「宿題しなさい!」「さっさと終わらせなさい!」
そんな声かけが効果がないどころか、逆効果になっているかもしれません。子どもが自分から宿題に取り組まない状況に、イライラを感じている親御さんは多いのではないでしょうか。
本記事では、ついつい言ってしまいがちな言葉や、知らず知らずやってしまっている行動の中から、特に避けるべき4つのNGポイントをご紹介します。
専門家の見解と著者の実体験をもとに、なぜその行動が逆効果なのか、どう改善すればよいのかまで、具体的に解説していきます。
子どもが宿題をやらないのは仕方ない!?
あとで苦労するとわかっているのに、なぜ宿題をさっさと終わらせないのか? 親からすれば不思議ですが、子どもにとって自分から宿題に取り組むのは難しいこと。
ベネッセ教育総合研究所主席研究員の木村治生氏も、「宿題に進んで取り組まない子どもがいるのは、ある意味当たり前」だとして、その理由を次のように挙げています。*1
- なぜやらなければいけないのかわからない
- 「やったほうが次の授業が理解しやすい」など先の予測をするのが難しく、宿題をする必然性を感じにくい
つまり、子どもにとって宿題は必要性を感じられないものなのです。だから、自分のやりたいことを我慢してまでやらなくてはならない意味がわからない。「なんで宿題やらなきゃいけないの?」という嘆きは、子どもの本心から出ている言葉です。
それゆえ、子どもが「宿題は自分からできて当然」と思わず、「宿題を自分からやりたがらないのはある程度しかたない」という認識をもつことを木村氏は推奨しています。*1
宿題をしない子どもへの「NG行為」4つ
次に、そもそも「宿題をやる意味がわからない」と思っている子どもが、ますます宿題から遠ざかる親のNG行為をシーンごとに紹介します。
NG行為1:「宿題しなさい!」と口うるさく言う
「宿題、ちゃんとやったの?」「動画ばっかり見てないで、宿題しなさい!」など、子どもの姿が視界に入るたび、こんな声をかけていませんか?
子どもからすれば、「あと5分休んだら宿題しよう」と計画していたのに、その直前に「宿題しろ」と言われてしまい「親に命じられたからやる」状態に。これでは、やる気を出せと言うほうが無理というものでしょう。
『子どもの頭のよさを引き出す親の言い換え辞典』(青春出版社, 2023)の著者で教育家の小川大介氏は、親が口うるさいことで子どもが被ってしまうデメリットを、次のように指摘しています。*2
「ちゃんとやったの?」「○○しなさい!」という命令口調は子どものやる気を奪うだけでなく、親からの指示がないと動けない子にしてしまう心配もあります
すなわち、子どもは余計なストレスを回避するため「親の考えと違うことをすれば、いちいちうるさく言われるだけ。指示されたことだけやっとけばいいや」となってしまう。いわゆる「指示待ち人間」のできあがりです。
子どもが主体性に欠けた人間にならないよう、子どもが自主的に動く隙を与えないほど口を出し続けていないか、一度振り返ってみませんか?
NG行為2:子どもと誰かを比較する
「みんなやってるんだから」「ちゃんと宿題やらないと、○○ちゃんに抜かされちゃうよ」――これらも、つい言ってしまいがちなセリフではないでしょうか。
親に悪気はないのですが、言われた子どもは「みんな」「○○ちゃん」よりも自分が低く見られていると感じ、劣等感をもってしまいます。誰かと比較する言葉は、子どもの自尊心を傷つけ、やる気を削いでしまうのです。
教育評論家の親野智可等氏は、「否定的な言葉で比較するのは、絶対NG」であり、「自己肯定感が下がると、比較された相手を恨むようになったりする」と話します。子どもを励まそうとかけた言葉で子どもが自信を喪失したうえ、ほかの子を恨んで嫌がらせでもするようになったら最悪です。*3
宿題を自らやるような理想的な子と、わが子とのギャップに不安や焦りを感じたときは要注意。「誰かと比べる言葉は、大切なわが子を傷つけるだけだ」と心に刻み、ポロリと言ってしまわないように気をつけましょう。
NG行為3:親のイライラを子どもにぶつける
親も感情をもった人間です。ストレスまみれで心身ともにくたびれ切っていることだってあるでしょう。だからといって、そのイライラを子どもにぶつけるのはNGです。
もう夜なのに、とっくに片づいているはずの宿題が終わっていない。親は疲れすぎて心の余裕が1ミリもない――。そんなときなどは「宿題が終わってないのになぜのんびりしているの!?」と、心配と苛立ちと怒りの感情が噴き出し、子どもに対して感情的に怒鳴ってしまうこともあるでしょう。
そして言い返してくる子どもとの泥沼のバトルで、時間だけがムダに過ぎていく……。前出の小川氏は、「イライラの感情をぶつけてしまえば親子バトルに発展する」のは目に見えているため、「強く言いたい気持ちをいったん横に置いて、子どもの気持ちに寄り添うことが解決の近道」だと語ります。*2
