれ、福岡県出身。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育会社に勤務。その後独立し、米ハワイ州に移住。2001年、ホノルルにTLC for Kidsを設立。世界で活躍できるグローバル人材を育てるための英語教育プログラム「TLCフォニックス」を開発。同プログラムは全米25万人の教師が加盟する「OpenEd」で第2位にランクイン。25年間で延べ5000名以上のバイリンガルを育成。同校の卒業生の多くがハーバード大学、イェール大学、コロンビア大学、ペンシルバニア大学、東京大学など世界トップ大学へ進学しグローバルに活躍している。著書に『強みを生み出す育て方』(ダイヤモンド社)、『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の<英語力>の育て方』(大和書房)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。