あたまを使う 2019.9.19

子どもを大きく成長させる、人間関係における失敗。親が知るべき「子どもとの距離感」

子どもを大きく成長させる、人間関係における失敗。親が知るべき「子どもとの距離感」

人生には失敗はつきもの――。だとしたら、子どもには、たとえ何度失敗してもそのたびに力強く立ち上がって再びチャレンジしていく打たれ強い人間になってほしいものです。「そのために親が知るべき大前提がある」と語るのは、2019年3月まで筑波大学附属小学校の副校長を務めた田中博史先生。卓越した算数指導や教員指導の実績からカリスマ教師とも呼ばれる田中先生がいう大前提とは、「子どもとの距離感」だそうです。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

子どもとの適切な距離を知るには「自分の気持ち」に注目

失敗を恐れずチャレンジ精神旺盛な子どもに育てるための大前提として、とても大切だとわたしが考えていることお伝えします。親がしっかり身につけなければならないのは「子どもとの距離感」だということ。これは、遠すぎても近すぎてもよくありません。遠すぎれば親の目が届きませんし、近すぎれば親からの影響を受けすぎるということになるからです。

でも、子どもと適切な距離を取ることはそれほど簡単ではありません。一度に数十人の子どもを相手にしている教師なら、それぞれの子どもとの距離を比べられることもあって、子どもと適切な距離を比較的取りやすいのですが、たとえ兄弟がいても限られたわずかな人数の我が子との距離を親が客観視することは、意外に難しいものなのです。

そこで意識してほしいのは、「子どもを見ているときの自分の気持ち」です。子どもを見ていて「うちの子、まんざらでもないな」というふうに余裕を持って思えているときはちょうどいい距離にあるということが多いものです。一方、イライラしているときというのは、距離が遠すぎるか近すぎるのかのどちらかですから、対処が必要になる。

まず、親と子どもが磁石だとイメージしてみてください。親子の適切な距離というのは、磁石がくっつきそうでくっつかない距離のことです。その距離を見つけるには、まずはいったん気持ちのうえで子どもから引いてみましょう。つまり、距離を取って意識的に遠ざかるというわけです。たとえ元の距離が遠すぎたという場合にもさらに距離が開いただけですから、今度は少しずつ近づけばいいだけのことです。

逆に近すぎた状態からさらに近づいてしまうと、磁石はぴったりくっついてしまいますよね? いったんその状態になってしまうと適切な距離に離れるのはなかなか難しく、必要以上に子どもにかかわってしまうということになります。子どもを見てイライラしたら、まずは引いてみる――。そう心がけてください。

親が見ているところで子どもに失敗させてあげる

わたしが見る限り、いまの親と子どもとの距離はとにかく近すぎるようです。すぐに「転ばぬ先の杖」を差し出してしまい、子どもが自分で考えたり失敗したりすることは減る一方です。その反面、子どもは「最初から成功しなければならない」と強いられています。それでは、子どもが失敗を恐れて挑戦することを敬遠するようになるのもあたりまえのことですよね。

しかも、親によって「最初から成功しなければならない」と思わされた子どもの場合、とくに失敗を恐れたり挑戦を敬遠したりするのは、「親が見ているところ」ということになります。そして、失敗をして立ち上がるという経験もないのですから、親が見ていないひとりぼっちの場面で挑戦をして失敗してしまえば、大きな心の傷を受けるということになってしまうのです。

本来なら、これは逆であるべきでしょう。親が見ていて手を差し伸べられるところで失敗して立ち上がる経験をさせてあげて、子どもがひとりのときには失敗をしない、あるいは失敗をしてもしっかり立ち上がる力をつけさせてあげるべきではないでしょうか。

だとするならば、子どもが勇気を出してなにかに挑戦しようとしたときには、親は結果など気にせず、それこそ適切な距離を取って「うちの子は成功するかな? 失敗をするならどんな失敗をするかな?」とニコニコとしてただ見ていてあげればいいのです。そうすれば、子どもは親の顔色をうかがってビクビクするようなことなく、たとえ失敗をしても何度でも挑戦する人間に育っていくはずです。

子どもを大きく成長させる「人間関係」における失敗

「失敗」というと、スポーツや勉強など個人的なものをイメージする人が多いでしょう。でも、社会生活を営む人間としてきちんと成長するには、「人間関係」における失敗をなるべく早くにしておくことも大切です。

これも子どもとの距離の話になりますが、やはりいまの親は子どもにかかわりすぎる傾向にあります。他の子どもやその親とのトラブルを避けようとするあまり、どうしても子どもを「安全圏」に入れてしまう。だから親が見ているまえでは「事件」は起きません。でも、そのまま体だけが成長して親が制御できなくなったときに、親が見ていないところで子どもが誰かと摩擦を起こす「事件」が起きてしまったら……? いじめなど深刻な問題を起こしてしまうということになりかねないのです。

もちろん、いくら幼い子どもであっても、他の子どもに暴力を振るうようなことは止めなければなりません。でも、親同士が見ているまえで幼い子ども同士がちょっとした「失敗」をすることは、その後にきちんと人間関係を築いていくためにはとても大切なことです。

公園やショッピングモールのキッズルームにでも行ったのなら、子どもに近づきたくなる気持ちを抑え、自分の子どもがまわりの子どものなかでどのように関係性を築いていくのかを見てあげてください。その様子を「あ、他の子にボールを取られちゃった」「怒るわけでもないし、穏やかでいいじゃない?」「もっと積極的になってほしいな」というふうに夫婦で実況中継なんてできたら、それこそ子どもと適切な距離を取れて、いい子育てができるのではないでしょうか。

『子どもに教えるときにほんとうに大切なこと』
田中博史 著/キノブックス(2019)

■筑波大学附属小学校前副校長・田中博史先生 インタビュー一覧
第1回:子どもを「褒めて伸ばす」には、ときに親がずる賢くなることも必要!?
第2回:“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」
第3回:子どもを大きく成長させる、人間関係における失敗。親が知るべき「子どもとの距離感」
第4回:子どもの学習意欲と学習効果を“劇的に”高める4つのポイント

【プロフィール】
田中博史(たなか・ひろし)
1958年生まれ、山口県出身。山口大学教育学部卒業後、山口県内の公立小学校3校の教諭を経て、1991年から筑波大学附属小学校教諭。2012年には放送大学大学院にて人間発達科学の学術修士号取得。2017年から同校副校長を務め、2019年3月に退職。これまでに全国算数授業研究会会長、筑波大学学校数学教育学会理事、学習指導要領実施状況調査委員などを歴任。専門は算数教育、授業研究、学級経営、教師教育。現在は筑波大学人間学群非常勤講師の他、「授業・人(じゅぎょう・ひと)塾」という教師塾の代表を勤め、国内外での「飛び込み授業」や教員向け、保護者向けのイベント等を精力的に行っている。著書に『子どもと接するときにほんとうに大切なこと』(キノブックス)、『子どもが変わる接し方』(東洋館出版社)、『対話でつくる算数授業 ボケとツッコミがアクティブ空間をつくり出す』(文溪堂)、『子どもが変わる授業』(東洋館出版社)、『田中博史の楽しくて力がつく算数授業55の知恵 おいしい算数教授レシピ2』(文溪堂)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。