「話す力」や「プレゼン力」は、勉強のためだけのものではありません。これからの社会を生き抜くために、ますます欠かせない力として注目されています。自分の考えを言葉にできる子は、友だちとの関係をスムーズに築き、学びへの意欲もぐんと高まります。
本記事では、専門家の意見をもとに、家庭ですぐに取り入れられる実践的な工夫を紹介します。今日からできる小さなヒントを、ぜひ参考にしてください。
目次
日常の「実況中継」で語彙を増やす
■沢井佳子氏(一般社団法人こども成育協会理事)
子どもの語彙を増やしたいとき、親ができる大きな工夫のひとつが「実況中継」です。実況中継とは、いま目の前で起きている出来事をひとつひとつ言葉にして伝えること。これにより、子どもの言葉の世界がぐんと広がっていきます。
たとえば食事のときに「口のまわりがべたべたになっちゃったね」「お水で洗ったら、さっぱりしてさらさらになったね」と声をかけるだけで、子どもは五感とともに言葉を吸収します。紙と鉛筆で覚える勉強とは違い、体験に結びついた言葉は子どもの記憶に深く刻まれるのです。
さらに、オノマトペ(擬音語・擬態語)は感覚をともなう言葉なので、実況中継との相性も抜群。微妙なニュアンスを伝える練習になり、表現力も自然に育ちます。親の日常的な実況中継が、子どもの「言葉の引き出し」を豊かにする土台になりますよ。
【子どもの話す力・プレゼン力を伸ばすコツ】
- 日常の様子をオノマトペを交えて実況する
- 食事や遊びの場面で感覚を言葉にのせて伝える
- 子どもの発言を受け止めながら語彙を広げる
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幼い子どもの言葉が格段に豊かになる、親から子への「実況中継」という方法
「親子の対話」で伝える力の土台をつくる
■宍戸洲美氏(元養護教諭)
子どもが自分の思いをきちんと伝えるためには、家庭でのコミュニケーションの積み重ねが欠かせません。子どもがうまく気持ちを表現できない背景には「親が子どもの要求を先回りしてしまう」ことも要因のひとつです。
たとえば子どもが「水」と言えば、親がすぐにコップに水を入れて差し出す環境では、子どもは自分の思いを最後まで言葉にする必要を感じないでしょう。その結果、子どもの「伝える力」が育ちにくくなってしまうのです。大切なのは、子ども自身に意思表示をさせること。「水」とだけ言われたら、あえて「水がなあに?」「水がどうしたの?」と問いかけましょう。
また、子どもの話をただ聞くだけでなく「共感して聴く」ことも重要です。話をさえぎったり否定したりすると、「話しても無駄」と感じてしまう子もいます。安心して思いを表現できる環境こそが、自己表現力の基盤になるのです。
【子どもの話す力・プレゼン力を伸ばすコツ】
- 子どもの要求を先回りせず、自分で伝えさせる
- 「聞く」ではなく「共感して聴く」を意識する
- 親の意見を伝えるときは、まず子どもの想いを受け止める
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「体験×会話」で子どもの語彙力をぐんぐん伸ばす
■中島克治氏(麻布中学・高校の国語教諭)
子どもの「言葉の力」を育てようとして、ドリルなどの教材に頼っていませんか? 言葉の力を伸ばすのに大切なのは、日常生活のなかでの親子のやり取り。体験と結びついた会話が、子どもの語彙力を自然に高めていくのです。
たとえば一緒に料理をしたときに「この野菜はシャキシャキだね」「火を通すとトロトロになるんだ」と言葉を交わすと、その体験は感覚とともに記憶に残り、机上の学習よりも強く心に刻まれるでしょう。
また、「子どもの言葉を否定しない」ことも重要です。大人から見れば間違いに思える表現でも、「そんなふうに考えるんだね」と受け止めることで、子どもは言葉にポジティブに向き合えるようになります。
【子どもの話す力・プレゼン力を伸ばすコツ】
- 体験とセットで言葉を使う機会を増やす
- 子どもの言葉を否定せず「なるほど」と受け止める
- 親自身が会話を楽しみ、言葉のやり取りをポジティブにする
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子どもの「言葉の力」を伸ばすには? 名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条
食卓で「5W1Hプレゼン練習」をする
■ボーク重子氏(ライフコーチ)
これからの時代に求められる「プレゼン力」。とはいえ、人前で自分の意見を堂々と述べるのが苦手な人も多いのではないでしょうか。プレゼン力を鍛えるにあたって、特別な訓練は必要ありません。たとえば夕食時に、「今日はどんなことがあったの?」と問いかけるだけでも、立派なプレゼン練習になります。
