あたまを使う/教育を考える 2018.8.27

子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart2

子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart2

イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが提唱するTOC(制約理論)と呼ばれる科学理論および思考法を用いれば、子どもの「考える力」を劇的に伸ばすことができるとされています。飛田基さんは、その実践方法を『世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる』(ダイヤモンド社)という1冊の本にまとめ、読者の高い支持を得ました。著書では、特に「考える力」を伸ばすために効果的な「クラウド」「ブランチ」「アンビシャス・ターゲット・ツリー」と呼ばれる3つの思考ツールを取り上げています。親子はなにかと対立しがちです。そんな状況を解消するために有効だという、3つのなかのひとつの思考である「クラウド」とはどんなものなのでしょうか

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

5歳の女の子がお母さんとの対立問題を見事に解決

自分のなかでふたつの選択肢が対立している、あるいは自分と他人の主張が対立していると、「あちらを立てればこちらが立たず」という状況になってしまいます。そのジレンマを解消するために、5つの「箱」と矢印によって自分が置かれている状況を整理する思考ツールについて解説しましょう。ジレンマを抱え、「雲」のようなモヤモヤした状況を解消するツールということで、「クラウド(cloud/雲)」と名づけられました。

下の絵をご覧ください。これはわたしが所属するNPO法人・教育のためのTOC日本支部の名刺の裏に印刷されているもので、イスラエルの5歳の女の子がクラウドを使ってお母さんとの対立をすっきり解消させたときの図式です。

一番左の箱は共通目標の箱、真ん中のふたつは要望の箱、右のふたつは行動の箱と呼びます。これらによって対立が起きている構造を整理し、解決策を探すのです。

あるとき、その女の子はデパートのペットショップに行きました。そして、そこで見た「金魚を飼いたい」と思いました。これが右上の行動の箱(D)。一方、お母さんは「金魚は飼っちゃダメ」と言います。右下の行動の箱(E)です。それらは対立していて相いれないものですから、両者の間には稲妻のマークが入れられていますね。

そして、お母さんは女の子に「どうして金魚を飼いたいの?」と問いました。女の子は「だって、綺麗だから見ていたいんだもん」と。これが真ん中上の要望の箱(B)。一方、お母さんはというと、「金魚の世話をしたくない……」。それは真ん中下の要望の箱(C)です。家族旅行に行ったときなどに金魚の面倒を見られないからというのがお母さんの主張だったようですが、女の子は、ただなまけたいだけの「ぐうたらお母さん」だと思ったのか、寝転がっているような絵を描いていますね(笑)。

そして、共通目標の箱(A)にはふたりが仲良く手をつないで、しかも金魚も一緒という状況が描かれています。お母さんも女の子も家族とけんかしたくないし、女の子は金魚も見たい。この共通の目標をなんとか達成できないかと考えさせるのです。お母さんは女の子に「家族が仲良く、金魚の世話をせずに金魚を見られる方法ってないの?」と聞きました。

じっくり考えて女の子が答えました。「じゃ、来週、またデパートに連れて行って」と。女の子は確かに金魚を飼いたかったのですが、本当の要望は「金魚を見たい」というもの。そのための手段は家で金魚を飼うことだけではありません。5歳の女の子は、そのことに気づき、「お母さんが金魚の世話をすることなく」「金魚を見る」というふたつの要望をかなえる方法を見事に導き出したというわけです。

状況や考えを整理して子どもの視野を広げる

このイスラエルの女の子が描いたものは、ふたつの要望の箱という縦の関係に注目して「BをすることとCをすることを両立できる方法」を考えた例です。これが両立できればそもそも悩む必要や対立する必要がなくなりますから、一番の最適解に至る方法と言えます。

でも、いくらふたつの要望を眺めても、それだけでは解決策が見つからないこともあるでしょう。その場合は、行動の箱と要望の箱という斜めの関係に注目するという方法があることも覚えておきたいポイントかもしれません。クラウドでは、「DをするとCをすることが難しい」「EをするとBをすることが難しい」という関係が成り立ちます。図の例では、「金魚を飼えば、金魚の世話をしないということは難しい」「金魚を飼わなければ、金魚を見ることは難しい」ということですね。そして、それらが難しい理由を考えた後、試しに疑ってみるのです。「本当に金魚を飼わなければ、金魚を見ることは難しいのか?」と。

親と子どもが対立した際に話をするだけでは、どうしても親のほうが口が立ちますし、親は自分の要望に近づけていきたくなる。当然、子どもは反発するでしょう。でも、絵でも文字でもこの図を描かせることで、子ども自身が考えて最適解を導くことができるのです。自分が置かれている状況や考えを整理できるようになるとともに、子どもの視野を広げることにもつながるはずですよ。

→後編に続く


世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる
飛田基 著/ダイヤモンド社(2017)

■ 飛田基さん インタビュー一覧
第1回:「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道
第2回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)
第3回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)
第4回:子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる

【プロフィール】
飛田基(とびた・もとい)
1974年4月2日生まれ、千葉県出身。早稲田大学理工学部を卒業後、フロリダ大学博士課程を修了。フロリダ大学ポストドクトラルフェロー、日立製作所を経て経営コンサルタントとして独立した後、イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが唱えるTOC(制約理論)に出会い、それを多くの人に広めることを決意。現在、NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータとして、大人と子どものコミュニケーション向上による教育の改善に尽力している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。