あたまを使う/教育を考える 2018.8.24

「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart1

「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart1

宇宙飛行士になるという夢を追い求めていた飛田基さん。その夢が破れたのは35歳のときでした。

その後、経営コンサルタントとして活躍をはじめた頃に出会ったのが、イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが提唱するTOC(制約理論)と呼ばれる科学理論と思考法。システムを全体としてとらえ、一番弱い部分の集中した改善により成果を高めるためのマネジメント手法なのですが、同じ考え方を使って、子どもの「考える力」を劇的に伸ばすこともできるそう。

飛田さんはその実践方法を、『世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる』(ダイヤモンド社)という1冊の本にまとめ、読者の高い支持を得ました。

まずは、そもそも「考える力」とはどんなものなのか、飛田さんのお考えを伺いました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

「考える力」=正解がない時代のなかで自分なりの答えを出す力

いまはもう、ひとむかし前、ふたむかし前のように親が農業をやっていたら子どもも農業をする、商売をやっていたら商売をするというような時代ではありませんよね。サラリーマンや公務員になれば安泰かといえばそうでもない。特に、最近だとどんどん発達していくAIに、人間が仕事を奪われるというような話もあります。それらの現実を踏まえると、いまの子どもたちが大人になる20年後がどういう時代になっているのか、誰にも見当がつきません。

でも、そのわからないなかでも自分なりの答えを出していかなければならない。その答えを出す能力こそ、「考える力」でしょう。それは、「生きる力」と言い換えてもいいかもしれませんね。

親も不安なのでしょう。そろばんと習字をさせておけば安心、子どもを大学に入れたら安心、英会話を学ばせておけば安心というわけにはいかないのですから。以前と比べて塾や習い事の幅も広がって、あれやこれやといろいろなものを子どもに学ばせている親御さんもいるでしょう。それもすべては、先行きが見えづらくなっているからでしょうね。

ただ、教育の中心はやっぱり学校です。日本の教育現場でも「考える力が必要だ」と声高に叫ばれるようになってきました。ですが……、これまでわたしが見てきた限りでは、以前の学校教育と大きな変化があったとはまだ感じられていません。中学生の理科の授業では、植物には被子植物と裸子植物があって……というふうに、わたしが中学生の頃と同じことをしている。やっぱり基本は、「暗記」なんです。

とはいえ、考える力を育てる試みはなされています。たとえば、ある資料からなにが読み取れるかと問うような授業ですね。ただし、塾に通って私立中学受験を目指しているような子どもの場合、そういう授業も想定した学習をしていますからすぐに答えてしまう。でも、それは塾で習って知っている「答え」に過ぎません。それでも、「この資料のどこからそれがわかるの?」というふうに、聞き方次第ではもっと踏み込んで考えさせることもできると思うのです。

「これからは考える力だ」「アクティブ・ラーニングだ」と言われても、先生たちにもすぐにそのスキルが身につくわけではありません。まだはじまって間もないものですから、これからに期待したいところですね。

子どもが勉強だと気づかず「楽しくできる」学習法が必要

日本の教育現場には、なにか問題が起きたときに責任の押し付け合いになりがちだという問題があるように思います。勉強は基本的に暗記が中心ですから、当然ながら勉強は楽しくないし、勉強についていけないと感じる子どもたちもいます。そうすると、「犯人探し」が始まってしまう(苦笑)。それぞれの立場から、親のしつけが悪い、学校の教育が悪い、社会の仕組みが悪い、あるいは子ども自身の問題だというふうに……。

学校の先生もなかなか難しい立場に置かれていますよね。「最終的に大学に進学させたい」という親は多く、現行のカリキュラムも基本的にはそのためのものです。どんなに、「これからの子どもたちには考える力を身につけさせなければならない」と言われたところで、学校教育では入試を突破させるための授業に力を入れざるを得ないわけです。

小学校から高校まで一貫して同じ子どもを見られるのなら、いろいろとやりようはあるでしょう。でも、現状の体制ではひとりの子どもの教育には基本的に1年間しか携わりません。「この学年ならこの学習がこの程度できていなければならない」と「決められた靴」をぴったり履ける子どもを育てるように言われているようなものです。本来なら、それぞれにちがう子ども、つまりさまざまな「足」のほうに靴を合わせたほうが明らかにいいはずなんですけどね。

考える力を伸ばすことに限らず、勉強は、まずはそれぞれの子どもが「楽しくできる」ということが一番。絵を描きながら、体を動かしながらなど、遊びを通して考える力を伸ばす手法をどんどん編み出していく必要があるでしょう。

やはり、「勉強」ということ自体にアレルギー反応を示す子どもたちが一定数いることは現実です。「これは考える力をつける『勉強』なんだよ」と言うと、それだけで拒否してしまう。だますわけではありませんが、子どもの普段の生活のなかにある題材を使って、子どもに勉強とは気づかせない、遊びの一部だと感じさせるような学習法が求められているのだと見ています。

そうして考える力を伸ばしてあげられれば、その子どもが「幸福になる」ことにもつながります。誰にも正解がわからない時代のなかでもしっかりと自分なりの答えを導き出せる子どもであれば、親に言われたから大学に行く、まわりがやるから自分もやるというような、他人が作ったレールの上を歩むことはないでしょう。そうすると、自分がやりたいことを仕事にできる可能性もきっと高まるはず。

大人になれば、時間の大部分を占めるのは仕事です。それが自分のやりたいことであれば、とても幸せではありませんか。考える力をつけるということは、幸せに近づく近道になることだと思うのです。


世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる
飛田基 著/ダイヤモンド社(2017)

■ 飛田基さん インタビュー一覧
第1回:「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道
第2回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)
第3回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)
第4回:子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる

【プロフィール】
飛田基(とびた・もとい)
1974年4月2日生まれ、千葉県出身。早稲田大学理工学部を卒業後、フロリダ大学博士課程を修了。フロリダ大学ポストドクトラルフェロー、日立製作所を経て経営コンサルタントとして独立した後、イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが唱えるTOC(制約理論)に出会い、それを多くの人に広めることを決意。現在、NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータとして、大人と子どものコミュニケーション向上による教育の改善に尽力している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。