親だって自分の心のコントロールは難しいもの。ですが、自分のイライラとは無関係なわが子を自分の負の感情のはけ口にしてしまうことは、なんとか避けねばなりません。
NG行為4:集中しにくい環境を親がつくっている
子どもが集中しにくい環境をつくっていないか、気を配る必要もあります。たとえば、子どもがリビングで勉強しているときに、親がテレビを見ているといったことはありませんか? 前出の親野氏も、テレビのせいで宿題がはかどらないという話は本当によく聞くとし、「子どもに自制を要求する以上は親も同程度の自制を約束する」ことが必要だと述べています。*4
もうひとつ注意したいのは、子どもが勉強に集中しているときに話しかける行為です。心当たりがある方も多いのではないでしょうか?『3万人を教えてわかった 頭のいい子は「習慣」で育つ』(ダイヤモンド社, 2018)の著者である河端真一氏も、以下のように指摘しています。*5
子どもがせっかく勉強や読書に取り組んでいるところに、「ご飯できたから冷めないうちに早く食べなさい」「お風呂に入っちゃって!」などと言って水を差します。これでは集中力は途切れます。
せっかくの集中力を親が乱しているなんて、残念極まりないことです。
子どもの自主性を育む効果的なアプローチ
ここからは前章で挙げた親のNG行為を改善し、子どもが自主的に宿題を進められるようになる方法を提案していきます。
効果的なアプローチ1:宿題ルーティンをつくる
宿題を「いつ」「どこで」するか、子ども自身に決めてもらいましょう。もし、お子さんが「どうやって決めたらいいのかわからない……」と戸惑っていたら、親が「朝・学校から帰ってすぐ・夕食前、いつがいい?」と、いくつかの選択肢を提案してみてください。
宿題のルーティンを子ども自身がつくることは、子どもが自主性を発揮するトレーニングに最適。また「自分が決めたことだから」とやるべき理由も生まれ、親に命じられてやるよりもずっと宿題に取り組みやすいはずです。
前出の木村氏も、宿題をする時間・場所・方法などを決めることは、子どもの自発性につながり、また「自分が決めたことは、守らなければならないという心理」が働くと語っています。*1
下記は筆者が小学生時代の子どもと実践した例ですが、効果てきめんでした。宿題ルーティンをつくったら紙に書き出して、子ども用デスクや冷蔵庫、カレンダーなど、よく見える場所に貼り付けておくのがオススメです。
☆ 通常授業の日
16:00~17:00 学校の宿題(音読・その他)
17:00~17:15 休憩
17:15~18:00 習い事の宿題
☆ 長期休み中
8:15~ 9:00 夏休み(冬休み)のドリル
17:00~ 18:00 自由研究・習い事の宿題
20:00~ 20:30 漢字ドリル(1ページ)
自分から勉強計画を立ててみせれば「うるさい親の口を封じることができる!」と学んだのか、子どもはいまでも勉強のルーティンを自分で決めて紙に書き出す習慣を続けています。いちいち考えなくても宿題をどう進めるかひと目でわかるので、子どもも動きやすいですし、親も子どもの行動が予測できるので安心して構えていられるようになりますよ。
効果的なアプローチ2:努力を具体的にほめる
子どもがいま取り組んでいることに意識を向けてみましょう。そして、次のように子どもなりの工夫や努力を認める声かけをしてあげてください。言葉選びでおさえるべきポイントは、次のとおり。
- 頑張っているな、向上しているなと思った点を具体的な言葉で表現する
→「計算のスピードが前よりもアップしているね!」(計算ミスはまだまだ多いけれど……) - できないことではなく、できたことを取り上げる
→「最近、文字をていねいに書けるようになったね!」(きれいな文字とは言えないけれど……) - 結果ではなくプロセスを重視する
→「漢字を繰り返し書いて覚える作業は、手が疲れて大変だよね。よく頑張ってる!」(漢字はなかなか覚えられないけれど……)
心のこもった説得力のある親の言葉なら子どもの耳にスッと入り、励みになるのではないでしょうか。木村氏は、「取り組みを正当に評価してあげること」で、子どもの頑張りが変わってくると述べています。*1
また、自分の子どもだけに注意を向けていると、不思議なことにすばらしいところがフワッと見えてきます。そんなポジティブな面をどんどん発掘して、ぜひお子さんに教えてあげてください。親の言葉パワーは子どもに絶大な影響及ぼすもの。「自分は親に認められている」と確信できた子は、見違えるようにキラキラ輝き出すはずです。
効果的なアプローチ3:親自身の怒りを静める
