「いつもテストは満点だからわが子は大丈夫」そう思っていませんか。
テストでいい点を取ることは、もちろん素晴らしいことです。でも、それだけではこれからの時代を生き抜く力としては十分ではありません。AIが普及し、正解のある問題は機械が解いてくれる時代。子どもたちに本当に必要なのは、テストの点数だけでは測れない力なのです。
これからの子どもたちに必要なのは、テストの点数だけでは測れない「生きる力」や「非認知能力」と呼ばれる力です。
約12年間の教員生活のなかで、こうした力をもつ子の共通点が見えてきました。そして、こうした特徴がある子は、1年という短い期間でも目に見えて成長していくのです。今回は、そんな教室での日常から見えてきた、将来伸びる子に共通する5つの特徴について紹介します。
ライタープロフィール
元小学校教員
小学校教員・英語専科教員として12年間勤務、これまでに2,000人以上の子どもたちを指導。現在は、教育分野での執筆活動をはじめ、クリエイターやファミリーサポート・里親支援など多方面で活動中。2児の母。
イギリスやアメリカへの留学経験を通じて学んだペアレンティングの視点を軸に、日本の家庭でも実践できるヒントをお届けします。
目次
「生きる力」「非認知能力」って、具体的には何?
最近よく耳にする「生きる力」や「非認知能力」。でも、具体的にどんな力を指すのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
どちらも、知識の量や計算の速さといった「認知能力」とは違い、数値化できないけれど、実際の人生では欠かせない力です。
これからの社会を生きる子にとって、「本当に賢い子」とは、この生きる力・非認知能力をもっている子と言えます。教室で子どもたちを見ていると、この力がある子には、はっきりとした共通点がありました。それを5つの特徴としてご紹介します。

特徴1:自分の目で見て、自分の言葉で表現する
春の学校探検で、2年生の子どもたちを連れて校庭を歩いていたときのことです。
「チューリップ、この前はまだつぼみだったのにね」
「あったかくなってきたんだね」
「虫も嬉しそうにお花にたくさん集まっていたよ」
同じ場面を見ても、反応は様々。でも、将来伸びる子に共通しているのは、自分の目でしっかり観察し、自分なりの言葉で表現していることです。
さらに、「暖かくなったから花が咲いた」というつながりを考える力も働いています。
誰かの受け売りではなく、自分の頭で考える習慣。この習慣こそが、マニュアルにない状況でも、自分で判断し行動する力の土台になるのです。

特徴2:相手の気持ちを読み取り、適切に判断できる
給食の時間、こんな場面がありました。隣の席の友達が、苦手なピーマンを前に困っている。すると、ある男の子が静かに声をかけました。
「全部食べなくても大丈夫だよ。でも、ちょっとだけ挑戦してみる?」
押しつけるわけでもなく、無視するわけでもなく、相手の気持ちを尊重した声かけ。友達は少しだけ食べてみることにしました。
この子がすごいのは、気づく→理解する→選択するという3ステップができていること。相手の表情から困っていることに気づき、その気持ちを理解し、適切な言葉を選択している。こうした共感力と判断力は、将来、どんな仕事に就いてもきっと役立つはずです。

特徴3:答えを出してからも考え続けられる
算数の文章題を解くとき、多くの子は答えを見つけたらそこで満足してしまいます。一方で、「もっと別の解き方はないかな」「どうしてこうなるんだろう」と考え続けたり、それを友だちに説明したりする子がいます。
「先生、この問題の別の解き方を見つけました」
「Bさんの説明を聞いて、もっと簡単な方法を思いつきました」
さまざまな角度から考え続け、より深い理解を目指す。これは探究心がある証拠です。こうした子は、限られた授業時間を最後まで有効に使って学び続けます。
こうして「答えを出してからも考え続けられる子は、「わからないから終わり」ではなく、調べ続け、考え続けることで、人生を切り拓く力を手に入れていくのです。
特徴4:知識の「つなぎ合わせ」ができる
「先生、前に習った漢字と似てるね」
「この計算、前の問題と似てる気がする」
教科書の内容を上手に暗記できる子はたくさんいます。でも、習ったことを自分の言葉で説明したり、以前の学習と結びつけたりと奇習内容を応用できる子は、そう多くはありません。
一度学んだことを別の場面でも使えるので、理解の深さがまったく違ってきます。仕事でも日常生活でも、バラバラの情報を組み合わせて、新しい解決策を見つける場面は無数にあります。単に知識をもっているだけでなく、それをどう使うかが問われるのです。

