あたまを使う 2019.9.18

“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」

“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」

変化が加速していくこれからの時代を生きていく子どもたちには、「考える力」が必要だといわれます。そして、その「考える力」を手に入れるためにも重要となるのが「自分で決める力」だと語るのが田中博史先生。2019年3月まで筑波大学附属小学校の副校長を務め、卓越した算数指導や教員指導の実績からカリスマ教師とも呼ばれる同氏。子どもの「考える力」を伸ばすために親が心がけておくべきことを聞いてみました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

子どもの「どうして?」を「一緒に考える」親になる

子どもならではの口癖に「なんで?」「どうして?」というものがあります。発明王として知られるエジソンも、子どもの頃に「どうして?」と連呼していたという逸話もありますよね。そういった事実からも、子どもの「どうして?」が、これからの時代に重要だとされる「考える力」につながるものだと考える人もいるかもしれません。

でも、残念ながらそうとはいい切れません。子どもに「どうして?」と聞かれ、大人が「なるほど、なかなか面白い視点の質問だな」なんて思っているうちに、子どもの興味はすでに別のことに向かっているということもあるからです。「どうして?」と発するところまでが本人の意欲で、答えを真剣に求めているわけではないということが子どもにはよくあるのです。

つまり、子どもに「どうして?」と聞かれたら、「そうだね、どうしてだろうね」とまずは受け止めて、「そんなこと、考えたこともなかったよ!」と切り返してあげればいいだけのこと。しかも、それによって子どもは「お母さん(お父さん)も考えたことがなかったことを考えられた」と褒められた気にもなる。そうすれば、少なからず知的好奇心を育てるということにもつながるはずです。

それに、子どもが本当に知りたいと思っている場合なら、必ず「2回目」の「どうして?」をぶつけてきます。そのときに注意してほしいのは、大人がすべて説明しなければならないと思わないこと。幼い子どもの質問ならなんとかなるかもしれませんが、子どもが成長するにつれ、子どもの「どうして?」の内容もレベルが上がってきます。そのとき、ほとんどの親が取る行動は説明できなくて「逃げる」ということ……。そうではなくて、「一緒に考える」親になってあげればいいだけのことなのです。

子どもは「説明口調」の言葉を聞こうとしない

そもそも、子どもは「説明口調」の人の話を聞きたがらないものです。子どもの知的好奇心、学習意欲がもっとも高まるのはどういうときかというと、子ども自身が「説明したい」と思うときなのです。ですから、目の前にいる人間が自分より少し下の立場にあるように見えて、「そんなこともわからないの? じゃ、教えてあげる」と思う――そういう気持ち良さを味わわせてあげることが大切です。

子どもと一緒に考える、一緒に勉強する際にも、親は「説明口調」になるのではなく、わざと勘違いをしたり間違ったりして、子どもに説明するバトンを渡してあげるという接し方を心がけましょう。そうすることで、子どもは親と一緒に勉強する時間を好きになっていくのです。

「自分と一緒に勉強するときの子どもは楽しそうじゃない」と思っている人はいませんか? それは、間違いなくあなた自身の姿勢の変化によるものです。そういう人であっても、子どもがもっと幼いときにはきっと楽しそうに一緒に勉強をしてくれたはずです。なぜかというと、あなたが「説明口調」ではなかったからです。

子どもが小学校に上がるまえの幼い頃なら、勉強の成果というものは親もあまり気にしないでしょう。ところが、子どもが小学生になった途端に成績が気になりはじめる。そして、子どもと一緒に勉強する際の親の姿勢が前のめりになり、結果、「これはこうでしょ? どうしてわからないの?」といったふうに「説明口調」になってしまうのです。子どもの「どうして?」という気持ちを大切にし、「一緒に考える」親になるには、「説明口調」はご法度と肝に銘じておきましょう。

自分で決めようとすれば自然に考える

そして、この「どうして?」は大人が子どもに向かって発するべき言葉でもあります。これからの時代には「考える力」が重要だとされますが、わたしはもう少し踏み込んで「自分で決める力」が重要だと考えています。

「考えることが大事なのだから、しっかり考えなさい」といくら子どもにいい聞かせたところで、その子が本当に考えているかどうかは他人から見ればわかりませんよね? でも、自分で決めようと思えば、自然と考えることになります。そのときに親が「どうして?」と声をかけることで、より深く考えさせることができるのです。

これは、たとえばふたつのものからどちらか好きなものを選ぶという単純なケースにも使えます。子どもに「どっちが好き?」と聞けば、子どもはふたつの選択肢のうちからどちらかを選ぶでしょう。もしかしたら、そのときにはそれほど深く考えていないかもしれません。でも、そのタイミングで「どうして?」と聞かれたらどうでしょうか。子どもはなぜその選択をしたのかと考えることに直面します。その繰り返しによって「自分で決める力」を伸ばすことが、結果的には「考える力」を伸ばすことになると思うのです。

『子どもに教えるときにほんとうに大切なこと』
田中博史 著/キノブックス(2019)

■筑波大学附属小学校前副校長・田中博史先生 インタビュー一覧
第1回:子どもを「褒めて伸ばす」には、ときに親がずる賢くなることも必要!?
第2回:“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」
第3回:子どもを大きく成長させる、人間関係における失敗。親が知るべき「子どもとの距離感」
第4回:子どもの学習意欲と学習効果を“劇的に”高める4つのポイント

【プロフィール】
田中博史(たなか・ひろし)
1958年生まれ、山口県出身。山口大学教育学部卒業後、山口県内の公立小学校3校の教諭を経て、1991年から筑波大学附属小学校教諭。2012年には放送大学大学院にて人間発達科学の学術修士号取得。2017年から同校副校長を務め、2019年3月に退職。これまでに全国算数授業研究会会長、筑波大学学校数学教育学会理事、学習指導要領実施状況調査委員などを歴任。専門は算数教育、授業研究、学級経営、教師教育。現在は筑波大学人間学群非常勤講師の他、「授業・人(じゅぎょう・ひと)塾」という教師塾の代表を勤め、国内外での「飛び込み授業」や教員向け、保護者向けのイベント等を精力的に行っている。著書に『子どもと接するときにほんとうに大切なこと』(キノブックス)、『子どもが変わる接し方』(東洋館出版社)、『対話でつくる算数授業 ボケとツッコミがアクティブ空間をつくり出す』(文溪堂)、『子どもが変わる授業』(東洋館出版社)、『田中博史の楽しくて力がつく算数授業55の知恵 おいしい算数教授レシピ2』(文溪堂)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。