その際に意識したいのが「5W1H」。いつ、どこで、誰と、なにを、なぜ、どのように。これを盛り込みながら話す習慣をつけると、筋道を立てて話す力が育ちます。慣れてきたら「3分間スピーチ」に挑戦してみるのも効果的。テーマは「欲しいおもちゃ」や「最近ハマっている遊び」など身近なもので構いません。
さらに、親があえて別の意見を出すことで、子どもは自分の考えを整理し直し、深い思考力を育みます。異なる視点を受け止める習慣は、グローバル社会で必要な「対話力」の基盤になるはず。
【子どもの話す力・プレゼン力を伸ばすコツ】
- 食卓で「今日あったこと」を5W1Hで話す習慣をつける
- 月1回の3分間スピーチに挑戦する
- 親はあえて違う意見を出して思考を深めさせる
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グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれるーー全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2
「調べる→情報を整理→自分の言葉で説明する」を繰り返す
■竹内明日香氏(一般社団法人アルバ・エデュ代表)
日本の教育現場では、子どもが自ら意見を発表する機会が少なく、自己表現に自信をもてないまま大人になるケースが多く見られます。話す力の基礎ができていないと、仕事面でデメリットになるのはもちろん、人間関係でもトラブルになりやすいでしょう。
「話す力」は【考える力】【伝える力】【見せる力】の3段階に分けられますが、特に大切なのは【考える力】。相手に何を伝えるのか、どうすれば喜んでもらえるのかを考えるプロセスが、プレゼンの土台になるのです。
家庭でできる練習としては、テーマを自分で選ばせることが効果的。子どもが関心をもったことを自分で調べ、情報を整理し、自分の言葉で説明する。このサイクルを繰り返すことで、論理的に話す力が育まれていきます。話す力を鍛えるには、毎日コツコツ練習を積み重ねるのが一番ですよ。
【子どもの話す力・プレゼン力を伸ばすコツ】
- 子どもにテーマを選ばせて調べ学習をさせる
- 集めた情報を整理し、自分の言葉でまとめさせる
- 「考えるプロセス」を大切にする習慣をつくる
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世界で通用する「話すちから」を鍛えよう! 『アルバ・エデュ』竹内明日香さんインタビュー【第1回】
子どもたちが国際社会で活躍するために必要な「話すちから」竹内明日香さんインタビュー【第2回】
子どもの「話す力」「プレゼン力」に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 子どもが話すのが苦手で心配です。どうすればいいですか?
A. 無理に発表させるのではなく、まずは家庭で安心して話せる環境をつくることが大切です。実況中継や雑談など、短い会話から始めましょう。
Q2. プレゼン練習は何歳から始めるべきですか?
A. 幼児期から始められます。5W1Hを意識した日常会話や簡単な「おはなし発表」から取り入れるとよいでしょう。
Q3. 子どもが話すときに間違った言葉を使ったら直すべきですか?
A. すぐに否定せず、「そういう表現もあるね」と受け止めてから正しい言葉を自然に伝えると、意欲を損なわずに学べます。
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子どもの「話す力」「プレゼン力」は、特別な才能ではなく、家庭での小さな積み重ねで伸ばしていける力です。実況中継や5W1Hを意識した会話、調べ学習や発表の機会など、できることは日常にあふれています。将来の学びや社会での活躍につながる力を、ぜひ家庭で育んでいきましょう。
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|幼い子どもの言葉が格段に豊かになる、親から子への「実況中継」という方法
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|自己肯定感を育む、親子コミュニケーション。「聞いて!」「あとでね」の正解
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの「言葉の力」を伸ばすには? 名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれるーー全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|世界で通用する「話すちから」を鍛えよう! 『アルバ・エデュ』竹内明日香さんインタビュー【第1回】
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