特徴5:「なぜ?」を大切にしている
「先生、雨のあとにどうして虹が出るの?」
「どうして言葉は国によって違うの?」
4年生との休み時間の会話のなかで不意に出てきたこの何気ない質問。でも、こうした素朴な疑問こそ、学びの原点です。与えられた日常を当たり前に受け入れるのではなく、自分で考える習慣をもっています。
不思議だと思う心、知りたいと思う気持ち。これこそが、すべての学びの出発点。教科書の内容を暗記するだけでなく、世界に対して常に問いをもち続けられる子は、どこまでも成長していけるのです。
世の中は常に変化しています。新しい技術、新しい価値観、新しい課題。そのなかで生き抜くには、学校で習ったことだけに頼らず、自分で問いを立て、学び続けられる力が必要なのです。
親ができる3つの基本姿勢
では、親として何ができるでしょうか。
子どもの「生きる力」は、大人が意図的に育てようとするほど、むしろ伸びにくくなってしまうものです。大切なのは、子どもの小さな気づきに寄り添い、のびのびと考えられる環境をつくること。そのために親ができる3つのポイントをご紹介します。
【親ができること1】子どもの「考え」を、まず受け止める
自分の言葉で表現する力も、答えを出してからも考え続ける力も、じつは同じ土台から育ちます。それは「自分の考えは価値がある」という実感です。まず大切なのは、子どもが何かを考えた、その事実を認めることです。
- 「どうしてそう思ったの?」
- 「おもしろいこと考えるね」
- 「へえ、そういう見方もあるんだ」
正解かどうかより先に、考えたこと自体を受け止める。これだけで、子どもは「考えていいんだ」「自分の意見を言っていいんだ」と感じられます。
この安心感があって初めて、子どもは自由に観察し、表現し、探究できるようになるのです。
【親ができること2】プロセスを大切にし、結果だけを見ない
また、「答えを出してからも考え続ける力」も、「知識をつなぎ合わせる力」も、試行錯誤を楽しめる心から生まれます。そして、試行錯誤を楽しめる心は、結果だけでなくプロセスを認めてもらえる経験から育ちます。
- 「そうかもしれないね」
- 「ちがう考え方もできそうだね」
- 「その方法でうまくいったね。ほかのやり方も試してみる?」
- 「よく考えたね」
大切なのは、子どもが自分で考えるプロセス。必ずしも「正解」にたどり着かなくても、考える過程で気づきや学びがあれば、それは十分価値のあることです。子どもの柔軟な発想を認めることで、思考の幅は着実に広がっていくのです。
【親ができること3】「考える時間」を確保する
5つの特徴すべてに共通する、もう一つの土台。それは時間的・精神的な余裕です。習い事、塾、宿題――予定を詰め込みすぎていませんか?
相手の気持ちを読み取る力」も、「なぜ?を大切にする心」も、実は心に余裕がないと育ちません。忙しすぎると、周りを観察する余裕も、疑問を持つ余裕も、じっくり考える余裕もなくなってしまうからです。
- ぼんやりする時間
- 空を眺める時間
- 好きな本を読みふける時間
- 虫を観察する時間
- レゴで何かを作り続ける時間
こうした「一見何もしていない時間」こそが、子どものなかで考えが熟成され、創造性が育まれる大切な時間です。
効率を求めすぎず、余白を大切に。子ども自身が「やりたい」と思ったことに、じっくり取り組める環境を作ってあげてください。急がば回れ。この余白こそが、5つの特徴すべてを育む土壌になるのです。
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これからの時代、本当に必要なのは「生きる力」であり、「非認知能力」です。自分で考え、人とつながり、学び続けられる力。これこそが、変化の激しい社会を生き抜く土台になります。
私たち大人にできることは、その芽を見つけ、そっと育んでいくこと。そして、子どもたちが自分らしい「生きる力」を伸ばしていけるよう、温かく見守っていくことなのだと思います。
(参考)
文部科学省|学習指導要領「生きる力」
EdTechZine|非認知能力 – 用語集













