(この記事はアフィリエイトを含みます)
「可能であれば全国のトップクラスに!」というまでの贅沢はいわないにしても、子どもの成績が上がることを願わない親はいません。2019年3月まで筑波大学附属小学校の副校長を務め、卓越した算数指導や教員指導の実績からカリスマ教師とも呼ばれる田中博史先生が、子どもの学習意欲と学習効果を高める4つのポイントを教えてくれました。ひとつ目のポイントは、意外にも勉強法のたぐいではなく「親子の信頼関係」だと語ります。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
親子の「信頼関係」がなければ学力は絶対に伸びない
親が子どもの勉強を見てあげる際、まず大切となるのが「信頼関係」です。これは教員と子どもの関係にもいえることですよね。信頼関係がなければ、子どもの学力は絶対に伸びないといっていいでしょう。なぜなら、子どもは自分にわからない部分があれば子どもなりに恥ずかしいと思っているからです。
親子、あるいは教員と子どものあいだに信頼関係がなければ、子どもは見栄を張ってわからない部分を素直に伝えようとはしません。あたりまえのことですが、それでは学力が伸びるわけがない。逆に「なにをいっても大丈夫だ!」と信頼し、「ここがわからない」「どうしても納得できない」と親や教員に自然体でいえる子どもなら学力はどんどん伸びていきます。
その信頼関係を築くには、普段から子どもにしっかりと向き合って、解答の正誤は問わず、もちろん叱ったりすることなどなく、子どもがどのように考えて解答に至ったのかというプロセスをきちんと見てあげるということが大切です。
「子どものペース」でゆっくり理解させる
そして、勉強にはじっくりと時間をかけてあげましょう。学習内容をしっかり理解するには「子どもが自分で気づく」ことが大切だからです。
「30分は何時間でしょうか?」という問題を子どもに出したときの、典型的な誤答は「0.3時間」です。すると、いきなり図解するなどして説明しようとする親もいますが、それでは大人のペースに子どもを巻き込もうとしているだけです。そうではなくて、順を追って「じゃ、40分は何時間?」「50分は?」「60分は?」と問題を出していくのです。
子どもは「0.4時間」「0.5時間」「0.6時間」と答え、少し考えてから「あれ?」なんていうかもしれません。そこで「どうしたの?」と聞けば、「だって60分で1時間にならないとおかしい」と答えてくれたなら、それは子どもにとって大きな「気づき」になる。そうしてようやく解説してあげればいいのです。子どものための勉強なのですから、子どものペースで理解できるように心がけてほしいですね。
大人のミスをはやし立てる子どものパワーを利用する
それから、子どもの勉強を見る際の「口調」にも気をつけましょう。子どもの成績を伸ばしたいと思って前のめりになっている親は、「どうしてこの問題ができないんだろう」と考えて、つい「説明口調」になってしまいます。でも、そもそも子どもは「説明口調」の人間の言葉を聞きたがりません(第2回インタビュー参照)。
では、どんなときなら大人の言葉は子どもの耳に届くのでしょうか。授業参観の様子を想像してみてください。子どもたちがいちばん元気になって盛り上がるのは教員が間違ったとき、つまり、普段は説明口調になりがちな身近な大人が間違ったときです。教員が漢字の書き順を間違いでもしたら、目ざとく見つけた子どもが指摘して、子どもたちは「先生が間違った!」とはやし立てます。このパワーを利用するのです。
だとしたら、ちょっとした引っ掛け問題といったものに、親がわざと間違ってあげればいい。そうすれば、「お母さん、それちがうよ!」なんていって子どもは得意げに問題の解説をしはじめるでしょう。そして、その「誰かに説明する」という過程で学習内容の理解はさらに進むのです。
子どもは敏感ですから、そのうち親がわざと間違えているということに気づくということもあるかもしれませんが、それでいいのです。「この前やったでしょ?」「ちょっと貸してごらん、見ていなさい!」なんて厳しい説明口調の親とする勉強と、わざと間違っているとわかっても、「お父さん、わざとでしょ?」「大マジです!」といったふうに親と会話をしながらする勉強では、どちらが楽しいかなんていうまでもありませんよね。
勉強は机に向かってするという思い込みを捨てる
そういう会話内容にも通じることですが、「いかにも勉強」というスタイルではなく、子どもが遊びのなかで勉強できるように工夫をしてあげてほしいですね。たとえば、算数の勉強なら、ただ計算ドリルをひたすらこなすというものではなく、サイコロを使ったゲームをするということもおすすめです。
工夫次第では足し算や引き算はもちろん、場合分けや確率の勉強をすることもできます。教科を問わず、そういうふうな遊びを生かした勉強法については、わたしの著書をはじめいろいろと教材が出ていますから、それらを参考にしてみるのもいいと思います。
そういう遊びであれば、子どもが必死に考えて「ちょっとルールを変えよう」と提案してくることもあるはずです。これは、ただ与えられた課題をこなすだけではなく、自分に有利になるように子どもなりにじっくり考えたことの証に他なりません。世の中に出てから活躍することを思えば、そういうふうに状況に応じた判断力や情報を整理して結論を出す力といったもののほうが、ドリルで鍛えられるただの計算力なんかよりよほど重要であるはずです。
子どもの学力を伸ばしたいと願うのなら、「勉強とは机に向かってするもの」といった思い込みを捨てて、もっと柔軟に楽しい勉強法を考えてあげるのも親の役割なのではないでしょうか。
『子どもに教えるときにほんとうに大切なこと』
田中博史 著/キノブックス(2019)
■筑波大学附属小学校前副校長・田中博史先生 インタビュー一覧
第1回:子どもを「褒めて伸ばす」には、ときに親がずる賢くなることも必要!?
第2回:“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」
第3回:子どもを大きく成長させる、人間関係における失敗。親が知るべき「子どもとの距離感」
第4回:子どもの学習意欲と学習効果を“劇的に”高める4つのポイント
【プロフィール】
田中博史(たなか・ひろし)
1958年生まれ、山口県出身。山口大学教育学部卒業後、山口県内の公立小学校3校の教諭を経て、1991年から筑波大学附属小学校教諭。2012年には放送大学大学院にて人間発達科学の学術修士号取得。2017年から同校副校長を務め、2019年3月に退職。これまでに全国算数授業研究会会長、筑波大学学校数学教育学会理事、学習指導要領実施状況調査委員などを歴任。専門は算数教育、授業研究、学級経営、教師教育。現在は筑波大学人間学群非常勤講師の他、「授業・人(じゅぎょう・ひと)塾」という教師塾の代表を勤め、国内外での「飛び込み授業」や教員向け、保護者向けのイベント等を精力的に行っている。著書に『子どもと接するときにほんとうに大切なこと』(キノブックス)、『子どもが変わる接し方』(東洋館出版社)、『対話でつくる算数授業 ボケとツッコミがアクティブ空間をつくり出す』(文溪堂)、『子どもが変わる授業』(東洋館出版社)、『田中博史の楽しくて力がつく算数授業55の知恵 おいしい算数教授レシピ2』(文溪堂)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。