「つい感情的に叱ってしまうため、子どもとバトルになり宿題どころではなくなる」とお悩みの方は、まず自分の怒りに対処してみませんか? イライラした状態でいることが、感情的な言葉を放ってしまう諸悪の根源だからです。幸福学の第一人者で慶応義塾大学教授の前野隆司氏の提案する「怒りをコントロールする方法」を試してみてください。
【イライラを認める】
「子育てにはイライラすることもあって当然なのですから、自分を責めるのではなく、『イライラしたなあ』と、イライラした自分をただ認めることが大切です」と前野氏。さらに、「イライラは完全に悪いものだと言い切れるものではない」とし、親のイライラが子どもに伝わることで、ある程度の教育効果が期待できると指摘しています。
【6秒ルールを実践する】
イライラしたら、6秒間深呼吸をして、イライラを子どもにぶつけたくなるのをぐっと我慢しましょう。これは、アンガーマネジメントの研究成果に基づく方法です。怒りは6秒間我慢すれば消えるという研究結果が示されています。筆者が実際にやってみたところ、怒りが完全に消えるわけではありませんが、最高にイライラした状態からは解放されました。
【自分を客観視する】
「イライラしている自分を俯瞰するイメージで客観視してみてください」という助言のとおり、この視点をもつことで冷静な対処が可能になります。こちらも試してみましたが、確実に効果がありました。ふと「そういえば、自分も宿題のことでしょっちゅう親に怒られて嫌だったな……」と過去の自分を思い出し、怒りの感情がスーッと消え去ったのです。
この3つを続けることで、イライラに対して適切に対応できるため、「幸せ体質な親」に近づきます。「サポートできることがあれば言ってね」と優しく声掛けしてあげれば、お子さんも素直に「宿題、やらなきゃ」と思えるのではないでしょうか。
効果的なアプローチ4:勉強に集中するためのルールを決める
「子どもが宿題をやらないのは、勉強に集中できる環境が整っていないせいかもしれない」と思った方は、ルールづくりを徹底してみてください。
たとえば、テレビが気になって子どもが勉強に集中できない場合は、親子でテレビに関する下記のようなルールを考えてみましょう。
- 見たい番組は録画する
- 宿題が終わってから見る
- 1日1時間まで
- 使っていないときはテレビに布などをかけておく
- ルールが守れたらカレンダーに自分のサインを書く
ルールづくりを成功させるための大事なポイントは、次のとおり。
- 親が一方的につくったルールを子どもに押し付けないこと
- 親も同じルールを守ること
- 実行可能な内容にすること
親野氏は、親子で十分話し合って「お互いが納得できるルールをつくる」こと、そして「子どもに自制を要求する以上は親も同程度の自制を約束することも必要」だと述べています。*4
また、子どもの都合を無視して話しかけてしまうクセがある親御さんにオススメしたいのは、声をかける前にお子さんの様子を一度確認すること。もし勉強に集中しているようであれば、あとで子どもが休憩しているタイミングで声をかけましょう。
まずは、子どもの集中力を乱す悪習慣を親自ら断ち切ることが大事です。「でも、思いついたらすぐ言わないと忘れてしまう……」と心配なら、子どもに伝えたいことをフセンに書いて冷蔵庫など目につく場所に貼っておきましょう。
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「子どもが宿題をやらない……」とお困りなら、本記事でご紹介した避けるべきNG行動をしていないかチェックしてみてください。NG行動を改善できれば、お子さんは自分から宿題をやりやすくなり、親子関係のストレスも激減するはずです。
文/上川万葉
(参考)
(*1)参考・引用・カギカッコ内引用元:ベネッセ教育情報|宿題をやらないのはどうして? 子どもの心理を理解して上手に対応する方法【体験談あり】
(*2)参考・カギカッコ内引用元:プレジデントオンライン|「宿題はやったの?」は絶対にNG…本当は頭がいい子をみるみるダメにしてしまうNGフレーズ
(*3)参考・引用・カギカッコ内引用元:めざましmedia|「他者と比較するのは絶対NG」新学期、宿題になかなかとりかからない子供にかける“魔法の言葉”とは?
(*4)参考・カギカッコ内引用元:ベネッセ教育情報|テレビのせいで宿題がはかどりません[教えて!親野先生]
(*5)参考・引用・カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|母親のそのひと言が、子どもの集中力を奪っている!
(*6)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|子育てでイライラした時どうすれば? 幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方