あたまを使う/教育を考える 2018.9.2

子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart4

子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart4

イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが提唱するTOC(制約理論)と呼ばれる科学理論および思考法を用いれば、子どもの「考える力」を劇的に伸ばすことができるとされています。

飛田基さんは、その実践方法を『世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる』(ダイヤモンド社)という1冊の本にまとめ、読者の高い支持を得ました。

著書で取り上げた思考ツールはさまざまなタイプの「考える力」を伸ばすことに効果的だそうですが、その大前提として「子どもの『個のちがい』に目を向けることがもっとも重要」と説きます。その真意とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

なにを考えるために頭を使うかによって人間性にちがいが出る

前回までの記事(part2part3)で紹介した「3つの思考ツール」はそれぞれに役割がありながらも、結果的にさまざまなタイプの「考える力」を育てるものです。たとえば「クラウド」は、本来、自分のなかでふたつの選択肢が対立している、あるいは自分と他人の主張が対立している状況を解消するための思考ツール。それが結果的に、自分が置かれている状況や考えを整理し、視野を広げることにつながります。

そして、それは「創造力」という考える力を育てることにもなっていきます。相いれないふたつのものを同時に成立させるにはどうすればいいのか——。その答えを導くのは、創造力以外のなにものでもありません。さらに言えば、対立している相手の意見と自分の意見を両立させたい場面で必要となる他者との「コミュニケーション力」を高めることにもなるでしょう。

正解がないとも言われるこれからの時代、なにかを決めないとならないとなったら、まずは自分で自分なりの正解を導いたうえで、自己納得できるかがとても重要になる。そして、社会のなかで他者と関わりながら生きる以上、「こういう話の筋だったら、みんなが納得できる」というものを提案できることも重要です。

最近では、学校教育の場でもディベートが取り入れられています。ディベートとは、あるテーマについて肯定と否定のふた組にわかれておこなう討論。それぞれが自分の意見の価値を誇示してなんとか対立相手を説得しようとするものです。でも、本当なら両者が納得する方法、誰もが「いいね」と言ってくれる案を見つけるのがベストですよね? なにを、どんなことを考えるために自分の頭を使うかということはすごく大事なことだと思うんです。どうにかして自分の立場を相手に認めさせようとすることに使うのか、それとも、どうすればみんながハッピーになれるかと考えることに使うのか。それによって、成長した後の人間性にもちがいが出るのではないでしょうか。

ただ、どんなに有益な思考ツールとはいっても即座に結果につながるものではありません。ある子どもが周囲とけんかしてしまったときに、これらの思考ツールを使ってけんかをしないための方法を一緒に検討したことがあります。最初は幼稚園に通っていた頃。そして小学校2年生、小学校5年生と計3回おこないました。3回目のときには本人が、「これ、やったことある!」と言うではありませんか(笑)。結局のところ、同じパターンでけんかが起きていたということです。

子どもに限らず大人も持って生まれた思考パターン、習慣を変えるのはそう簡単なことではありません。でも、繰り返し繰り返し思考ツールを使うことで、だんだんと自分の性格や考え方のパターンを把握し、さまざまな問題に対処できるようになるのです。

子どもがアウトプットするものの源泉は知識ではなく「体験」

子どもの教育にもっとも重要なことは、「個のちがいがある」という前提からスタートすることだとわたしは思っています。日本の学校教育には、小学校2年生なら九九ができないといけないなど、それぞれの学年によって習得しておくべきことが定められていますよね。それはつまり、「履くべき靴の大きさ」が決められているとういうことです。

多くの子どもたちを一斉に教育しなければならない学校という場に、そういう基準が設けられるのはある程度仕方がないことでしょう。でも、その基準に親まで振り回されていることも多いと思うのです。「まわりの子はできているのにうちの子は……」なんて嘆いた経験のある親御さんもいるのではありませんか。

でも、学力ではなくて身長だったらどうでしょうか? 他の子とちがいがあるのは仕方ないし、「いまは小さいけれど、そのうち伸びるでしょう」なんて楽観できるはずなんです。なんだったら、身長がそれほど伸びなかったとしても個性ととらえることもできるでしょう。でも、それが学力になった途端にそうはとらえられなくなる親が多いのです。

わたしは学校教育の専門家ではありませんから、あくまでわたしが受けた印象になりますが、これには国によって異なる文化的背景も影響しているように感じています。アメリカに代表されるように、欧米にはさまざまな人種、民族で構成された国が多いですよね。それらの国では子どもたちに多様性があるのが大前提ですから、日本のように「履くべき靴の大きさ」を定めようという発想には至らないのでしょう。

一人ひとりちがってあたりまえ。他人が決めた基準を満たせないからといってなにも心配する必要はありません。いま、親御さんが信じている基準やものさしは、環境が変わればまったく意味を持たなくなるものです。型にはめずに、まずは自分の子どもがどんな子なのかということに目を向ける。それを、教育方法を考える起点にしてもらいたいですね。

そして、できるだけ小さい頃からいろいろな体験をどんどんさせてあげてください。なにかを問いかけたときに子どもがアウトプットするものの源泉は、頭に詰め込んだ知識などではありません。それは、「体験」なのです。あちこちに出かけて、多くの人と会って、思いつく限りの遊びをする。そういった、「体験値」を積ませてあげてほしいですね。


世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる
飛田基 著/ダイヤモンド社(2017)

■ 飛田基さん インタビュー一覧
第1回:「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道
第2回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)
第3回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)
第4回:子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる

【プロフィール】
飛田基(とびた・もとい)
1974年4月2日生まれ、千葉県出身。早稲田大学理工学部を卒業後、フロリダ大学博士課程を修了。フロリダ大学ポストドクトラルフェロー、日立製作所を経て経営コンサルタントとして独立した後、イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが唱えるTOC(制約理論)に出会い、それを多くの人に広めることを決意。現在、NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータとして、大人と子どものコミュニケーション向上による教育の改善に尽力している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。